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75.悪い癖はなかなか直らないようで

 テティスの要望を聞き入れてからしばらく。ギリシャ軍はアキレスが参戦しなくなったことで、すっかり戦意を喪失してしまった。

 このまま引き上げてしまってはテティスの望みみ叶えてやるどころか、人類滅亡計画自体が失敗に終わってしまう。兎にも角にも、戦意を起こさせなければならない。

 

 考えた末に、アガメムノンに偽りの夢を見せてやる事にした。

 間もなくギリシャ軍が勝利すると。


 目覚めたアガメムノンは神からのお告げがあったとして再び、アキレス率いる軍を除いた全ての軍を挙げて、トロイアへと攻め込んで行った。


 アキレス無きギリシャ軍。いくら戦意にみなぎっているとは言え、劣勢に立たされるだろうと踏んだのだが、意外な者が躍り出てきてしまった。


 トロイアの王子パリス。この男は武勇に秀でた王太子の兄とは真逆の性格で、自分が引き起こした戦にも関わらず、のらりくらりと闘い事から逃げ出している。

 そんな男が何を思ったのか、両軍が一触即発の状態で睨み合う中に一人、歩み出てきた。パリスが敵軍に「誰か勝負しよう」と大声で呼びかけると、妻を奪われた元夫のメネラオスが恨みを果たす時が来たとばかりに名乗りを上げた。


 こうなれば『現・夫』対『元・夫』での一騎打ち。時にはパリスも男らしい振る舞いが出来るものだと見直し始めたところで、メネラオスと退治して怖気付いたパリスは、そそくさと引っ込んでしまった。

 流石の優しい兄もこれには弟を叱責し、とある条件を付けて戦いの舞台へと戻らせた。


 その条件と言うのは、この勝負の勝敗でヘレネが誰のものなのかを決め、ふたつの民族の間に起こった戦争を終わらせること。


 提案を受けたギリシャ軍も承諾し、パリスとメネラオスの戦いが始まった。



 結果は初めから決まっていたも同然。



 腰抜けのパリスをあっという間にメネラオスが追い詰めて、とどめを刺そうとした所で見兼ねたアフロディテが助けに入った。



「パリスは美の女神の手厚い加護のお陰で、間一髪助かった。あと一歩のところでギリシャ勢に軍配が上がったと言うのに、メネラオスも可哀想だね。いくら偉大な女神2人が付いていると言えども、余所見をしていたのでは、加護もさほど意味は無いようだ」


 事の次第を聞いたのだろう。ヘラとアテナが話し込んでいたところを、からかう様な口調で割って入ると、2人から睨み付けられた。


「いくらこの戦いが大事とは言え、他の者たちの祈りを聞かないという訳にはまいりませんわ。英雄の種族を終わらせるとは言っても、今祈りを捧げ、生きている人間を無視して見捨てるなんて可哀想ですもの。どうやらアフロディテはそんな人間達の事など、念頭には無いようですけれどもね」


 ギリシャ軍が再び攻め入り一騎打ちになった際、2人はトロイアではなく別の都市に目を向けていたと言いたいのだろう。

 予想通り、ヘラは口を尖らせている。


「そんなに怒らないでおくれ。君たち2人が多くの人間の声を聞き、心を砕いていることは知っているよ」


 よしよしとヘラの頬を撫でれば、気分が簡単になおってしまわないように、必死に抵抗しているようだ。そっぽを向いてわざと眉を釣り上げているけれど、その目は嬉しさを隠そうと伏せられている。

 僕たちの様子を見ていたアテナが、うんざりとでも言いたげにため息をつきながら言った。


「ヘラ様を怒らせようとするのは、ゼウス様の悪い癖ですね。私まで巻き込まないで頂きたい」


「アテナもそう機嫌を損ねるな。さて、このままいくとメネラオスがヘレネを取り戻して、両軍に平和が訪れるだろう。どうしたらいいと思う?」


 忽然と姿を消したパリスにメネラオスをはじめとしたギリシャ軍は驚いたが、それでもメネラオスがパリスに勝利したも同然の結果だった事には変わりない。

 ギリシャ軍はヘレネを返してもらい、戦争を終わらせればいいと主張しているし、恐らくプリアモス王もその申し出を受け入れるだろう。そうなれば、テティスの望みを叶えられないばかりか、この計画自体、中途半端に終わってしまう。


「もちろんわたくし達はゼウス様を信じておりますわ」


「ずるい言い方だね」


「ゼウス様が意地悪な事を仰るからいけないのですわ」


「分かった。それではアテナよ。これからトロイア軍の誰かに、休戦の誓いを破らせるよう仕向けておいで」


「仰せのままに」


 アテナはクイッと片方の口角だけを上げると、オリュンポス山から地上へと降りていった。


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