表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/112

回想:フロイド・グリーンフィールド3

続きです

 

 恋心を自覚した私はリズへの思いを秘め、学院生活を送った。


 リズはとても優秀だ。詠唱無しで魔術を行使できるほどなのだ。しかし、リズの成績はいつも最下位だった。


 リズ自身、自分が他の平民やまして貴族以上の成績であった場合それを面白く思わない連中にさらなる暴力を加えられると考えたのだろう。在学中の実戦形式の授業や試験でもリズはわざと手を抜いていた。

 それが自身を守るには必要なことだったのだ。


 一足早くに卒業した殿下は公務に勤しんでいる。時折合間を見て近況報告会などを行っているが相変わらず表向きはさわやかだ。その裏では巻き舌で相手を恫喝するような言葉を吐くチンピラ王子。吐き出す相手が私しかいないようで会えば必ずチンピラになる。

 慣れたもので変貌しても驚かなくなった。そして私は正式に第一王子、リオネル殿下の側近となったのだ。


 卒業間近。それぞれ進路が決まりきった頃。

 実地研修の配属先が決まった。


 卒業してしまったら毎日リズに会うことができなくなる。

 あの美しい魔術を見ることも、あの日以降中々見れなかった黒曜石の瞳も。見ることができなくなると思うと気分は自然と下降する。同時に魔力が漏れ出し気温も下降する。

 せめて、配属先は同じか近場であったなら。そういう邪な気持ちが神にバレたのか。


 リズは国防軍西方司令部魔術部隊に配属された。


 西方地方は隣国と長年小競り合いが続いている危険な土地だ。聞けばそこの最前線に配属が決定しているらしい。

 体のいい殺処分だ、と嘲りながら噂する無能を本気で殺してやろうかと思った。それは普段から自制していた魔力が溢れだし冷気で辺りを氷漬けにするほどの怒りだった。


 死ねばそれでよし。生きているなら死ぬまで戦え。


 明け透けすぎて言葉が出ない。

 悔しさが支配する。本当はどこの誰よりリズは優秀だ。現役の宮廷魔術師でも敵わないくらいリズは素晴らしい才能に溢れているんだ!!


 言ってやりたい。なのに出来ない。情けなさが心を蝕む。


 悔しい、悔しい、悔しい!!


 どんなに優秀だと訴えてもリズは『黒持ち』。その時点で正当な評価は得られない。

 なにか功を立ててもそれは他の人間のものになる。

 だからこそ、リズはいつも授業はちゃんと聞きはしたが試験は手を抜いた。しっかり評価などされないことなど、わかりきっていたのだ。



 卒業後、リズが王都を旅立つ日。こっそり様子を伺った。

 変わらず前髪は長いし、いくらか伸びた背はそれでも低く更に猫背にして余計に小さく見えた。小さなカバン一つを抱えるその背中に声を掛けたくなる。それをグッと我慢し、見つめた。


『監視』をするようになってリズは私が見ていると振り返るようになっていた。

 今日も振り返り、わからない程度に視線の主を探している。

 そんな様子も愛らしく思う私はきっともう重症だ。

 姿は見せられないが、見ている事だけは気づいてくれていると思うと心にほのかな歓びが湧いた。


 危険な土地での最前線勤務。生きて戻れないかもしれない。

 もしかしたら、これで最後になるかもしれない。

 そう思ったらこの行為はおかしいと思いつつも止められなかった。


 秘めた思いだ。口に出すことはない。知られる真似はしない。

 そう言い聞かせて、私はリズを見送った。



(生きて帰ってきてくれ……リズ)



 そう願いながら……




 *****




 そうして3年。任期を終え、晴れて『魔術師』となった。

 今年魔術師となったのは20名程。その中で『魔術師』として国や地方に出仕するのは約半数。私は宮廷魔術師として出仕することになる。そして、リズは。


 軍に所属し最前線で3年。

 彼女は生きていたのだ。そして『魔術師』の称号を手に入れていた。

 ただ、『魔術師』として出仕はせず他の業種につくようだ。


 そこまではいい。軍などにいて、心をすり減らしたのは間違いないだろう。ゆっくり時間をかけて癒してほしい。だが、



「そのまま西方に移住する!!?」



 会えると思った。

 生き残っていたら、王都に戻ってくると。

 なのに……!!



「そりゃあ、人が多ければそれだけリズには危険だろ?それに、休戦協定は結んで一時的な平和が来ても元から魔獣の人的被害の多い土地だ。田舎だし、ひっそり魔獣を狩って暮らす方がリズからしたら気が楽なのは間違いない」



 近況報告会でのリオネル殿下からもたらされるリズ情報。

 これを頼りに今までこの3年頑張ってこれた。最前線送りのリズが無事なのか、いつもこの報告会で情報を聞いていた。勿論、こちらで独自に調べさせてはいたが信用できる人間は少なく私の思いを知られる訳にもいかずで中々思うような報告は上がらなかった。

 仕事の面では何の支障もなかったが、内心で意気消沈の私を殿下が不憫に思ったのか軍の戦況報告で知らされる内容の一部をリズに関する所だけ抜粋して教えてくれるようになった。

 この時ばかりは殿下が神に思えたものだ。



「君は納得できないかもだけど。リズにはそれがいいかもねぇ~」


「リオネル殿下。気安く名前を呼ばないで頂きたい」



 ギロッと睨むと魔力が漏れ出し、茶器が割れてしまったが私は悪くない。殿下が名前呼び等するからだ。



「怖っ! 付き合ってもないってか、告白もしてないし! いやむしろ話したこともほとんどないのに彼氏気取り? うわぁ~、妄想乙!」


「チッ!」


「え、舌打ち? ねぇ今の舌打ちだよね? オレ王子よ? 第一王子よ? 君の主よ?」


「気のせいです」


「わぁ、そんな態度なら君に任せようと思っていた西方行きの仕事。他の人間に「行きます」……現金なヤツ」



 ぶうぶう文句を言う殿下とはもう随分気安い関係になった。

 第一王子殿下の側近兼友人。

 強制的に側近候補になったが、今ではそれで良かったと思う。



「後日正式に国王陛下より命が下る。『魔術師』リズへの徴集だ。勅命書を届ける役目を君にお願いしたい」


「仰せのままに」



 そうして国王陛下から正式に命が下り、私は西方へ向かう。

 順備期間中には陛下、殿下、宮廷魔術師長である父を交えて今後の課題について綿密に話し合いが行われた。

 目的は第五王子の護衛。

 現正妃様の第二子、アデルハイト・ウィリアム・ラファティ第五王子殿下。

 リオネル殿下の実弟だ。


 これまで一度も公の場に姿を現したことのない幻の王子。

 生まれた時からかなりの病弱でベッドから起き上がれず、その存在が霞んでしまっていた。

 その第五王子の護衛として、私が選出されたのだ。

 いくら私が宮廷魔術師長の息子で侯爵家嫡男だとしても、第五王子の護衛ともなればもっと経験値の高い者が務めるのが普通だろうに。


 何故、私に?


 その疑問は国王陛下との密談により発覚した。


「バーセル侯爵と侯爵令息よ。この場は王としてではなく、一人の子を持つ父としてそなた等に頼みたいことがある」


「陛下。我らは陛下に忠誠を誓う王国貴族。陛下の望みとあらば、全力で応えて見せましょう」


「うむ。それでは……」


 そうして語られた第五王子の秘密。

 殿下は王家に生まれた『黒持ち』だった。

 すぐにでも里子に出すよう勧められたが、それはつまり高確率で殿下の死を意味する。拒んだ陛下は北の塔と呼ばれる王族を監禁するための塔に殿下を匿ったそうだ。


『黒持ち』と知る人間は極限られた者しか知らない事実だが、殿下のお世話をする執事がこの度歳を理由に退職することとなった。また、護衛として騎士もついていたが、彼の兄が急逝してしまったため後継ぎとして実家に戻ることになってしまったので新しく護衛をつけたい。というものだった。


 信用のできる者を、ということでリオネル殿下が『黒持ち』とクラスメイトだった私を推したのだ。



「彼は他の生徒とは違い、『黒持ち』に対しての偏見はないように思います。それも今年の『魔術師』の中でも一番優秀で、バーセル侯爵家の嫡男という肩書もある。護衛には申し分ないかと」


 いつものさわやか顔で陛下に訴える殿下。

 殿下はこのことを見越して私にリズの『監視』をさせていたのか。

 思うところはあれど、そのおかげでリズの素晴らしさを知れた。感謝しかない。


 そして魔術師長からも好きに相手を選ぶようにと言質を取った殿下の手腕に感服する。


 私が相手に選ぶ者。

 そんなの、決まっている。

 殿下もにっこり顔だが目で物凄くからかってきている。だが、それがどうした。

 どうせ殿下はこうなるように数年前から、リズが学院に編入してくる時から準備してきたんだろう。なら、その計画に乗ってやる。

 駒にされようと、手足にされようと、リズと共に居れるのなら。


 そうして私は何の迷いもなく『魔術師』リズを指名した。

 最初誰かわからなかったのか、思い出す素振りをする父上が思い当たる人物にサァーと青ざめた。

 ダメだ、止めておけ、別の者に……騒ぐが私は彼女が相手でないと断固護衛任務を拒否する。


 王命が出されてしまえば拒否など出来ようはずもないが、私はともかく『黒持ち』に偏見もなく身の回りの世話もできて秘密厳守は勿論、外部との接触も極力ないような生活を送ることになり婚期が遠のいても問題ない人物でどこの派閥にも所属していない中立派で身分がしっかりした者。

 そういう人物がすぐに見つかるとは思えない。

 特に偏見がない、の部分に引っかかる者は多いだろう。


 リオネル殿下にしかわからない私の機嫌の良さに、さらに追い打ちをかけたのが



「『魔術師』リズは先の戦にても特に目立った功績はない。ただでさえ王族の護衛ともなると身分が要るというのに彼女は『黒持ち』。陛下が是でも周囲は納得しないでしょう」


「ふむ。確かに。ではどうする?大した功績もないが何か適当に爵位を与えてやるか?」



 殿下の言い草に思わずムッとなるが、次の言葉で霧散した。



「バーセル侯爵。フロイドに一つ爵位を与えてやっては如何か。そして、リズとフロイドを結婚させれば功績を捏造することも新たに爵位を与える労力も必要ない」



 殿下!!

 なんてことだ。これでは私が今まで隠してきたリズへの思いがバレてしまうではないか!!

 思わず睨みつけてしまった。



「ほぉ! いいではないか。確かグリーンフィールド令息には未だ婚約者も居なかったな? どうだ、恋人もいないなら後押ししてやろう!」


「陛下!! ご冗談を! いくら何でも『黒持ち』との婚姻は……」


「やります」


「!!? フロイド!! 何を言っている!!?」


「『魔術師』リズとの婚姻を結びます、と申し上げました」


「それがどういうことか、わかっているのか!!?」



 わかっているさ。少なくとも、父上以上に。

 間近で見てきたんだから。



「許可できない、というのであれば他の魔術師を護衛につけてください」


「考え直せ、他にもきっと……」



 言葉に詰まる父上はわかっているのだ。

 他の魔術師も『黒持ち』に対していい感情はないことを。

 王族と言えど、今回の護衛対象は『黒持ち』。

 プライドの高い魔術師連中ではどうやっても『黒持ち』は全て蔑みの対象。一日二日は取り繕えても、長期にも成ればいずれボロが出る。


「……はぁ~、背に腹は代えられんか。陛下、でしたらこの婚姻。是非とも陛下からの後見をいただきたく存じます」


「うむ。無論だ。我が息子の護衛の為もあるが、他でもない。お前の息子の為にも、私が後見人となろう。フロイドよ。私を頼るがいい!」


「はっ! 勿体なきお言葉。感謝いたします!!」



 まだ納得はしていなさそうだが、父上からの許可も得た。

 ちらりと殿下を見ればいつものようにさわやかな顔だが……。からかっている。目が完っ全にからかっている!!

 とはいっても、まさか婚姻を結べるなんて思っても居なかった。

 まさか、まさかまさか!リズが、私のつ、妻に……!!



 湧きたつ心を抑え私は西方へと旅立った。

 もうすぐだ。もうすぐ、リズに会える。


 卒業後の小さな後ろ姿。

 愛しくて愛しくて、この腕の中に閉じ込めてしまいたかった。

 〝行くな〟と。

 〝私の傍にいてほしい〟と、どれだけ言いたかったことか……!




 それもこれで終わりだ。

 これからは堂々とリズと呼べる。

 彼女は私の妻になるのだから。


 あぁ、早く早く早く!!


 リズ、君に会いたい……!




後一話で回想は終了です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ