80.わたくしも、いざ出陣です!
ゼウス様からイリスはポセイドンを止めるよう、そしてアポロンはヘクトルに力を貸すよう命令が下されました。
アポロンの助力を得た王太子ヘクトルは再び立ち上がり、トロイア勢がまたも優勢。
ギリシャ勢も必死で防戦しているものの、ゼウス様の意に逆らう事など出来るはずもなく。
味方の劣勢を見兼ねたアキレスの親友パトロクロスが、ミュルミドン人を引き連れて戦いに参戦する事となりました。
パトロクロスは活躍を見せ、トロイア軍を船陣から撃退することに成功。
さらに追撃しトロイア軍を追い詰めて行きますが、ここでアポロンがゼウス様から受けた命令を遂行すべく、手を出しました。
パトロクロスの背を、後ろからバシンッと思いっきり引っぱたいて意識を朦朧とさせ、隙だらけの状態にしたのです。
ちょうどその時にはパトロクロスを守ってくれる味方は誰もおらず、トロイア兵の餌食となりました。
こうしてゼウス様の目論見通りに事が運び、親友の死に怒り狂うアキレスが、戦いの場へと戻ろうとしている所です。
「全く、アキレスは世話のやける男ですわね」
燃え盛る炎の中に、青銅やら錫やらを次々と投げ込んで溶かし、せっせと動き回っているのはヘパイストス。
息子の為に武器と防具を作って欲しいと、テティスがヘパイストスにお願いしにやって来たのです。と言うのもアキレスが使っていた武具は、パトロクロスに貸してやったので敵陣に奪われてしまったのです。
事の次第を聞いた根の優しいヘパイストスは二つ返事で了承し、今は武具一式を作っている最中。
わたくしがヘパイストスが働く姿を眺めて癒しとしている事は、本人にはとっくにバレていますので、仕事場におじゃましていますの。
「私がどんなに立派な武器と防具を作ろうとも、アキレスの運命は決まっているのでしょう?」
「運命は絶対ですから。仕方ありませんわ。ですからあなたは、後世まで語り継がれる英雄が身に付けるに相応しい物を作ってやりなさいな」
「ええ、そう致しましょう」
「それからヘパイストス。わたくしも少々戦場へと足を運ぼうかと思うのです」
アキレスが参戦すれば、ゼウス様は神々の参加禁止命令を解くおつもりです。
そうなれば、もちろんわたくしもギリシャ軍に加勢してやるつもりです。戦いにおいてはへっぽこですけれども、役に立てる事だってあるでしょう。
「ヘラ様がですか? 不死身とは言えお怪我をされては大変です。足の不自由な私で良ければ付いて行きましょう」
「まあ! それは心強いですわ」
ヘパイストスは下半身こそナヨっとしていても、上半身は鍛冶仕事でムキムキです。ギガントマキアの時には溶鉱炉を投げ付けて戦っていましたから、いざという時にはやる男だと知っています。
ギリシャ軍に新たな味方が増えたところで、わたくしも気合を入れて行きましょう!
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ヘラクレスも呆れるほどの猛者でしたけれども、アキレスも負けず劣らずの強者ですわね。
トロイア軍はバッタバッタと倒されて、屍の山が着々と築かれています。
ヘパイストスが作った武具一式を、テティスから受け取ったアキレス。アガメムノンと和解をし、兵を引き連れてトロイアとの戦いに参加し始めました。
そして予想通り、アキレスが戦いの舞台に戻って来た事で、神々の戦闘への介入許可がおりました。
トロイア勢に付く者、ギリシャ勢に付く者。
人と神とが入り乱れ、大地は大きく揺れ動き、空はゼウス様の鳴らす雷が響いております。
さてわたくしヘラは何をしているかと言うと、情勢を見極めてフォローしていますわよ!
例えばつい先程で言うと、アキレスが追うトロイア勢は、片方はスカマンドロス河へ、もう片方は町へと続く平原へと逃げていきました。
いくらアキレスと言えども、体を二つに分けて追うことなど出来ないでしょうから、わたくしが町へと続く道に濃い霧を沸き立たせて目隠ししてやりましたのよ。
これを見たアキレスは、河へと逃げて行く敵の方を追いかけて行きました。今はその後を追って河へと向かうところです。
「なんだか何時もよりも、河の水が少なくは無いかしら?」
「ヘラ様、あちらを見て下さい。死体が河を塞き止めているせいで、流れが悪くなっているようです」
ヘパイストスの指さす方を見れば、アキレスに倒されたトロイア兵の死体がそこここに浮かんで水の流れが悪くなり、少なくなった水も濁って血なまぐさい香りを放っています。




