表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
67/83

67.作戦は成功したようです

「モウゥゥゥッ!!!」


 わたくしの視界にゼウス様の姿を認めるや否や、四足歩行で一直線に走って向かいます。


「ヘラ、元気そうで何よりだ。いま元に戻してあげよう」


 顔に触れられ愛撫を受けると、たちまち元の姿へと変わります。


「ゼウス様っ!! 」


 ゼウス様の体温、ゼウス様の香り、ゼウス様の声……もう全てが愛おしくてたまりません。

 抱きついたまま顔を見上げてみると、疲れてはいるようですがとりあえず御無事のようです。


「おやおや、僕は大丈夫だからそんなに泣かないでおくれ」


「ふぅっ、うっ、わたくし……心配で心配で」


 泣きじゃくるわたくしをゼウス様がなだめている間に、次々と他の神達もやって来ました。


「ヘラ様元に戻して貰ったんですね」


「ヘラクレス、ヘラの傍を離れず守ってくれていたようだね。礼を言おう」


「いえ、特に危険なことも無く礼には及びません。それよりもヘラ様の『果実でテュポンを騙しちゃおう作戦』は成功だったようで何よりです」


「果実でテュポンを騙す?」


「ヘラ様がモイラ達に、テュポンの前にわざと姿を現すように言ったのです。必ず勝利の果実を欲しがるからと」


 ヘラクレスに頼んでモイラ達を探して出して貰った後わたくしは、三姉妹に提案と言う名の命令を下しました。


『モウゥ、モウモウ、モーーーー、モウ!』


『あ……あの、ヘラ様は何と仰っているのでしょう?』


『今からテュポンの所へ向かいなさい。ヘルメスとパンが必ずゼウス様を救い出し、反転攻勢をするでしょう』


 この頃になるとなんとヘラクレスは、わたくしの牛語を翻訳出来るまでになっていました。驚きです。


『ヘルメス達ならば確かにゼウス様を解放出来るでしょう。ですが、それと私達がテュポンの所へ行くのはどういう関係があるのでしょうか? 加勢をするならば、私達ではなくヘラクレスの方が余程役に立つのでは?』


『モウモウ、モモっ、モーウ』


『テュポンも噂くらいは聞いたことがあるでしょう。貴女達が創り出す勝利の果実の話を。……あぁ、俺も小耳に挟んだ事ありますよ、その果実の噂なら』


『モーモモ、モーウ、モウ』


『テュポンが貴女達を見たら必ず、勝利の果実を欲しいと脅してきます。ですからその時貴女達は果実を渡しなさい。……ってええっ?! そんな果実渡しちゃダメでしょ!!』


『まあ、ヘラ様ったら。お人が悪い』


 うふふふふ、と笑い合う姉妹とわたくしに、訳の分からないヘラクレスは困惑顔をしています。


 勝利の果実。


 そんなもの存在しません。


 モイラ達が創り出せる運命の果実は『無常の果実』一つだけ。


 それを知っているのは、神の中でも極々僅か。

 昔、無常の果実を見たゼウス様がその見た目から冗談で「これでは逆に力がみなぎって、何でも願いが叶ってしまいそうだね」と仰ったのです。

 それ以来モイラ達は面白がって『勝利の果実』と言っているのです。


 勝利の果実が本当に存在するのなら、初めからゼウス様が食べればいい話ですもの。




「簡単に勝とうとするおバカさんならば、きっと食いついて来ると思いましたの。予想は見事に当たったようですわね」


 ふふっと笑いかけるとゼウス様がわたくしを、改めてぎゅううっと抱きしめ直しました。


「ああヘラ、やはり僕の妻は君だけだよ」


「まっ、まぁゼウス様、みんなの前で恥ずかしいですわ」


 降り注ぐ口付けにドギマギしてしまいます。



 その後エトナ山にはテュポンの見張りとして、ヘパイストスの鍛冶場を置くことになりました。

 テュポンが山の重圧に耐えかねて暴れる度に、ドォンッと噴火しておりますわ。

 ガイアお祖母様も静かになった事ですし、一件落着。となるといいのですけれど……ね。





 ギガースとテュポン。


 僕を失脚させるためにガイアが生み出した者たちを全て始末した今、恐れるものは何もない。


 そしてタルタロスに幽閉していたクロノスも、もはや僕の敵にすらならない。

 

「クロノスやティタン達を解放したそうじゃな」


「ガイアお祖母様はそれをお望みでしたでしょう?」


 クロノスには世界の果てにある「至福者の島(エリュシオン)」の管理を任せることにした。

 

 常に暖かなこの島は、穏やかな風と花が咲き乱れる。永遠の責め苦にあうタルタロスとは逆に、生前の行いが良ければこの島で過ごす事を許している。


「妾の完敗じゃ。もう口を挟まぬ。だが……」


 疲れ切り、生気を失った様に陰った顔をしたガイアは、深いため息をついた。


「ひとつ、妾の頼みを聞いて欲しい」


「お聞きしましょう」


「お前とそして他の神々も、多くの英雄を生み出した。その活躍ぶりには毎度驚かされるし愉快なことこの上ない。だがしかし、妾の懐は限界。人間たちが暴れ回り増える度に、重く苦しく、今にもはち切れそうじゃ」


 ガイアの言っていることは嘘ではないだろう。

 文明は目覚しく発達し、人間たちの暮らしぶりが良くなる一方で、大地を傷付け大きな負荷をかけている。


 大地の崩壊は、生き物全ての終わりを意味する。


「善処致しましょう」


「頼んだ」


 ガイアはか細く返事をすると、大地へするりと姿を消した。


「次はどうやって人間を滅ぼうそうかねぇ」


 黄金、銀、青銅……。今いる人間たちをひと言で表すならば『英雄の種族』と言ったところか。


「英雄と呼ばれる彼らに相応しい、華々しい最期をプレゼントしてあげよう」


 まずその為には、必要な種を。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ