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注射  作者: 八味とうがらし
19/52

注射 カウントダウン

「あとは発射の映像を差し込めば完成だ」

誰も発射までの数時間を暇そうに待っていた。その間雑談をするわけでもなくただひたすら待ち続けていた。

「ミスターNo.5

あと1時間で発射となります。準備をお願いします」

一色に促されようやくといった感じで立ち上がった。そこにいるすべてが安堵した表情になった。

 発射台から離れた場所には簡易のオペレーションエリアが設置されているその機器をスタンバイ状態から起動させた。真っ暗闇に光る電子機器はある意味幻想的だった。

「いよいよですね教授」

「・・・・」

「ミスターNo.5

発射ボタンをお願いします」

一瞬驚いた表情になったことを一色は見逃さなかった。

「ミスターNo.5私はここまで来れた事に感謝しております。ぜひお願いします」

笑顔で頷くと発射ボタンの前に座った。ボタンの前にはカウントダウンのデジタルが音もなく迫り来る時を告げていた。

「あと5分ですよミスター!」

一色も緊張の面持ちでロケットを見上げていた。1分前になったところでデジタル表示が緑から青に変わった。30秒前には赤に変わり誰もがその瞬間を見逃すまいとロケットを見つめていた。

「10、9、8・・・・・5、4、3、2、1、0」

発射ボタンが押されるとロケットは空に突き上がっていった。暗闇に燃え盛る炎に見とれていた。ただ一色だけは瞬間を待っていた。

「・・・・」

 雲のない空が突然雲の隙間から稲光がが出たかのように一瞬光った、と同時にロケットが消えてしまった。誰もが騒ぎ始め出しNo.5も不安な顔で一色を見つめた。

「ミスター成功です」

 その言葉を聞いてようやく緊張がほぐれたような顔つきになった。

「おめでとう教授」

「ありがとうございます」

 紺野未知子は発射の瞬間を撮影していた為一色の側に祝福の言葉をかけることができなかった。一色は紺野未知子のところへ映像の確認のため近寄った。

「教授おめでとうございます」

「ありがとう紺野未知子」

そう言うと手早く編集を完成させた。

打ち上げが終わった発射台は素早く撤収作業に取りかかられ夜が明ける頃には大部分が解体され輸送機に積み込みが始まっていた。一色もこれほどまでに短時間で解体出来るとは驚きを隠せなかった。輸送機5機分の資材を慣れた様子で片付けていた。

 昼の2時には撤収が完了していた。あとは移動用の自動車と手荷物ぐらいだった。

「本当にいいのですか」

「はい大丈夫ですです。ただこの自動車をお借りしたいのですが」

「借りるだなんてお渡ししますよ」

「大丈夫なんですか。この自動車から御社に足が付くなんてことは」

ミスターNo.5は笑顔で首を横に振った。

「では教授お元気でまた本社でも会いましょう」

そう言うと飛行機に乗り込み5機は次々に飛び立って行った。

「さぁ紺野未知子今から長時間のドライブだ」

「教授なんで」

「我々はもう必要ないのですよあの会社には」

「そんなぁ」

「なのでここで別れるのがベスト。あとはお互い知らないことなのです」

「では行きましょうか」

「教授どこに向かうんですか」

「街に出て飛行機に乗って何処かに行きましょう」

「でもナビが壊れてますよね。大丈夫なんですか」

「ナビは危ないので壊しておきました。そのほかに不審なものがないか調べてあります」

そう言うと自動車を走らせた。一週間走り続けようやく街に辿り着いた。

「あーようやく着きましたね」

「はい疲れました」

二人は町にあるレストランに入った。

「ところで教授私達の荷物が全く無いのでけど」

「飛行機の中だよ」

「なんで忘れてたんですか」

「まぁしょうがない・・・」

「・・・」

紺野未知子が撮影に使ったカメラも完全にデータを消去して飛行機の中に置いてきていた。

 レストランのテレビが臨時ニュースを伝えてきた。

「先程太平洋上空で編隊飛行訓練中の輸送機が消息が絶えました。関係者によりますと企業のプライベート輸送機で今後の輸送拡大を睨んでの輸送機での編隊飛行訓練中での出来事での出来事。今は関係各位と協力し情報収集に務め、既に現地に多数の救助船を向かわせ救助作業に充てるということです」

「やはりな」

一色は想像通りとなった事に納得しつつも自らの身の危険にどう対処できるか考えを巡らせていた。

「これから飛行場に行って人目のつかないところでしばらく身を隠した方がいいかもしれないな」

紺野未知子は改めてこの数年間の出来事が危険との隣り合わせだったと言う事に驚いていた。

「このデータをまずどこかの国からこの無作為にチョイスしたメディアに送ってくれ」

「無作為?」

「ここにチョイスしたものがあるから紺野未知子必ず頼むよ。でも君がするのではなくて誰か第三者に頼んでくれないか」

「はい分かりました」

「くれぐれもバレないように変装して第三者に接触してくれないか」

「・・・」

そう言うと一色は席を立ち自動車へと向かった。

「教授私はお手洗いに行ってからきますね」

「自動車で待ってるよ」

そう言ってお互いに別れた。

 紺野未知子がお手洗いから出てレストランの扉を開けようとした時

何かが爆発する音がした。と同時に爆風が紺野未知子を押し倒した。

立ち上がるとさっきまで長距離を走ってきた自動車が燃えていた。

「教授?教授ぅ」

何が起こったのか理解を超えていたが、一色の身に大変なことが起こったことだけは分かった。

「なんで」

押し倒された紺野未知子はレストランの中で倒れていた。近くにいた誰もが突然の車両の爆発炎上に驚き何もできないまま見守っているだけだった。しばらくすると警察や消防などが事後処理を行ったがバラバラになった黒焦げた人の様な一部などを担架に乗せどこかに消えていった。

警察が現場爆発について話をしていた。

「前にも自動車が爆発してたよな」

「あの時は空港の駐車場だったはずだよ。でもその時は誰も死んでなかったはずだったよな」

「いや確か駐車場の警備員が一人亡くなったはずだよ。旅行者の自動車を盗もうとしてエンジンをかけたら、燃料が漏れていてそれにタバコの火が引火したんだよ」

「あーそうだった」

「それにしても多いな」

「まぁしょうがないさ。道なき道を走行すれば自動車もおかしくなるってもんだよ」

警察官もただの自動車の整備不良から起こったのか不慮の事故として片付けてしまっていた。

目の前で起こった最愛の人の事故に立ち上がることができなかった。

「お客さん大丈夫ですか」

店員に抱きかかえられられしばらく空いているテーブルに腰掛けていた。

「お客さん。お客さん」

店員の呼びかけにふと我に帰った紺野未知子は何をどうしたのか分からず飛行機のシートに腰掛けていた。

とにかく教授から頼まれた事だけは絶対にしなければならないと一人一色が言った事を反復していた。

トランスファーで空港に降りた紺野未知子は一色が用意したデータを一斉にメディアに送信した。送信が完了するとデータを完全に消去し教授の唯一の形見のタブレットを手に何処か街に消えていった。

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