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平民魔術師リズ ~人生山あり谷あり~  作者: 炬燵猫


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探していきましょう!

 

 元来、私は好奇心旺盛な方だ。学院に入る前まではそのせいで死にかけた回数は両手では足りないだろう。魔術を覚えたことでその回数はグンと減ったが好奇心が治まるということはなかった。



 さて殿下曰く〝困る人〟は殿下のとても大切な人なので教えることはできないそうだ。殿下の狭い人間関係から考えればその〝大切な人〟の目星は付いているけどね。


 だが上げ足を取るようで悪いがそれを〝教えてくれた人〟は〝大切な人〟じゃないよね? なら、教えても大丈夫だよね? ってことで。



「それではこれから〝殿下のせいで困る人〟がいるよと〝教えてくれた人〟が一体どこのどなたなのか探していきましょう!」



 あっ、殿下の朝食はすでに済ましてありますよ! 飽きていたとしてもしっかり食べなきゃ。成長期なんだし。だからこそ、もっと栄養のあるものを食べていただきたいんだけどね! なんならいっそ……、と思考を別の方にやりそうになったところでミンスター卿のお声が。



「待て。何だその〝困る人〟だの〝教えてくれた人〟だのとは」


「ああ、それはですね。殿下に余計な事を吹き込んでくれちゃった方がいらっしゃるようなので排除しようかと思いまして!」


「はいじょ、……排除!? はっ!!?」


「リズ~? はいじょって何~?」


「この世から消し去る事ですよ」



 ニッコリ。


 おっ、今回は上手く笑えたのでは? 表情筋を鍛えれば私も美しい作り笑顔が身に着くやもしれないね!! これってあれだ! どこかで聞いたぞ。『筋肉は裏切らない!』ってやつだ !はははっ私の筋肉超優秀!!


 ……おや、空気が冷たい。ミンスター卿、やっぱり夜勤明けですぐは無理があったのだろうか? 何やらぷるぷるしてる。



「ミンスター卿。すみません、やはり後程時間を空けてからにいたしましょう。配慮に欠ける行動でした。申し訳ございません」



 私はほとんど日中の勤務だからこの時間の辛さをよくわかっていなかった。そもそも私は睡眠時間も他の人間に比べると少ないほうだ。何が起こってもすぐに逃げられるようにと、うたた寝程度の時間でしか眠れない。物心ついた時からずっとそうだったおかげで目の下は万年濃い隈が出来ているのです。ギリギリ10代だけど若さがない。身長もあまり伸びなかったし、痩せっぽちだ。言ってて悲しい……


 だが、問題はそこじゃなかったようだ。



「『消し去る』とはどういうことだ!? 一体何をしでかすつもりなんだ!! ちゃんとわかるように説明しろ!! 殿下も、このことはどうかお忘れください!!」



 おおぉ! こんな大きな声を出すミンスター卿初めて見た。いつもすまし顔でなんでもそつなくこなす生真面目人間だと思っていたけど、意外な一面があるんだなぁ! 結構必死だ。肩つかまれて前後に揺さぶられるとは思いもしなかった。うっ、目が回る……!



「み、ミンスター卿。落ち着いてください……。ちゃんと説明しますから」


「フロイド。リズつらそう。やめて」


「! あっ!! す、すみません!! あぁ、私は、何てことを……!」



 未だグラグラする視界にミンスター卿の戸惑った様子が映る。本当に申し訳なかったと思っているようだ。ものすごく小さな声で「肩ほそい、折れそう……、いい香り……」なんて聞こえたけどここは聞こえなかった振りで正解でしょう! あとこのくらいで折れたりしないのになぁ。そんなにか弱く出来ていませんよ。お貴族様じゃあるまいし。けっ!


 視界のブレが落ち着き、事の次第を説明する。ミンスター卿も落ち着きを取り戻し、私のつたない説明に耳を傾けてくれた。



「そういうわけですのでどこの誰なのか知りたいのです。それと、可能であるなら殿下の大切な人を内密で保護したいと思っております」


 説明し終えるとミンスター卿は顎に手を当て、しばし考えていた。そしてこちらに向き、問いかけた。


「事の次第はわかった。しかし、『消し去る』なんて物騒な考えはやめておくことだ。接触し、なぜそうした行動をとったのかを聞き出す程度にとどめろ。今問題を起こせば更に悪化するのは明白だ」


「えぇ。心得ました。しかし、殿下にとって『敵』と判断した場合は相応の対処をいたします」


()()の範囲でなら文句はない。何もないのにこちらから仕掛けるのは職務範囲を越える行為だ。それに、どうやってその〝教えてくれた人〟を探すつもりだ? 元執事も護衛騎士だったヴァレンタインもすでに退職しているはずだ」



 冷静さを取り戻したミンスター卿の口調が仕事モードになった。知ってか知らずかこの時のミンスター卿の眼光は鋭い。


 学生時代は周囲の生徒から氷の君などというちょっと笑いたくなるような渾名がついていた。それはこの表情に由来するのだろう。薄い水色が混じった銀髪とアイスブルーの瞳。彼の容貌はまさしく氷を連想させるものだった。



「そこです。私は王城の人間について詳しくない、というより全く知りません。なので、ミンスター卿に確認していただきたいのです」



 私のような『黒』が堂々城を闊歩できるはずはない。任務を言い渡される際に訪れた時も頭を下げて俯きながら歩いてきたのだ。顔を見るなんてこと出来なかった。顔がわかるのは式の前、着替えを手伝うと言ってきたメイド達数名くらいなものなのだ。


 元執事や騎士殿なら私達以上に殿下の内情には詳しく、何処までの人間が知っているのかも把握していそうだ。だが、悪いが私はその人達を信用していない。これまでよく殿下にお仕えしてきたと思うがそれとこれとは別。現段階では私の中でその2人は黒に近いグレーだ。


 なのでここでミンスター卿の出番という訳である。王城で働く人間の多くは貴族だ。平民も勿論いるが『北の塔』に出入りできる人間はごくわずか。ただの平民使用人が訪れることはまずあり得ない。なら、夜にやってきたという〝教えてくれた人〟は『北の塔』に出入り出来る権利を有したおそらく貴族出身者で殿下の事情を知る人物ということになる。


 そのごくわずかな人間の中から〝教えてくれた人〟を探し出す。ただ残念なことに、ミンスター卿も私も誰が殿下の内情を知っているのかまでは把握できていないのだ。

 ならばいっそ誰が知っているのか顔と名前のすり合わせを行いたい。

 その為に、ミンスター卿にはついていてもらいたかったのだ。侯爵家の嫡男で顔も広いミンスター卿ならその優秀な頭脳で名前も爵位も記憶しているだろうと見越して。



「だからどうやってだ?殿下はこの塔から出られない。〝教えてくれた人〟の顔が殿下にしかわからないのならどうやって確認するのだ」



 一番手っ取り早いのは殿下自ら探してもらうことだ。だが、殿下はこの塔から出ることは出来ない。ならどうするのか。それは……



「問題ありません。私が城内の光景を今からこちらの壁に映し出します。なので殿下はこれから映る人物を一人一人確認していってください。そこで知っている人を見つけたらミンスター卿に伝えてください。ミンスター卿はその人物の名前と爵位を教えてください。もしミンスター卿でも知らない人物であった場合、後日調べるとしましょう」



 さて、ここから私の出番ですよ!! 皆お待たせ!! えっ? 誰も待ってないって? そりゃそーだ!!


 殿下の私室として使っている部屋の壁は白く塗られている。『北の塔』はやんちゃが過ぎる王族を隔離するために作られたいわゆる王族専用の貴賓牢だ。造り自体はさすがは王族の住まいと感嘆の声が上がるほど美しい。


 その白い壁を前に懐から取り出した道具を起動させる。実はこの話を持ち出した時点ですでに用意は進めていたのだ。


 城内には私の代わりに『目』となる動物たちがすでに隠れ潜んでいる。この動物たちは魔術で契約した従魔ではなく、本当に普通の動物だ。その動物たちの『目』を半年前に店を開いた際、商品として売っていた魔道具とを繋ぎ、更にそこから集まった『目』をまとめ、魔道具を介してこの白い壁に映し出すのだ。


『目』と魔道具を繋ぐには魔道具からある特殊な念波を発生させる。それに共鳴した動物のみを一種の催眠状態にさせ、その間に『目』に視神経より細い魔術回路を組み込むことで魔道具と『目』を繋げる。繋ぎ終えたら催眠は切れるよう設定してある。なのでこちら『あっちに行け、こっちに行け!」と命令する事は出来ない。本人の自由意志だ。


 その後は魔術回路が消滅するかこちらから通信を切断しないか、若しくは『目』の方に何らかのトラブルが発生しない限り、一切の視覚情報がこちらの魔道具に転送されるという代物だ。


 魔道具自体は魔力で起動するのだが、繋がった後は魔力を必要としない。これに使用した魔術回路は本人の持つ生命力を代償にするので結界や魔術で守りに入っているようなところに入り込んでも不正な魔力を感知できずに入り込むことが可能だ。生命力といってもその日の睡眠時間がほんの少し長くなる程度のもので命に関わりはない。魔術回路はその後数時間で綺麗に痕跡もなく消滅する設計だ。


 他にも城内を覗く方法はいくつかあるが、王城にて魔術を行使すれば宮廷魔術師の結界に触れる可能性ががある。今回のように内密で調査したい場合にはとてもおすすめな魔道具なのだ。……売れなかったけど。


 早速送られてきた『目』からの光景を壁に映す。動物の視界や光度は人間とはまた違うようなのでこの魔道具でその辺の調整も行い映し出された光景に満足。感度良好。視界良好。うん、問題なし!



「!!?」


「……これって、まさか……!」



 パッと一瞬大きく光ったあと壁に映し出されたのは、4つの映像。

 少し高い位置から見下ろすような形。もう一つの視界はとても低い。歩く人の足が大きく映し出された。3つ目は渡り廊下らしきところを行き来する人々の姿が。最後に映ったのは……



「ここに映ってるのは、……まさか!?」



 まさかの国王陛下の執務室キタ―――――!?


 思わず仰け反って驚いてしまったのは仕方ないことだ。うん、誰も想像だにしなかった。想定の範囲外というやつさ……ふっ、私悪くない!


 ミンスター卿もその氷の君と渾名されたご尊顔をポカンとさせてだただた壁に映った光景を見ている。口を開けたままでもイケメンはイケメンだった。イケメンとはすごい。イケメンしか勝たん。


 そうそう、殿下にとってはこれが初めて目にする外の世界だっけ。いつもは許可された窓からちらりと見える外を見るだけだった。だけどこれは今までの景色とは違う、それも一風変わった世界の光景だ。

 そもそもこの魔道具を作ったのは昆虫や小さな動物からは人間がどんな様子に見えるか知りたくなったから作ったものだ。誰しも一度は気になる世界だと思うんだよ。うんうん!


 そんな殿下を見ればそれぞれの光景を食い入る様に見つめていた。特にお気に入りは高いところから見下ろしている様子の映像かな。



「リズ! リズ!! これ! これ何!!? あっ、あれは!? あれは何!!?」



 興奮した様子の殿下は頬を赤く染め、大きな藍色の瞳をキラキラ輝かせて見知らぬものを指してあれは何、これは何と質問攻め。この年齢では聞かないような、もっと幼い子供がするような質問も飛んでくる。ワクワクドキドキといった様子の殿下はそれはもう、可愛い。

 次から次へと来る質問にこちらもポンポンテンポよく答えていく。興奮冷めやらぬ殿下はさっきから一度も目を離さない。


 そんな殿下とは対照的なミンスター卿。茫然とした様子から今度は青褪めた顔色をしていた。ぼそぼそ何かを呟く。聞き取れはしなかった。



「さぁ、丁度陛下の執務室の様子が見えますね。この映像なら陛下の近しい人物である側近や大臣、侍従や侍女、さらにタイミングが良ければ他の王子殿下方や王女殿下方が訪問する可能性もあります。……上の立場に行くにつれて殿下の内情を知る人物は多いはず。まずは、誰がどの役職についているのかを確かめましょう」



 パンパンと手を叩き、二人の注意を引き付ける。殿下も楽しんでおられるところ申し訳ないが、こちらが本来の目的なのだ。今は我慢していただこう。



「さぁ、殿下。この映像で知っている人物がいたら教えてくださいませ。ミンスター卿も……、ミンスター卿?」



 あれ? 返事がない。ていうか、手で顔を覆って何か天を仰いでいる。



「リズ……」


「! はい。何でしょうか」



 普段よりも低い声。思わずびくっとなった。

 ミンスター卿とまっすぐ向かい合い、次に出てくる言葉を待つ。妙な緊張感が漂う。ミンスター卿の雰囲気にさっきまで興奮していた殿下も、今では少し怯えている。



「リズ……これは、この魔道具は」


「私が自作いたしました。店を構えているときに暇を見て創作し、商品として売り出してはいましたが残念ながら売れずにいたので抱えていたものです。誰にも売っていませんし、着想・設計・開発まで私一人で担っています。誰にも開発レシピを公開していませんし、売れなかったのでこの魔道具のことについて知っているのは殿下とミンスター卿の二名だけです」


「当たり前だ!! 馬鹿者!! こんなものが世に出回れば大変なことになるんだぞ!!? 軍事利用し放題だ!! そもそも何だってこんな物作ろうと思った!!? 一体どんな発想をしたらこんなことになる!!? お前が実は魔術師の中でも群を抜いて優秀なのはわかっていたが、これはもはや優秀どころの騒ぎではないぞ!? 天才か、天才なのか!!? この件については後程詳しく尋問することになる!! いいか!? ぜっっったいに口外するなよ!!? 殿下も! この件についてどうかご内密にお願いします!!」


「か、かしこまりました……」


「わ、わかった……」



 ものすごい迫力に圧されたじたじになってしまったのは殿下も同じだった。

 思わず二人身を寄せて抱き合ってしまうほどにミンスター卿は怖かった。必死過ぎて。


 いくら何でも私でもこの魔道具が軍事利用するのに適したものだということは気づいていたさ。だけど作ってしまったのは仕方がない。なのでたまの休みに映像を流して密かに楽しんでいたのだ。それが結構面白くて休日のお楽しみになっていた。



 こうしてひと悶着はあったけど、無事に城の内部を映し出すことに成功した。

 働く人間の顔もばっちり確認できる。これなら殿下のいう“教えてくれた人”が映った場合、すぐにわかるだろう。それに、殿下にとっても滅多に会うことができない陛下のお姿も見ることができる。(陛下は見られていることに気づいていないけど)


 さぁ、どちらのどなた様なのでしょうか。


 殿下に余計な事を教えてくださったお方は。


 殿下と同じ『黒持ち』として、ぜひお会いしてみたいものです。






 ……逃がしはしないよ。





お読みくださりありがとうございました!

次回からしばらくフロイド回想録となります。

数話続くかと思いますが、よろしくお願いいたします!

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