32. 結婚祝いのプレゼント(2)
カシオペアと言うのはエチオピア王の妃。二人の間にはアンドロメダと言う娘が居るのですが、母親が「私と娘の美しさには、あのネレイスにだって敵わないでしょうよ」とふざけた事を言い出しましたの。
ネレイスと言うのは昔、テティスをご紹介する時に話しましたけどネレウスとドリスの100人姉妹の女神達の事を指します。この姉妹はどの者も大変美人な事で有名。
そしていま話しているアムピトリテはネレイスの一人ですのよ。
つまりアンドロメダと言う妃は、アムピトリテやテティスを初めとした海の女神達よりも美しいと豪語したという事。
そのアンドロメダと娘がとやらが如何程のものかチラリと天界から覗いて見ましたけど、足元にも及ばない。とはまさにこの事。
あの程度の美女、何処にだっておりますわ。
それでアンドロメダの言葉を聞いたネレイスがポセイドンに訴えて、罰としてエチオピアの海岸にケートスと言う巨大な怪物を差し向けました。
いくら美女に目がないポセイドンと言えども、自分の妃や自身に使える女神達を侮辱されては怒りますわよね。ちょっぴり見直しましたわ。
そうしてケートスは大津波を引き起こし、家や人、田畑を荒らしまくったのです。突然の怪物の出現に、エチオピアの王は神託を求めに行き、自身の妻が馬鹿なことを言ったばかりに起こったことなのだと知ったのです。
エチオピアの王は神託の通りに娘アンドロメダをケートスの生け贄として捧げようと、海から顔を出している小さな岩にアンドロメダを鎖で繋ぎました。
さあ後はケートスに食べられてはい、終わり。
かと思いきやここでペガソスと言う有翼の白馬に乗ったペルセウスと言う男が、ケートスに食べられそうになっていたアンドロメダを救い出したのです。
「ペルセウスとか言う男が邪魔に入ったのでしょう? 半神半人のようですが、一体誰の子なのかしら」
「え゛っ?! えーと……ええ、誰の子かしらね。ほほほほ。でもその事ならもう良いのよ。痛い目を見て反省したようですから」
「そう? あなたがそう言うなら良いですけど」
「よう、ヘラの姉貴。何の話をしてるんだ?」
ほんのりと頬をピンク色に染めて、酔っ払っている様子のポセイドンがフラフラとやってきました。
「ペルセウスがケートスを殺して、アンドロメダを助け出したって聞きましたわ。ペルセウスごと罰を与えてしまえば良かったじゃない」
妻のプライドが傷付けられたのですから、夫としてポセイドンにはもっとやり込んで貰いたいものです。脳筋男のくせして、肝心なところで不甲斐ない。
「あーぁ、その話か。まあなぁ、メデューサがあの姿のまま生き長らえるのは可哀想だとは思っていたからな。ペルセウスが倒してくれて良かったとは思っている」
ペルセウスが倒した女怪、メデューサ。
この女性、髪の毛は無数の毒蛇、イノシシのような牙に青銅の腕、そして宝石の様な美しい瞳を見れば石化してしまうという、大変恐ろしい見た目と能力をしておりました。
彼女は生まれた時からこの様な姿だったのではなく、元々は大変美しい女性だったそう。
それなら何故、醜い怪物になったのかと言えば半分は今、目の前にいるポセイドンのせい。
ポセイドンはメデューサを愛人にしていて、なんと、アテナを祀る神殿で事に及んだと言うのです。全くもってハレンチ極まりない。野獣のような男です。
これにはアテナも怒り心頭。彼女はアルテミスと同じく大変に貞潔を重んじる処女神ですから、2人の行為は特に許せなかったのでしょう。
とは言えポセイドンはゼウス様に次ぐ実力の持ち主。さすがのアテナもポセイドンに仕返しなんて出来ません。
そこでメデューサ自慢の美しい波打つ髪の毛を毒蛇に変えて怪物にしてしまったのです。
ついでに申し上げておきますと、メデューサが死んだ時に血の中から生まれてきたペガソスはメポセイドンとの子供。怪物に変えられてしまった時に、母親の血の中で固まっていたようですわ。
「あらあなた、メデューサを可哀想だなんて思ってらしたのね」
呆れ顔のアムピトリテが、ため息混じりにポセイドンを見て呟きます。
「まっ、まあなぁ。それにほら、ペルセウスはゼウスの子だろう。寛大な俺は見逃してやったのさ」
「あ、あなた、ちょっと……」
「まあ、ポセイドン。今わたくしの夫の名前が聞こえたような気がしますわ。詳しく教えてくれないかしら。だって夫の事はきちんと知っておくべきしょう?」
うふふ、と持っていたお酒入りの杯をポセイドンに渡して勧めると、一気に飲み干して「いいぞ。姉貴もゼウスの事好きだなぁ」と話し始めました。
「ペルセウスはダナエって言うアルゴスの王女の子さ。なんでも王が『娘の産む子に殺される』って言う神託を受けてたらしい。んでゼウスの子を身篭ったダナエは、父親に箱詰めにされて海にドボン。一部始終を見ていた海のニンフ達が島まで運んでやったらしい。俺は海で起こった事なら何でも知ってるぞ! 噂好きのニンフがベラベラとよく喋るからな、わっはっはっは」
「ベラベラとよく喋るのはどこの誰ですか?!ヘラ様、おめでたい席ですし落ち着いて……」
と言うアムピトリテの言葉を遮り、更にポセイドンの杯にトクトクとお酒を注いでやります。
先程一瞬、嫌な予感がしたあの牛の事について聞いてみることにしました。
「流石、ポセイドンは海の王ですものね。それならもしかして、若い娘を背中に乗せて海を泳ぐ、奇特な牛の話なんて知らないかしら?」
「おおっ、それか! ありゃあ傑作だったな。ゼウスが白い牡牛に化けてどっかのお姫さんを攫って行った所に出くわしたぞ。そしたら俺に、疲れたから海流で島まで運べとか言ってきてなぁ。しゃーないからクレタ島まで運んでやったよ。にしてもヘラも随分と寛容になったじゃないか。昔はゼウスの浮気にあんなに怒っていたのに。うちのアムピトリテのように慎ましやかに、夫の不貞の一つや二つ許してやるのが……………って、おい、何だ? みんな黙りこくって」
気まずそうな顔で皆がそれぞれにどこか遠い場所を見つめ、ヘルメスだけがゲラゲラと笑っております。
さあ、大きく息を吸って……
さん、にー、いち
「ゼウスさまあぁぁーーーーーーーっっっ!!!!!」
ブクマや評価☆などのアクションありがとうございます(ᐡᴗ ̫ ᴗᐡ) すっごく嬉しくて、更新の糧になります!




