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22. 本番終了! 立ち向かったからこそ得た想い

『ルミナ・ドリーム・ステージ本戦、これにて終了となります! 悪天候の中、最後までご覧いただき本当にありがとうございました!』


 司会者の締めくくりの言葉が、スピーカーから響き渡る。ようやく雨が止んだ会場からは再び、出演者たちを労う温かい拍手が沸き起こった。


「はぁ~……なんとか乗り切ったぁ……!」


 タケルは大きく息をつきながら、グッと背伸びをした。

 肩の荷が下りたという表現がこれほど似合う瞬間はない。プロデューサーとして、こんなに予測不能で心臓に悪いイベントは初めてだった。


 と、そこへ番組スタッフがやってきた。

 足早に移動しながら、出演者たちに向かって声を張り上げる。


「みなさん、お疲れ様でした! えー、悪天候による機材トラブルや撤収作業もあり『本日は打ち上げなし』とさせていただきます! 後日改めてセッティングしますので、本日は速やかに解散してくださーい!」

「えーっ」

「しょうがないかぁ」


 その知らせに、周囲のアイドルたちから少しがっかりしたような声が上がる。

 タケルも残念に思ったが、この状況では仕方がない。


(スタッフさん、今から大雨の中で使った機材を片付けるんだもんな……本当にお疲れ様です)


 慌ただしく動き回るスタッフたちを眺めながら、タケルは心の中で労る言葉をかける。それからヴァルガンと共に、用意された控室用テントへと戻った。


「ほら、ヴァルガン。風邪引くから早く体拭けよ。はぁー、流石に冷えたな……」

「我はこの程度で体調を崩すほどヤワではないがな。むしろ、昂ぶった身体を冷ますにはちょうど良いくらいであったわ」


 タケルは用意されていた清潔なタオルを手に取り、ヴァルガンに投げ渡した。

 二人はびしょ濡れになった髪や体をゴシゴシと拭き始める。裏であちこち移動したり対応していたタケルも、その際に豪雨の洗礼を受けていたのだ。


「お前は無駄にタフだからいいけど、俺は一般人なんだよ。早く家に帰って温かい風呂入りて~……」

「あのー……RE:Genesisさん、いらっしゃいますか?」


 呆れたようにタケルがツッコミを入れていると、テントの入り口から遠慮がちな声が聞こえた。振り返ると、そこには三人組ユニット『チェリーズ』のメンバーたちが立っていた。

 彼女たちは私服に着替え終わり、タオルで髪を拭いている途中のようだ。


「お疲れ様です! どうしましたか?」

「……お礼が言いたくて。今日は、本当にありがとうございました!」


 タケルが応じるとチェリーズの三人はテントの中へ入り、深く頭を下げた。それから顔を上げ、リーダーのセリーゼが声を震わせながら感謝の言葉を口にする。


「私たち……あのまま中止ムードに流されていたら、二度とステージに立てなくなっていたと思います」

「自分たちなんてどうせダメだ、比べられたら絶対に無理と心が折れちゃって……諦めかけてました」

「ヴァルガンさんが熱を広げてくれなかったら、逃げ出していたかもしれません」


 メンバーであるキルシェとアマレナも、目に涙を浮かべながら言葉を続ける。

 彼女たちはヴァルガンが放った「歌いたいから歌う」という言葉と行動によって救われたのだ。


「そんな、畏まらないでください。みなさんが『歌いたい』と思ってステージに出たんですから。その気持ちが、見てる人に届いたからこその結果です」

「はい……!」


 タケルは少し照れくさそうに頭をかきながら、彼女たちに微笑みかけた。

 チェリーズの三人は、涙を拭って力強く頷く。


「……私たち、ルナちゃんみたいな凄いアイドルにはなれないと思います。でも、私たちなりの歌を精一杯やってみます。いつも応援してくれるファンのみんなに、会いに行きたいから!」

「うん。その意気です!」


 セリーゼが少し照れくさそうな笑顔でそう言いながら、手を差し出した。

 タケルはその手をしっかりと握り返す。


「みなさんの笑顔、最高に輝いてました。また別のイベントで共演しましょうね。お互い、頑張りましょう!」

「はいっ! その日が来ることを楽しみにしてます!」


 チェリーズは晴れやかな顔で、テントから立ち去る。その背中を見送りながらタケルはプロデューサーとして、ドルオタとして喜びを噛み締めていた。


「いやー、青春だねぇ青春」


 背後から、不意にチャラい声が響く。

 振り返るとテント入り口の柱に寄りかかっているエリオの姿があった。


「あれ? まだ帰ってなかったのか、エリオ」

「ちょっとちょっとー。今回はオレちゃん、関係者みたいなもんだよ? まだいたんだ、みたいな扱いひどくなーい?」

「貴様とは先ほど話したではないか。もうやることもなかろう」

「プロとして、イベントの総括をしに来てあげたんだよ。そういうのはゆっくりできる場所の方がいいっしょ」

「……確かに、それはちょっと聞きたいかも。じゃ、せっかくだし教えてくれ」

「はいはーい♪ 今回はルナちゃんの『個人の圧倒的な力』に対して、本家さんが『周りを巻き込んで作ったパワー』で勝負したって感じだね」


 エリオはいつもの飄々とした態度でテントの中へと入りながら、評論家のようにコメントを始めた。単なる実力勝負ではなく、RE:Genesisがイベントの方向性を塗り替えたからこそ起きた展開。


「ルナちゃんの完璧さは正解だけど、周りを萎縮させる毒にもなる。そこへ本家さんが『熱狂』って特効薬をぶち込んだ、面白いステージだったよ。スタッフや他アイドルからの信頼も得たし、一番美味しいところを持っていけたんじゃない?」

「当然であろう。順位と関係なく、注目を集めてしまうのが王たる者の性よ」

「でも、お前のおかげでもあるよ。エリオが色々教えてくれなきゃ本戦に行けたかわからないし。テレビの作法とか、色気とか……特訓してくれてありがとな」


 タケルはエリオに向き直り、真剣な表情で礼を言いながら頭を下げる。

 その言葉を聞いて狐耳をぴょこんと動かし、彼は嬉しそうに目を細めた。


「わかってるじゃーん、タケル! オレちゃんのアドバイスがなきゃ今頃あんたら、泥だらけの筋肉ダルマとして放送事故起こしてたかもね☆」

「否定できねぇ~……」

「んじゃ、そこまでオレちゃんを褒めてくれたことだし……セクシーレッスンも含めたお代、そろそろ請求させてもらいますか♪」

「うげっ……そういやあったな、そんな話……」

「どうすっかなー? オレちゃん最近儲かってるし、さらに贅沢したいかもー?」

「えーと……できれば、お金がかからない方向で……」


 その言葉を待ってました。

 そう顔に出てしまいそうな気持ちを抑えながら、エリオはやれやれと言いたげな呆れ顔で肩をすくめる。


「しょうがないなー。んじゃ、超特別サービスっていうことで……タケルの連絡先、教えてくれればいーよ」

「……はぁ?」


 全く予想していなかったタイプの要求に、タケルの口から変な声が出た。もっとハードルが高いお礼を求められると思ってたのに、そんなことでいいのかと。


「連絡先? 魔導端末の通信先のことか?」

「そ。タケルの個人のやつね、ギルドの窓口じゃなくて」

「なんだ、それくらい別にいいよ。これからも仕事で会うかもしれないし。金かからなくてよかったー……」


 タケルは自分の魔導端末を取り出すと、あっさりと連絡先交換を済ませた。

 端末画面に「タケル」と名前が表示されたのを確認したエリオは、平静を装っているが尻尾が揺れまくりだ。


「はいオッケー。今度どっか遊びに行こーぜ☆ んじゃ、また別の現場でよろしく。あ、オレちゃんからの誘いは断んなよー!」


 エリオは端末をポケットにしまい、タケルに向かってバチッとウインクを飛ばす。狐耳を楽しげにぴょこぴょこと動かしながら、彼は嵐の収まった会場から立ち去った。


「……なんだあいつ。相変わらずペース掴めないな」

「フン。小賢しい狐め」


 頭をかきながらタケルが呟くと、隣で腕を組んでいたヴァルガンが少しだけ不機嫌そうに鼻を鳴らした。


「ん? なんだよヴァルガン。タダで済んで良かったじゃん」

「タダより高いものがあるということを知らんのだな、貴様は」

「なんだそりゃ。……まあいいや。ほら、早く片付けて帰ろうぜ。俺、もう限界」

「うむ。帰って風呂に入るのだろう? 行くぞ」


 話をしながら二人は荷物をまとめ始める。こうして激動の嵐のステージは、疲労と大きな達成感と共に幕を閉じたのだった。

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