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27. 『合理性』を司る、氷の美少女アイドル

 タケルたちがルミナ・シティへ帰還して、一週間が経過した。

 必死に編集した血と汗と涙の結晶、『突撃! RE:Genesis辺境開拓日誌〜スイレイ郷編~』は冒険者ギルドや商店街などの魔導ビジョンで流され、ルミナ・シティの市民たちに広まっていた。


「おい、見たか? 新しく来た動画」

「見た見た! あんな荒れた土地を、たった一人で粉砕……じゃなくて開拓する筋肉アイドルすげーよな」


 限界集落を文字通り切り開いていくヴァルガンの規格外な姿は、強烈なインパクトと共に格好の話題となっていた。


「あの村、美味そうな酒と飯があるらしいぞ。やってた宴会、めっちゃ楽しそうだったし」

「あそこの開拓依頼とか護衛任務も出てるんだろ? 俺、受けてみよっかなー」


 冒険者ギルド『獅子の牙』でも、スイレイ郷の話題で持ちきりだ。動画の反響を見るや否や、ガルドとセレイナは予定プランの実現に向けて即座に動き出した。

 商工会ギルドと連携し、スイレイ郷への安全ルート──魔物避けの結界設置、道の整備、定期便運行といった開拓準備を本格的に進めているという報告が、タケルにも届いていた。


「はぁ~……なんとかアイドルとしての成果を出せてよかった……。村興しにも貢献できたし、まさに一石二鳥ってやつだな」


 ギルド二階、休憩スペースのソファに沈み込みながらタケルはホッと一息つく。編集地獄から解放された喜びと、プロデューサーとしての達成感に浸っていた。

 エリオとの対決で掴んだ熱を冷まさず、辺境開拓という新たなジャンルでファン層を広げることに成功。ヴァルガンのワガママがきっかけでスタートしたとは思えない成果だ。


「ククク、上手くいって何よりだ。ならば次は、この山岳地帯を領地に──」

「ダメに決まってんだろうが!!」


 タケルはソファから跳ね起き、ヴァルガンに飛びかからんばかりにツッコミを入れた。クエストボードから持ってきたであろう羊皮紙を奪い取る。


「領地は一個で我慢しろ! これ以上ド田舎に行ったら俺のケツが破滅するわ! ルミナ・シティでの活動が疎かになるし!」

「我が一つで満足する器なわけなかろう。まあいい、スイレイ郷で我の威光を発揮できたからな。今はルミナ・シティの制圧に専念してやる」


 ヴァルガンは不満げな様子だが、タケルの必死な態度に渋々引き下がった。


「おい、タケル。ちょっといいか」

「どうしました、レオンさん?」


 二人がドタバタとやり取りをしていると、レオンが声をかけてきた。なぜか、若干苛立っているような表情に見える。


「お前が戻ってきてから特に話がなかったけどよ。酒、持ってきたんだろうな?」

「あ」

「言ったよなお前? とびっきりの酒を用意するから超特急で曲を書いてくれって。なのに一週間何も渡さないって、まさか……なぁ?」

「……」


 タケルは黙ったまま視線を逸らす。完全に忘れていた。

 その反応を見て察したレオンは、顎をガシッ! と掴み、強引に自分の方へと顔を向かせた。目が完全に殺気立っている。


「ほー、なるほどなるほど。俺は思うんだよタケル、仕事の報酬をすっぽかす奴はクソだって。その詫び代も含めて上乗せして当然だよな?」

「そ……そうかも……しれませんね……」

「よし。んじゃ今から俺の家に来い、死ぬほど酒を奢れ。朝まで飲み続けるから覚悟しろ」

「ほう、宴会か? ならば我もついて行くぞ」

「そこは止めてくれよおおおおお!」


 そのままレオンにズルズルと引きずられ、地獄の宅飲みをするハメに。レオンとヴァルガンの二人が飲みまくり、タケルの財布はとんでもないダメージを負った。


 *


 ルミナ・シティ中心部にそびえ立つ、最高級ホテルのスイートルーム。

 広々とした部屋にはルミナ・シティ内の芸能活動を牛耳るプロデューサー、大型イベントの主催者、有力ギルドの重役たちが集まり、グラスを傾けながら企画会議を行っていた。


「……というわけで。次のイベントでは、これまでとは違う新しさを入れたいと考えている」


 恰幅の良い初老のプロデューサーが、葉巻の煙を吐き出しながら切り出した。


「ステラは最高のトップアイドルだが、存在感がありすぎて彼女にだけ注目が集まってしまう。よって、今回は彼女を含めない形でメンバー構成を考えたい」

「なら、最近話題の彼らはどうですか?」 


 一人の男が魔導端末を操作し、空中のスクリーンへ動画を出した。

 映し出されたのは『突撃! RE:Genesis辺境開拓日誌』のハイライトシーンだ。


「RE:Genesis。新人音楽祭、サザンクロス島のフェスと着実にステップアップし、今はドキュメンタリーが話題です。盛り上げるなら、あのパワフルさは適任かと」

「ふむ……例の筋肉アイドルか」


 初老のプロデューサーは顎を撫でながら、ヴァルガンが大暴れするシーンを見つめた。


「確かに面白い。インパクトは申し分ないし、勢いもある。候補に入れるのは賛成だが……良くも悪くも劇薬だな」


 彼は言葉を切り、周囲の重役たちの顔を見回した。

 プロデューサーの言葉に、納得したように他の面々も頷いている。


「ステージを荒らす可能性があるし、何より暑苦しい。もっと広い客層を惹きつける華。目玉となる正統派の美しさが欲しいな」

「それならば、彼女しかいないでしょう」


 別の男が、自信満々に宣材写真をスクリーンへと映し出した。そこに映っていたのは淡いブルーアッシュをした、肩から胸元にかかるミディアムヘアを揺らす、一人の美少女。

 透き通るような白い肌、アンティーク人形を彷彿とさせる浮世離れした空気。そして何より目を引くのは吸い込まれそうなほど美しい、サファイアブルーの瞳。


「ルナ。ステラに次ぐ実力者と言っても過言ではないアイドルです。歴が浅い若手にも関わらずソロ公演チケットは即完売。信じられないほどの快進撃です」


 役員はルナのプロフィールデータを次々と表示していく。

 表示されている彼女の年齢は十五歳。その若さで、圧倒的な評価を得ている。


「スタッフの評判も申し分ありません。遅刻ゼロ、文句ゼロ、要求されたパフォーマンスを100パーセント……いや、120パーセントの精度でこなす。まさに『完璧』です」

「ふむ、ルナか。確かに彼女のステージならアピール力は抜群だ、隙がない」


 初老のプロデューサーも大きく頷いた。

 周囲の人々にも「ルナならば間違いない」という空気が広まっている。


「よし、決まりだ。目玉は彼女に据えよう。RE:Genesisはスパイスとして起用し、ルナの完璧さを際立たせる構成にする。では、他のメンバーも決めていこう」


 *


 とあるコンサートホールの豪勢な控室。

 単独ライブを終えたばかりのアイドル──ルナが、鏡の前に座っていた。汗一つかいていない涼しげな顔で淡々と、無駄のない動きでメイクを落としている。


「お疲れ様、ルナ。いいライブだったわ」


 そこへ、大きな箱を抱えた女性が入ってきた。落ち着いた栗色の髪をした、二十代の真面目そうな女性──ルナの専属マネージャー、イザベラだ。


「今回も素晴らしいステージでしたって、スポンサーさんも大絶賛よ」

「うん。それがわたしの仕事だから」


 ルナの口から紡がれた声は透き通っていて美しい。

 だが、どこまでも平坦で感情の起伏が感じられず……氷のようだった。


「それから……これ、今日のライブでファンの方々から預かった手紙とプレゼントよ。よいしょっと」


 イザベラは少し重そうに、持ってきた箱をテーブルの上に置いた。箱の中には色とりどりの封筒や、プレゼントがぎっしりと詰まっている。


「たまには少しだけでも目を通してみたらどう? ファンクラブの会報で、みんなに向けたお返事を書いてみるとか──」

「いらない」

「……え?」


 ルナはメイクを落とす手を止めなかった。

 鏡越しにイザベラを見つめながら、曇りなき瞳で躊躇なく言い放つ。


「ファンの人は、次の仕事を用意してくれるわけじゃない。わたしのパフォーマンスを見て喜んだ。それで十分だと思うよ」


 メイクを落とし終わったルナは立ち上がり、イザベラの横を通り過ぎながらテーブルの上の箱を一瞥した。想いの込められたファンレターを、彼女は「ただの紙の山」としか認識していない。


「読む時間も返事を書く時間も、もったいないし。捨てていいよ」

「でも、彼らは貴方を応援して……」

「応援はちゃんと受け取ってるよ。みんながお金を出してくれるおかげで、わたしはアイドルとして活動できてるから。だから、感謝してる」


 ルナの言葉にはファンへの悪意も、エリオのような過去のトラウマからくる嫌悪感もない。ただ純粋に、自分にとって「利益にならない事実」を告げているだけ。彼女にとってアイドルとは、効率よくこなすだけのタスクに過ぎない。


「そんなことより。次のスケジュールだけど、何か更新はあった?」

「……え、ええ。新しい仕事の依頼が来たから組み直してあるわ」


 イザベラはカレンダーが登録された魔導端末をルナに見せた。

 画面を覗き込み、ふむふむと流れを見て──


「組み方、微妙だね」


 そう言って魔導端末を手に取り、操作し始めた。

 ルナは的確にスケジュールを更新していく。食事、レッスン時間、合間の休憩、移動時間、リハ、仕事、関係各所への挨拶。

 どの点から見ても無理がなく、かつ効率よく進行できる最適解。イザベラが作成したスケジュール案は何一つ残っていない。


「はい、できた。これで進めるから、スタッフさんに連絡よろしく」

「……わかったわ」


 イザベラは少し悲しそうな顔をしたが、何も言えず頷くしかなかった。


 ただひたすらに最適解を追求する氷の美少女。熱さと泥臭さを武器にファンを巻き込んで突き進む『RE:Genesis』とは、対極に位置する存在。

 最も合理的なアイドルのルナが、次なる壁としてタケルとヴァルガンの前に立ちはだかろうとしていた。

第五章はこれにて完結です。ここまで読んでいただきありがとうございました。

次は第六章スタート、GWキャンペーン毎日更新は終わりなので通常の『火/木/土/日のお昼12時30分更新』となります。


アイドル『RE:Genesis』が成功するにつれて、魔王の存在が世界に与える悪影響も見えるようになってきました。タケルとヴァルガンの行く末が気になった方は、ぜひページ下部のブックマークと星評価【☆☆☆☆☆】をポチっとしてもらえたら嬉しいです!


引き続き応援よろしくお願いします!

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