注射 再始動
「それでは赤土教授、本日は貴重なお時間をいただきありがとうございます」
白根は赤土耕太にインタビューをする機会を得ていた。赤土耕太の講演が一段落し、なおかつコラボできる企業が大学と共に決定できた事による安心感が、インタビューに答えられる余裕を生んでいた為だった。
「さっそくですが教授、教授が研究されている生物の増増加システムにつて伺いたいと思います」
「はいよろしくお願いします」
赤土耕太は講演を通してすっかりインタビューなどの対面での対応を身につけていた。
「このシステムを今後どの様に発展させたいと思って言いますか」
「実際これから企業と一緒になって植物の増加生産を行います。このシステムを世界の皆様のお役に立てる日が1日でも早くくる事です」
「因みに私の勝手な想像なんですが、増加する事ができるということは減らすこともできるのでしょうか」
「理論上はできると思いますよ。でも・・・それをするっていうのは・・・ねぇ!どう思いますか」
「そうですねあまり良くはないでしょうね」
「いや全然良くないですよ」
「ありがとうございます。ところで教授以前私が〇〇◯会社主催の講演会の後、前任の一色教授について伺った事覚えていらっしゃいますでしょうか」
「・・・」
赤土耕太は白根の不意な質問に一瞬顔を曇らせたが、すぐに笑顔を取り戻した。
「あぁ思い出しました。あの時の・・・あなたでしたか」
「思い出していただけましたか」
「はい。確かあの時の一色教授が大学を辞めているって質問されてんですよね」
「そうです。そうです」
「実はその時私全く知らなくて」
「えーそうだったんですか」
「はい。ですからその後すぐに大学に問い合わせしたんですよ」
「え?でもあの当時赤土教授と一色教授のお二人でしたよね。研究室は」
「そうなんですよ。なので世間がどんな目で見てくるのか怖くてその後も知らなかった事を認める事ができなかったんです」
「なるほどですね。よくわかりますその時の教授のお気持ち」
さらなる笑顔で赤土耕太は頷いていた。
インタビューを終えた白根は控室を出てスマホに入っているメッセージに目をやった。
「青木美月が帰社してます」
すぐに編集部に連絡を入れた。
「白根です。今メッセージを見たんだけど」
「デスク早く帰社してくださいよ。青木美月が旦那さんを連れて待ってますよ」
「どういう事?なんで今帰ってくるんだ」
白根は急いで会社に帰って行った。
「緑川!」
「青木美月達なら応接ですよ。デスクの帰りを待ってもらってます」
白根が応接を開けると緑川夫妻は立ち上がり満面の笑みで白根を迎えた。
「どうしたんだ」
白根は再会よりも予定にない帰国を心配していた。
「白根お前はせっかちだな。久しぶりの再会だぞ」
「すまんすまんそうだったな」
「お疲れ様緑川。今日はご婦人もご一緒なんだね」
「もうデスクからかわないでくださいよ」
ようやくほっとした緑川夫妻だった。
「今いいか?白根」
「ああ良いよ。いったいどうしたんだよ」
緑川はここ最近起きた出来事を説明した。そして美月も最後に自分たちが乗っていた自動車が空港の駐車場で火災を起こしたと補足した。
「どういう事だ。お前達の取材地って犯罪はもちろんだが地元の小さなコミュニティがポツンポツンとある程度だろ」
「そうなんだ。だからなおさら全くと言っていいほど手がかりがないんだ」
「あの工場みたいなロケットの発射台みたいなのは」
「あれも全く訳がわからないある夜突然資材を搬入したかと思へば瞬く間に囲いをしてその中での作業を行っていたんだ。俺がロケットの発射台と思っているのは囲いからちょこっと見える塔の様なものがそれっぽいからなんだよ」
「中には入れないのか」
「どこもかしこも監視カメラが見張っていて囲いの上には有刺鉄線が巻き付けてあるんだな」
「たぶんその囲いの中で作業している奴らが何にかしらの関わりを持っているかもしれないな」
「どうやって取材をするかだよな」
「ねぇ写真は取れなかったの」
「写真撮るには撮ったんだけど、完全に鉄の壁の色はまっ黒でなんの手掛かりもなと思うな」
「今データがあるならコンピュータでもっと倍率上げて何か写ってないか調べてみよう」
青木美月改め緑川美月がデータの入っているカードを手にとって応接を出て行った。
「緑川。なんでだよなんで青木美月なんだよ」
「いやそのなんだ。まあそういう事も世の中にはあるという事で・・・」
「我が社のこれからを担ってくれる彼女なんだ。だからお前のところにいかせて取材の厳しさ楽しさ。そしてなによりもタイミングを学ばせたかったんだぜ」
「大丈夫だよ美月は今も嫁入り新聞社の生え抜きの記者だよ。今回の帰国にしても美月は『残って取材を続ける』って言ってたぐらいなんだな」
「じゃあどうして帰国を選択したんだよ」
「これは美月には言ってないがさっき話した各集落を襲った奴らは間違いなく俺たちを狙っていた。なので俺たちが取材したところばかりが襲われていたんだな」
「それって警告ってことか」
「多分な」
「わかったよ。これからも協力するよ」
「ありがとう」
青木改め緑川美月が応接に入ってきた。
「拡大できたよ」
「青木、ここはお前達の家じゃないんだぞ」
「できたよはないんじゃないか」
「あーそうでしたね」
「おーい」
緑川美月は拡大した写真を持ってきた。
「これはすごいな!なんでこんなところにこんなもの建てたんだろう」
「そこなんだよな」
白根が食い入る様に写真を眺めた。
「おい緑川!これって何かの文字じゃないか」
「えぇっ」
緑川も白根が指差す場所を見入った。
「えー私にも見せて」
「本当だ確かに何か書いてある」
「・・・でもこれじゃよくわからないな」
「他には無いのか」
「向こうじゃあまり良い設備がないからな、これが限界かもな」
「まって私が一番最初にあそこに行った時確か望遠で写真撮ったはず」
「すぐに出してみて」
そういうとまたも青木美月改め緑川美月は応接を出て行った。
「ほらな。美月は今でも立派な記者なんだな」
「確かに少し安心したよ。休職扱いにしておいてよかったよ。迷っていたんだ」
「ありがとう。ところで白根お前の方は今何を追いかけているんだ」
「俺かぁ俺はほら例の生物増加システムだよ」
「本当にそんな事ができるのか」
「今日もその研究者の赤土教授ってのに会ってきた」
「これが赤土教授だよ」
「へーでどうだった」
「それが・・。実は数年前にも一度飛び込みの取材をした事があったんだよ。そのときは全てが人の言葉って感じだったんだけど・・今回は全部自分の言葉でインタビューに答えてくれていたんだ。それに」
「それに」
「それに俺が以前会った時のエピソードを思い出してくれてその時の気持ちや後日談まで素直に答えてくれたんだ」
「わずか数年で何がそこまで・・・」
「俺の想像だが、前任者の何かだと思う」
「今日はこれからどうする予定なんだ」
「あー今日はまずホテルの予約をしなくっちゃ!ほんと命辛々とはこのことだよ」
「じゃあ久しぶりに誰もで食事にでも行くか」
「おーいいなぁ」
「よし決まりさっそく手配しよう」
白根が応接を出て行っている間に美月が部屋に入ってきた。
「どんな感じだった。何か映ってたかな」
「これ見て」
「こっちの方がわかりやすいな・・でもやっぱりわかりづらいかな」
「そうなんだ」
「何か解析するものってないだろうか。白根が帰ってきたら聞いてみよ」
「ホテル取れたぞ」
「ありがとうな」
「デスクこれ見てくださいさっきのよりはいいですけど・・・」
「会社の写真解析班に回して解析してもらうよ」
三人はそのまま会社を出て緑川夫妻にとって久しぶりの外食をした。
「何年ぶりの外食なんだ」
緑川夫妻は顔を見合わせて吹き出した。
「俺何か変なこと言ったのか」
「だってデスク外食久しぶりだなんて!私たちいつも外食なんですよ」
「そんなお前達の所ってそんなお店がたくさんあるのか」
「違うよ白根」
「そうですよデスク」
「私たちが思ったのは本当の大自然の薄暗い外で食べているガイショクなんですよ」
「確かに外食だなはははは」
久しぶりの外食に緑川夫妻は大喜びのままホテルへと帰って行った。
「緑川を襲ったていう奴って一体なんだろう・・・。でも俺たちってただの新聞記者だぜ!それを襲うなんってよっぽどだよ」
そういいながら白根もタクシーを拾って帰宅の途に着いた。
「嫁入り新聞社デスクの白根さんか、あんな真面目な人も世の中いるんだ。俺の周りって金に汚い人や何してるのかわからない人や・・・」
赤土耕太は自身と関わりがある人に嫌気をさしていた。
「でもまぁお陰で今教授になれているんだから贅沢なのかも」
結局赤土耕太も大なり小なり損得勘定での判断基準を主として一人納得をしていた。
緑川夫妻は謎の輩に追われたなど刺激的な長旅の疲れが溜まっていたのだろう二人とも午後を過ぎても寝ていた。
白根はいつも通り出勤して取材していた赤土耕太へのインタビューをまとめていた。赤土耕太の言霊のある受け答えではあったが、やはり冷静に考えてみると何か自分が無い様に思えた。
「赤土教授って・・・なんだろうかな隠しごとがある様子でも無いし」




