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平民魔術師リズ ~人生山あり谷あり~  作者: 炬燵猫


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納得いかない


外の世界では世界の危機を察知して長き眠りから目覚めたかつての英雄達5人が、魔神の降臨を阻止しようと奮闘している。その間にかつて見たこともないほどの大軍で魔族が人族国家に侵攻していた。


シリル様曰く、シリル王国・ザカライア・バラチエ・ストランド・サルヴィーニの五か国を拠点として巨大な魔法陣を発動させて魔族からの侵攻を防いでいるらしい。神聖魔法で構成されたその結界に触れれば魔族では手も足も出ない。しかし長い時を生きた魔族、上級魔族の一部は神聖魔法に対しての抵抗を持つ者や魔力の流れを変質させることで無効化する強者がいるそうだ。

そういう連中が結界内部に入り込んで内から結界を破壊、人族への攻撃を行い少ないながらも被害が出ている。現在、シリル王国を含める先の五か国を中心に魔族に抵抗している。


勿論そこには私が愛するフロイド様も、逃げることなく戦っているのだ。


上級魔族ともなれば戦闘経験は豊富で能力以上に技術が高い。これまで魔族との実戦を経験した事のない人間からすれば圧倒的不利だ。

それをものともせず、一人の魔族に対して数人で対処する事で倒すことは出来ずとも引く事もない均衡状態を保っていられるのは偏にアーサー国王によるところが大きい。


結界内に侵入した魔族に更に強力な神聖魔法、局所的な浄化を行う事で魔族周辺の魔素を完全に消滅させる。この方法だと魔術師による放出系の魔法も全て無効化してしまうが、そこは騎士や軍人達の持つ剣に魔法をのせる事で威力を上げる事で魔族とも互角に戦闘が可能となった。恐るべきは魔法が使えないというのに恐ろしいまでに強靭な肉体と戦闘センスで素手でもって対抗してくる魔族だった。


騎士一人、軍人一人、魔術師一人では到底かなうことは無かった。お互いをライバル視していたことから中々協力的になれなかったこの三勢力が協力し合う事で魔族とも引くことなく戦えている。そしてそれを可能にしたのは他でもない、アーサー国王だ。


逃げず、引かず、隠れず。王としてこの国を、世界を守るために最前線に立つ国王の姿を見れば逃げ出す事など出来るはずがない。その姿を見せる事で士気は高まり対等に戦えている。


だがしかし、命の消費を行う事で能力を飛躍的に向上させたからこそ、それが可能となっているのだ。



『急がないと。陛下の力が尽きる前に、魔神の降臨を阻止しなければ』


『フン、気概は認めるが自殺行為だ。永くは続かんことぐらい、あの王も解っているだろ』



そうだ。それがわからない筈がない。命を使うことで強力な力を得る事は出来ても、持続時間は最大寿命分。それ以上は魂を消費する、つまり魂の消滅を意味する。今のアーサー国王を見れば命の消費の次、魂の消費まで行きそうだ。

そこまで行ってしまうと魂が輪廻の輪に戻る事も出来ない。つまり転生する事も出来ない。


ここ一番という所でその選択を出来ることは素晴らしい決断力だが、陛下がそこまでする必要はないと思う。



『魂を消費して消滅すべきはイェルサ(クソ女)のほうでしょ。何で今を生きる陛下が消滅して、とっくの昔に死んだイェルサが生き続けるの。おかしいでしょ』


『同意。やっぱクソ女はクソだ。さっさと死ね』


『簡単に殺したらつまらないですよ。逃げ続けた年数分、魂に苦痛を与え続けるってのはどうです?』


『いいな、それ。その前にシリル王の鎌で刻みたいけどな』


『いいんじゃないですか。シリル王の領域での事なら切り刻んでも元に戻す事など容易いでしょうし』


『『ハハハッ!』』



イェルサに関する事では意気投合する事が多い、エヴァン・コールドリッジと周囲を警戒しながら核心部に迫る。シリル王はアデルハイト殿下の心を守るために魔神の元に侵入する事は出来ない為に別れている。

魔神という複雑怪奇な存在に魂のまま侵入するなど、これも自殺行為だ。ま、何もしないよりはマシだけど。


私的にはわざわざアデルハイト殿下を憑代にしなくてもあのままでも世界を滅ぼすくらい出来るんじゃね?って思うんだけどな~。



魔神と殿下の心を経由して侵入した私達は魂が剥き出しになった状態だ。

そんな私達がもしここで攻撃を真面に喰らえば魂が傷つき、最悪破壊されて二度と転生できなくなってしまう。所謂消滅という結果に繋がるだろう。しかも相手はこの世界を創り出した創造神。意志など関係なく魂は創造神の元に回帰する。


回避するために必要なのは魂の強さだ。


つまり、魔神の元に帰ろうとする魂に打ち勝つほど強力な意志、魂に宿る『自我の強さ』が確立されているかどうかが最大のポイントになる。魂の力が弱いものでは魔神に侵入した時点で本能のまま回帰することになっていた。


しかし侵入してこれと言って問題ないのは私とコールドリッジの魂が強かった! という場合ともう一つ。

魔神が私達の侵入など全く眼中になく好きにさせているかのどちらかだ。



『泳がされてる、に一票』


『ちっ、だがそうだろうな』



忌々しそうに吐き捨てるコールドリッジはいかにも不服です! と言わんばかりの顔だがそんなことは二の次として歩みを止めることは無い。彼の目的は取り込まれた魔王を殴り飛ばす事。その後の事はどうでもいいのだ。それこそ世界が滅ぼうと、魔神に滅せられようとこの男にはどうでもいい事象に過ぎない。


深く、深く潜る。

あまりに深くに潜り込んだら抜け出せなくなりそうだが仕方あるまい。魔神に取り込まれた魔王はとても深い場所にいる。

私の中にあえて残しておいたイェルサの魂が最愛の男の場所を教えてくれるのだ。そのイェルサが訴えるにはもうすぐそこに魔王はいるらしい。


〝フィリウス! 私のフィリウス!〟


さっきからこればっかりなんだよなぁ。いい加減やかましいんだよね。



『あんまり五月蝿いとコールドリッジにアンタの魂、差し出すぞ』



おっと。私としたことが!

思っていた以上に低い声が出てしまった。タハー!



『あ? 持ってんのかよ。それを先に言え。今すぐ嬲り殺してやらぁ』


『待ってください。一応コレを使って魔王をおびき寄せようと……』


『イェルサ……』



キターーー!!

ま・さ・か、ホントに、来るとは(笑)



『思ってたより単純www』


『見越して敢えて切り離さなかったんじゃなかったのかよ?』


『え? まさか。私が死ぬ時はイェルサも死ぬ時だと心に決めておりましたから! 道連れ消滅を願って敢えて手放さなかったんです♪』


『ミスったな……。オレも手放さなきゃよかった』



そんな私達の会話など全く聞こえていないのか、魔王は虚ろな表情で私の中のイェルサを見つめる。

欠片でしかないイェルサではあるが魔王からすれば愛しい女性である事には変わりはないらしく、酷く思いつめた様子だ。

大方、イェルサの本性を見誤った事への罪悪感とそれでもイェルサを愛しいと思っている気持ちと魔神から世界の管理を任されていたのにも関わらずその役目を放棄し、人間なんぞに心を傾けた事への無責任な自分への失望……。色んな気持ちがない交ぜになって、ただ愛しいイェルサ! とはいかなくなっているんだろう。多分。知らんけど。



〝フィリウス……! あぁ、私のフィリウス!〟



……学習能力ないんか、こいつ。

やかましいって何回言わせるつもりだ、クソ女!!



『お前の愛しい男は、お前の所為で目が曇った事で責務を投げ出したことに只今絶賛後悔中だわ。な~にが〝私のフィリウス〟だ。お前の所為で堕ちた精霊王は二度とその地位に舞い戻る事は出来ないんだぞ。お・ま・え・の・せ・い・で・な!!』


〝……ッ〟



黙り込んだが諦めてはいなさそうだな。魔王に堕ちたとしても目の前の魔王が精霊王であった頃の男と何ら変わりはない。愛した、愛してる男である事には変わりはないんだから。

でも少しは効いたみたいだ。一応死んだ原因が自分にある事はイヤイヤながら認めているようだ。


威勢の良かったイェルサだが今ではすっかり大人しい。挽回するチャンスを狙っているんだろうが、もう諦めてくれ。お前はただじゃ済まさない。



『その魂をこちらに寄越せ』


『『『「!!』』』



しばしの沈黙の後、何の前触れもなくその声が届いた。

凛と透き通った、それでいて威厳のある低い声。問答無用でその声に従いたくなる衝動に、声の正体がわかった。


魔神。

この世界の創造神であり、世界の管理者である精霊王の父。全ての生物の生みの親と言うべき存在に、魂が震える。



『その魂を寄越せ。完全に消滅してくれる』


『! ち、父上! お願いします、それだけは……!』



ハッとした魔王は慌てて魔神にイェルサの助命を嘆願するが、魔神は可愛い息子の方を見向きもせずに欠片でしかないイェルサの魂を寄越すように再度、要請した。



『寄越せ、娘。さもなくば、この小僧ごと奪うまでだがな』


『……は?』



ブゥオン―――!



『この小僧とは、もしや、我が敬愛するアデルハイト殿下の事でしょうか……?』



身体などないというのに頭が沸騰するような思いだ。イェルサの消滅は願ったり叶ったりではあるが、魔神に手渡してしまえばいとも簡単にそれはなされるだろう。

そんな事、許さない。

意味も解らないまま、消滅するなんてこれまでの『黒持ち』が納得できるはずがないんだ。



『殿下に手を出すなど許さない……! このクソ女を消滅させるのは構いませんが、それでも一瞬で終わらせる事にも納得できません!!』


『クソ女に誑かされた魔王を哀れに思っているのか知らねぇが、そんなもんこっちにゃ関係ねぇーんだわ。俺達が受けた屈辱を味わわせないと気が済まねーんだよ……!!』



エヴァン・コールドリッジもそうだ。簡単に終わらせるなんてそんなの、許せるわけがない!!

私達の怒りに呼応するように歴代の『黒持ち』達も眠っていても尚、殿下の心を介してその怒りを伝えてくる。



『笑止。元から貴様ら路傍の小石に―――』


『『『!!』』』



オオォォォォォ!!



『―――拒否権など、無い』



キィィィヤァァァッァァァァ!!!



耳をつんざくような轟音。生き物の鳴き声の様なそれは、外の世界で響いたものだ。そして、その音と同時に大きな揺れが襲った。


あまりの轟音に目を閉じ耳を塞ぎ耐える。

ただの鳴き声、されどそのただの鳴き声ですら命の危機を感じるものだ。生きとし生けるもの全てを襲う、死への恐怖。魔力のあるなしに関わりなく刻まれる絶望。




鳴き声と言う名の轟音が止み、目を開けるとそこにあったのは城を残し全てを吹き飛ばしたあとの、荒廃して瓦礫の山と化した王都の姿であった……


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