1. ついに地上波!? 魔王様、テレビ出演決定!
「やった……やったぞおおおっ!」
ルミナ・シティの冒険者ギルド『獅子の牙』。
広々とした会議室にタケルの歓喜の叫びが響き渡った。
「見てくださいよ、この問い合わせの数! 出演依頼はさらにマシマシ! 色んなギルドとのコラボ企画や、さらには農具のイメージキャラクターのオファーまで来てますよ!」
スイレイ郷でのドタバタな村興しを記録した『突撃! RE:Genesis辺境開拓日誌』が、魔導ビジョンで放映され約一ヶ月が経った。
大きなテーブルには山のような手紙や書類が積まれている。それらはすべて、ここ数日の間にギルド宛てに届いた問い合わせや新規の仕事依頼。魔導端末宛てにも数多くの連絡が来ているほど。
タケルはテンションが上がりすぎて、書類の山に頬ずりせんばかりの勢いだ。
「フン、当然の結果だ。民がひれ伏し、我を求めるのは世界の理というものよ」
会議室の椅子にどっかりと腰を下ろしたヴァルガンは、ニヤリと笑みを浮かべた。いつものパーカー姿だが、不思議とアイドルオーラが増しているようにも感じられる。
実際、ドキュメンタリーの反響は凄まじかった。普段の脳筋アイドルとしての印象だけでなく、村人と共に汗を流し子供たちに囲まれる「気さくでワイルドなアイドル」という、新たなキャラクター性が広く認知されたのだ。
「おかげでウチのギルドも大繁盛だぜ。スイレイ郷絡みの依頼でウハウハだからな、ガッハッハ!」
ギルドマスターのガルドも、丸太のような腕を組んで豪快に笑い飛ばす。
動画が出てから速攻で商工会ギルドなどに働きかけた結果、護衛や開拓といったスイレイ郷周りの仕事は『獅子の牙』が独占状態。冒険者ギルドとしての本業にも利益が還元されているのだ。
「ったく……テンション上がるのはいいが、無駄に仕事増やすんじゃねーぞ?」
部屋の隅に置かれたソファで寝転がっていたレオンが、迷惑そうに耳をほじりながら文句を言う。
だが、彼の口元は微かに緩んでいた。自分が書き上げた曲が多くの人々に届き、喜ばれているという事実。今の状況が満更でもないのは明らかだった。
「忙しくなるタイミングはこれからもあると思いますけど、最高級のお酒を差し入れますんで。引き続き神曲をお願いします!」
「ま、天才作曲家様だからな。ハズレは作んねーから、次も期待しとけ」
エリオとの対決で掴んだ熱を村興し企画でさらに拡大し、新たなファン層を獲得する。プロデューサーとして描いたロードマップが、これ以上ないほど順調に進んでいる。チームの雰囲気も最高潮に達していると実感していた。
そんな賑やかなやり取りを尻目に、デスクで淡々とセレイナは書類を捌いていた。彼女の指先は目にも留まらぬ速さで動き、次々と舞い込むオファーを受託・保留・却下の三つのボックスへと正確に分類していく。
が、途中で何か気付いたようにピタリと手が止まった。
「……ん? タケルさん、少々よろしいでしょうか」
「どうしました、セレイナさん? 何かクレームでも……?」
「それはそれでまとめてあります」
「来てるんですか!?」
「ヴァルガンさんがパワフルすぎて色々と。ただ、それとは別件です。これまでの依頼とは毛色が違うと言いますか……文字通り『桁違い』のオファーが届いておりまして」
セレイナの只事ではない雰囲気に、タケルだけでなくヴァルガンやガルドたちも一斉に視線を向ける。
彼女がテーブルの上にそっと置いたのは金箔の装飾が施された、いかにもな雰囲気の分厚い封筒だ。宛名には流麗な文字で『RE:Genesis様』と書かれている。
「差出人は『魔導映像伝達放送局』こと、マギア・テレヴィズム放送局からです」
「えっ……テレビ!?」
マギア・テレヴィズム。タケルが異世界に召喚されてから、街中の巨大な水晶スクリーン──魔導ビジョンを見るたびに「この世界にもテレビのようなものがあるんだな」と認識していた。
だが、それはあくまで街頭や一部の富裕層が持つ受信機で流れる映像であって、自分たちが直接関わるような舞台だとは思っていなかったのだ。
「お茶の間に映像を届ける、あのテレビからですか!?」
「お茶の間、という概念はよくわかりませんが……はい。主要都市の魔導ビジョンや各家庭の受信機へ映像配信をする、大手メディアのテレヴィです」
セレイナはそう答えつつ、封筒の中から一枚の豪奢な招待状を取り出した。書かれていたのは音楽イベントに関するオファーで、簡単な企画概要も載っている。
「依頼内容は、近々放送される大型音楽特番『ルミナ・ドリーム・ステージ予選会』への出演依頼。生放送でのパフォーマンス披露のようですね」
「おおおっ……! ついに番組出演ですか、よっしゃあーっ!」
クソみたいなボロ家からスタートした活動が、ついに芸能界のメインストリームである「テレビデビュー」を引き寄せたのだ。タケルは両手を突き上げ、何度もガッツポーズを繰り返す。
「ククク……世の民草に直接、我の覇気を届ける時が来たというわけか。世界征服にまた一歩近づいたぞ」
ヴァルガンは初めての舞台に対する臆病さなど微塵も見せず、むしろ大きな足がかりを得たとばかりに目をギラつかせている。
「しかし、すげぇな。あそこの連中から直々にオファーが来るとは」
「……あの、ガルドさん。テレビ局ってそんなに権威があるんですか?」
「あん? さっき大喜びしてたくせに、なんで知らねぇんだよ」
「えー、そのー……あ、あはは! 詳しい歴史とかはよくわかってなくて!」
ガルドからのツッコミを誤魔化すタケル。
テレビ局からオファーが来たこと自体は嬉しい。ただ、この世界における放送メディアがどれだけの存在なのか知らないので、何がどう凄いかという会話に乗っかれないのだ。
「ってことは、『魔導通信網』の歴史もよく知らねぇのか」
「魔力や魔石を使って、映像や音声を届ける技術ですよね? 魔導端末とかで使ってる」
「おう。で、あの仕組みは国や教会なんかの機関が『重要なお知らせ』や『神託』を通達するために構築したものなんだよ」
ガルドの説明を補足するように、セレイナが魔導端末に情報を表示しながらテーブルの上に置いた。そこに載っていたのは『魔導通信網』の始まりに関してまとめられた公的な資料だ。
「かつては、映像配信といえば国を中心に管理する『公認儀式』や『聖歌放送』などの厳格なものばかりでした。ですが、魔導技術の発展と共に民間でも機材を用意できるようになり、商工会ギルドなどが共同出資という形で参入したのです」
「なるほど……。インフラの民間開放みたいなことですね」
「はい。そうして生まれたのが『マギア・テレヴィズム放送局』です。国、教会、民間……様々な形でコンテンツ制作される、娯楽の最前線。莫大な資金と影響力を持ち、今の芸能界においてヒエラルキーの頂点に位置しています」
国や教会が作ったインフラに乗り、莫大な資本で作られたエンターテインメントの総本山。そこで歌うということは、これまでとは比較にならないほどの認知とステータスを得ることを意味する。
「つまり、ここで爪痕を残せば一気にトップへ駆け上がれるってことですね!」
「おいおい。おめでたい頭してんなー、お前」
素直に喜ぶタケルに、冷や水を浴びせるようなレオンの声が響く。
彼はソファから身を起こしながら、呆れたようなジト目でため息をついた。
「そんな美味すぎる話、裏があるに決まってんだろ。考えてみろよ。あんな商業主義の権化みたいな連中が、ポッと出の俺らを特番にホイホイ呼ぶか?」
「え? でも、実際にオファーが来てるわけですし……」
「あのな、サザンクロス島で何やらかしたか忘れたのかよ。クソ野郎の下半身丸出しで大騒ぎになったじゃねーか」
「うっ……」
確かに、あのポロリ事件のせいで「露出狂アイドル」という印象になったのは事実である。普通に考えれば、テレビ側が警戒してもおかしくない相手だ。
「わかってると思うが、そいつは生放送で何やらかすかわからねー爆弾だぞ」
「我の魅力が大爆発ということだな」
「いつもポジティブすぎだろヴァルガン」
「だから、イベントに呼ばれるのは違和感しかねーってわけだ。別の意図があるか、あるいは誰かの差し金か……」
かつて教会に所属して組織の裏側を見てきたレオンだからこそ、メディアや権力の不自然な動きには敏感だった。
だが──
「レオンさん、わかってないなぁ~」
「あ?」
「確かにやらかしもあります。が! それを上書きするくらいドキュメンタリーがウケたんですよ。マイナスをプラスに書き換えたってことです、きっと!」
「……どうにも胡散臭いがな」
今のタケルに、レオンの懸念は届かない。彼は肩をすくめて再びソファに寝転がる、これ以上は言っても無駄だと悟ったようだ。
「セレイナさん、すぐに出演承諾の返事を出してください。こんなチャンス、絶対に見逃がせません!」
「わかりました。では放送局へ連絡し、スケジュールを確認します」
返事をしたセレイナは手際よく魔導端末を操作し始めた。
タケルはヴァルガンに向き直り、力強く拳を突き出す。
「RE:Genesisの歌と筋肉をぶち込む時が来たぞ! テレビの向こうにいるみんなを虜にしてやろうぜ!」
「任せておけ。どんな思惑があろうと、我の圧倒的なパフォーマンスの前にすべてひれ伏せさせるのみ。次なる一手、華麗に決めてくれよう!」
新たなステージへの希望と闘志に満ち溢れた二人の拳が、コツンとぶつかり合う。こうしてタケルとヴァルガンは、テレビという華やかな戦場にドタバタと足を踏み入れていくのだった。




