注射 偽り
「おーい美月ちょっとこっちきて」
「なに流司」
「白根から小包がきたぞ」
「何だろね」
「お前がずっと追いかけていた食糧危機対策協議会のリポートだ」
「結局デスクが私の代わりに対応してくれたんだ」
「それはそうだよお前をここまで出張によこしたんだぞ、それなりに責任を感じてるんだよあいつは」
白根からの小包は3ヶ月に一回定期的に来る。青木美月改め緑川美月がこの地で生活を始めてはじめての小包だった。
「他にも書類がある、何だろ」
青木美月改め緑川美月が他の書類の目を通すと一つは緑川美月の処理についてだった。
青木美月様改め緑川美月様いかがお過ごしでしょうか
こちらは相変わらず日々を忙しくしております。
さて以前送ってくれたリポートですが拝読しました良くここまで取材しましたね非常に役立っております。
そこで一緒に送られてきたあなたの退職願ですが、私の一存でまだ私の机の引き出しの奥にしまってあります。その代わりに休職扱いとして処理いたしました。なので今後もできる限りで良いですそちらの現状をリポートしてください。お願いいたします。
文末となりますが緑川家の皆様の今後のご健康ご多幸をこころよりお祈りいたします。
嫁入り新聞社
白根
「デスクから私まだ新聞社の社員だって。休職扱いなんだって」
「まあよかったじゃないかこれで向こうに帰った時職探しをしなくても助かるからな」
「あともう一通なんだろう、『出雲大学の一色教授の生物研究室がすごい研究成果を発表。これならひょっとして食糧危機を回避できるのかもしれない』だって」
「どれどれ」
「出雲大学生物研究室です。本日ご説明をいたします赤土耕太と申します。我々がこの度発表しますのはお手元にあります(仮)生物増加管理システムです。結論的には生物の意識に働きかけ小産な植物には多産を促し全体的に食物の収穫を増やすと言うものです。」
「ではどのようにして食物に働きかけるのか。こちらをご覧くださいこちらのパネルは作物の種植えから収穫までの記録です。パネルの真ん中突然データの跳ね上がりが見て取れますね。これがこの植物に意志が入った瞬間なのです」
会場がざわめいていた。
「この意志が入ったときにこちらから別の多産な意志を送ってあげるのです。すると、次のグラフをご覧ください」
またもや会場がざわついた今度は先ほどのざわめきと違い信じられないと言ったかのような状態だった。
「皆さますでにお気づきですねそうです明らかにこの食物は今までの収穫量より多く具体的に言えば4割強の収穫ができました。この方法を用いれば今我々が直面している食糧危機問題もクリアできます」
その後も赤土耕太は淀みなく説明を行い会場から大きな拍手を受けて降壇した。
「赤土耕太君よかったよ」
場違いなほどの作業着姿の一色は赤土耕太に歩み寄った。
「ありがとうございます。やっぱりこの研究はすごいんですね教授」
「そうだよこれさえ機能すれば政府が掲げている2%の食物自給率のアップなんか目じゃないよ今ある労力今ある作付け面積で収穫量の4割アップができるわけだから」
「さぁ赤土耕太君君はこれから忙しくなるぞ」
「忙しくなるのはオレじゃなく教授の方ですよ」
「いやいやそんなことはないよ赤土耕太君。君はこれから世界中を駆け回りこの方法の普及に努めなければならないのだよ」
「それはそうですけど・・・でもその前に教授がメディアとかさまざまな団体に対応しないといけないじゃないですか」
「まあそれもそうだな。それは申し込みがあってから考えようじゃないか」
そう言うと一色は一足先に帰ってしまった。
「教授また先に帰ってしまったなどうするんですかこの会場への対応は」
赤土耕太は一人汗をかきながら質問に答えていた。だがリポートのまとめなどほとんど赤土耕太がしていたため難なく対応できた。
一色は一人車に乗りながら次のステップの着手に入る手立てを考えていた。
「これで世間の注目は全て赤土耕太に行く私は名前だけの教授となり存在が薄くなってくる。その時こそ本当の意味での食糧危機の対応と人口増加の歯止めをすることができるのだよ。赤土耕太君」
一色教授の言う通り翌日から赤土耕太はメディア対応各種団体への講演依頼が殺到していた。
「教授どこにいってんだろうヤバいんだけど」
誰かが研究室のドアをノックしていた。
「おはようございます」
「はい今行きます。キジマさん!」
「はいその節はお世話になりました」
「教授ならいないですよ」
「そうですか。でも今日は赤土さんに用事がありまして伺いました」
「俺に?講演依頼とかじゃないでしょうね」
「ふふふ違いますよ赤土さんがまとめられたリポートを拝読させていただきたくてきました。因みに偶然一色教授に会う事ができて、その時許可はいただいております」
そう言うと一枚の紙を見せてきた。
「確かにこの文字は一色教授のものだ。わかりましたこちらにどうぞ」
そう言うと空いている机に通しリポートを手渡した。
午前中いっぱいを使って黄島美波はリポートを熟読した。
その間赤土耕太は電話対応と大学からの要請など雑務に追われてほとほと疲れていた。
「赤土さんありがとうございました。おかげさまで良い勉強になりました」
「でもそのレポート見ても既に公になってるんですから何もわざわざ」
「・・・いえいえ」
「それでは失礼します」
そう言うと黄島美波は部屋を出ていった。
「あ教授黄島です」
「あー黄島美波ちゃん。」
「・・・赤土さん見てきましたよ電話対応にかなりお疲れのようでした。そろそろ行ってあげないと」
「じゃぁ黄島美波ちゃんがそう言うなら研究室に行ってみますか」
「教授どこいいてらしたんですかもう大変なんですよ。電話がひっきりなしにかかってくるし大学からも講演の依頼がたくさんきているとかで対応を求められるし」
「赤土耕太君。君はこの間間違いなく最高のプレゼンをしたんだよわかっているのかい」
「はあまあ」
「ならばこの状況は十分に理解できることじゃないのかな」
「いや教授それは教授がいらっしゃらないからこうなっているんです」
「では電話は私にかかっているのかな。ううん」
「いえオレにですけど・・・」
「ならばしょうがないんじゃないかな」
「明日には解消されるから今日だけは辛抱して対応してくれるかな」
一色教授はそう言うと部屋を出ていった。
翌日赤土耕太が研究室に行くとすでに鍵が空いていた。
「教授!」
「あおはようございます。」
「キミはキジマさん」
「はい本日より当分の間赤土さんの事務的なお手伝いを教授より依頼されましたので!」
「教授が!・・この事だったのか」
「改めて自己紹介します。私黄島美波と申します。年齢は秘密と言うことでお願いします。ただしこの研究室が長年携わって来られた食糧危機問題については多少なりとも知識はあるつもりです。よろしくお願いします」
「よろしくです。オレいや私は赤土耕太です。年齢はは同じく秘密と言うことでお願いします。一色教授の下で研究員として働いております。よろしくお願いします」
赤土耕太は不安もあるがこれで電話対応から少しは解放されると思った。
「はい赤土研究室」
黄島美波が電話を取ると赤土耕太はびっくりして黄島美波に方に駆け寄り身振り手振りで間違えを伝えようと必死になっていた。
「はい。そのように赤土に伝えます。お電話ありがとうございます」
そう言うと受話器を置いた。
「赤土研究室って、困るよ黄島さん」
そう言いながらもまんざらでもない様子が滑稽に見えていた
「フフフ」
「ここは一色教授の研究室ですので」
「はい分かりました」
「そろそろお出かけにならないと間に合いませんよ赤土さん」
「もうこんな時期。それじゃ講演に出かけます後よろしくお願いです」
そう言うと赤土耕太は研究室を出ていった。
コンコン
「失礼します。赤土さんは」
「今講演に出かけられました」
「一色さんが完全に研究室から手を引かれて事務処理がたまってしまってるんですよ」
「赤土さんから処理をしておくようにと指示を受けております」
「助かるわぁどうしようかと思っていたところだったんです。ところで貴方は?」
「申し遅れました。私は黒崎と申します」
「はぁ黒崎さん?」
「はい黒崎彩音です」
「黒崎さん大学への登録は」
「私は赤土さんから直接アルバイト契約してますよ。電話対応と雑務処理をしてくれとの事でした」
「赤土さん個人で!」
「はぁ何か問題がありますか」
「いや特には無いですがお金がよくあるなと思って」
「いまのバタバタが落ち着くまでの短期でお願いされました」
「なるほど!わかりました。ではこちらの処理をお願いしていいですか」
「はい。すぐに対応します」




