19.女は災いのもと?(2)
今年最後の投稿です。
新年からどんどん投稿していきますので、よろしくお願いします( •̀ω•́ )✧
「いい具合に出来上がったね。それじゃあ皆、この女性にそれぞれ、女に必要だと思う物を与えてやってくれ」
ゼウス様の言葉に真っ先に答えたのはアフロディテ。女に向かって手を伸ばすと、何かを振りかけるように手を振りました。
「私からはもちろん、男を虜にする魅力をたっぷりとあげるわ」
「それでは私からは機織りの技術を授けよう」
アフロディテの次に進み出てきたアテナは、戦いの他にも芸術や技術を司る神でもあります。特に機織りの技術で言えば右に出るものはいません。
「いいね。それなら俺は歌声をこの女性に」
音楽を司るアポロンは唇に指を当て、その才能を授けます。
「 それならわたくしは……」
わたくしはこの女に何をあげましょう?
女に必要なもの。
それは決まっています。夫を愛する心です。
だってわたくし、結婚の神ですもの。
ゼウス様の浮気に怒るわたくしを、他の女神たちは「男などそんなもの」「気にするな」と宥めてきました。
でもわたくしはそれでいいとは思いません。
愛する方に無関心なことの方がおかしいではありませんか。
夫を想うこの気持ち。その感情を最もよく表現できるのは……
「わたくしからは『嫉妬』の心をあげましょう」
「嫉妬。なかなかいいね」
わたくしが女に嫉妬心を授け終わったところで、使いから帰ってきたヘルメスが駆け寄って来ました。
「わー!ちょっと待って!! ボクもこの子にプレゼントあげたい!!」
「いいよ、君は何をあげる?」
「ボクからはねぇ、厚かましくてずる賢いって才能かなー」
「まあ、なんですの、それ?」
「ヘルメスは自分の事、よく分かっているじゃないか」
ヘルメスと仲の良いアポロンが呆れ顔で笑っております。
「随分と魅力的な女性に仕上がってきたね。それでは最後に、僕からは『好奇心』をあげよう。さあ、目覚めてごらん。人間最初の女よ」
トンっとゼウス様が女を指先でつつくと、がらんどうだった瞳に光が宿り、パチリ、と瞬きをしました。
「さて、女神達よ。この女性の身支度をしてやってくれ。花嫁に相応しいようにね」
ここへ集まってきていた女神たちがこの女の魅力を最大限に引き出すよう、さらに飾り立ててやります。その間に、この女性に持たせるプレゼントを用意するためにゼウス様の後について別の部屋へと行きました。
その部屋にいたのはヘルメスが連れてきた神達。
「あらぁ、ゼウス様。お久しぶりね。それからヘラ様も」
美しい声にも関わらず、ゾクリと背筋に悪寒が走りました。
長く黒い髪の毛は血で赤黒く染った紐で結ばれ、黒い衣の上には血と埃に塗れた鎧。ぷうんと血なまぐさい香りが鼻につきます。
不和と争いの女神エリス。そしてその後ろに居るのはエリスの兄弟とエリスが生んだ神達。
「エリス、そしてその兄弟と子らよ。良く来たね」
「あたくし達を天界に呼ぶなんて珍しいじゃなぁい? てっきり清らかで神聖な場が穢れるから、あたくし達を呼ぶのは嫌なんだと思っていたわ」
「実は折り入って君達に頼みがあって呼んだんだよ」
「ふぅん、何かしら? 強くて賢い、極上のいい男の頼みなら聞いてやらない事もないわ」
エリスはゼウス様でも一目置くほどの女神。言い方が気に入りませんが我慢です。
わたくしの使いから既に帰ってきていたイリスが、部屋の奥から蓋のついたひとつの箱を持ってやって来ました。
ゼウス様は持ってきた箱を見ると、少しだけ眉をひそめて怪訝そうな顔をしました。
――バレたのかしら……
すぐに元の表情に戻ると、エリス達へと話しかけます。
「この箱の中へ入って欲しい」
「何ですって? あたくし達が冥界から出るのを嫌がっていたと思ったら今度は箱の中に閉じ込めようっての?」
「冗談じゃない」と鼻を鳴らして不機嫌そうにそっぽを向いてしまいました。
「まさか、そんなんじゃないよ」
ゼウス様は苛立っているエリスの頬に手を当て、目が合うよう正面を向かせました。
エリスに大切な頼み事をしているのでなかったら、こんな状況許せません!!
でも今は我慢! ひたすらに我慢!ぎゅっと拳を握りしめて堪えます。
「この箱を人間たちにプレゼントしようと思うんだ。もし誰かが地上でこの箱を開けたら、君達は好きにしたらいい。地上での自由をあげよう」
「ふっ……ははっ……キャハハハハハ!!!」
エリスとその子供たちのおぞましい笑い声が部屋に響きました。どうやらゼウス様の計画を理解したようです。
「それって最高におもしろいわぁ。いいでしょう。ご所望の通り、最高に最悪のプレゼントになってあげる」
エリスはゼウス様の頬にキスをすると、イリスに蓋を開けるように促しました。蓋が開けられると、招かれた神達がスルスル入って消えていきます。これであの人間の女性に持たせるプレゼントの完成です。
「それでは『箱』も完成したことですし、みんなの所へ戻りましょう」
「どうしたんだい、ヘラ」
箱を持ったイリスを促し部屋から出て行こうとした所で、再び背筋にゾクリと悪寒が走りました。
「僕を欺こうとするなんて君らしく無いじゃないか」
「な……なんの事でしょう」
凍り付いてしまいそうなほど冷たい口調に、ビクンっと心臓が跳ね上がります。
やはり、ゼウス様にはバレていたようです。わたくしがこの箱に予めしておいた事を。
「僕に隠し事なんて出来ないと分かっているだろう? 失望させないでおくれ」
「そんな、失望させるつもりなんてありませんわ! わたくしはただ……」
人間の女性と災いの詰まった箱。
人間へのこの2つのプレゼントは、2つの災いを意味するものでしょう。
災いの詰まった箱はお分かりいただけるかと思いますが、何故女が災いなのか。
それは女と言う性別が生まれることによって、男は妻を娶り、養い、愛し慈しまなければ子孫を残せなくなるからです。
その為に男たちは女の為に、多くの時間と労力を割かなければならなくなるでしょう。
「ゼウス様にとって女は災いの元なのですか?」
わたくしは、一緒に居るのは面倒な伴侶なのでしょうか。
夫のなす事にいちいち嫉妬したり口を挟んだりする妻など、男にとっては厄介者でしか無いのでしょうか。そうだとしたら、結婚の神の存在価値はどこにあるのでしょう。
自然と涙が溢れ出てきます。
「何を言っているんだい。君は僕の喜びであり、生きて行く支えとなる希望だよ」
「でしたらあの神も箱に一緒に入ることをお許しください。それに、初めはクロノスとプロメテウスが創造したとは言え、今いる人間はゼウス様がお創りになった、言わば子供であるのも同義でしょう。どうか慈悲をお与え下さいまし」
グズグズと泣いているのも面倒臭い女だと思われてしまうかもしれません。
でも災いだけが詰まった箱を人間が手にすれば、人間の男はますます女が、災いしか呼ばない生き物だと決め付けるでしょう。それだけは絶対に避けたいのです。
「…………そう。そうだね。君の言う通り、人間に絶望だけを与えるのは父親として間違っているかもしれない」
長い沈黙の後、ゼウス様がポツリと呟きました。
「僕の見たい世界を作る為には災いだけではいけないね。怒りに任せて間違った選択をする所だった。ありがとう、ヘラ。やっぱり君は僕の最良の伴侶だ」
ゼウス様はわたくしの唇に重ねていた口を離すと、ハラハラした様子で見ていたイリスに指示を出します。
「さあ行こうか。あの女性は皆に飾り立てられ、さぞや美しくなっているだろう」




