25. スターダムへの道に忍び寄る神界の本格調査
冒険者ギルド『獅子の牙』の会議室。
打ち上げが終わってしばらく経った頃、セレイナから「緊急報告がある」と連絡があり、RE:Genesisチームが勢揃いしていた。
「イベント以降、RE:Genesisへのオファーはさらに殺到している状況です。正直に言うと、これまでの比ではない量になってきました」
「それはいいことじゃねぇか。何が緊急報告なんだよ、セレイナ?」
「そろそろ『獅子の牙』でRE:Genesisのスタッフを増員すべきです。このペースだと、私の作業が回らなくなる危険性があります」
「セレイナさんが無理と感じるレベルにまで来たんですか!?」
「ええ。一次仕分けをしたのがこちらになります」
そう言いながらセレイナが見せたのは書類の山、山、山。
以前よりもさらに山の高さが増している。さらに、彼女は魔導端末の画面をタケルに見せた。届いた連絡のうち、未読のものが三桁に達している。
「端末宛の問い合わせも含めると、凄まじい量です。細かい条件やチェック内容が増え過ぎて、初期の打ち合わせや整理を行うだけで追いつかなくなりそうです」
「す、すげぇ……! ドキュメンタリー動画の反響も凄かったけど、本戦ステージが決定打になったんですね……!」
タケルは震える手でオファーのリストを一枚一枚手に取っていく。
テレビの壁にぶつかり、ルナの完璧さに圧倒されそうになりながらも、自分たちの武器を信じて嵐の中に飛び込んだ。その決断が今、最高の結果となって返ってきたのだと実感する。
「こりゃ確かに、セレイナだけじゃ限界が来るな……。いいぜ、提案を承認する。ギルドとしてRE:Genesis担当の人員を増やしていくぞ」
「ありがとうございます。どういった形で進行しましょうか?」
「まず『獅子の牙』で有能なやつ何人かを見繕ってくれ。RE:Genesisに関わる一部業務をそいつらに手伝わせて育てるぞ。で、ギルド側のスタッフを別で募集すっか。アイドル仕事で求人したら、ただのファンが来そうだからな」
「わかりました。では私の方で候補者を選定し、別途マスターに報告します」
(やっぱガルドさん、ギルドマスターだけあって頼りになるなぁ……)
普段はガハハ喋りのおっさんだが、いざと言う時の決断力は流石の大人。
ガルドはセレイナにテキパキと指示を出し、RE:Genesisチームの拡大方針を手早く確定させた。
「スタッフ増員も決まって、仕事も順調に増えて……ついにスターの階段を上がってきたぞ! ヴァルガンをトップアイドルにするって目標に近づいてきたな!」
「王たる我が、世に広まってきたのは素晴らしいことだ。さあタケル、次なる支配の舞台を用意せよ。いつでも暴れてやるぞ」
「任せとけ、最高の企画考えてやるからな!」
「おっと、盛り上がってるのはお前らだけじゃねぇぞ? スイレイ郷の方も順調そのものだぜ!」
タケルとヴァルガンが盛り上がっていると、今度はガルドが二人に向かって嬉しそうに報告を始めた。
「もしかして、ルート開拓の件ですか?」
「おう! 商工会ギルドと連携して、魔物避けの結界設置と整備を進めた結果……なんと、魔導列車の最寄り駅からスイレイ郷への直行便を通すことが決定した。これで、スイレイ郷まで片道一日まで短縮ってわけよ!」
「片道一日!?」
タケルは驚愕のあまり、持っていた書類を落としそうになった。
馬車で何日も揺られてケツが割れそうになった、あの超絶ハズレ物件の限界集落がとんでもない勢いで進化している。
「凄いですよ! 一気に優良観光地になりつつあるじゃないですか!」
「ガッハッハ! 動画と大宴会のおかげで、村の特産品や酒が大人気になってるみたいでな。ウチのギルドも護衛や流通の仕事でボロ儲けだぜ!」
「我の領土が発展するのは当然の理。やはり拠点を増やして正解であったな」
スイレイ郷での村興しが実を結び、想定以上の利益を生み出していたのだ。
ふんぞり返って豪快に笑うガルドに対し、ヴァルガンはさらにふんぞり返って名誉領主としての威厳を見せつける。ただふんぞり返りたいだけかもしれない。
「はーあ。他は盛り上がってんのに、俺はぼっちで締切に追われるのかよ」
部屋の隅のソファで、レオンが気怠そうに伸びをしながら愚痴をこぼす。
周りのテンションと裏腹に、彼だけは面倒くさそうな空気だ。
「このままだとガチで作曲ペース上げなきゃいけなくなるじゃねーか。流石に数こなせねーかもな……」
「作曲関係者を増員って手も……いやレオンさんだと協調性が……」
「おいなんだその目は言いたいことがあるなら言えやコラ」
次々と舞い込む仕事、発展していくスイレイ郷、そしてチームの確かな絆。
RE:Genesisはこれまでにないスピードで成長し、次なるステージへの期待に胸を膨らませていた。
*
地上から遠く離れた、荘厳な空気が漂う神界。雲の上に浮かぶ神殿の奥深くで、女神ルミナスは直立不動の姿勢を保っていた。
「──というわけで、フルゴール様。魔力溜まりの反応は、確かに以前の報告よりも増加傾向にあります。ですが……」
ルミナスは資料を手に持ち、話し続けている。
彼女の前には、立派な髭を蓄えた威圧感のある男──上位神フルゴールが重々しい威圧感を放っていた。別の場所から通信をしているのか、その身体は薄っすらと透けている。
「プリズマリアは概ね安定しております。大きな魔獣の被害などは起きていません。季節外れの嵐が発生した程度ですので、緊急を要する状況ではないかと」
必死に言葉を選びながら、適度に誤魔化しつつ報告を済ませようとしていた。
まだ大きなトラブルは起きていないので問題ありません、と。
(お願い、このままスルーして……! 下手に突っ込まれたら、魔王が復活してるのがバレちゃう……!)
先日の嵐をはじめとした、ヴァルガンの存在が原因で世界に起きている異常。それらを彼女は必死に自然現象という扱いで誤魔化そうとしていた。
タケルの「ヴァルガンからステージを奪いたくない」という本音を聞いて以来、なんとか魔王復活の事実を隠蔽し、丸く収めようと奔走していたのだ。
『……ふむ。確かに、現時点では世界の危機に直結するような事態ではないな』
深く重いフルゴールの声が、冷たく響き渡る。
『だが……魔力溜まりの異常な増え方は、看過できないレベルに達している。過去百年と比較しても、この急激な上昇曲線は異常だ』
「……」
『よって、神界としては警戒レベルの引き上げを行い、本格的な調査を開始する』
神界の介入を決定する言葉に、肩を震わせるルミナス。
だが、まだフォロー可能な範囲だと判断して言葉を続ける。
「承知しました。それでは私が引き続き、責任を持って地上の調査を……」
『いや、原因究明の特別チームを編成し詳細調査を実施する。一人の女神に任せるよりも、確実だからな』
(なっ……!?)
神界の監査官たちが、直接地上へ降り立ってしまったら。
規格外の魔力を放ちながらアイドル活動をしている魔王の存在など、ほぼ確実にバレてしまう。
「……お待ちください。それは人の自主性を重んじるという、神界の方針に反するのでは? まずは彼らの自浄作用を信じるべきかと」
ルミナスはそれらしい理屈を並べ、なんとか本格介入を止めようと誘導する。
しかし。
『異常な魔力溜まりは、世界の崩壊を招く予兆だ。たまたまそういう周期だというなら、自浄作用に任せればよい。違いないな?』
「……はい、おっしゃる通りです」
『ならば、本格的な調査で『この件は人間に任せるべきか否か』を確定させる方が適切だ。妙なことが起きていないとわかり次第、手を引けばよいだけのこと』
フルゴールの理屈に隙はなかった。
もし反論してしまったら「人間に対処できる問題かどうか調べることを拒否」というスタンスになってしまう。人の自主性を尊重し、もしその範囲を越えているのなら神としてすべきことをする。正論だ。
『これは決定事項だ。ルミナス、お前は引き続きプリズマリアの管理を行うように。……それとも、神界が調査することに不満でもあるのか?』
鋭い声がルミナスを射抜く。
これ以上反論すれば、疑いの目を向けられるのは火を見るより明らかだった。
「……いえ、滅相もございません。承知いたしました」
深く頭を下げ、引き下がるしかない。フルゴールの姿が消え、静寂が戻る。
その場にへたり込んだルミナスは、背筋に冷たい汗を流した。
(……ヤバい! 調査隊がしばらく過ごせば、魔王が復活してるって遅かれ早かれ絶対にバレる……! 時間稼ぎをするにも限界が来る……!)
バレてしまえば神界から「魔王討伐」の命令が下り、新たな勇者召喚や戦闘が引き起こされるかもしれない。タケルとヴァルガンが築き上げてきたアイドルとしての日々が、秩序によって破壊されてしまう。
(ああもう……! こんな状況、どうしろってのよ……!)
ルミナスは一人焦燥に駆られ、頭を抱えた。
タケルたちがアイドルの階段を駆け上がり、未来に胸を躍らせているその裏で。世界のシステムという抗いようのない強大な敵が忍び寄りつつあった。
第六章はこれにて完結です。ここまで読んでいただきありがとうございました。
次は第七章スタート、本編は通常通り『火/木/土/日のお昼12時30分更新』です。
ついに神界側の調査がスタートしてしまい、魔王復活が気付かれるのも時間の問題となってしまいました。アイドル『RE:Genesis』がどうなってしまうのか気になった方は、ぜひページ下部のブックマークと星評価【☆☆☆☆☆】をポチっとしてもらえたら嬉しいです!
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