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14. RE:Genesisの挑戦、ワンマンライブ!

 ルミナ・シティは今日も多くの人々が行き交い、魔導ビジョンから賑やかな音声が響いている。そんな中、タケルとヴァルガンは『獅子の牙』での打ち合わせに向かっていた。


 ゼクスに「やるか、やらないか」の返答期限として伝えた日でもある。

 まだ、彼から連絡は来ていない。


(打ち合わせ、来てくれるといいな……)


 タケルは心の中で祈りながら、少し早足になっていた。もしゼクスが来なければ、ヴァルガンの相方を別の誰かに頼まなければならない。地雷なのを覚悟の上でガルドを送り込むか、または他の方法でなんとかするか。


「タケル」


 足を止めたヴァルガンが、前方へ顎をしゃくる。

 目を向けると、こちらに向かって歩いてくるカンディード神父の姿が見えた。


「こんにちは、タケル殿。街の掲示板で拝見しましたが、またライブを行われるそうですね」

「そうなんです! もう告知を見てもらえたんですね、ありがとうございます」

「ただ、ペアということは……ご家族にとんでもないことをした、あの『異端者』も参加するということですか?」


 カンディードの声のトーンが一段低くなる。

 普段と同じく人の良さそうな笑顔を浮かべているが、戸惑いが混ざっていた。


「イベントは応援したいので、私も足を運んでみようかとは思っているのですが……正直なところ、あのような方はいないほうが良いかと」

「……あはは、来てもらえるだけでありがたいです」


 これが世間の反応。ルミナ・シティに住む市民としての、ごく当たり前の感覚。

 タケルは作り笑いを浮かべ、適当に相槌を打つ。


「では、打ち合わせがあるのでこの辺で。行くぞヴァルガン」

「うむ」


 軽く会釈し、そのまま逃げるようにその場を離れた。ゼクスをステージに上げるなら、こういった言葉を浴び続ける覚悟をしなければならない。


(……でも、俺はやるって決めたんだ)


 *


 冒険者ギルドの会議室にRE:Genesisチームが揃った中。

 壁掛け時計の針が、指定した打ち合わせまでの時間を削っていく。


(もう時間だけど、ダメだったのか……? いや、でもまだ……)

「タケルさん。そろそろ、イベントの代替案について話を──」


 ガチャリ。


 セレイナが口を開こうとしたところで、会議室の扉がゆっくりと開いた。

 そこに立っていたのは、少し息を切らしたゼクス。


「……遅くなった」

「ゼクスさん……! 来てくれたんですね!」

「ああ。……考え続けて、決めた」


 短く告げた答えに、タケルはパッと顔を輝かせる。

 が、ゼクスの顔を見るなりガルドは圧をかけながら近寄った。遠慮なく睨みつける態度に、部屋の空気が一気に冷える。


「おい、ゼクス。ここに来たってことは、どうなるか覚悟できてんだろうな?」

「……オレが出たら迷惑をかけるのはわかっているが──」

「そうじゃねぇ!!」


 ゼクスが謝罪の言葉を口にしようとした、その瞬間。

 ガルドの怒鳴り声が、会議室に轟いた。


「迷惑? わかってる? そんなの百も承知だ! 俺が聞いてんのはそんな逃げ腰の言葉じゃねぇんだよ! 胸張って『迷惑をかけても、最高のステージをやってやる』って言ってみやがれ!!」

「……え?」

「炎上しようが石投げられようが、絶対に歌で客を黙らせる! そう断言すんのが、お前みたいなリスクの塊を呼んでくれたタケルに対する、最低限の礼儀ってもんだろうが!!」


 怒りではなく、熱い発破。

 弱気なままステージに立つのではなく、プロとして挑戦する覚悟を見せろ。ガルドが求めたのは、タケルの想いに応えてみせるという姿勢。


 その言葉でゼクスは気付かされた。申し訳なさを口にして、自分が逃げる余地を作ろうとしていたことに。


「……」


 目を閉じながらゆっくり呼吸し、ゼクスは再び目を開けた。

 恐れがすべて消えたわけではない。だけど。


「……ああ。オレの歌で全部持っていってやる、任せてくれ」

「言ったな? しょうもないステージにしたら、容赦しねぇぞ!」


 ゼクスはガルドを真っ直ぐに見つめ返し、力強く断言する。

 返事を聞いたガルドは納得したのか、自分の席へ戻っていった。


「ほら、タケル。全員揃ったんだろ。とっとと打ち合わせ始めんぞ」

「はい!」


 ここからがプロデューサーとしての腕の見せ所。

 タケルは黒板の前に立ち、意気揚々と企画の説明を始めていく。


「今回のライブですが、RE:Genesis完全単独イベントになります。規模は小さめで、ルミナ・シティの端にあるキャパ数百人程度の会場です」


 そう話しながら、タケルは黒板に『RE:Genesis初、単独ライブ!』とデカデカと書き込んだ。


「初のワンマンライブですし、今までで一番高いハードルになります。でも、自分たちですべて仕切ってイベントを回すのは、今後のためにも必要な経験です。RE:Genesisにとってのステップアップの場でもあります!」

「ずっと気になっていましたが、ギルドを通さずどうやって会場と予算を確保したんですか? チケット代だけですべて賄えるはずがありません」

「実は、ここに頼りまして……」


 タケルは一枚の企画書をテーブルの上にそっと滑らせた。

 企画書の表紙には提案先であろうスポンサーの名前が書かれている。


『企画ご提案:オフィス・グリード様』


「オフィス・グリード……エリオさん所属の、あの事務所ですか?」

「はい。そこの社長、リカルドさんに企画を持ち込んだんです。そしたら『炎上中だろうがなんだろうが、話題と金になるならOKだ』って乗ってくれました。ただ、リターンが未知数なのでエリオのゲスト出演はNGでしたけどね」


 セレイナが怪訝な顔で企画書を手に取り、内容を確認していく。

 最後のページには、最終的に集まったスポンサー一覧が記載されていた。


「他にも、オフィス・グリードと縁のある企業が出資しているのですか。……言ってはなんですが、金を最優先にして手段を選ばないところばかりですね」

「その通りです! 身も蓋もない言い方をすると、金になるなら出自や炎上は問わないという超銭ゲバチームがスポンサーです!」


 ヤケクソ感ある声音でタケルは言い切った。

 世間の倫理など関係ない、ただ利益だけを追求するダーティな組織。それが皮肉にも炎上中のゼクスをステージに立たせる、強力な盾として機能しているのだ。


「確認ですが、今回はRE:Genesis主催の初企画となります。失敗した際に、どれだけのリスクがあるかは理解していますね?」

「もちろんです」

「いいか、タケル。キャリアも周りからの信用も、一気に落ちる危険性がある。それもわかった上でやるんだな」

「はい。……ここでやりませんと言ったら、きっと『あれで良かったのかな』って一生後悔すると思うんです」


 セレイナとガルドは念を押すように問いかける。

 だが、タケルは迷うことなく頷いた。


「ヴァルガンと一緒にここまで来たからこそ、俺は……都合よく大人の論理を振りかざして、終わりにしたくありません」


 プロデューサーとしての計算よりも、自分自身の想いと情を優先する。

 そんなタケルの在り方を見て、ゼクスの中で不思議な感情が芽生え始めていた。


 ただの同情じゃない。

 タケルが言った「歌が聴きたい」という言葉が本気だったこと。

 そのために力になってくれることが、信じられなかった。


(……なんであんたは、オレのためにここまでしてくれるんだ)


 ノッテが亡くなってからずっと止まっていた時計の針が。

 タケルの想いによって、ゆっくりと動き始めた。

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