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回想:フロイド・グリーンフィールド1

フロイドの過去回想です。


 

 私の名前はフロイド・グリーンフィールド。バーセル侯爵家の長男として生を受けた。

 我が侯爵家は代々宮廷魔術師を輩出する一族であり、建国当初から王家に仕える名門一族だ。


 そんな家に生まれた私は物心ついた頃から魔術に関する英才教育を施されていた。私にとって魔術というのはとても身近な存在で大して苦も無く、そして何の疑問もなく全てを受け入れていた。侯爵家の長男として魔術だけでなく他の勉強もあり遊んでいる暇などなかったが、不思議と遊びたいとも思わなかった。


 適性検査を受け、魔術学院に入学。そこには同じ年の第二王子と一つ上の第一王子がいた。国王陛下に代々仕えてきた家の者として、漠然と将来この二人のどちらかに仕えるのだと思った。


 学院に入学した当初、授業は退屈なものだった。何故なら授業の大半は魔術の基本授業。これは入学前にすでに完全にマスターしたものだったからだ。魔術学院は魔力適性ありと判断された者を集めている。その為平民も適性さえあれば強制入学させられる。勿論、魔力適性のあるのは貴族が大半ではある。だが、多くは魔力はあれど魔術師になれる程の量はなく、質もいいものではない。


 よって、魔術に関してはほとんどの人間は素人だった。英才教育として幼い頃から親しんできた私からすれば、今更の内容だ。


 しかし、いくら退屈であろうと貴族として生を受けたからには学院に入学するのは『当たり前』のことだ。何故なら魔力とはすべての人間に与えられたものではなく、神から授かりし希少な力である。その力を持つ者は神に選ばれし尊い存在。『貴族』なら『当然』の『義務』だ。


 そもそも魔力は親から子へと遺伝する。なので貴族が魔力持ちな理由としては魔力有りと知れば平民であろうと一族に取り込み続けた結果と言えるだろう。


 大昔からこのように魔力持ちの平民は貴族に囚われ子を成していったのだから貴族であるなら魔力があって『当然』という考えが定着した。

 逆に平民で魔力があった場合貴族のご落胤であるとされる。不貞を働いていなかろうと。


『貴族』である事を証明するために入学するような軽い気持ちの連中が大半。私のような魔術師一族以外とは自然と壁が出来た。何の問題もなかったが。


 そうして数年が経過した。魔術学院といっても誰しもが魔術師になるわけではないし、本人に向き不向きもある。入学して4年目からは学科を選択可能だ。私は魔術学科を専攻。第2王子は魔法騎士科。一つ上の第一王子は私と同じ魔術学科だった。

 先輩後輩として第一王子、リオネル・エルネスト・ラファティ殿下と懇意にするようになった。殿下は面倒見がよく、後輩からも大人気だった。いつもにこやかな殿下に誰もが()()()()



 本来の殿下はとても野心家だった。第1王子という立場ではあるが、王太子は陛下の指名によって決定する。王位を確かなものにするためにまずは王太子の座を狙っていたのだ。使えるモノはなんでも使う。不要になれば体よく遠ざける。それも本人が納得した形でだ。なので誰も殿下が人を利用するだけしていらなくなったら捨てるような人間だとは気づいていない。


 そんな殿下の本性を知ってしまったのは偶然でしかない。ここから私の人生は大きく変化し始めた。人生の分岐点というのなら、この時しかない。



「くそが……! 目障りなコバエ程度の存在が!」



 ある日私は王族が使うサロンを訪ねた。学院には生徒会制度といものがあり、私は年少学年の代表として在籍していた。殿下も同じく生徒会に在籍していた。その日は生徒会が行われる予定だったが、急遽予定を変更することになりそれを伝えるために殿下を探していたのだ。


 サロンに入ると奥の部屋から先ほどの声が聞こえた。興味本位か、ただの気まぐれなのかわからないが、私は音を立てずに少し空いた扉の向こうを覗いた。



「余計なことを……! あのボンクラがぁ! まともに対処もできない無能の分際で、しゃしゃり出てきやがって!! 挙句に怪我だぁ!!? んなもん、舐めてりゃ治る程度のもんだろぉがよぉ!? それをいちいち大騒ぎしやがってぇ……! オレ自ら殺してやろぉかぁ? あぁん!!?」



(……!!?)



 どこのチンピラだ。と思ったら……殿下だった。


 驚いて三度見したのは仕方がなかった。それほど衝撃だったから。

 普段は後輩にも、平民出身者にも優しい殿下があんなに低い声でそれも巻き舌で悪態をつくなど誰が想像しただろうか。驚いた私は思わず後退した。が、よろめいて飾ってあった花瓶を倒してしまったのだ。



「……やぁ、フロイド。どうしたんだい?何か用かな?」


「ぁ、いえ、……その」


「ふふふ。ねぇ、フロイド。私と少し話さないか?」


「い、いえ、……けっこうで」


「さぁ! おいでフロイド! 君とは一度ゆっくり話してみたかったんだ!!」



 いつものにこやかな顔でこちらに向かってくる殿下に、この時初めて気づいた。目が一切笑っていなかったという事実を……

 その後は強制的に第1王子、リオネル殿下の側近候補になったのは言うまでもない。



 *****



 学院も第五学年に進級したある日、あの日から都合よく扱き使われる毎日を送っていた私は王族専用のサロンにて生徒会の仕事を捌いていた。生徒会室はあれど一般生徒が押し寄せることも多く、仕事がはかどらないとあって殿下に任された仕事はサロンで行うのが常態化していた。


 その日も私は殿下の愚痴を聞きながら割り振られた仕事をこなしていたのだが、直前に言われたことが理解できなくて手を止め殿下の方へと顔を向けた。



「今、……なんとおっしゃいましたか?」


「だ~か~ら~、未登録の『黒持ち』がこの前見つかったから、フロイドのクラスに入れといた。監視よろしく!」



 手渡された資料のついでにこれもお願いね~、と軽く命令された。

 が、待ってほしい。『黒持ち』が見つかった……!?



「推定年齢はフロイドと同じ10歳だよ。今年で11歳だね。まぁ、本人も自分の年齢知らないみたいだしオレと同じ学年でもよかったんだけど周囲が反対してね。だからフロイド君。君の出番だってわけさ。魔術学科に君程信頼置ける人間はいないからね! 僕は君ならきっと大丈夫だと信じているよ!!」



 さわやかな表情のリオネル殿下。この顔はとても不機嫌だ。最近になってわかってきた。何が殿下の機嫌を損ねたのかはわからないけどこの殿下には何を言っても無理だ。だがしかし、待ってほしい。『黒持ち』だぞ?



「殿下、本当に『黒持ち』が見つかったのですか? それも、私と同じ歳の……? 今まで一体、どうやって」


「さぁ? そういうのも同じクラスになるんだから直接聞けばいいんじゃない? ……きっと想像以上に過酷な生活だったろうね、『黒持ち』が生き続けるなんて」



 ぽつりとこぼした殿下の言葉は私の耳には届かなかった。



 そうして程なくして私のクラスに『黒持ち』が編入してきた。

 黒髪。痩せぎすの棒切れのような体は今にも折れそうだった。髪はパサつき艶などない。前髪が顔全体を覆うように長く、素顔が全く窺えない。立っているのもつらいのか、フラフラ揺れていた。


 クラス担当の教諭から生徒に軽く説明があったが、その顔は汚い物を見るような目つきだ。他のクラスメイトも同様に顔を歪めた。そして口々に罵る。



「何で『黒持ち』と同じクラスなんだよ!?」


「いやー!! 汚らわしい!! 他所にやって!!」


「こっち来んなよ! 魔族!! 魔界に帰れ!!」


「穢れが移るわ!! 誰かさっさとこの魔物を殺して!!」


「「「殺せ! 殺せ! 殺せ!!」」」



 嫌悪、憎悪、嫌忌の感情がただ一人に注がれる。

『黒持ち』

 編入生は胸に抱いていたカバンをぎゅっと抱えこみ、指定された席に歩む。

 ただそれだけのことで、クラスメイト達は非難した。


 俯いた顔には長く黒い前髪がかかり、やはり表情は窺えない。

 背中を丸め、誰とも視線をかわそうとしないばかりか、声一つ上げない『黒持ち』の編入生。


 それが、彼女―――


『黒持ち』リズと私の初めての出会いだった。




続きます

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