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平民魔術師リズ ~人生山あり谷あり~  作者: 炬燵猫


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執行猶予なし


涙を流し続ける魔王に困惑する魔神。魔神にとっては魔王はどんな姿になったとしても愛しい我が子である事に変わりないらしい。

徐々に無表情であった顔も、どうしていいかわからずオロオロする父親のソレになりなんだかとても微笑ましい。な、泣くでない! なんだ、どうしたんだ我が子よ。と、どうにか宥めようと奮闘しているが、魔王はただ壊れたようにお願いします…と繰り返すだけ。



『魔王様。人族を……世界を滅ぼすことが嫌なのですか?』


『! そうなのか?』



微笑ましい、と見守っている間に王弟殿下が二人に近づいていた。魔神の斜め後ろに立ち、魔王に声を掛ける。その姿はとても落ち着いており、泣く子をあやす父を温かく見守る母のようだ。……母知らんけど。


王弟殿下にはこの二柱(ふたり)を恐ろしい存在だと感じさせないとてもフラットな、友人に話しかけるような気安さをも醸し出しているが、それは魔神も同じで特に咎めるような事はしない。



『お、お願いします……。罰なら我が受けます……。だから、だからどうか……人を……世界を滅ぼさないでっ……お願、おねがい、しますっ』


『フィリウス……』



懇願する息子と何故泣きながら懇願するのかわからない魔神。


……

…………


『え、なに見せつけられてんの?』


『それな』


『締まらないねーぇ』



まるで、擦れ違った家族の絆を結び直す瞬間っみたいな感じになっているけど現実世界、そんな甘くないぞ? 忘れてるみたいだけど魔神の化身がただ一つ咆哮しただけで首都吹き飛んでるからな? 王都民で生き残ってるのなんて城に避難してた人達くらいだからな? 何万人死んだと思ってんの?


それに首都だけじゃないよ、これ。化身の正面方向には首都には及ばずとも立派な街がある。あそこを治めるのはマルティーニ公爵だったはず。いつぞやのお茶会にて夫人がフロイド様の母君に噛みついていたっけ。あ、でも覚えてないけど次男は優秀な魔術師だって聞いたから大丈夫かな。……威力は離れれば離れる程小さくなるだろうけどそれでも領地への被害は免れないだろう。無事である事を祈る。


話しは戻るが被害は甚大。あの一瞬で数万の民が死んだ。

それなのに魔神や王弟殿下はそんな事をまるで感じていないのか、まるで演劇のように感じてしまった。それは私だけでなくエヴァンも感じていたようだしシリル王も私達程ではないにしろ、不機嫌である事は肌で感じている。それにアデルハイト殿下。彼も、実世界での惨状を目の当たりにして今も放心状態だ。


本来なら自分こそが先頭に立ち、兵を率いて魔神に立ち向かうべきだという事は自分が一番よくわかっているはずだった。それが王太子としての責任だと。それこそが、自分の存在意義なのだと。



『さて、魔神様。可愛いご子息は世界を破壊する事を望んでいないようですよ? それとも……ご子息に嫌われても、滅ぼしますか?』



……どことなくイライラしているシリル王はリオネル殿下とそっくりなニコニコ笑顔で魔神に歩み寄る。魔神もシリル王には気づいているようだが彼が心配なのはあくまで魔王。



『フィリウス? どうしてそんなに泣いておるのだ? 世界を滅する事、そんなに嫌なのか?』



自分の考えを押し付けるのではなく本人に気持ちを確認する事を覚えた魔神は息子に訊ねるが魔王はただ壊れたように同じことを繰り返す。


そんな魔神を魔王を見てモヤモヤする私は心が狭いのか。もっと早く懇願していれば、もっと早くその願いを聞き入れてくれていればこんなことにはならなかったのではないのか。



『魔王様。どうしたいのか、きちんと話すべきです。……イェルサの事も、今後の事も。私は言葉にしなかった。言葉にせずとも伝わるのだと、私の想いは伝わっているのだと……勘違いしていた』


『……』


『結果はこのザマです。私はどこまでも独り善がりで大切にしていた人の事も……結局は傷つけてしまった。大切な、大切な人達だったのに』



王弟殿下の懺悔。私には誰の事を言っているのかは分からない。けれどその人達の事をとても大切にしていたことだけはわかった。後悔しているのだ。この世界を破滅の道に導いた事を。


そんな魔王は王弟殿下を見上げ、少し考えた後で魔神に向き直る。



『世界の破滅など……望んでいません……。このような事になって、申し訳、ありません』


『フィリウス……』


『罰は私が受けます……。だからどうか、どうかお願いします。……イェルサと、話をさせてください』



消えそうな程弱々しい声で紡がれた言葉。責任を感じているのか知らんが、正直『この期に及んでまだイェルサかよ!』というのが正直な感想だ。魔王にとっては自分よりもイェルサが大切なのはもうよくわかったよ。



『……イェルサ……!』



魔神は籠に囚われたイェルサに視線をやる。その眼は激しい怒りで満ちているが息子の手前、手を下そうとはしない。でも言葉一つミスれば消滅まっしぐらだろう。



(そのまま消えてくれればいいのに)



魔王は甘い。その魔王に甘い魔神は激甘だ。

甘すぎて吐き気がする。


隣を見ればエヴァンの眉間には深い皺が刻まれており、奥歯を食いしばって怒りを耐えていた。その気持ち、わかる。ムカつく。でも王弟殿下の言葉は魔神に届いて魔王が滅亡を望んでいない事もこれでわかったはず。


渋々と言った表情ではあるが魔王の希望をきいた。スッと立ち上がり、王弟殿下と共に下がる。それを見て魔王がイェルサの元に駆ける。



『イェルサッ!!』


『フィリウスっ!』



籠の中の鳥ならぬ蝶であるイェルサとの感動の対面。ワァ、ヨカッタネ。

思わず棒読みになってしまった。だがしかし、私の気持ちもわかってほしい。



『イェルサっイェルサ! 我のイェルサ……!』


『フィリウス! 私のフィリウス!!』



籠に額をつけて再会を喜ぶ魔王とイェルサ。ここで敢えて人の姿に戻さないシリル王、素敵!!

腕を組んで微笑んでいるシリル王だけど多分それなりに怒っている。王にとって魔王とイェルサがどういう存在なのかは知らないが、あまり歓迎していないのは一目瞭然だ。こめかみに青筋浮いてるしね。



『な~にが我のイェルサだ、私のフィリウスだ。さっさと滅びろ(ボソッ)』


『ああ、そうだな。これでお咎めなしで解放ってんなら、マジでオレが滅ぼすわ』


『手伝います。とりあえず私はイェルサをぶん殴りますね』


『オレもまだ殴ってねぇんだよな。用意しとくか』


『君らマイペースだねー。私もビックリだよ』



ぼそっと呟いたのがエヴァンに拾われシリル王も参加し始めた。名前呼び合ってる暇あるんならさっさと話進めろや。


私、エヴァン、シリル王の不服三人組はジト~ッと魔王達に視線を送ると、漸くその視線に気づいたのか籠から顔を離しイェルサに話しかけ始めた。



『イェルサ。……お前を守れずに申し訳なかった』


『フィリウス……!』


『お前の死を受け入れられず、今日まで来てしまった……。この世界が出来て父に管理を任され、秩序を作り見守って来たというのに……。君を、手放せなかったっ』


『いいのっ! 私の事はいいのよっ、貴方が無事ならそれで……!』



安っぽい演劇か。お前らの純愛物語で私らがどんな被害を受けて来たのかわかってんのかよ。あとイェルサ。お前は自分が死ぬ原因を自分で作ってるからな? 魔王のせいで死んだみたいにいうな?

とりあえずこの短い会話に一つも二つも引っ掛かるが今は何も言わずに置いてやる。



『我が間違えた……。我の所為だ、全て……』


『そんなことない! そんなことないのよ! フィリウスが悪いなんてことは絶対にないの!!』



蝶の姿のイェルサの様子がおかしい。ほぼ全ての魂が集まったが一欠片は私が持っている。その魂を取り戻そうとするイェルサ本体と、本体に戻ろうとする欠片のイェルサ。



『そうよ……。貴方は悪くない……! 悪いのは私と貴方との仲を妬んだあいつらよ! あいつらさえいなければ……、こんなことにはならなかったの。貴方も私も! こんな目に合う事なんてなかった!!』


『イェルサ……』


『ねぇフィリウス。そうでしょう? 私達が何をしたっていうの? ただ愛し合っていただけじゃない。愛を育んで、一緒に生きていきたいと、そう思っていただけでしょう? なのにあんなっ』



反省の色なし。そして馬鹿なイェルサ。



『訊いたかい、魔王? イェルサには自分が犯した罪を顧みるという事が出来ないようだ。魔神様から頂いた折角の機会だというのに……残念だよ』


『ま、待て!!』


『どれだけ待ったと思っている? もう十分、逃げ続けただろう』



一切の感情を捨てた無の表情を見せるシリル王。静かな、されど激しい怒りが波動となって押し寄せる!! 無の表情がいつの間にか虫けらを見るような嗜虐性に満ちた瞳をした残虐なものとなっている。綺麗な顔立ちの分、恐ろしさが半端ない。



『魔神様。これはこういう人間です。ご子息を利用するつもりなどなくとも結果的に都合のいいように利用する。良くも悪くも自分とご子息の事だけしか考えていない、はた迷惑な人間だ』



檻が壊れる。その中から飛び出たイェルサが光に包まれ、元の人間の姿に戻った。シリル王やその後ろにいる私達を睨み付けるその顔は醜く歪んでいる。



『お前っ……!! お前お前お前お前お前ぇ!!』


『貴様にお前呼ばわりされる覚えはない。それよりもう別れの挨拶はいいのかい』


『よくもっ……! お前!! 私を殺したな!!』


『『『!!?』』』



は!? シリル王がイェルサを殺した? どういうこった!



『やれやれ、やっと思い出してくれたのかい? ……私の妻子を殺したクソ悪女め』


『『『!!?』』』



なんでシリル王がイェルサに対して辛辣なのかと思っていたけど妻子を殺されていた? イェルサの生きていた時代の話だとすると、イェルサを惨殺した男達の中の一人?



『お前のいう愛とはお前に跪いて奴隷のようになる事か? だったら悪いな、俺にはそんな悍ましいものほしくもなんともないね』


『っお前ぇ!!』


『さっきから何? 覚えているんだろ。俺はお前なんぞに靡かないし、お前のものになるくらいなら死んだ方がマシだってな。よかっただろ? 性格最悪のドブ女でもそこの魔王だけはコロッと堕ちたじゃねぇーか』



マジでリオネル殿下だ……! 絶対、あの人これぐらい言いそう……! 血は争えないってこういう事を言うんだね。


呆気にとられて茫然とする魔王と怒りで血管ブチ切れそうな魔神。その魔神を何とか抑えようとする王弟殿下。そしてシリル王の意外過ぎる一面にお口あんぐりな私とアデルハイト殿下。エヴァンも驚いているけど私ほどではないから、いつでもイェルサをやれるように構えている。


それもそのはずでイェルサの魔力量がグンと跳ね上がりシリル王の領域であるにも関わらず殿下の心の最深部に根を張り始めた。魂が集まって完全なものになるという事はばらけさせるために各地に飛んだ精霊達もそこに集まるという事。その精霊達の支配権を持っているのはイェルサだ。



『お前……! お前の所為で、私もフィリウスも!! お前の所為で!!』


『それはこっちのセリフだ。……お前の所為で妻が死んだ。子供ももうすぐ生まれるはずだった!! お前が妻を騙して谷から突き落としたんだ……』



有罪です。もうだめ、弁解の余地なし。執行猶予なしの即消滅です!

怒りの頂点に達したシリル王はイェルサの魂を砕く。



『―――イェルサァァァァッ!!』



魔王の悲痛な叫びがこだました。



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