57.ミッションコンプリート!なんてさせません!!(2)
次の3つ目の課題。これは
『エリュマントス山に住む凶暴な猪を生け捕りにしてくること』
と言うものでしたが、これまでの話しでお分かり頂けたでしょう。ヘラクレスはこちらの課題も難なくクリアしてしまいました。
ただ、この課題をこなしている最中に面白い出来事があったので皆さまにもお教えしましょう。
ヘラクレスは猪を捕らえに行く途中、ケンタウロス族のポロスと言う青年と意気投合して宴を開いてもらいました。
ケンタウロス族は以前に、イクシオンとネペレとの間に生まれた子供のケンタウロスが、牝馬と交わって出来た種族ですわ。
イクシオンの悪い所ばかりを引き継いでしまったようでケンタウロス族は、好色+酒好き+粗暴と言う、相手にしたくない男の特徴3点が盛り込まれたような者たちばかり。
でもポロスはこちらのケンタウロス族とは出自が違い、牧羊神パンの息子シレノスとニンフの子供で、なかなかの人格者ですのよ。
それでそのポロスと楽しく食事をしている最中ヘラクレスは、ケンタウロス族が共有する酒を勝手にガブガブ飲み始めたのです。
まあ普通に考えて、自分達のものを同意なく奪われたら怒りますわよね。ええ、怒って当然ですわ。例えそれが乱暴者のケンタウロス族じゃ無かったとしても。
酒を取り返そうとしてきたケンタウロス達を、ヘラクレスは次々と矢で抹殺。
ヘラクレスの持つ矢には2番目の課題だったヒュドラ退治の時に、ヒュドラの毒を塗ってあるのです。ですから少し触ってかすり傷を負ったくらいでも死に至る恐ろしい武器を手にしているのですわ。こう言うのを皆さまの国では『鬼に金棒』って言うのかしら?
ポロスは誤って矢に触れて死に、更にはヘラクレスの武術の師だったケイロンまでもが流れ矢に当たってしまいました。
ケイロンもポロスと同じく、他のケンタウロス族とは出自の異なる男で、わたくしの父クロノスと愛人のニンフから生まれた子供。
賢者と呼ばれ慕われるような者でしたのに……。
不死だったケイロンはヒュドラの毒で死ぬにも死ねず、苦痛に悶えのたうち回り、ついにはゼウス様に不死の身をプロメテウスに譲ると言い出したのです。
あのコーカサス山の頂きに磔にされたプロメテウス、覚えていらっしゃいますか?
彼の刑期は「プロメテウスの代わりに不死である事を放棄する者が現れるまで」と言う条件だったのですが、ケイロンはもちろんこの事を承知していて、ゼウス様に申し出たのです。
プロメテウスは解放されるわ、ケンタウロス族の中でも人格者と名高い2人は死んでしまうわで、猪云々よりもヘラクレスという酒豪の怪力男を何とかした方がいいんじゃないかしら?!
事の次第をずっと見ていたわたくしはゼウス様にヘラクレスを罰するように訴えてみたのですが、全く聞く耳を持っては頂けませんでした。
代わりにゼウス様はポロスをケンタウロス座に、ケイロンは射手座にして天に上げていましたが……
何故あの様な者をのさばらせておくのかしら。いくら自分の息子だからって甘すぎですわ!
難なく猪をゲットしてきたヘラクレスを見たエウリュステウス。とうとうあからさまに嫌がらせする事にしたようです。
4つめの課題を
『エリスのアウゲイアス王の畜舎を一日のうちに一人で清掃すること』
としました。
アウゲイアス王は3000頭を超える家畜を飼っているのですが、なんと一度たりとも掃除した事が無いというとんでもない畜舎なのです。
考えただけでも目眩のしそうな汚れ仕事。
ヘラクレスの馬鹿力を持ってしても、流石にこれはわたくしも無理だと思いましたわ。
それなのに……あの脳筋男、今回はちょっぴり頭を働かせたようです。
なんと畜舎近くの川の流れを変えて、強引に水で洗い流してしまったのです!
あー、きれいさっぱり!
な訳ありません!!
川の流れを変えられて下流に住む者達は大惨事。いくら課題をクリアする為とはいえ後先考え無さすぎです。やはり生粋の脳筋!!
頭にきたのでわたくし、エウリュステウスにこっそりと教えてあげましたの。
「ヘラクレスはアウゲイアス王に『家畜の10分の1を報酬として頂けるならば、一日で畜舎を綺麗に掃除してあげましょう』と申し出たそうですわ。褒美をねだるなんて、如何なものかしら?」
とね。そうしたら物分りがよく狡猾なエウリュステウスは報酬を求めた事を理由に10の勤めにはカウントしない、と言うことにしましたの。
これでヘラクレスがこなした勤めはたったの3つ、と言う事ですわね。
再度出された4つめの課題。こちらは
『アルカディアのステュンパロス湖の森に住む鳥を退治すること』
ここに住む鳥の中には青銅の翼と爪、そして嘴を持っているという凶暴な怪鳥がいるのです。
湖の近くに住む人間たちはこのステュンパロスの鳥に苦しめられており、退治してくるように命令した訳ですわ。
鳥退治なんて、これもまた難なく倒しちゃうんでしょ? とかお思いになるでしょう。
ですが鳥と入っても一羽ではありません。これまでの怪物退治とひと味違う所は、森にいる無数の鳥達を退治しなければならないのです。
これにはヘラクレスも弱り果てたようで、森の中で途方に暮れておりました。空を見上げてしょんぼりとしているあの男の姿、皆さまにも見せて差し上げたかったですわ。




