31. 結婚祝いのプレゼント(1)
カドメイアと名付けられたこの地で、今日の主役、カドモスとハルモニアの結婚式が行われています。
参列者には天界に住む神々の他にもポセイドンと妻のアムピトリテ、この辺りを住処としているニンフ達と賑やかです。
この結婚式がなされるまでには一悶着あったので、やっと事が落ち着くかと思うとホッとします。
何かと言うとこのカドモスと言う男、旅の途中でアポロンから神託をもらい「最初に出会った雌牛の後をついて行き、その牛が寝そべった所に街をつくれ」と言うものだったそう。
神託の通り牛について行った先が、この場所と言う訳ですわ。
そこでカドモスは謝儀の為に一緒に連れ立っていた配下の者に水を汲みに行かせたところ、その泉はアレスのお気に入り。アレスは大蛇に泉の番をさせていた様なのですが、カドモスの配下を殺してしまったのです。
いつまでたっても帰ってこない配下を心配してカドモスが泉へと行くと、そこには大蛇と死体が。仇討ちの為カドモスは大蛇を倒すと、今度はここへアテナが姿を現したのです。
『その蛇の歯を地にばら撒くといい。そうすればお前は忠実で勇敢な民を得られるだろう』
カドモスは言われた通りに大蛇の歯を地に撒くと、そこからモコモコと人間が姿を現したのです。
こうしてカドモスは街と民とを得たのですが……。
天界では大騒ぎでしたわ。
『アテナ!! お前、俺の大事な蛇に何してくれんだ?! 死体から歯を抜き取った挙句ばら撒けとか訳わかんねぇ事言いやがって』
『ああ、あれはアレス、其方の蛇だったのか。悪かったな。人の素になる種が必要だったのだ。許せ』
『許せだと? ぜってー確信犯だろ』
『何を言う。そもそもあの者達は、ゼウス様に感謝を伝える儀式を行う為に水を汲みに行ったのだ。それを食い殺す蛇など死んで当然。馬鹿なペットを飼うお前の気が知れない。ペットが馬鹿ならその主人も馬鹿だな』
『何だとーーーーーっ!!! 』
互いに槍を交えて乱闘騒ぎ。
この2人、相性が悪く普段から仲があまりよろしくないのです。
そこへゼウス様が仲裁に入って、大蛇を殺したカドモスはアレスの奴隷として8年間過ごす事になりました。
8年の時を経て無事に奴隷の身から開放されたカドモスは、和解の印としてアレスの娘のハルモニアが与えられたのです。
一件落着。
苦労したカドモスを祝福してやらねばなりませんね。
新郎新婦は参列者から次々とプレゼントを受け取り一段落すると、わたくしの所へも改めて挨拶をしにやって来ました。
「ヘラ様、今日はお越しいただきありがとうございます。結婚を司る女神様に参列していただけるとは、望外の喜びに存じます」
「ハルモニアの幸せそうな顔を見れて何よりですわ。わたくしからもプレゼントを用意しようと思ったのだけれど、いい物がなかなか思い付かなくて。宝石や織物は在り来りで他のみんなもあげているでしょう? 折角ですからあなた達の望む物を何でも差し上げましょう。式が終わるまでに考えておいてちょうだい」
「これはまた……! それではお言葉に甘えて、考えておきます」
「ところでカドモス、あなたは旅の途中で神託を受けたと聞きましたが、そもそもの旅の目的は成就したのですか?」
旅をしていたと言うことは、何か目的か行き先があったはず。ここで街を作る事になって良かったのでしょうか。王となってしまえばそう簡単に、フラフラと出掛けることは出来なくなってしまうでしょう。
「いえ、それはまだ……。実は私、連れ去られた妹を探しに旅へ出ていたのです。父から妹のエウロペを見つけるまでは帰ってくるなと言われて、母を連れて旅をしていたのですが、母が途中で亡くなりまして。そこでデルポイへ神託を授かりに赴いたのです」
「まあ! 妹が連れ去られたとは一体誰がそのような事を」
「分かりません。ただ侍女達の話だと、エウロペが大人しいからと牛の背に乗った途端、その牛が猛スピードで走り出し、あっという間に連れ去られてしまったのだと。追いかけようにも牛は海を泳いで行ってしまったのでどうにも出来なかったそうです」
随分と変わった牛も居るものです。人間を背中に乗せてわざわざ海を泳ぐなど…………
一瞬、嫌な予感がしましたが頭を振って飛ばします。
「そうでしたのね。もしその牛をわたくしが見つける事でもあれば、きちんと罰しておきましょう」
その後しばらくカドモス達と話をし、喉が乾いて飲み物を取りに行くと、アムピトリテがやって来ました。
「ヘラ様の今日のお召し物、すごく素敵な刺繍だわ。もしかしてゼウス様とお揃いにしてあるのかしら?」
「あら、気付きましたか? アテナに頼んで刺繍を施して貰いましたの。見事でしょう。そうだ、カシオペアの話聞きましたわ。とんでもない勘違い女でしたわね。人間と言うのはすぐに付け上がるのだから、ほんとに」




