↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
146/233

15. イベント参加者みんなで盛り上げたいからこそ

 ルミナ・シティ中央公園に設営された『ルミナ・ドリーム・ステージ本戦』用の特設野外ステージ。ついに本番前日となり、参加アイドルの最終リハーサルが慌ただしく行われていた。


「次、RE:Genesisさーん! ステージへお願いします」

「はい、よろしくお願いします!」


 ディレクターの掛け声に、タケルは元気よく返事をする。

 ステージ中央に立つヴァルガンの顔は、いつも通り王としての絶対的な自信で満ち溢れている。


「音響、カメラ、準備OK。スタート!」


 新曲のイントロが野外ステージに響き渡った。

 音楽に合わせて、ヴァルガンは特訓の成果を見せつけていく。カメラの切り替わりを意識したアピール。照明を計算し、筋肉の陰影を魅せつけるポージング。


 予選の生放送で空回りしていた姿とは打って変わって、テレビというメディアに適応した仕上がりになっていた。一部で確認はあったものの、RE:Genesisのリハはスムーズに進んでいく。


「バッチリです! 予選の時より、グッといい感じになりましたね。本番、期待してますよ」

「ありがとうございます! 明日はよろしくお願いします!」

「大暴れしてやるから楽しみにしているがよい」

「……比喩にしてくれよ頼むから」


 ディレクターやスタッフからの評価の声。

 タケルはプロデューサーとして、確かな手応えに胸を張った。


(スタッフさんの反応もいいし、ヴァルガンの調子も上々。本番に向けた準備はしっかりできた……!)


 RE:Genesisのリハーサルが終わり、続いてステージに上がったのは三人組ユニット『チェリーズ』だった。リーダーの少女、セリーゼがメンバーに指示を出しながら進めているが……どこかぎこちない。


「あー……もう少しカメラを向いてもらえますか?」

「は、はい! すみません……!」


 予選がトラウマになっているのかまだ萎縮しており、カメラへのアピールも躊躇いがちだ。

 端から見ていても、彼女たちの売りであるポップな魅力が伝わってこない。


「……あの調子じゃチェリーズの子たち、本番で潰れちゃうぞ」

「フン。最初から『負ける』と思えば、その結末しか待っておらんというのに」


 ルナが言っていた「伸びしろがない」という評価。

 辛辣な意見だが、ある意味正しい面もあるのかもしれない。でも。


「チェリーズさん、ちょっと一回止めましょっか。少し休んでくださーい」

「はい、すみません……」


 ぎこちない空気を察したスタッフが、リハに区切りを入れた。

 小休憩に入り、チェリーズの三人が一息つく。


 プロデューサーとして、ドルオタとして。

 タケルは困っているアイドルを見過ごすことはできなかった。


「……ステージ広いんで、もっと動き大きめがいいかもです! 思いっきり笑うくらいの方が、後ろのお客さんにも伝わると思いますよ!」

「えっ……?」


 思わずタケルは、ステージ袖から彼女たちに向かって声をかけた。

 突然のアドバイスに、チェリーズは驚いてキョトンとしている。


「怯えていては、愚民どもが楽しめるわけがなかろう。ステージに立つのならもっと堂々とするがよい」

「あ、あの……RE:Genesisさん」


 ヴァルガンも腕を組みながら、タケルの隣でアドバイスを伝える。

 セリーゼは、信じられないものを見るような目をしながら話しかけてきた。


「どうして私たちにアドバイスを……? 順位を争うライバルなんですよ?」


 彼女の疑問は当然だった。

 順位を競う以上、参加者全員がライバル。アドバイスをするなんて、わざわざやるメリットが薄い。


「ライバルだからこそ、です。どのアイドルも凄いんだぞってみんなで番組を盛り上げた方が、見る人も喜んでくれると思います」


 屈託のない笑顔でタケルは答える。計算や打算は一切ない。

 ただ純粋に「アイドルのイベントを盛り上げたい」という、ドルオタの想いが込められていた。


「元気さが魅力のユニットじゃないですか。カメラの向こうのお客さんに伝わるよう、全力で届けましょう!」


 ポジティブな言葉に、チェリーズの三人の表情が明るくなった。

 背中を押してもらったことで、彼女たちの心に再びアイドルとしての熱が宿る。


「……はいっ! ありがとうございます!」

「それじゃ、チェリーズさーん。そろそろやりましょっか」

「お願いします!」


 チェリーズは深々と頭を下げたあと、スタッフに返事をして再びリハーサルに戻っていく。

 先ほどまでのぎこちなさは薄れ、笑顔でパフォーマンスを披露し始めた。


「全く。他人の心配までして、相変わらず貴様はお人好しだな」

「とか何とか言って、ヴァルガンだってアドバイスしてたくせに」

「……貴方たちは、本当に不思議な人たちですね」


 タケルたちの背後から、静かな声が掛かった。

 振り返るとルナのマネージャー、イザベラが一人で立っていた。


「お疲れ様です、イザベラさん。……あれ、ルナは?」

「別室でインタビューを受けているので、私はリハの進行確認です。……あの子は私が側にいなくても、全部できますから」

「……」


 なんと返せばいいか、タケルにはわからなかった。

 ルナの完璧さがイザベラから存在意義を奪い、深く傷つけている。エリオが指摘した通り、彼女の目は深い無力感に沈んでいた。


「貴方が羨ましいです、誰かに必要とされていて」


 ステージ上で笑顔を取り戻したチェリーズを見ながら、どこか寂しそうに呟く。

 担当アイドルだけでなく、周りの人にも影響を与えていくタケルと自分を比較するように。


「……ごめんなさい、忘れてください」


 タケルが何かを言う前に、イザベラは慌てて表情を繕って薄く笑った。


「明日の本番、良いステージにしましょうね」

「……はい」

「ディレクター、大変です!」


 血相を変えたスタッフが、ドタバタとステージ袖に駆け込んできた。

 緊迫した様子にリハーサル中の音楽が止められ、関係者の視線が一斉に集まる。


「どうした、そんなに慌てて?」

「さっき連絡が入って……! 大型の嵐が、ルミナ・シティを直撃するかもしれないと!」

「なんだと!?」


 まさかの報告に、ディレクターの顔が青ざめる。

 ここは野外ステージ。観客席には雨よけのテントを設置可能だが、ステージ自体は吹き晒しである。嵐が直撃すれば機材への影響はもちろん、アイドルのパフォーマンスにも当然支障が出る。


「何がどうしてそうなったんだ! この時期に嵐なんて、普通ないだろ!?」

「はい、こんなケースは初めてみたいです……。原因不明の魔力反応もあって、勢いがさらに強まる危険性も……」

「マズいな……。最悪の場合、イベントが中止になるまであるか……」

「ちゅ、中止ぃ!?」


 思わずタケルは叫んでしまった。ルナに対抗するべく、必死に特訓と準備をしてきたのに。すべてが水の泡になってしまうかもしれないという最悪の知らせ。


「……まだ確定ではないので、予定通り進める! ただし、当日キャンセルの可能性もあると思って備えておけ!」


 ディレクターは頭をトントンと叩きしばらく考えたあと、周りに指示を出した。

 その言葉を聞き、スタッフは準備に戻ったものの……会場に重苦しい空気が立ち込める。


「くだらん。我の覇道が、たかが天候ごときに阻まれるわけがなかろう。明日は必ずこのステージを支配する、それだけのことだ」

「いやイベントが中止になったらどうしようもないって……そうならないことを祈るばかりだよ……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。