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3. ドッキドキ♡地雷だらけオーディション

「おおっ……! こんなに集まるなんて、捨てる神あれば拾う神ありだ!」


 数日後、冒険者ギルド『獅子の牙』の訓練場。

 タケルは審査員席から身を乗り出し、期待に胸を膨らませていた。


 報酬を盛った上で書き上げた「緊急オーディション開催」の告知により、応募者の数はざっと百人以上。ギルドに所属する屈強な冒険者たちが、我こそはと意気込んで集結していたのだ。


「きっと一人くらいダイヤの原石がいるはず。ヴァルガンの隣に立つ、最高の相方を見つけ出すぞ!」

「フン。我と並び立つ猛者が本当に現れるかは疑問だな。まあ、せいぜい余興として楽しませてもらうとしよう」


 タケルの隣でヴァルガンは腕を組み、尊大に頷く。

 審査員席に座っているのはタケル、ヴァルガン、セレイナ、ガルド。そして、酒場から無理やり引きずられてきたレオンの五名だ。


「……おい、なんで俺までこんな茶番に付き合わされなきゃなんねーんだよ。酒飲む時間返せ」

「文句言わないでくださいよ、レオンさん! プロ目線の厳しいチェックが必要なんですから!」


 レオンが不機嫌そうに舌打ちをするのを必死に宥めてから、タケルは集まった冒険者たちに向かって声をかけた。


「みなさん、お待たせしました! 只今より、RE:Genesis相方オーディションを開始します! 一番の方、どうぞー!」


 オーディションの始まりと共に、一人の大男が前に出た。

 身長は十分なほど高く、ぶっとい腕と分厚い胸板。

 筋肉のボリューム的にヴァルガンと並んでも違和感はない。


「おー、いい感じの体格ですね」

「だろ? ちなみに俺の得意技は歌だ。魂の叫び、聞いてくれ!」

「なるほど、では自己アピールお願いします」

「スゥーッ……ウォォォァァァァァッ!! 肉! 肉! 食いてぇぇぇぇッ!!」

「んぐおぉぉッ!? 耳があぁぁッ!?」


 ビリビリと空気を震わせる怒号。

 もはや歌ではなく、獲物を威嚇する獣の雄叫び。

 音程もリズムも存在しない、ただのやかましいデスボイス。


「今のが歌のつもりか!? 魔獣の断末魔の方がまだマシだぞ! 死ね!!」


 タケルたちが耳を塞いで悶絶する中、レオンは魔導端末を操作し容赦なく不合格のブザーを鳴らした。絶叫した応募者一番は不満げに去っていく。


「……ま、まあ、最初だし! 二番の方、どうぞ!」

「俺、パワーには超自信あります。今回の募集にピッタリです!」

「ほう? よかろう、ならば我が直々に試してくれるわ」


 そう告げると、ヴァルガンは審査員席から立つ。

 そのままスタスタと冒険者に向かって近づき──


「ぬぅんッ!!」

「ほげえええええええええーッ!?」


 ドガアァァァァンッ!!

 ヴァルガンは冒険者の腕を掴むと、片手で放り投げた。

 受け身を取ることもできず、そのまま壁に激突し応募者二番はあっさりと気絶。


「なんだ、この貧弱さは? これで力自慢とは片腹痛い、帰れ」

「……いつもなら何してんだってツッコむとこだけど、ヴァルガンに耐えられる相手じゃなきゃペアは絶対無理なんだよなぁ……」

「んじゃこいつも失格でいいな。つーわけで次」


 またしてもレオンの不合格ブザーが響き渡る。

 その後も、現れる冒険者たちは控えめに言って地雷揃いだった。


 名乗ってから五分間ひたすらボディビルダーのポーズを取り続ける男。

 オーディション合格祈願と称して、剣の素振りをしながら自分語りをする男。

 しまいには、腹筋で野菜をすりおろす謎アピールを披露する男まで現れる始末。


「リズム感って言葉知らねーのか!? テメェのステップはただの地団駄だ! 不合格!」


 レオンの辛辣なダメ出しで、次々と冒険者を切り捨てていく。


「貴方は過去、依頼でトラブルを起こしましたね? 申し訳ありませんが不合格でお願いします」


 セレイナのデータベース確認で、やらかし履歴のある人物が削られていく。


「経歴見たが、こんな活動は『獅子の牙』でしてねぇだろ? そういう奴は信用できねぇ、不合格だ」


 ガルドのギルド運営者としてのチェックで、合格するために盛った嘘が暴かれていく。


「なんだその締まりのない顔は。我と並ぶには相応しくない、不合格だ」

「シンプルに失礼!?」


 魔王の独断と偏見によるNGで叩き出されていく。

 最初は期待に目を輝かせていたタケルも、二十人を過ぎたあたりから死んだ魚の目をしていた。


「なんで……どいつもこいつも、筋肉と物理でしかアピールできないんだ……」

「冒険者ギルドだからですよ、タケルさん」


 げんなりしているタケルに対し、隣で審査書類を確認しているセレイナが身も蓋もない事実を告げる。


「彼らは魔獣と戦ったり、依頼を達成するのが本業です。歌や踊りといった芸術的な素養を求めること自体が間違いかと」

「今、そんな正論を言わないでくださいよ……心が折れそうです……」

「ふわぁ……そもそもの話だが、覇気が足りんな」


 ヴァルガンは呆れ顔で退屈そうに欠伸をする。応募者が即アウトになってしまうパターンばかりで、既に飽きている様子だ。


「我と並べば一瞬で背景に同化するような小物ばかり、つまらんぞ」

「お前のキャラが濃すぎるせいもあるんだけどな……次の方、どうぞー……」


 タケルが次の候補者を呼んでみると、現れたのは冒険者らしからぬ男だった。


 紺を基調に白と金の刺繍や飾りが入った神父服を着ており、肩幅や体の厚みから筋肉質な体型なのが伝わる。首元には教会のシンボルである銀色のアクセサリー。

 金髪を短く刈り上げ、柔和な笑顔を浮かべている。年は二十代くらいだろうか。ただ、その穏やかさに似つかわしくない大きな切り傷が、顔に刻まれている。


「私、最近この街の教会に赴任しましたカンディードと申します。お力になれるかと思い、オーディションを受けに来たのですが」

「へっ? 教会? えーと、すみません。これはギルド所属者向けのオーディションで、関係者以外は受け付けてないんですが……」

「おや、制限があったのですか……? 見落としており、失礼しました」


 カンディードと名乗った神父は、胸に手を当てて丁寧にお辞儀をした。

 どうやら本当に善意で力になろうと思っていた様子だ。


「お困りのようであればお手伝いしたかったのですが、仕方ありませんね。お邪魔して申し訳ありませんでした」

「いえいえ、気にしないでください」

「もし何かご相談があれば、いつでも聖アイディール教のカンディードをお尋ねください。私にできることなら、なんでもお手伝いしますので。それでは」

(へー、マリアンヌさんのところの神父さんなんだ)


 ニコニコと笑いながら、カンディードは再び丁寧にお辞儀をして訓練場を去っていった。その後ろ姿を見送り、タケルは小さく首を振って頭を切り替える。


「よし、気を取り直して次行きましょう!」


 *


 数時間後。

 用意されていた百人以上の書類は、すべて「不合格」のスタンプで埋め尽くされていた。


「終わった……」


 タケルは真っ白に燃え尽きて、机に突っ伏した。

 結果はまさかの成果ゼロ。誰一人として、ヴァルガンのペアになれる人材はいなかったのだ。


「はー、マジで時間の無駄だった。俺は帰るぞ。詫びとして酒は請求させてもらうからな」

「レオンさん、容赦なさすぎですよ……もう少し優しく審査してくれても……」

「アホか。あんなゴミカス共をステージに上げたら、事故ってテメェの首が飛ぶだけだろ。感謝しろ」


 レオンの言うことは一理どころか百理ある。

 だが、ペアが見つからなければヤバいという現実は何も変わらない。


「どうしよう……このままじゃ、違約金と信用失墜のダブルパンチでRE:Genesisが終了に……!」

「ガッハッハ! 任せとけタケル。見つからなかったんなら、仕方ねぇ!」


 絶望の淵に沈むタケルの肩を、ガルドがバンッと力強く叩いた。

 席から立ち上がり、己の筋肉を見せつけるポーズを取る。


「ここはギルドマスターの俺が一肌脱ぐしかねぇな! 安心しろ、筋肉のボリュームと声のデカさならヴァルガンにも負けねぇ自信があるぜ!」

「ガルドさんは暑苦しすぎます! 見た目がただのプロレスにしかなりません!」

「テメェのダミ声で歌わせたらクオリティ下がるだろ! 客が逃げるわ!」

「マスターがステージに出るとギルドの仕事が滞るので却下です」

「なんだよ……そこまで言わなくてもいいじゃねぇか……」


 タケル、レオン、セレイナからの容赦ない総ツッコミが炸裂する。

 速攻で拒否されたガルドは、少し寂しそうに肩を落とした。


「他にいないんですか!? ギルド所属の冒険者、これで全員なんですか!?」


 タケルは藁にもすがる思いでセレイナに詰め寄った。

 彼女は手元の資料をパラパラとめくり、首を横に振る。


「C級以上の冒険者はすべて参加しました。それ未満の冒険者は信用の問題でお断りしていますし、もう候補者は……」


 そこで、セレイナの言葉がピタリと止まった。

 眼鏡の奥で僅かに目を細め、何かを思い出したように顔を上げる。


「……いえ。一人だけ、オーディションを受けていない冒険者がいます」

「えっ!? いるんですか!?」

「はい。ですが、彼は……」


 セレイナは少し言い淀み、ガルドの方をチラリと見た。

 何が言いたいのか気付いたらしく、彼もしかめっ面で腕を組む。


「あー……。確かに、あいつはオーディションに見向きもしねぇだろうな」

「誰なんですか!? その人に会ってみたいんですけど!」

「ちょうど今、依頼の報告でギルドに来ているかもしれません」

「いるんですね!? 行くぞヴァルガン! 最後のチャンスだ!」

「慌ただしい奴め。まあよい、最後の候補とやらを我の目で見定めてやろう」


 訓練場から大急ぎで移動し、受付フロアに出たタケルの視線の先。

 周囲の冒険者たちの喧騒から少し離れた、壁際のカウンター。

 そこには一人静かに報告書を提出している、人を寄せ付けない空気を纏っている男の姿があった。

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