58.ミッションコンプリート!なんてさせません!!(3)
追い払っても追い払っても飛んで逃げ回り森の中へと隠れてしまう鳥達。
脳筋怪力酒乱男も最早これまで。とほくそ笑んでいる所へ、手に何かを持っているアテナがヘラクレスの前へと現れました。
『我が名はアテナ。ヘラクレスよ、そなたに課せられた10の勤めについては知っている。此度の課題にはこのガラガラを使うと良い』
『ガラガラ……ですか?』
『そうだ。寝起きの悪いキュクロプスも、このガラガラを鳴らせば一発で起きるほどの音が鳴る。ここで鳴らせば森中のステュンパロスも、驚いて飛び立つであろう』
ヘラクレスへと差し出された巨大な鐘のような物。それはヘパイストスが朝、なかなか起きないキュクロプスを起こすためのガラガラでした。
ヘパイストスまでヘラクレスの手助けをするなんて!!
『ああ! なるほど、それを撃ち落として行けば良いわけですね!! アテナ様、ありがとうございます』
ヘラクレスが早速ガラガラを打ち鳴らすと、遠くの山々まで届きそうなくらいの大きな音が鳴り響きました。
森に潜む鳥という鳥が空へと飛び立ち、それをヘラクレスが次々と矢で撃ち落として倒していきました。
アテナの助けもあって4つめの勤めも完遂。
わたくしは天界へと帰ると、ヘパイストスの鍛冶場へと足を運びました。
『ヘパイストス! 一体どういう事ですの?!』
『ヘラ様、一体その様に御怒りになってどうなさったのですか』
『どうしたもこうしたもありませんわ! アテナに貴方が作ったガラガラを貸したでしょう? ヘラクレスに貸してやる為だと知ってたのですか?! わたくしのにっくき愛人の子だと知っていて?!』
血走った目でグググーっとヘパイストスに詰め寄ると、オロオロと目を泳がせて弁明しはじめました。
『ですがヘラ様、ステュンパロスの怪鳥には多くの人々が被害に会い困っておりました。私とアテナは人間達を不憫に思ったまでで、ヘラクレスの味方をしよう等とは思っておりません』
『…………その言葉、本当ですわね?』
『もちろんです。ステュンパロスは元々アレスのペットではありませんか。私を責める前にアレスに苦言を呈して下さい』
ステュンパロスは昔、アルテミスが使っていた鳥。アルテミスに仕えていた頃はよく言うことを聞き大人しく従っていたのですが、アレスが面白いからと軍事用に育て始めたところどんどん凶暴になってしまった、と言うわけです。
アレスとソリの合わないアテナとヘパイストスが、今回の事は丁度いいとヘラクレスを手助けした。と言った所なのでしょう。
『うぐっ……そ、そうですわね。アレスにはよく言っておきましょう』
叱りに行ったのに、逆に息子に叱られてしまいました。
しょぼんと肩を落として鍛冶場を後にする事となってしまいました。
皆さまはこの後の5つ目、6つ目の勤めも聞きたいですか?
ヘラクレスの武勇伝でも話しているようで気分が悪くなってきたので、もう課題をお教えするくらいにしておきますわね。
『クレタ島のミノス王所有の牡牛を連れて来る』
『ディオメデス王が飼う人食い馬を連れて来る』
エウリュステウスもネタが尽きてきたのか、怪物退治ばかりで脳がありません。いい加減もっと知恵を絞りなさいと苛立っている所へ、エウリュステウスの娘が良い案を出してきました。
『御父様、私、アマゾンの女王ヒッポリュテが身に付けていると言う美しい腰帯が欲しいわ! ヘラクレスに取ってきてもらってよ。何でも言う事聞いてくれるんでしょ?』
父親が父親なら子も子で、なかなかのわがまま娘。一国の王女が他国の女王の宝を持って来いと命令するなど呆れてしまいますが、今回ばかりは妙案です。
アマゾンと言うのはアレスの子孫で、女だけの戦闘部族。アレスを祖に持つとだけあって、戦争こそが最も尊く神聖な義務であると考えているような者たちです。
エウリュステウスの娘が言う腰帯と言うのは昔、アレスがアマゾンの女戦士達に授けた物で、女戦士達の長の証として受け継がれている代物。
女だからと侮っていると痛い目をみますわ。彼女達は左側の乳房は子育てのために残しておくものの、右側の乳房は戦闘の邪魔になるからと切り取ってしまうような戦闘狂なんですもの。
いくらヘラクレスが強いとは言え、奪い取るのは難しいと考えていたのですが……。
ヒッポリュテも所詮は女。
ヘラクレスの鍛え上げられた逞しい肉体を見るなり、恋に落ちてしまったのです。
子作りに協力してもらうことを条件に、あっさりと腰帯を渡す事を承諾してしまいました。
こんなのって、こんなのって……
許しませーーーーんっっ!!!
この勤めを果たしてしまえばもう7つ目。あと3つしかありませんわ!
これはわたくしも一肌脱いがねば!
と今まさに、作戦を実行しようとアマゾンの女戦士の一人に変身したところですの。
一体何を企んでいるのかですって?
まあ黙って読んでいなさいな。ヘラクレスは今頃、停泊している船の中でヒッポリュテとイチャコラやって油断しているはず。あまーい時間を過ごしてウハウハするのも今のうちです。
あと一刻もすればヘラクレスは針山の如く、矢と槍で滅多刺し。ですわ!
森を抜けてアマゾンの女達の住居が多く集う所へとやって来ました。さあ大きく息を吸って……
「みんなぁぁぁ!! 大変よ! あの異国からやって来た男どもが、女王様を攫おうとしているわ!!」
目一杯の声量で叫んだわたくしの声を聞きつけて、女達が次々と集まってきます。
「ちょっと、それ本当なの?!」
「異国の男ってあのヘラクレスとか言う? 信じられないわ!」
「本当よ! 女王様を自分の船に乗せて出港しようとしているんだから!! さあみんな、早く女王様を救いに行きましょう!」
わたくしの狙い通り武器を手にした女戦士達が次々と馬に跨り、ヘラクレスの船が停泊している港へと駆け出していきました。
あとはアマゾン達に任せて、わたくしは高みの見物と致しましょう。
アマゾンの一人に化けたまま、その辺にいた馬を適当に見繕ってのんびりと港へと向かいます。
ヘラクレスの一行は、今頃船の上でお陀仏かしら?うふふ。
…………???
「え、なんです? 船が……船がいませんわ?!」
港には無惨にも血塗れになり呻く女達が。打ち寄せる波には船から放り出されでもしたのか、女の死体がプカプカといくつか浮かんでいます。
「船は一体どこに?」
わたくしの声を聞きとったのか、半分死にかけの女が遠くの海を指さしました。そちらを見ると小指の先程の大きさになったヘラクレスの船。
もしかして……!?
キョロキョロと当たりを見回すと、血塗れでぐったりとした女を戦士たちが取り囲んで泣いています。どうやら女は既に死んでいるようで、ピクリともしません。
「ヒッポリュテ……まさか腰帯を取られたんですの?!」
「うぅっ……ヒッポリュテ様……。あの異国人がヒッポリュテ様を殺し、腰帯を奪って行ってしまった……! なんと言う屈辱!!」
「そ、そんなぁ……」
ヒッポリュテが罠に嵌めたとでも思ったのかしら。戦士達が攻めてくるや否や、さっさと女王を殺して腰帯を奪ったようです。
ちょっと短気すぎなのではないかしら?!
あぁ……。これで6つめの課題も終わってしまいました。
誰か! 誰かあの男を止めてぇぇぇーーーー!!




