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注射  作者: 八味とうがらし
14/52

注射 脱出

「一度帰ってみるか」

「えっえっえっ」

 明らかに嬉しそうな美月がいた。

「なんで!なんで?」

「手詰まりなんだよな!ここでの取材が・・・。ここ最近どこのエリアに行っても同じ反応なんだよな。今までそんなことはなかったんだ。いつ取材をしても心から不満や思いを話してくれていたんだな。でもここ一ニ週間突然人々の態度が変わってきたんだよな」

「確かに私もそう思う。じゃあ今度わたしが最初に話を聞きに行ったマフィドさんのところに行ってみようよ」

「あーそれいいかもな」

 翌朝二人はマフィドが長をしている集落へと車を走らせた。

「ねえ流司、向こうに帰ると時はこの車や家はどうするつもりなの」

「いつもの様にするだけだよ」

「いつものように?」

「車は・・美月がこっちにきた時空港から列車を乗り継いできただろその空港近くになんでも処分してくれるところがあるんだよ」

「じゃぁ家も!」

「そう家もなんでも」

「ひょっとして人も。なんて馬鹿な話はないよね」

「いやそうでもないな。こっちに初めてきた時、取材を兼ねて必要な品を買い揃えていた時そんな噂を耳にしたんだな」

「・・・そんなところに自動車のこと頼んで大丈夫?」

「大丈夫だよ」

「それよりマフィドさんの集落に着くぞ」

 緑川夫妻は自動車を降りてマフィドの家に向かった。

「あれ妙に静かだな」

「そうだね」

「マフィドさんいますか!緑川です」

「ううう」

家の奥に横たわったマフィドがいた。

「マフィドさん」

「あー緑川さんどうしてここへ」

緑川はここ最近の取材から不自然と感じた事を話した。

「それよりマフィドさんこそどうされたんですか」

「つい先ほど突然男達が集落にきて、みなを殴りかかってきたんだよ」

「え!」

「それでこの有様だよ。みなも家の中でうずくまっている」

「その男達は何か言ってましたか」

「いや訳の分からないよその国の言葉を話しながら笑っていたよ」

「酷いことをする」

「美月車に救急セットがあるから持ってきてくれ」

緑川美月は大急ぎで救急セットを持って帰ってきた。

緑川流司はマフィドに治療を施し栄養剤を飲ませた。

しばらくして薬が効いたのかマフィドは起きあげれる様になってきた。

「緑川さんありがとう」

「マフィドさんここに薬を置いておきますので集落の皆さんで使ってください」

緑川夫妻はマフィドの集落を後にした。

「それにしてもいったいなぜこんなことするんだ」

「酷いことするよね」

「多分他の集落も同じように襲われたんだろうな」

「・・・」

「俺たちも襲われるかもしれないぞ」

「なんで・・・」

「いや理由なんかないよマフィドさんにも理由がないんだから」

「でもその男達ってどこにいるんだろうね」

「分からない。でも間違いなくこのエリア一帯を暴力で何かをしようとしている様だ」

「流司これからどうする」

「・・・」

「美月お前だけ帰国しろ。俺は残ってもう少し調べてみる」

「えー私も一緒に取材する」

「下手したら し・・・」

流司は『死ぬ』と言いかけて思いとどまった。

「・・・・」

「美月は帰って白根にこの事を説明してくれないかな」

「絶対やだ!」

「美月分かってくれよ」

「わからない。さぁ一緒に帰るよ。そして早く戻ってくるよ」

 緑川夫妻が家を遠目で確認出来るところまで帰ってきたところ家から火の手が上がっていた。

「火事だ」

「やばい火を消しにに行かないと」

「いやすぐに空港に向かおう」

「誰かわからないが奴らはこっちの存在を知っている」

「でもこっちは全然手がかりなし」

 あまりにもぶが悪い。緑川流司はこのままだと確実に殺されると感じた。

「ひとまず退散しますか、美月」

「了解です」

 緑川夫妻は家を出るときは必ず貴重品や取材したものなどの全てを持ち歩いていた。家には食器や家具など生活用品だけだった。

 流司は車を空港へと進路を変え出来る限りのスピードで燃え上が炎から遠ざかった。

「結局処分するのは自動車だけになってしまったな」

「いつも家を出るとき大荷物の訳がわかったわ」

「いやこれは特別だよ」

「・・・」

 空港までひたすらはしりつづけた。バスのノロノロ運転に比べ緑川流司の運転は土埃を巻き上げながらアクセルを目一杯踏んでの走行だった。空港から家までにガソリンスタンドは3カ所ありその3カ所すべてで満タンにして尚且つ予備タンクにも目一杯給油しなければならなかった。

 少しずつ街らしいものが見え始めてきた。

「もう少しで街に入る」

「どれくらい」

「3時間くらいかな」

時間の概念が狂い始めていた美月だったが今回は追われている気持ちがあり3時間をものすごく長く感じていた。

「ねえ後ろに何か光ってない?」

「いや何も見えないけど」

美月はサイドミラーを凝視して真っ暗で何も映っていない事確認している。

「でもほらやっぱり何か後ろから気配が・・・」

「本当だ。なんだろうこの辺なら車がいても不思議ではないけどな。でも追いつかれないようにしたほうがいいにきまってる」

「そうだよ」

「急ご」

流司は踏みシロのないアクセルをさらに踏み込んだ。

「美月後ろにしっかり見といて」

「了解です」

「どんな感じ」

「変わらないよ。でも急いで」

「・・・了解」

さらに自動車を走り続けてようやく街中に入った。

「美月街灯があるよ人がいるよ」

「よかったぁ」

空港の駐車場に車を止め荷物を下ろすと係員に流司が何やら話をしている。

「・・・」

しばらくして流司が美月の元に駆け戻ってきた。

「流司何話してたの」

「あも車処分する時間がないだろだからあの人に譲ったんだよ」

「なるほどね」

「あの人大喜びだったよ」

「さあ急ご」

緑川夫妻は無事に飛行機に乗り込みこの地を後にした。

飛行機が空港を旋回し飛び立っているとき美月が窓の外をみると、空港の駐車場から火の手が見えていた。

「・・・ねぇ流司」

「自動車が燃えていた」

「えっ」

「わからないけど駐車場から火・・・」

「やっぱりわたしたち追われてたのかもしれない」

「あまり気にしない事だな」

「そうだねもう飛び立っちゃたんだし」

緑川美月は安心を取り戻していた。緑川流司はまだ何処からか狙われているのかもと当たりを気にしていた。ただ何も起こらずに到着する事ができた。

「よかったぁ〜」

「無事に着いたな」

二人は空港で荷物を待っていた。トランクにはだれかが開けようとした形跡があった。

「美月このトランク見て」

「・・・何このキズは」

取手は壊され蓋はバールの様なものでこじ開けようとされていた。

幸いな事に周りの荷物も同じ様な状態だった為。緑川夫妻の荷物を狙ってのものではなかったらしい。

「嫁入り新聞社に行こう」

「そうだね」

二人はタクシーに乗り込み新聞社を目指した。

「デスク驚くと思うな」

「それはそうだろな全く連絡を入れてないんだから」

二人はつい後ろを振り返っておかしな様子がないか確認しては笑っていた。

「流石にここまではないよ」

「そうだよね」

「運転手さん後どれくらいで到着しますか」

「道の混み様にもよるけど後・・・15分ぐらいかな」

美月は思わず笑ってしまった。

「15分だって。15時間の間違いじゃない」

小声で流司に話していた。

「お客様到着しました。嫁入り新聞社前です」

「運転手さん安全運転ありがとう」

二人は本気でそう思ってお礼を言った。

運転手不思議そうに会釈をして車に乗り込み消えていった。

「久しぶりの出社ですよ」

「緑川先輩よろしくお願いします」

二人は笑いながら会社に入って行った。

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