5. 突然の乱入者はスタイル抜群の美少女!?
数日後。タケルとヴァルガンは、再びミウのライブ会場──ルミナ・シティの商業区にある、屋外の小さなイベントスペースへ足を運んでいた。
キャパは百人程度で、教会の広場に比べると設備はしっかりしている。しかし、集まった観客は前回から微増した程度の約六十人、寂しい客入りだ。
「うーん……やっぱり、新規のお客さんはほとんどいないみたいだな……」
「相変わらず、支配するだけの力はカケラも感じられんな」
二人は「お客さん目線でどう見えるか」をチェックするため、観客席の後方に陣取っていた。ヴァルガンがデカすぎるせいで、否応なしに目立っているが。
ステージではミウが元気いっぱいに踊っている。今回はタケルたちが以前共演したアイドル、『チェリーズ』のカバー曲を歌っているようだ。
『♪もぎたてフレッシュ! フレッシュ!』
「ミウちゃーん! こっち向いてー!」
『♪弾けるパッション、受け止めてほしいの』
「今日も可愛いよー!」
観客たちはペンライトを振り、大声でミウを応援していた。彼らの熱量は決して低くはないのだが、閉じた空間の中だけで完結してしまっている。
「なんかこう、部活動みたいだよな」
「ブカツドウ? なんだそれは、武術か」
「そっか、そのへんわかんないか。こう、友達同士で集まってワイワイ楽しんでる感じってこと。ミウさんも、ヤマダさんも、お客さんも」
タケルはそう話しながら、会場内の物販に目を向けた。販売しているTシャツやタオルといったグッズは、一般的な相場で考えるとかなり安い。ヤマダは優しいゆえに、利益を追求する仕組みを構築していないのだ。
ミウも、今のファンが喜んでくれることが大事だと考えている。ファンもまた、アイドルと一緒に過ごす楽しい空間のままであってほしいと願っているのだろう。
みんな優しく、今の幸せを大切にしている。
穏やかで心地よい停滞が生み出す、借金の山。
「これをどうやって壊せばいいんだ……?」
「む。タケル、変な輩が来るぞ」
「へ?」
突然、ヴァルガンがそう口にした直後──
「ねえねえ! 一緒に歌わせてーっ!」
「……!? な、なんだ!? この声、どこから……」
元気な甲高い声が会場に響き渡った。スピーカーを通してない、マイクレスの地声。キョロキョロと辺りを見回すが、それらしい人物はいない。
「フン。あそこだ」
ヴァルガンが鼻を鳴らし、指差した方向。
近くの建物の屋上に人影が立っていた。
その人物は勢いよく、屋上から一気に大ジャンプ。ド派手にくるくると回転しながら、ミウのステージに着地。とんでもない高さから飛び降りたはずなのに、重さを感じさせない華麗な登場をキメた。
「じゃーん! 百点まんてーん!」
現れたのは、恐らく十代後半の美少女。現役アイドルと並んでも、むしろ上回って見えるほどに整った顔立ち。黒髪をツーサイドアップにまとめ、子供っぽさが残るアクセ付きのヘアゴムで結んでいる。
スラリと背が高い、モデルを彷彿とさせる大人っぽいスタイルに不釣り合いな、可愛らしいひらひらのワンピース姿。フリルとリボンで装飾されたケープを羽織り、手には星の飾りがついたオモチャのようなステッキを握っている。
ミウのステージ中にもかかわらず、彼女は楽しそうに手を振りながら堂々と中央に躍り出た。
「はぇっ……!? だ、誰……!?」
「あれ? ミウちゃん以外も歌うんだっけ?」
「いや、ゲストの予定はなかったような……」
ミウは突然の乱入者に驚き、歌を止めてフリーズしてしまった。
観客たちも何事かとざわつき始める。
(もしかして、カンディードさんが言ってた『迷惑な乱入アイドル』ってあの子か……!?)
『ど、どうしましょうタケルさん!? 止めたほうがいいですか!?』
「……いえ、待ってください! 俺からミウさんに指示を出します!」
魔導端末に、ステージ裏でライブの対応をしていたヤマダの声が届いた。だが、ここで無理やりあの子を引きずり下ろせば空気が完全に冷え切ってしまう。
イベントを止めないことが大事だと判断したタケルは、ポケットからメモ帳とペンを取り出して猛スピードで文字を書き殴った。
「ヴァルガン、書いた文字を空中にでっかく出せるか? ミウさんに絶対見えるように!」
「それくらい容易いことよ」
ヴァルガンが指先に魔力を込めてメモに触れると、文字が宙に向かってフワ……と浮かび始める。徐々にサイズが大きくなり、ステージからでもハッキリ見えるようになった。
『元々予定してたイベントっぽく、一緒に歌って!』
「えっ!?」
ミウはタケルの指示を見て、戸惑いの表情を浮かべる。
本当に? と言いたげな彼女に向かい、タケルは力強く何度も頷いた。
『あ、あはは……! 今日はなんと、サプライズゲストの登場でーす! みんな、一緒に楽しんでねー!』
「へー、そういうイベントだったんだ」
「予定通りなのか、びっくりしたー」
ミウがマイクを握り直し、引きつった笑顔を浮かべながら少女に歩み寄った。なんとか場を繋いだおかげで客席の混乱も収まり、イベントが変な空気のまま中止になることだけは防げた。
中断していた音楽が、サビ前から流れ始めた。謎の美少女もチェリーズの曲を知っているのだろう、伴奏に合わせてステップを踏む。
『♪もぎたてフレッシュ! フレッシュ!』
(えっ、上手い……!?)
『♪ときめくパッション、君にも伝わってる?』
彼女の持つステッキが拡声器代わりになっているのか、マイクを通したように音が広がった。声量があって伸びのいい、特徴的なアニメ声。
何より、軽やかでキレのあるダンス。ミウの振り付けを見様見真似でなぞりながら、それを上回るクオリティでパフォーマンスしている。
「いいぞいいぞー! ハイ! ハイ!」
「二人とも可愛いー!」
観客たちも最初は戸惑っていたが、少女の放つアイドル力の高さに次第に引き込まれていく。
ミウも負けじと歌い踊るが、完全に相手のペースになっていた。ミウのイベントだったはずなのに、塗り替えられてしまったように感じるほどの存在感。
「いきなりステージに立って、あそこまでやれるなんて……」
「うむ。突然乱入しておいてあの度胸、面白い小娘だ」
タケルのコメントに、隣で腕を組んでいるヴァルガンが同意する。
荒削りな部分もあるが、観客の視線を集める武器を生まれながらに持っている。
『みんな、ありがとーっ!』
曲が終わり、少女が元気よくポーズを決めると、会場からは大きな歓声と拍手が沸き起こった。ミウのファンたちも、謎の少女のパフォーマンスでテンションが上がった様子だ。
『えっと、あのー……これでライブは終わりでーす! 最後に、みんなへ一言あるかな?』
恐る恐る、ミウが彼女にマイクを向けると。
『楽しかったよ、じゃあねー!』
『ちょ、ちょっと!?』
少女はクルッと背を向け、ピョンとステージから降りる。
そのまま会場の出口に向かって猛ダッシュ。
「逃がすか! ヴァルガン、追うぞ!」
「フハハハ! 余興として楽しめそうだ、狩ってやるとしよう!」
「言っとくけど物理的に狩るなよ!?」
ミウのライブで好き勝手な真似をして逃げるなど、見過ごすわけにはいかない。
タケルとヴァルガンは少女を追い、会場を飛び出した。




