15. イベント参加者みんなで盛り上げたいからこそ
ルミナ・シティ中央公園に設営された『ルミナ・ドリーム・ステージ本戦』用の特設野外ステージ。ついに本番前日となり、参加アイドルの最終リハーサルが慌ただしく行われていた。
「次、RE:Genesisさーん! ステージへお願いします」
「はい、よろしくお願いします!」
ディレクターの掛け声に、タケルは元気よく返事をする。
ステージ中央に立つヴァルガンの顔は、いつも通り王としての絶対的な自信で満ち溢れている。
「音響、カメラ、準備OK。スタート!」
新曲のイントロが野外ステージに響き渡った。
音楽に合わせて、ヴァルガンは特訓の成果を見せつけていく。カメラの切り替わりを意識したアピール。照明を計算し、筋肉の陰影を魅せつけるポージング。
予選の生放送で空回りしていた姿とは打って変わって、テレビというメディアに適応した仕上がりになっていた。一部で確認はあったものの、RE:Genesisのリハはスムーズに進んでいく。
「バッチリです! 予選の時より、グッといい感じになりましたね。本番、期待してますよ」
「ありがとうございます! 明日はよろしくお願いします!」
「大暴れしてやるから楽しみにしているがよい」
「……比喩にしてくれよ頼むから」
ディレクターやスタッフからの評価の声。
タケルはプロデューサーとして、確かな手応えに胸を張った。
(スタッフさんの反応もいいし、ヴァルガンの調子も上々。本番に向けた準備はしっかりできた……!)
RE:Genesisのリハーサルが終わり、続いてステージに上がったのは三人組ユニット『チェリーズ』だった。リーダーの少女、セリーゼがメンバーに指示を出しながら進めているが……どこかぎこちない。
「あー……もう少しカメラを向いてもらえますか?」
「は、はい! すみません……!」
予選がトラウマになっているのかまだ萎縮しており、カメラへのアピールも躊躇いがちだ。
端から見ていても、彼女たちの売りであるポップな魅力が伝わってこない。
「……あの調子じゃチェリーズの子たち、本番で潰れちゃうぞ」
「フン。最初から『負ける』と思えば、その結末しか待っておらんというのに」
ルナが言っていた「伸びしろがない」という評価。
辛辣な意見だが、ある意味正しい面もあるのかもしれない。でも。
「チェリーズさん、ちょっと一回止めましょっか。少し休んでくださーい」
「はい、すみません……」
ぎこちない空気を察したスタッフが、リハに区切りを入れた。
小休憩に入り、チェリーズの三人が一息つく。
プロデューサーとして、ドルオタとして。
タケルは困っているアイドルを見過ごすことはできなかった。
「……ステージ広いんで、もっと動き大きめがいいかもです! 思いっきり笑うくらいの方が、後ろのお客さんにも伝わると思いますよ!」
「えっ……?」
思わずタケルは、ステージ袖から彼女たちに向かって声をかけた。
突然のアドバイスに、チェリーズは驚いてキョトンとしている。
「怯えていては、愚民どもが楽しめるわけがなかろう。ステージに立つのならもっと堂々とするがよい」
「あ、あの……RE:Genesisさん」
ヴァルガンも腕を組みながら、タケルの隣でアドバイスを伝える。
セリーゼは、信じられないものを見るような目をしながら話しかけてきた。
「どうして私たちにアドバイスを……? 順位を争うライバルなんですよ?」
彼女の疑問は当然だった。
順位を競う以上、参加者全員がライバル。アドバイスをするなんて、わざわざやるメリットが薄い。
「ライバルだからこそ、です。どのアイドルも凄いんだぞってみんなで番組を盛り上げた方が、見る人も喜んでくれると思います」
屈託のない笑顔でタケルは答える。計算や打算は一切ない。
ただ純粋に「アイドルのイベントを盛り上げたい」という、ドルオタの想いが込められていた。
「元気さが魅力のユニットじゃないですか。カメラの向こうのお客さんに伝わるよう、全力で届けましょう!」
ポジティブな言葉に、チェリーズの三人の表情が明るくなった。
背中を押してもらったことで、彼女たちの心に再びアイドルとしての熱が宿る。
「……はいっ! ありがとうございます!」
「それじゃ、チェリーズさーん。そろそろやりましょっか」
「お願いします!」
チェリーズは深々と頭を下げたあと、スタッフに返事をして再びリハーサルに戻っていく。
先ほどまでのぎこちなさは薄れ、笑顔でパフォーマンスを披露し始めた。
「全く。他人の心配までして、相変わらず貴様はお人好しだな」
「とか何とか言って、ヴァルガンだってアドバイスしてたくせに」
「……貴方たちは、本当に不思議な人たちですね」
タケルたちの背後から、静かな声が掛かった。
振り返るとルナのマネージャー、イザベラが一人で立っていた。
「お疲れ様です、イザベラさん。……あれ、ルナは?」
「別室でインタビューを受けているので、私はリハの進行確認です。……あの子は私が側にいなくても、全部できますから」
「……」
なんと返せばいいか、タケルにはわからなかった。
ルナの完璧さがイザベラから存在意義を奪い、深く傷つけている。エリオが指摘した通り、彼女の目は深い無力感に沈んでいた。
「貴方が羨ましいです、誰かに必要とされていて」
ステージ上で笑顔を取り戻したチェリーズを見ながら、どこか寂しそうに呟く。
担当アイドルだけでなく、周りの人にも影響を与えていくタケルと自分を比較するように。
「……ごめんなさい、忘れてください」
タケルが何かを言う前に、イザベラは慌てて表情を繕って薄く笑った。
「明日の本番、良いステージにしましょうね」
「……はい」
「ディレクター、大変です!」
血相を変えたスタッフが、ドタバタとステージ袖に駆け込んできた。
緊迫した様子にリハーサル中の音楽が止められ、関係者の視線が一斉に集まる。
「どうした、そんなに慌てて?」
「さっき連絡が入って……! 大型の嵐が、ルミナ・シティを直撃するかもしれないと!」
「なんだと!?」
まさかの報告に、ディレクターの顔が青ざめる。
ここは野外ステージ。観客席には雨よけのテントを設置可能だが、ステージ自体は吹き晒しである。嵐が直撃すれば機材への影響はもちろん、アイドルのパフォーマンスにも当然支障が出る。
「何がどうしてそうなったんだ! この時期に嵐なんて、普通ないだろ!?」
「はい、こんなケースは初めてみたいです……。原因不明の魔力反応もあって、勢いがさらに強まる危険性も……」
「マズいな……。最悪の場合、イベントが中止になるまであるか……」
「ちゅ、中止ぃ!?」
思わずタケルは叫んでしまった。ルナに対抗するべく、必死に特訓と準備をしてきたのに。すべてが水の泡になってしまうかもしれないという最悪の知らせ。
「……まだ確定ではないので、予定通り進める! ただし、当日キャンセルの可能性もあると思って備えておけ!」
ディレクターは頭をトントンと叩きしばらく考えたあと、周りに指示を出した。
その言葉を聞き、スタッフは準備に戻ったものの……会場に重苦しい空気が立ち込める。
「くだらん。我の覇道が、たかが天候ごときに阻まれるわけがなかろう。明日は必ずこのステージを支配する、それだけのことだ」
「いやイベントが中止になったらどうしようもないって……そうならないことを祈るばかりだよ……」




