61.わたくし、自分が弱いの忘れてましたわ!!!(1)
鼓膜が破れるのではないかと思う程の轟音。ただ立つという行為すら難しく感じられる程の揺れ。
ギガース達が巨大な岩を大地から引き剥がし、こちらに向かって投げ飛ばされてくる度に、吹き飛ばされないよう身をかがめます。
なんて桁違いの巨人なのかしら。
盛り上がる筋肉がボコボコとした岩肌のようで、人と言うよりは山。
雑草の生い茂ったような髪の毛と髭は荒々しく、野獣の様な風貌とは対照的に、黄金色の鎧は陽の光を反射して輝いているのが不格好。目を血走らせて火の付いた樫の大木を振り回す様は、品の欠片も感じられません。
まさに戦うために生まれてきた、とでも言うような者達です。
一帯に充満した土埃の間からは時折、ピカッ、ピカッと激しい光が視界を横切ります。
多くのギガース達がゼウス様の雷霆の餌食になり戦闘不能となっていますが、死んではいないようです。
ガイア様とウラノス様の子なら、不死の身でも不思議ではありません。とにかくギガース達が身動き出来ないほどに、打ちのめしていく他ないでしょう。
「ぎゃああああああああ!!!」
劈くような叫び声の方に目を向けると、ヘパイストスがドロドロに溶けて燃える鉄を釜ごとギガースの一人に投げつけていました。
まあっ! わたくしの息子ったらなんてワイルドなのかしら。杖でこれでもかと殴り飛ばしているディオニュソスよりもよっぽど豪快でカッコイイですわ。
もう1人の息子アレスはと言うと、『水を得た魚』とでも表現すればいいかしら。それはもう、楽しそうに槍を振るっております。
同じく軍神のアテナはどこで戦っているのかしら? 姿が見えません。
わおっ! 運命の三女神モイラ達もやりますわね!!
巨大なギガース相手に棍棒で、3人で寄ってたかってボッコボコ。姉妹の連携プレーが見事です。
姉妹と言えばアポロン&アルテミスの双子はどうしているのかと探してみると、2人とも得意の弓で応戦しています。
みんな頑張っているようですし、わたくしも張り切って参戦しようかしら…………って、あら? わたくし何で戦おうかしら??
槍も剣も、ましてや弓なんて使った事も有りませんわ!!
えーと、えーと……
わたくし、丸腰です。
どどどどどどうしましょう?!
ポセイドンみたいに岩山を持ち上げて投げつけてみようかしら、と近くに落ちてきた岩を持ち上げようとしましたが、ビクともしません。か弱いレディに、そんな力ある訳ないです。
「お前がゼウスの妻、ヘラだな?」
ビクンっと跳ね上がって後ろを振り返ると、ギガースの一人が獲物を見つけた狩人の様に目をギラ付かせてこちらに近付いてきます。
「そそそそうですわっ! 殺す前に、あなたの名前を聞いて差上げてもよろしくてよ?!」
「はっ、はっ、はっ!! 子うさぎのように震え上がっちまって。誰が誰に殺されるだって? ええ?おい」
ゲラゲラ笑う男を睨み付けてやると、「まぁいい」と笑いを納めました。
「俺の名前はポルピュリオン。お前を封じる相手の名前くらいは覚えておくんだな」
「そんな事に、なる訳ありませんわ!!!」
武器が無いのなら素手でフルボッコにしてやりますわ! と先手を取って駆け出し、ポルピュリオンの足にグーパンチをお見舞いしました。
ポスンッ
……ええ、ちゃんと、当たりましたわよ。ちゃんと。ただ、ダメージが入らなかっただけで。
「きゃあああああああ!」
ポルピュリオンとの追いかけっこ。追われるのはもちろん、子うさぎ、ことわたくしです。
振り降ろされる剣の切っ先をかわしながら、あちこちと逃げ回っていますが、どうしましょう?! みんなギガース達とやり合っていますし、最高女神のわたくしが手も足も出ずに助けを求めるなんて、みっともなくて出来ません。
息も絶え絶えに全力疾走。
ピッッ! と言う風を斬る音がしたかと思ったら、背中に鋭い痛みが走りました。
「痛ったぁ!!!」
痛みに気を取られて足元の窪みに気付かず、今度は盛大に転んでしまいました。踏んだり蹴ったりです。
「おぉーーーーう! これはこれは、ヘラ様よ。俺を誘っているのかい」
舌なめずりをして見つめてくるので、はっ、と自分の体を見ると、斬られた時に衣も綺麗に引き裂かれてしまったようです。上半身の衣がベルトで止められている腰までペロンとめくれて、上半身が露になっていました。
「無礼者! わたくしを誰だと思っているのです?! 少しでも触れてご覧なさい! 後悔させてやりますわ!!」
「よく吠える子うさぎだ。いや、子うさぎにしてはいーい身体をしている。背中に傷を付けた後なのが悔やまれるが、まぁいい。ちぃっとばかし可愛がってやろうか」
鼻の穴を膨らませ、手をワキワキさせて近付いてきました。
戦いの最中に欲情するなんて、野蛮! 野蛮過ぎですっっ!!!
露になった胸を隠す為の手は、無理矢理に引き剥がされてウェルカム状態。
そこへヨダレを滴らせたポルピュリオンの口がぬぅーっと近付いてきますけれども、ちょっと、えっ?! ゼウス様以外の男に触れさせた事の無い膨らみの先端に、まさか小汚い口で舐め回そうなんて思っていませんわよね?!?!
「いっ……いゃあ! 何するの!? 変態! スケベ! キモ男! きゃああああ!!!」
ポルピュリオンの吐息を先端部に感じたその瞬間、ぎゅうううっと目を閉じました。
最悪、最悪、最悪っっっ!!!
心の中でいくら悪態を付いても、一向に舌を這う感覚はやってきません。
生暖かい液体の様な何かが身体にかかり、気持ち悪さはマックスです。だってこれもしかして、もしかすると、ポルピュリオンのアレなのでは?
この男、もしかして興奮し過ぎて勝手に達してしまったのでは??
……あれ? でもポルピュリオンはまだ服を脱いでいなかったはず。
それならたとえナニを噴射してきても、わたくしにはかからないですわよね?
そろりそろりと目を開けると、目の前には目を血走らせたポルピュリオン。その顔の下へと視線を移していくと、胸の辺りからは赤い雫がボタボタと垂れ、銀色をした鋭利な金属の先端部が僅かにとび出ています。




