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26. 超いい感じです! 明日までに納品お願いします!

「ただいま戻りました~……!」


 数日後、ルミナ・シティの冒険者ギルド『獅子の牙』本部。

 一階の受付スペースを抜け、タケルとヴァルガンは二階の奥にあるギルドマスターの執務室へと足を踏み入れた。


「おう、おかえり! 辺境での大暴れ、ご苦労さん」

「我にかかれば、苦労というほどでもなかったがな」


 巨大なデスクの奥から、ガルドが豪快な声と共に出迎える。

 セレイナは手早く冷たいお茶を用意し、タケルたちに差し出した。


「二人ともお疲れ様です。スイレイ郷での成果はいかがでしたか?」

「ええ、バッチリですよ!」


 タケルは得意げに、スイレイ郷での出来事を報告していく。

 荒れ果てていた村、ヴァルガンの規格外な開拓、子供たちとの触れ合い、そしてハクロウとリンファを中心とした大宴会の成功。

 話を聞き終えたガルドは、顎髭を撫でながらニヤリと笑った。


「へぇ、面白ぇじゃねぇか。あんな辺境に新しいアイドルがいるとなれば、物珍しさで話題になる。それに、村人が自分たちで動き出したってのがデケェな」


 腕っぷしで稼ぐだけでなく、商売のチャンスがあるなら狙いに行くのも冒険者ギルドの務め。ガルドはギルドマスターとして、鋭い視線を光らせた。


「ウチの冒険者を派遣して、スイレイ郷へのルート開拓。そうすりゃそのへんの仕事を独占できるし、新しい物流と観光の拠点として儲けに繋がるかもしれねぇな」

「マスターの案を試算してみます」


 セレイナは手元の魔導端末を操作し、素早く計算を始めた。

 画面には「商工会ギルドと交渉」「冒険者への依頼内容整理」「国への申請手続き」と、次々に計画書の項目が埋まっていく。

 想定される費用、生まれる利益、最初に手を上げるメリット。抜けがないようにチェックし、彼女は納得したように頷いた。


「スイレイ郷を我々『獅子の牙』経由でプロモートする価値はありそうですね。商工会ギルドとも提携し、村の資源を流通させるプランの策定に入りましょう」

「仕事が早すぎる……!」


 タケルはマネージャーの辣腕ぶりに戦慄した。辺境で泥臭く村興しをした結果、ルミナ・シティでこんなビジネスチャンスが生まれることになるとは。


「で、タケルさん。一番重要な『RE:Genesisアイドル企画』の動画は、しっかり成立していますよね? これがなければ、すべての計画が絵に描いた餅になります」

「えっ。……も、もちろんですよ! どうしてそんな確認を?」

「明日から第一弾を魔導ビジョンで流すよう手配済みだからです」

「明日!?」


 急に詰めてきたセレイナに理由を尋ねたタケルだったが、まさかの締切に思わず声がひっくり返った。


「なんでそんな急なんですか!?」

「スイレイ郷から戻ると連絡をいただいて、最速で準備しました。枠の都合上、抑えられなかった場合はかなり間が空いてしまいますので」

「あ~……確かに、宣伝枠ってスケジュール埋まったら空かないですもんね……」

「その通りです。遅れると違約金が発生するので、締め切り厳守でお願いします。念のため言っておきますが、ホームビデオのような代物にはしないでくださいね」

「大丈夫ですよ。大宴会や開拓の様子、いっぱい撮ってきましたから! 編集は任せてください!」


 セレイナの圧にタケルは一瞬たじろいだが、すぐに胸を張った。

 あれだけたくさん動画を撮ったし、イベントも盛りだくさん。撮れ高はあって当然に決まっている。タケルは笑顔で応じ、ヴァルガンを引き連れてそそくさと執務室を後にした。


 *


「使える素材がねぇぇぇ!!」


 夜、タケルの嘆きがボロ家『ひだまり荘』に響き渡った。

 スイレイ郷で撮影してきた映像を一つずつ確認しているのだが、その惨状たるや目を覆いたくなるレベルだった。


「なんだこれ!? 画面がブレすぎて何が起きてるかわかんないぞ!?」


 魔導端末に映っているのは、ヴァルガンが覇王開拓撃で岩を粉砕するシーン。

 しかし、その規格外の衝撃のせいでカメラが激しくブレまくり、土煙と謎の轟音しか記録されていない。


「こっちは……うわっ、音割れが酷い!」


 魔獣が襲撃してきたシーンでは、ヴァルガンの咆哮と魔獣の悲鳴がマイクの許容量を完全にオーバー。バリバリという不快なノイズしか聞こえない。


「ここ、大事なとこが映ってないじゃないか……!」


 タケルが小魔獣にちょっかいを出されつつ撮影した箇所は、地面や空が映っていて何をやっているかさっぱりわからない。大半の動画はしっちゃかめっちゃかだ。


「……ちょっと待て。どうすんだこれ? この有様で明日納品?」


 これを単なるドタバタ劇ではなく、ヴァルガンとスイレイ郷の魅力を両立させた開拓ドキュメンタリー、エンタメとして面白くしなければならない。

 それがプロデューサーであるタケルの使命。だが素材のあまりの酷さに絶望感しか湧いてこない。すると、隣で豪快にイビキをかいていたヴァルガンが目をこすりながら起き上がってきた。


「むぅ……騒がしい奴だ。何時だと思っている」

「お前のせいだよ! なんだよこの映像、パワフルすぎるんだよ!」

「フン。我の圧倒的な力が記録されているのであろう? ならば問題あるまい。そのまま流せ」

「そんなのやったら放送事故になるわ!」


 魔王は、動画を人に見せることの重要性が全くわかっていない。

 タケルは血走った目でヴァルガンを睨みつける。


「いいか? この動画がなかったら、俺たちがスイレイ郷に行った『アイドル活動の目的』がなくなっちまうんだ! 村興しとアイドル活動を紐づけるのが大事なんだよ!」

「ならば精々励むがいい、我は寝る」

「そうだよなお前に編集できるわけねーもんな!!」


 ヴァルガンはあっさりと布団に潜り込み、再び豪快なイビキをかき始めた。

 動画編集を魔王が手伝えるわけもない現実。タケルは深くため息をついた。


「くそぉぉぉ……絶対面白くしてやるぅぅぅ……!」


 タケルは気合を入れ直し、再び魔導端末に向き合った。

 現状に頭を抱えていても締め切りは待ってくれない。今ある手札で勝負するしかないのだ。


(ブレてるなら、いっそ臨場感として活かす! 音割れは……BGMで誤魔化して、テロップで補足だ!)


 素材の味を活かしつつ、いかに誤魔化すかという編集地獄に突入した。


 ヴァルガンのドタバタな開拓シーンには、コミカルな効果音とツッコミのテロップを挿入。子供たちとの触れ合いや大宴会のシーンは、なるべく元の音声や映像を活かす。それから村人たちの笑顔も効果的に見せて、盛り上がりを感じさせる。


(ここだ! ここでヴァルガンの笑顔をアップに……よし!)


 魔王の圧倒的な力と、村の温かさのギャップを最大限に引き出す構成。何度も何度も見返しながらカットを繋ぎ合わせ、エフェクトを付け足していく。


(とにかく、これだけはなんとしても間に合わせる! そしたら明日はもう仕事しない!! 絶対寝る!!!)


 睡魔と戦いながら、タケルは一心不乱に作業を続けた。

 プロデューサーとしての意地と執念。スイレイ郷で見たあの熱狂を、ルミナ・シティにも絶対に届けてみせる。


 *


「……で、できたぁ……」


 朝日がルミナ・シティの街並みを照らし始める頃。タケルは限界寸前の状態になりながら、セレイナが予め用意した魔導端末の転送ボタンを押した。

 画面に『送信完了』の文字が表示されたのを確認。そのままふらふらとヴァルガンが寝っ転がっている布団に近づき、バタリと倒れ込んで眠りに落ちた。


 数時間後。

 ルミナ・シティの魔導ビジョンに、一つの動画が映し出された。


『突撃! RE:Genesis辺境開拓日誌~スイレイ郷編~』


「なんだあれ? RE:Genesisの動画?」

「うわ、すっげぇ! 魔獣を一撃で!?」

「なんか、村の子供たちと楽しそうにしてるぞ」


 画面の中では規格外の力で村を開拓するヴァルガンの姿と、村人たちと楽しそうに交流する姿が交互に映し出されていた。

 コミカルなテロップ、時折入る感動的なBGM。単なる力自慢ではなく、泥臭くも心温まる「村おこしドキュメンタリー」として見事に成立していた。


「へー、これ面白いじゃん!」

「スイレイ郷ってどこにあるんだろ」

「RE:Genesis、こういうこともやるんだなぁ」


 魔導ビジョンの前には、あっという間に人だかりができていた。

 地下掲示板でも動画が話題になり始めている。


 ボロボロになりながらもタケルが完成させた動画は、ルミナ・シティに静かな波紋を広げていた。

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