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78.作戦決行!の前に、まずは準備を

 早速作戦を決行するために身支度を整えます。


 甘く痺れるような、妖艶な花の香りのする香油。アテナの織った艶やかな布地。宝石を散りばめたアクセサリーと、より女の美しさを引き立てるベール。


 それらを身にまとい訪ねたのは、アフロディテの神殿。

 日ごろアフロディテに付き従っている、美と優雅を司る三美神カリスの一人に案内してもらい部屋へと入ると、アフロディテが戦争の事など忘れてしまったかのように、笑顔で近づいてきました。


「私の神殿へ来るなんて、どうかしたのですか?」


「もしかしたら門前払いされるかもと心配しておりましたが、良かったですわ。実はひとつ、お願い事があって来ましたの」


「まさか、門前払いなんてするはずありませんよ。あの戦争の事はまた別の話しでしょう? どのような用かしら。お役に立てるのならば喜んで、手をお貸ししましょう」


 こう言う分別を持ち合わせているところは、アフロディテのいい所ですわね。

 勧められるままイスに座って、お茶をいただきます。


「わたくしの養父母、オケアノス様とテテュス様が喧嘩なさっていることはあなたも知っているでしょう?」


「ええ、別居状態が続いているとか」


「かつて仲睦まじく、わたくしを匿って育てて下さった頃を思い出すと、今の状況は心苦しくてたまりません。お2人には早く仲直りして欲しいと思うのは当然でしょう」


 下心があるのを見破られないように、ふふっと笑ってみせて、アフロディテの胸元に目配せしました。


「ああ、そういう事ですか」


 アフロディテは、分かった!とでも言うように笑い返してくると、胸元から綺麗な刺繍の施された紐をわたくしに渡してきました。


「話が早くて助かりますわ。礼には何をお望みかしら?」


「男女の仲を取り持つのは、私の役目ですから。お構いなく」


「それでは暫く、借りていきますわね」



 アフロディテから借りた紐を懐に収めて、今度は眠りの神ヒュプノスの神殿へとやって来ました。

 薄暗く霧の立ちこめる神殿の周りには、岩から湧き出た忘却の水が、小川となって流れています。


「いつ来ても、気味の悪い館ですわね」


 どうせ夜が来るまではいつものように、寝台でゴロゴロしているでしょう。神殿の中央へと迷いなく進み、寝息を立てている山に向かって声を掛けます。


「ヒュプノス、居るかしら?」


 黒い掛け布がかけられた寝台からモゾモゾと出てきたのは、灰色の髪の毛をボサボサにした青白い顔の男。わたくしの姿を認めると、欠伸をかみ殺して挨拶してきました。


「ヘラ様でございましたか。今日はどの様な用件で?」


「今度もあなたの助けが必要なの。わたくしとゼウス様が床に入ったら、ゼウス様にはしばらく眠っていて欲しいのよ」


「うえぇっ! そのお願いは勘弁して下さいよ。前回頼まれてゼウス様を眠らせた時に、私がどんな目にあったか……。幸い母に助けて頂き命拾いしましたが、今度と言う今度は……。どうなるか分かりません」


 ヒュプノスがしているのは、かつてヘラクレスが人間だった頃の話し。

 ヒュプノスにゼウス様を眠らせて貰っている間、ヘラクレスの乗る船にちょっぴり風を吹き荒れさせて、困らせてやったなんて事がありまして。事の次第を知ったゼウス様がヒュプノスをお叱りになったのです。

 ヒュプノスは母親で夜の女神ニュクスの所へ逃げ込み、取り持ってもらったおかげで助かったと言う事がありました。


 え? わたくしですか? もちろん怒られてしまいましたわ。ベッドの上で、それはもう激しく。



「そう……そうよね。残念ですわ。せっかくパシテアにあなたの素晴らしさを説いて聞かせて、お嫁にしてもらったらどうかと打診しようかと思ったのですが。こんな意気地無しに、若く美しいパシテアを、なんて勿体ないですわね」


 パシテアの名が出た瞬間、ヒュプノスの青白い顔に朱がさしました。パシテアは先程アフロディテの住まいを訪れた時にもおりましたが、アフロディテに仕えている美と優雅を司る女神達カリスの一人。

 ヒュプノスが宴の際には、いつも彼女に熱い視線を送っていることくらい知っています。それを他のカリスがパシテアのことを冷やかしてからかっておりますが、本人は満更でもなさそうな所を見ると、打診すればすぐに良い返事が返ってくるでしょう。


 わたくしがわざわざ取り持たずとも求婚すればいいものを、ヒュプノスは奥手なので自分からグイグイ行けないことも、もちろん考慮に入れての提案ですわ。上手く釣れそうです。



「そそそその話は誠ですか?! パッ、パシテアを私の嫁に??!」


「ええ、この願いを聞いてもらえれば。ですけれどもね。わたくしにその力と権限がある事はあなたも知っているでしょう?」


「ステュクスに誓って?」


「良いですわ。ステュクスの水にかけて誓いましょう」


「わっ、分かりました! お引き受け致します!!」



 ヒュプノスの言質も取れたことですし、仕上げと参りましょう。

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