17. またもや個性的な神が仲間入りしました(2)
「うーん、知り合いでは無いけれど……君はマイアの子供だろう?」
「左様でございます。ボクはマイア様とゼウス様の子供でヘルメスと言います」
……………………。
今、なんて言ったのでしょう?
ゼウス様の名前が聞こえた気がしますが、空耳ですわよね?
「えぇと、ごめんなさい。よく聞こえなかったわ。マイアと誰の子ですって?」
「ゼウス様ですよ、ゼ・ウ・ス・さ・ま!! そこにいらっしゃるじゃないですか」
「うぅん? って事はお前と俺は異母兄弟になるのか。最悪だな」
「なっ……えっ……?」
マイアはアトラスの娘で、アルカディア地方にあるキュレネ山の洞窟に館を構えている女神です。
その女神とゼウス様が……?
頭の回転が追い付かず口をパクパクとさせていると、ヘルメスが背中に背負っていた包みから奇妙な丸い物を取り出しました。
見たところ、亀の甲羅に弦を張ったものの様です。これを抱えシャララーんと掻き鳴らすと、聞いたことも無いような美しい音が鳴りました。
「皆さん、聞いてください。タイトルは『密通』。
父はアトラス、母プレイオネ!
2人の間にできたのは、
7人娘のそのひとり、その名はマイア!
みんなでHey、say! Hey!マイア!
その美しさを見初められ
大神ゼウスの愛を得る!
夜な夜な来るよゼウスさま!
いけない恋路と分かっていながらも
背徳感がたまらない
ヘラにバレたらマジやばyo!
こうして産まれた神ヘルメス
利発で利口でマジやばyo! (一部敬称略)」
もう……どこからどう突っ込みを入れたらいいのでしょうか……。
なおも口をあんぐりと開けたまま固まっていると、アポロンが周りに放つキラキラとしたエフェクトをいつもより3割増にして、ヘルメスへと近づいていきました。
「ななななんだ、その楽器は……!!なんていい音色がするんだ! 歌と伴奏がミスマッチ過ぎて目も当てられないが、その楽器の音だけは素晴らしい!!!」
「だろう? これボクが作った一点物。竪琴って言うんだー」
ヘルメスがものすごいドヤ顔をして竪琴をアポロンに見せびらかしています。アポロンは口からヨダレを出しそうなくらいに食いついていますが、わたくしは先程の歌の内容が衝撃的過ぎて、竪琴の音色までよく覚えていません。
「音楽を司る神である俺の心をこんなにもわしずかみにするとは……! 牛のことはチャラにしてやるから、その竪琴とやらを俺にくれないか?!」
「ええー、ほんとかなぁ? 後で蒸し返したりしない?」
「本当だ! 今ここでゼウス様に誓ってもいい」
「そこまで言うならいいよ。あげる」
「ああ、ありがとう! それでは早速、俺も一曲。タイトルは『友』。
素晴らしい才能を持った君
俺は君を讃えるよ
最高の友達だってね
他の奴が君の事をなんて言うのかなんて知らない
ちょっぴり変わり者だけど
君は俺の友達さ
君の才能の価値を他の奴は分からないだけさ
それでも俺は知ってるよ
君が最高に最高な奴だってね
君が困った時には
俺の名前を呼んでくれ
必ず行くよ、我が友よ」
「アポロン……ボクは君の事を横暴な神だとちょっと誤解していたみたいだ! 今の曲、心に染みたよ」
「俺もだ! こんな素晴らしい楽器を作れる才能があったとは驚きだ! 君を歓迎するよヘルメス!!」
「マイブラザー!!」
ついさっきまで喧嘩しながら登場してきたかと思えば、今度は2人、互いに抱き合って硬い友情を誓っております。
「いやぁ、2人とも素晴らしい友ができたようで良かったよ。仲良くやりなさい」
「ええ、本当ですわね。わたくしも思わず涙が…………って、違う!! 違いますわ!!!」
パチパチと拍手して、この場が上手いこと収まったかのように満足気な顔をしているゼウス様に、思わず突っ込みを入れてしまいました。
「どういう事でしょう? この子がゼウス様の子供だなんて、また浮気なさったのですか?! ……いえ、そんなはずありませんわ。だってゼウス様はあの日以来、いつもわたくしの寝所に……」
ゼウス様はレトとの事があってから、毎晩のようにわたくしのベッドへ来て一緒に眠っていたのです。ヘルメスの歌にあったように、夜な夜な出かけて浮気をするなんて不可能です。
「ふふ、ヘラは僕とした後すぐ疲れて寝ちゃうからね」
「!!!!」
そ、そんな……!!
わたくしとした後に他所の女の所へ行ってもう一発って、どれだけ下半身が元気なんですの?!
いえ、驚くのはそこではありませでしたわ。浮気を平然と認めるなんて!!
「使者の役目をする者が必要だったんだよ。分かってくれるね?」
「伝令神ならイリスが居るではありませんか!」
まるで子供に言い聞かせるような顔で、ゼウス様がわたくしの頬に触れました。
イリスは言われたことを忠実にこなす優れた神です。一体彼女のどこに不満があると言うのでしょう。
「イリスは確かに、非の打ち所が無いような優秀な子だよ」
「それなら何故……!」
「彼女は真面目で優等生過ぎる。これから先いつ、どこで、何があるか分からない。僕はどんな状況であろうとも、誰にも思いつかない様な策をみいだせる、奇抜な子が欲しかったんだよ。だから敢えて君の目を盗み、コソコソと泥棒のような振る舞いをしてこの子を作ったのさ。それとも君に、ヘルメスのような子が産めるのかい?」
確かにヘルメスは神とは思えない振る舞いともの言いをする子です。規格外すぎて呆気に取られるほどに。
「でも……わたくしは……」
「ヘラ様、ボクの事嫌いになってしまいましたか? もうボクを、さっきみたいに抱っこしてくれないのですか?」
再びヘルメスが大きな瞳をうるませて見つめてきます。本当ならマイアもこの子も殺してしまいたいくらいに憎いはずですのに……。
「そんな事ありませんわ。わたくしの事も今日から母だと思ってちょうだい」
「ヘラさま〜!!」
一度はこの腕に抱いてあやした子を、嫌いになどなれません。
駆け寄ってきたヘルメスをむぎゅうと抱き締めようとした所で、ヘルメスの前にピシャッと雷光が走りました。
「調子に乗るなと言ったよね?」
ふふふ、と不気味な笑顔を向けてゼウス様が脅しています。
ヘルメスを抱っこしてあやすのは、わたくしもゼウス様の目を盗んで、にしておきましょう。
ヘルメスがどうやってアポロンの牛を盗んだのか。ちゃんと神話のエピソードとしてあるので調べればすぐ出るんですが、調べるのが面倒な方のために(˶' ᵕ ' ˶)
ヘルメスは牛を後ろ向きに歩かせて牧場から連れ出し(牧場へ向かう様な蹄の跡しか残らない)、自身は植物で履物を編んで足跡が残らないようにした。でした〜




