14. 磨け! 現場&カメラ同時アピールの極意
本戦に向けた準備を始めてしばらく経った、冒険者ギルド『獅子の牙』の訓練場。タケルたちはカメラアピールと新曲のパフォーマンスを試すため、実践テストを行おうとしていた。
「今日は現場と画面越しの見え方、両方をチェックします! セレイナさん、カメラ周りは大丈夫ですか?」
「問題ありません、予選の動きらしくなるようセッティング済みです。自動制御できるようにしたので、何度でも繰り返せます」
訓練場には商工会ギルドのツテを使ってレンタルした、魔導カメラや照明が設置されていた。それらをセレイナの氷魔法でコントロールし、擬似的なスタジオとして再現したのだ。
魔法の氷で作り出したカメラ用の台座──クレーンや三脚を用意し、彼女が魔力を注ぐと設定したカメラワークで動く仕組みになっている。
「では現場、A班のみなさーん! 準備オッケーですかー?」
「もちろんっす! 教官のライブ楽しみにしてました!」
「ナマで練習見れるなんて超役得ですよ~」
今回のテストでは協力者たちを二つの班に分けている。
A班は訓練場のステージ前で、直接ヴァルガンのパフォーマンスを見る若手冒険者たちだ。
「次は、B班のみなさーん! 通信状況はどうでしょう?」
『アタシらの方も大丈夫だよ。あくび亭のビジョンにバッチリ映ってるからね』
B班は画面越しにパフォーマンスをチェックする組。
酒場『赤竜のあくび亭』にテスト用で設置した魔導ビジョン。そこからステージを見る、女将のリザや常連客たちだ。魔導端末越しの表情や声から察するに、問題なく音声や映像は届いているらしい。
「よーし。早速やってみるぞ、ヴァルガン! カメラの切り替わり、筋肉の陰影、それから視線。忘れるなよ!」
「言われるまでもない。特訓で磨き上げた我の力、とくと見るがいい」
ヴァルガンがステージの中央に立つ。
レオンが制作した新曲のデモ音源が、訓練場に響き渡った。
ドゥンドゥン、パッ! ドゥンドゥン、パッ!
腹の底に響く、ビートを刻む重低音。ナイトクラブを感じさせるような、これまでの荒々しさとは一味違う大人な方向性。
ヴァルガンは曲に合わせてキレのあるダンスを披露し始めた。
魔王の巨体が滑らかに動き、ターンをするたびに筋肉が躍動する。途中で見せ場となる「溜め」を作り、身体に視線を集めて色気をアピール。
「おおっ……! 教官がなんかいつもと違う、エロい!」
「すげぇ迫力だ! こういうのもかっけぇ~!」
A班の若手冒険者たちは、目の前で繰り広げられるパフォーマンスに大興奮だ。
彼らはサイリウムを振り回し、ヴァルガンの動きに合わせて歓声を上げる。現場でのアピールは文句なし。
「よし、A班はバッチリ! リザさん、そっちの見え方はどうでしたか?」
『うーん……正直、何やってるかよくわからないねぇ』
タケルの期待に満ちた確認に対し、返ってきたのは困惑したようなリザの声。
「えっ!? よくわからないって、どういうことですか?」
『顔のアップばっかで全身が見えないんだよ。カッコいいダンスやってたみたいだけど、画面からはみ出ちゃっててさ』
「あ~、距離感見誤ってたか~……!」
率直な感想に、タケルはガシガシと頭をかいた。
何度もレッスンはしてきたが実際に試すのはこれが初めて。カメラへの意識が強まったのはいいものの、つい「寄り」の映像ばかりになってしまっていたのだ。
『あと、曲もしっくりこない感じ。低音がドコドコうるさすぎて、こっちじゃメロディがよくわかんないよ』
「ああー、聞く環境の差は意識しなきゃだね。本家さんのパフォーマンスが良くなっても、テレヴィのショボいスピーカーじゃただのノイズになっちゃうかも」
タケルの隣で通信を聞いていたエリオが、腕を組みながらコメントする。
音楽を聞く環境が常に一定とは限らない。ステージでは最適な音で聞こえたとしても、テレビで見る人がイマイチだと思ったら意味がない。
「チッ……面倒くせーな。音の聞こえ方が違うって視点は抜けてた」
「でも、今気づいてよかったですよ。そのまま本番だったら悲惨なことになってたかもしれません」
「バカデカい空間だけじゃなく、ショボい音響でもバランス意識。重低音の響きが肝なんだが……まあいい。もう少し低音削って聞き取りやすくしてやる。時間はかかるが、今からやるから待ってろ」
「お願いします、レオンさん!」
苛立たしげに舌打ちしながらも、レオンの目にはプロのクリエイターとしての意地が宿っていた。彼はすぐ魔導機材を触り始め、曲の調整に取り掛かる。
「ヴァルガン、待ってる間にカメラアピールを頭からもう一度見直そう」
タケルはヴァルガンに声をかけ、今回のステージ向けに考えた振りのページを開いた。画面に向かって何をアピールしたいか、どのカメラを活かすか。細かいメモも含めて書かれている。
「リザさん、イントロは顔のアップから上半身アピールしてたんですけど……そこ、どう思いました?」
『顔は良かったよ。でも、いきなり動きすぎてただろう? そのせいでどこをアピールしたいかわかりづらかったねぇ』
「ならば、振り自体を変えた方がよいかもしれんな。タケル、序盤は筋肉を魅せること優先にするのはどうだ」
「わかった、最初はキメを意識した方向性に変更だ。代わりにAメロをダンス優先に切り替えて、全身を映していこう」
リザの意見を参考にしながら、プランを組み直していく。
全身のダンスを見せる「引き」と、表情や筋肉の魅力を伝える「寄り」のバランス。それらを曲の展開に合わせて再構築していく。
「サビが見せ場なのは変わらんだろうが、何か変更はあるか?」
「そこは表情を盛ってくれ。第二カメラに寄って、レンズの奥を睨む……いや、不敵に微笑んで挑発する感じだ!」
「容易いことよ。我の眼力で画面の向こうの愚民どもを射殺すとしよう」
「乗せるのは殺意じゃないからな?」
視線やポージング、見せ場を調整していく二人。
一通り整理し終えてから流れを互いに確認し、問題ないと目を合わせて頷いた。
「今回はこれでやってみよう。リザさん、また見てもらっていいですか?」
『もちろんさ、いくらでも付き合うよ!』
*
「よし、もう一回テストだ! 本番のつもりでいくぞ!」
レオンの音響調整が終わり、ヴァルガンの演出プランも再調整を繰り返して固まった。改めてタケルが指示を出すと再び魔導カメラが動き始め、調整版音源が流れ始める。
テレビ用のスピーカーを想定し、重低音の迫力を残しつつメロディが聴き取りやすくなった絶妙なバランス。
カメラアピールのレベルも上がった。引きでヴァルガンのダンス全体を見せ、サビで盛り上がる瞬間にグッと顔に寄り、色気と力強さを画面いっぱいに映し出す。
「フン……」
ヴァルガンはカメラのレンズ越しに、不敵でセクシーな笑みを浮かべた。その視線は画面の向こう側にいる視聴者を直接射抜くような、強烈な引力を持っていた。
「おひょおおお! 教官いいっすよー!」
「さっきよりエロさパワーアップしてます!」
『タケル、今回はすっごくいい感じに見えるよ!』
現場の若手冒険者たちは、先ほど以上にテンションが上がっている。
そして、通信機からリザの興奮した声が飛び込んできた。
『カッコいいダンスってわかりやすいし、何よりヴァルガンの色気が伝わってきた! すっかりアイドルらしくなったじゃないか!』
「よし……! これなら、食らいつくチャンスはあるはずだ……!」
タケルはガッツポーズを決め、ヴァルガンと力強くハイタッチを交わした。エリオは拍手を送り、レオンも満足そうにドヤ顔。もうすぐ『ルミナ・ドリーム・ステージ』本戦、氷の美少女に挑む決戦の時が近づいていた。




