1. 急転直下!? 魔王様の相方オーディション開催!
「いいぞヴァルガン、最高に仕上がってるぅーッ! 次は流し目を頼む!」
「フン。我の色気に当てられて、レンズごと砕け散らぬよう気をつけるがいい」
カシャッ、カシャッ!
魔導カメラのシャッター音が小気味よく響く。
RE:Genesisの活動拡大に伴い、冒険者ギルド『獅子の牙』の倉庫だった空間は撮影用スタジオへと様変わりしていた。
今回やっているのはなんと、下着モデルの依頼。
薄っすらと照明を浴びたヴァルガンは、鍛え上げられた大胸筋と腹筋を惜しげもなく披露している。パンツを股間ギリギリまで下ろし、セクシーアピールも抜群。これまでの特訓で身につけたカメラへの見せ方はプロの領域に達しつつあった。
「オッケー、完璧! グラビア撮影は全カット終了だ、お疲れ。じゃ、写真を確認していいやつ選ぶぞ」
「ククク……民どもが我の肉体美を拝み、ひれ伏す姿が目に浮かぶわ」
タケルが満面の笑みで親指を立てると、ヴァルガンも満足げに鼻を鳴らした。
注目を集めた『ルミナ・ドリーム・ステージ本戦』を経たRE:Genesisは、まさに飛ぶ鳥を落とす勢い。パフォーマンスについての話題は瞬く間に広まり、「嵐を呼ぶ筋肉アイドル」として今や誰もが知る存在になりつつある。
今回のようなモデルの案件も来るようになり、仕事の幅はさらに広がった。
冒険者ギルド側でアイドル業務を担当するスタッフが増え、リーダーはセレイナが担当。舞い込み続ける仕事の波に乗り、RE:Genesisは本格的にスターへの道を突っ走っていた。
「いやぁ、この調子ならステラに挑戦する日も夢じゃないぞ……!」
「確認だが、このあとは『マギテレ感謝祭』に備えたレッスンでよいのか?」
「おう、テレビ局と商工会ギルドがタッグを組んだイベントだからな。そこでさらに勢いつけるぞ! この調子で観客全員、メロメロにしてやろうぜ!」
「フハハハ! 造作もないことよ。我の覇道に限界などないと、世界に知らしめてくれるわ!」
二人の笑い声がスタジオに響く。
今度出演するイベントには大口のスポンサーがついている。ここで素晴らしいパフォーマンスを見せつければ、RE:Genesisの地位はさらに盤石なものになる。
まさに順風満帆、輝かしい未来しか見えない絶好調っぷり。
と、この時まではそう思っていた。
*
「突然すみません。至急、確認したいことがありましてお呼びしました」
撮影とレッスンを終えた、その日の夕方。
冒険者ギルドの会議室にタケルとヴァルガンは呼び出されていた。テーブルを挟んで向かい側に座っているのはセレイナとガルドだ。
「どうしたんですか、セレイナさん? そんな深刻そうな顔をして」
普段は冷静沈着で、どんなトラブルが起きてもクールに書類を捌くセレイナ。
そんな彼女が今はなぜか気まずそうな表情を浮かべているのだ。
「実は先ほど、『マギテレ感謝祭』の担当者から問い合わせがありまして」
「問い合わせ? 提出物は全部出しましたよね。使用曲も、機材の要望リストも」
「イベントが迫っているが『相方』は結局誰になるのか、という内容でした」
「……あいかた?」
全く聞き覚えのない単語。
タケルは首がもげるのではないかという勢いで傾けた。
「相方って……誰の?」
「ヴァルガンさんの、です」
「RE:Genesisはソロアイドルですけど? なんで相方が必要なんです?」
嫌な予感が込み上げ、タケルの顔にダラダラと汗が流れ始める。
その意見に同意するようにセレイナは深く、深くため息をついた。
「私も『RE:Genesisはソロでの出演ですが』と確認を取りました。ですが、担当者はこう言ったんです」
セレイナは一枚の書類をテーブルの中央に差し出した。
今回のイベントに関するオファー書類の最新版、彼女が指差した先に書かれていたのは──
「今回のイベントはデュエット、ペア限定の企画ですよ? と……」
「はあああああああっ!? デュエット!? ペア!? 聞いてない! そんなの俺、一言も聞いてないですよ!?」
「ええ。最初に届いたオファー書類には、その情報がありませんでした。どうやら担当者が別イベントのフォーマットを流用し、反映漏れで送ってきたようです」
「なんですかそのふざけたミスは!?」
テレビ局と商工会ギルド。巨大組織の合同企画ゆえに、伝達ミスというお役所仕事的なポカが発生してしまっていたのだ。
参加条件が漏れているなど、ビジネスにおいてあってはならない凡ミス。書類に書かれていなかった以上は気付けるはずもない。
「というかおかしくないですか!? そんなミスしたら参加者全員が同じ目に合ってますよね!?」
「なので担当者から『書類不備がありました』と連絡し、対応が済んだアイドルには印をつけたそうです。ところが、何人かのアイドルは未対応なのに済んだことになっていたと……」
「ボケナスぅーッ!!」
凡ミスから凡ミスのコンボ。
Wチェックで予防できると思いきや「Wチェックしたなら大丈夫だろう」とさらにヌケモレが加速する、地獄の進行だ。
「待ってください、じゃあなんですか? 俺たちはソロのつもりでずっと練習してたのに、それも意味がなかったんですか!?」
「その点は先方も平謝りでしたが……コンセプトが『絆が織りなすハーモニー』というもので、ソロ出場は趣旨から外れるため不可能だと念を押されました」
「イベント本番、来週ですよね!? 今から相方を探せって言うんですか!?」
「そういうことになります」
セレイナの冷酷な宣告に、タケルは膝から崩れ落ちそうになった。
ガルドが腕を組み、険しい表情で唸る。
「おいおい、冗談じゃねぇぞ……。向こうのミスとはいえ、ウチが仕事を請け負ったのは事実だ。今更『ペアじゃないんでやめます』なんて言えねぇ」
「もし今からキャンセルしたらどうなるんです……?」
「多額の違約金が発生するな、テレヴィ局の心象も悪くなるだろう。しかも今回は商工会ギルドとの協賛だぞ? 各所とのパイプにもヒビが入るかもしんねぇ」
「なんで向こうのミスでこっちが損しなきゃいけないんですか!?」
あまりにも理不尽な状況。キレ散らかしているタケルは机をバンバン! と何度も強く叩きながら不満を訴える。
「正確に言えば、違約金支払いは確定してねぇ。然るべき手続きで争えば勝ち目はある。だが長期間の泥沼になるし、関係者とバチバチに敵対するぜ」
「げっ、帳消しになっても印象悪化でトータル損するやつじゃないですか……」
「そういうこった。実はこういう事情で~なんて一から十まで周りに説明できねぇからな……」
眉間にシワを寄せながら、ガルドは椅子に深く身を預け天井を仰いだ。
事情を関係者に話そうとしても、相手からすれば「どっちの言い分が正しいんだ?」となるだけで何も解決しない。
「付け加えると、私たちには代役として出せるアイドルもいません。つまり、理由はどうあれ形としてはドタキャン。最悪の場合、今後の仕事を干されかねません」
「ひぃぃっ……!!」
積み上げてきたものが一瞬で瓦礫と化す。
セレイナが説明した絶望的な未来予想図に、タケルの顔面が真っ青になった。
「そ、そうだ、エリオに泣きつこう! あいつなら引き受けてくれるかもしれない! それがダメならマリアンヌさんとか!」
「無理です」
「なんで!?」
「今回の依頼は、あくまで『獅子の牙』が受諾したものです。他所のアイドルを勝手にねじ込むなんて手段を強行すれば、それこそ法的な問題に発展します」
「じゃあどうしろって言うんですかああああ!」
「……消去法でいくと」
セレイナは冷たく光る眼鏡の奥から、タケルを真っ直ぐに見据えた。
指を一本ずつ立てて、条件を説明していく。
「一つ、冒険者ギルド関係者から。二つ、ヴァルガンさんの相方を務められる相手を。三つ、あと数日以内に見つけ出して。四つ、来週のステージに立たせる。我々に残された道は、それしかありません」
宣告されたのは超ウルトラ高難度ミッション。
会議室に重苦しい沈黙が下りる。
タケルの視線が自然とヴァルガンへと向かった。
身長二メートル超のガチムチ体型、歴戦の傷跡が刻まれた褐色の肌。燃えるような赤い髪、ワイルドな無精髭。息をしているだけで周囲を威圧する魔王のオーラ。
(……こんな奴の隣に並んで、ペアとして成立する人間……?)
無理だ。常識的に考えて、そんな都合のいい人間がこのギルドにいるわけがない。並の人間が横に立てば、完全に「魔王に捕食される村人A」の構図になる。ハーモニーを奏でるどころか、上がるのは断末魔だ。
「むしろタケルが出れば良いではないか。我の相棒なのだから相応しいであろう」
「無理に決まってんだろ! レッスンしてないのに歌ったり踊ったりできるか!」
危機的状況をこれっぽっちもわかってなさそうな、いつも通りの魔王の発言。
タケルは半狂乱になって頭をかきむしり一通り喚いたあと、ピタリと動きを止めて脳のスイッチを切り替えた。
「四の五の言ってる暇はない、ガルドさん!」
「おう、なんだ?」
「緊急オーディションを開催します! 俺、大急ぎで募集要項を作るので明日には掲示しましょう! ギルドの冒険者全員に声をかける準備、進めてください!」
「ガッハッハ、面白ぇじゃねぇか! 野郎共の中から逸材を探し出すってわけだな? 任せな、報酬も用意して引っ張り出してやる!」
「では、私はオーディション情報をすぐ拡散できるよう進めておきます」
「よろしくお願いします! 妥協はできない……ヴァルガンと一緒に歌って踊れる人を見つけないと、俺たちの未来が消滅する……!」
絶好調からの急転直下。
RE:Genesis存亡の危機を救うため、超突発的な「魔王の相方オーディション」が望んでもいないのに開催決定となった。




