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25. プロメテウスとゼウスの企み(2)

 プロメテウスに「いけ好かない奴」だと思われている事は分かっていた。

 クロノス陣営につかなかったのは単純に、僕に軍配が上がると見越していたから。そこはさすが、先見の明があると言っていい。



 プロメテウスのお陰で結果的に人間は、地上に縛られ朽ちていく運命で、神の慈悲を乞い生きて行かなければならないのだと認識させる事が出来るようになった。


 さらにプロメテウスへの罰として、デメテルが出してきた案も良かった。

 何もせずとも与えられていては、そこにあるのが当たり前で感謝の気持ちは湧いてこない。大地の恵に制限をかる事で神の力がいかに偉大なのかを知らしめることが出来る。


「火を取り上げる。ヘラがこの案を出してきた時には見事だと思ったよ。僕が懸念していた点を払拭出来るとね。残虐で愚かさを増していく人間達を止めるのにいい手段だった」


 火を使えなくすれば文明や技術の進歩は遅くなってしまうが、その分他の生き物に怯え、人の敵は人ではなくなる。その日やるべき事に精一杯で争いは落ち着くのではないかと。


「君は人間達に再び火を与え、良い事をしてやったとでも悦に入っていたんだろう。それがどうだい? 結果として人間達は武器を作り、より争いはじめた」


「それなら何故、人間の女と災いの元を人間に差し向けたんだ。争わせたくないのなら、災いから遠ざけてやれば良かっただろう?!」


「前から人間に女を作ろうとは思っていたんだ。人間にだけ女がいないのはおかしいだろう? 皆は女が男の災いの元になるのだと思っていたみたいだけれど、それは逆だよ。僕は夫婦の愛が素晴らしい事を知っている。ヘラにそれを教えて貰ったからね。だから人間にも分けてあげようと思っていたのさ。僕としてはご褒美のつもりで渡そうしていたのだけど、女嫌いの君なら嫌がらせになるかと思ってね。そしてその言い方だと、僕の予想は的中していた訳だ」


 くつくつと笑うと、プロメテウスはますます苛立った様子で睨みつけてきた。


「……それなら災いの入ったあの箱はなんだ?」


「あれはね、人間が神により畏怖の心を持つようにしようと思ったのさ。常に災いに襲われるのではないかと怯えれば、神に縋りたいと思うだろう? 恐怖で支配しようとしていたんだ。けれどもそれは間違いだったとヘラに気付かされたよ」


 思いがけず火を盗まれ、自分の思惑とは違う方向へ事が進みそうになった事で、流石に頭に血が上り冷静さを欠いていた。

 ヘラが希望の女神エルピスを、こっそりと箱の中に忍び込ませている事に気づき問いただしてみれば、間違っていたのはむしろ自分の方だったと気が付いたのだ。


「僕が欲しいのは真の崇拝。恐怖心から頭を下げさせた所で、それは敬うとは言えないだろう? だからヘラの提案に乗りエルピスを入れて、ムチだけでなくアメもあげることにしたんだよ。結果は君も知っての通り」


 人間の愚行は続いたが、一方で欲しかったものは手に入れた。


 アメの効果は絶大だった。あの箱の件以降、パンドラは信心深く敬虔な人間になり、自分の子供にも熱心に説いて聞かせ、娘と息子もまた純真で敬虔な人間に育った。


「僕の妻は美しく、実に聡明だろう? 」


「そしてお前は手本となるような人間を生かし、あの2人の手から新たな人間を創ったと言う訳か」


「そう、今回はゼロじゃなくイチから始めてみたんだ。奇しくもそれが君の子供だったのだけどね。君はここから、人間達の活躍を見物しているといいよ。下界を見渡せるいい眺めだ」


「一体何を企んでいる」


 プロメテウスに近づき頬にかかった髪の毛をかき分けてやると、その耳元に話しかける。


「企むだなんて酷い言い方だね。活躍する、そのままの意味さ。君も自分の子供が生み出す手伝いをした人間達が、目覚しい功績をあげる姿を見てみたいだろ?」


「……腹の底の見えん奴だ」


「さてと、お喋りはこの辺にして僕はそろそろ帰らないと。やる事は沢山あるからね」

 

 ピュウっと空に向かって指笛を吹くと、山々の向こう側から巨大な鷲が、その呼び掛けに応えてやって来た。


「見物料って必要だろ? 肝臓は栄養豊富でこの子の好物なんだ。分けてあげなよ」


「なにを……っ?! うわあああああああああああっっ!!!」


 鷲はプロメテウスのすぐ近くの岩に舞い降りると、その腹を嘴で啄みはじめた。


「彼は不老不死だから、いくら肝臓を食い荒らしても明日の朝には元通り。よかったねぇ、毎日君の好物が食べられるよ」


 何度も欺こうとしてきた罰としてタルタロスへ落としてしまおうかとも思ったが、結果としてはそう悪くは無かったので、この男にも地上の様子を見せてやる事にした。


「刑期は……そうだね。君の代わりに不老不死である事を放棄する者が現れるまで。にしておこう」


 男の絶叫する声が山々に響き渡りこだまするのを後に、雲に姿を変えて地上に暮らす人間達を見て回る。


「さて先ずは、どの女から手を付けようか」


 ヘラ以外の女など、子を産んでもらう道具と手段に過ぎない。気持ちなど無くても出来るものは出来る。


「ふふっ、ヘラがどんな顔をするのか楽しみだね」

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