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51.わたくしも企んでみますわね!(1)

 今日は神々が集まる会議のある日。

 お酒を酌み交わしながらみんなと話しているところに、後ろから背中をチョンチョンとつつかれました。


「ヘラ様、少し宜しいでしょうか?」


 エイレイテュイアが意味深な目配せをして来たので、一度席を外して部屋の外へと出ました。


「どうしたのです?」


「アルクメネに陣痛が始まりました」


「ゼウス様には?」


「先程お教えしましたのでご存知です」


「そう。分かりましたわ」


 ゼウス様の浮気相手。それを調べるため先日エイレイテュイアに、もうすぐ出産を控えている、飛び切り美しく身分の高い女性は誰かいるか聞いたのです。これまでの経験から言って、ゼウス様の御相手は誰もが認めるような美女ばかりでしたし、相手が人間ならば身分の高い女。


 そこから導き出された女と言うのがアルクメネ。


 彼女はミュケナイ王エレクトリュオンとアナクソーの娘です。エレクトリュオンはペルセウスの息子、アナクソーはペルセウスとアンドロメダの息子の娘。


 アルクメネはアムピトリュオンと言う夫がいて、こちらの男はペルセウスの息子の子供でアナクソーとは兄弟です。


 ごちゃごちゃと言いましたが、つまりはアルクメネもその夫もペルセウスの子孫という事。


 まだこんな所でゼウス様の浮気相手ダナエが尾を引いているとは……!なんて腹立たしいのかしら!!


  今回の浮気相手はアルクメネと言う目星は立ったものの、確実な証拠はありません。流石に「かもしれない」で罰を下したりなどしませんわ。


 どうやったら浮気相手がアルクメネであると聞き出せるか。

 そんな事を考えてる時にゼウス様がエイレイテュイアに「アルクメネが産気づいたら教えるように」と指示されたそうなのです。

 こんな指示を出したと言うことはほぼ間違いなく、アルクメネが黒という事で良いでしょう。エイレイテュイアはお産を司る神ですからね。


 早速アルクメネに何かしらしてやろうと思っていたのですが、今日はあいにく神々の集まりの日。欠席する訳にはいかないので参加していたのですが、邪魔をする前にアルクメネが産気づいてしまったようです。


「これから打てる手は無いかしら……」


 必死に思考を巡らせてから部屋へと戻り、ゼウス様の元へと向かいます。

 給仕をしていたへべからネクタルを受け取り、ゼウス様の杯へと注ぎます。


「ゼウス様、テーバイのアムピトリュオンとアルクメネをご存知でしょうか。あの夫婦の子が今にも産まれそうだと、先程エイレイテュイアに聞きました」


 アルクメネの名前が出るとゼウス様の杯を持つ手が極わずかに、ピクリと動きました。


「ああ、そうらしいね。何故君があの夫婦の出産を気にしているんだい?」


「わたくし、アルクメネの夫への愛に感心しましたの。夫が遠征中には固く貞操を守り、男と2人きりで同室することすら許さなかったそうですわ。これぞ妻の鏡でしょう」


 アルクメネの父がミュケナイの王だと言う事は先程お話した通り。なぜミュケナイの姫であるアルクメネが北東の地テーバイにいるのかと言えば、領土を巡る争いで一番下の子を除いた兄弟全てを殺され、さらに父親も事故で死んでしまったのです。


 テーバイに逃れたアルクメネはアムピトリュオンに、兄弟の仇を打つことを条件に結婚の承諾をしました。それでアムピトリュオンは遠征に出ていたのですわ。


 彼女はアムピトリュオンが敵討ちを果たすまで、指1本触れさせなかったと言うのですから大したものです。


 それでは何故、ゼウス様に体を許したのか。


 変身が得意なゼウス様の事ですから、何かしらに化けてアルクメネを物にしたのでしょう。

 そう。例えば、アルクメネの夫アムピトリュオンに、とかね。



「そんなアルクメネが子供を産むんですもの。何か祝福をしてやりたいと思っているのですが、ゼウス様、一つお願いを聞いて頂けないでしょうか」


「何だい?」


「あの夫婦はゼウス様の血を引くペルセウスの子孫。もちろんこれから産まれてくる子供もゼウス様の子孫に当たりますわ」


「そうだね」


「ですからその子供こそ、ミュケナイの王になるのに相応しいと思いましたの。アルクメネも自分の子供が故郷の王となれば、これ以上にない誉れでしょう? わたくしのお願いと言うのは今この場でみんなに、今日最初に生まれるペルセウスの末裔をミュケナイの王になると誓って欲しいのです」


「君はペルセウスやその母親の事はもう許したのかい?」


「正直なところ完全に、とは言いません。ですがもう随分と前の事ですもの。それよりもアルクメネを祝福してあげたいですわ」


 恨んでなんか無い。ここで言ってしまうと、わたくしの性格をよく知るゼウス様に怪しまれてしまいます。本音を混ぜつつ、でも確実に作戦を遂行しなければ。


「そう、分かった。君の言う通りによう」


 少しだけ考える様な仕草の後そう言うとゼウス様は立ち上がり、パンパンと手を叩いてみんなの注目を集めました。


「皆んな、よく聞いてくれ。テーバイに追われたアルクメネと、その兄弟の仇を打ち、見事ミュケナイの姫アルクメネと結ばれたアムピトリュオンについては知っているね? 僕は今ここに、『今日最初に産まれてくるペルセウスの末裔がミュケナイの王になる』と宣誓する」


 ゼウス様の宣言に、集まっていた神々からいっせいに拍手が沸き起こりました。

 「ゼウス様、ありがとうございます」と御礼を言い、祝福の声で溢れかえる部屋からエイレイテュイアを連れて、再び外やって来ました。


「エイレイテュイア、アルクメネの出産を少しだけ引き延ばしなさい」


「え゛っ?!」


 いかにも「またですか?」とでも言いたそうな顔をしました。


「レトの時のようにずっとなんて言いません。ほんの少しです。その間にステネロスとニキッペの子供を先に産ませるのです」



 ステネロスはペルセウスの息子。みなさんならもう分かりますわよね?わたくしが何をしようとしているのか。

 そう、ステネロスはペルセウスの末裔です。ですからステネロス夫妻の子が先に産まれてくれば、ミュケナイの王はアルクメネの子ではなくなるのです!!!

 

 このままわたくしが何もしなかったら、きっとアルクメネは自分の子供を故郷の王にしようとしたはず。愛人の子供が偉大な王となり活躍する様なんて見たくありませんもの。


 みみっちい嫌がらせですって? なんと言われても構いませんわ。


「ニキッペはまだ妊娠7ヶ月ですよ?」


「いいから言う通りになさい! 早く生まれてきても無事に育つよう、わたくしがきちんと守りますわ」


 まごまごとしているエイレイテュイアに、ずずずっと壁際まで詰め寄ります。


「夫の浮気に泣かされるわたくしの辛さ。娘のあなたならば分かりますわよね?」


「わ、分かりました。行って参ります」


 決心したエイレイテュイアは一礼すると、直ぐに下界へと降りていきました。



 ふふ、これで上手くいくはず。


 ゼウス様、浮気はいけない事だってもう少し自覚して下さいませ。


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