24. プロメテウスとゼウスの企み(1)
人類一掃計画。
大洪水によって地上を一度白紙近くにまで戻し、生き残らせたデウカリオンとピュラ夫婦によって新たな人類が生まれた。
徐々に人の数が増え小さな街を作り、活気を取り戻しつつある下界を眼下にしてコーカサス山脈の頂にその神はいる。
「やあ、気分はどうだい? プロメテウス」
声を掛けられた男は、ヘパイストスが作った決して壊すことの出来ない鎖で山頂に磔にされたまま、コチラをギロリと睨んだ。
「色々考えたんだけどね、君にはもう少し大人しくしていて欲しくてさ」
「…………ゼウスよ、何故貴方はそんなにも人間を憎むのだ。何故苦難の道を歩ませようとする。そんなにも人間が、我々神の近くにいるの怖いか?」
「ははっ、怖いかって? ……そうだねぇ、君は少し誤解しているようだ」
「誤解だと?」
「逆だよ。愛しているからこそ、こんなにも人間に手を尽くしてあげてるんじゃないか」
ニコリと笑って見せれば、プロメテウスの癇に障ったようで歯をギリギリと鳴らしている。
「クロノスと私が作った黄金の種族はあんなにも穏やかに暮らしていた。それなのに……!!」
「うーん、どこから話そうか……まず君が大きく見誤っている点から正しておこう。皆、僕が黄金の種族を劣化させ、白銀の種族にしたのだと思っているようだけどそれは違う。僕は人間に、この時点では何もしていない。さあ、それでは賢い君に問おう。犯人は誰かな?」
訝しげな顔をしているプロメテウスに顔を近づけて答えを促すと、何かに気がついたようでハッと目を見開いた。
「まさか……っ!」
「ふふっ、分かったようだね。そうだよ、君が作った泥人形に命を吹き込んだクロノス本人さ」
父親のクロノスと王座をかけて争っていた時、自分の敗北を悟ったあの男は、最後に悪足掻きをした。人間に自分の怨みをのせ、晴らすこととしたのだ。
死ぬまで若いままの姿で過ごせた体は異常に成長を遅らせ、百年かけて大人になったかと思えばあっという間に成年期は過ぎ死んでいく。
そして自分が生み出した人間に、王座を奪っていった息子を敬い、拝ませるのは癪に障るとおもったのだろう。敬虔さを損なわせ、神々を祀り崇めさせないようにした。
「なぜそれを黙ったままでいた。今でも皆がお前の仕業だと思っている」
「誰がやったか、そんな瑣末な事はどうでもいい。人間を作り直してしまえば済むことだからね。それで改めて新たな種族を誕生させようと思ったわけだけど、ここで僕は考えた。人間に苦労させられている僕を、タルタロスで幽閉されているクロノスは嘲笑っている。あの男の苦々しい顔を見てみたいとね。クロノスのように初めから自分達神を敬うようプログラムするのでは無く、人間達自身が敬虔さを手に入れたらあの男はどう思う?」
「損なわれた敬虔さについては敢えてそのままにしておいた。という訳か」
誰かを敬う気持ちを初めから植え付けたのでは心からの崇拝にはならない。
「そう。僕が欲しいのは真の崇拝。そして秩序だ。君だって分かっているだろ? 秩序を維持する事は頂点に立った僕の務めだ」
世界のはじめ、まず存在していたのはカオス。あらゆるものが入り交じり区別がない世界。常にカオスはそこに居て、今もこの世界を飲み込もうとしている。だからこそ整然とした世界、秩序を保つ事が必要なのだ。
まず手始めに、他の生き物と比べて歪だった人間の一生を、他の動物達と同じ過程を辿るようにした。成人期を長くし、徐々に衰え死が迫ってくる事を実感しながら死んでいく。
他の動物に比べてよく考えるこのと出来る人間は、その分心がか弱い。そこで代わりに、これまでいた種族よりもずっと強い筋力を与えることにした。
「ただ、時期が悪かった。ニュクスが次々と単身で子供を産み、続いてエリスまでもが多くの子供を産んで地上に影響を与え始めたからね」
カオスが産んだ夜の女神ニュクスとその子エリスが生み出した神々は、人間達を悪い方へと動かした。
与えた剛力は他の生き物から自分達の身を守りより良く生きる為ではなく、互いに争う為に使われてしまった。敬虔さを与えなかった為に、互いに互いを傷つけあう事を厭わなかったのだ。
「もしかして運命を分けたあの出来事は、貴方にとって都合が良かったというわけか」
「そういう事。やっと気が付いた? 」
秩序立った世界を確立するためには、神と人との違いを明確にしなければならない。有耶無耶なままではカオスにあっという間に呑まれてしまう。
かつ、人間が神に畏怖の念を抱き敬うようにしたい。
そんな事を考えていた時にプロメテウスが運命を分ける役を買って出てきた。2つ目の目的を知らないまま。
「肉の取り分で運命を分けるというのはなかなか良い案だったよ。君としては僕を欺き、ひと泡吹かせたつもりだったんだろうけどさ」




