知るべき相手
++盃を二つ、写す笑みの色++
カラカラと転がる車輪の音。
これまでの道でこの音をどれほど聞いていた事か。
もう聞き慣れたはずの音が今までと違った響きに聴こえる。
・・・心境の変化、って奴かな
だがそれだと、一つ、二つ・・・三つ、数え始めたら切がない程この音は変化するのだろう。
一体どの音が本当の音なのかな・・・
少しばかり感傷に浸っているとポンっと背中に触れる重み。
「・・・暇か?」
軽く手にしていた手綱を膝にかけて振り返る。
「う~~~ん・・・暇、かも。でも悪くないよ、こういうのも」
「悪くない、か・・・っくくく」
「ん・・・?どうしたの、僕何かおかしい事言った?」
ヴリトラの答えに思わず笑うとヴリトラは小首を傾げる。
「いや、まぁ、なんだ・・・俺も同じ事を返すだろうと思っただけだよ、相棒」
「お兄さんと一緒か~。にひひっ、なんだか嬉しいね」
「そうだな」
本当に嬉しそうに笑うその頭を撫でていると更に機嫌を良くした・・・のだが。
「ブルルゥッ!!」
前方から抗議の声が聞こえる、昇竜が機嫌を悪くした。
「あはっ♪嫉妬って奴だね~、っと」
ヴリトラは俺の背中から離れトンッと軽く飛び上がり昇竜の背に乗った。
「昇竜も~、僕の相棒になってくれたんだもんね」
俺の考えの外にあった問題で少しは揉めるかもと覚悟していた事だったのだが、俺が昇竜とヴリトラを引き合わせると互いに見つめ合い頷き合った。
その光景に少し呆然としたのだが、その少しの間、事なきを得たと理解できた頃にはヴリトラが今のように昇竜の背に乗っていて、昇竜もそれを何か納得して受け入れていた。
謎はあるのだが、都合は良い・・・それに俺はヴリトラとの約束を果たし相棒と言うものを伝えられたと思う、ここからは多少時間を掛けることにした。
だが・・・もう少し楽な方法はなかったのかと、これは自身の不器用さのせいなのか・・・。
そういえば・・・不器用さで言うとあの後も中々に大変だった。
・・・今は思い出したくないな、思考が混乱する
俺は気持ちを切り替えて先に見えてくる郡境を視野に入れた。
・・・
・・・・・・
郡境を越えてしばらく行くと、見覚えのある顔の眉間が大変な事になっているのを遠目から確認した。
周りにいる他の奴等もその不機嫌さを感じ取ってかお通夜のように静かだ。
李堪達の前で馬車から降りて一先ずの再会代わりに気の聞いた一言でも・・・。
「・・・ぎ・り・ぎ・りっ、だな、雲成」
なんとかの緒は切れていないが李堪の口から発したものは言葉として出たものなのか歯軋りを使ったものなのか少々怪しい。
・・・下手な冗談はやめておくか
「すまないな。向こうで相棒と合流していた」
「相棒?程銀の報告にあった探し人か。・・・だが、主が招待したのはお前だけだ」
「会うのは俺だけが都合が良いと言うのなら途中で足を止めさせる。だがお前達には会わせずと言う訳にはいかないだろう」
「・・・?」
李堪は俺の言葉を理解できていない様子。
・・・あれには気付いているようだが
馬車の中からちらちらと見える人影。
最初は隠すかとも考えたが、これからまだ数日は同行する相手それは難しいし、ヴリトラがその間大人しくしているというのも無理だろう。
「ヴリトラっ」
「は~~い」
呼べば飛び出るなんとやら、ヴリトラは俺の呼びかけに馬車から文字通りに飛び出してきた。
そしてその姿を見た李堪の部下の一部がざわつく。
「り、李堪様っ!あ、あやつです!!」
「雲成の連れが何だと言う?」
「我等を襲ったのはあやつですっ!!」
「っ・・・?!!う、雲成、貴様まさか!!」
部下の口から告げられる事実。
それを聞いた瞬間、事態を理解したのか俺は李堪に胸倉を掴まれた。
「顛末は話す。だから離せ、じゃないとお前が危ない」
「なに、をっ・・・?!」
荒々しく掴れ、離す時も同じ。
だが、離してくれた事に一先ず安堵する。
「えぇぇ~~っ?!離しちゃうのか~、残念だよ。君とは遊べるかなって思ったのに」
俺と李堪の間にしゃがみ込んで李堪を見上げる笑み。
傷ついた身体に響く殺意の胎動がそこにある。
李堪はそれに気づいて、諦めたのだろう・・・自身の部下の仇を討つ事を。
「・・・話せ、雲成。こいつは何者だ・・・お前はこいつがいるから俺達にあれほど胸襟を開いていたのか」
「話すが、腰を据えて話す時間が欲しい・・・お前も俺もこいつも落ち着いて話した方が良い筈だ」
一先ずの説明・・・というか釈明をした。
頭一つ下げて済むのなら下げるつもりだったが・・・。
「っっっっっっっっ!!!」
これは切れるというか爆発寸前だな・・・
浮き上がる血管、世には血管フェチと言う者がいるそうだがこれを見てもそのフェチズムを抱けるのだろうか。
何か物に例えるならマスクメロン。
肌色メロン・・・俺が同一のフェチズムを持っていたとしてもこれは愛せない。
だが、李堪がこれ程苛立つのも無理はない。
いっそ怒鳴り散らせれば楽になれるものを無理に堪える・・・堪えなければならない。
李堪が声を荒げ再び掴みかかるのなら俺の背中に乗っている存在が動く、それを理解して。
自身の部下を壊滅状態にした事実、実際に目の前で発せられた殺気から感じたのだから理性がある限り容易に手を出せるわけがない。
その理性も一押しで吹き飛びそうだが・・・
「お、お前の連れのせいで部下が傷を負ったが、それを治療したのはお前だ。だが・・・だが、元はお前の頼みを引き受けたが故にそれが起きた。くっ、落ち度は俺の・・・」
「いや、俺に非があったのは確かだ。どのように差し引きしても非の度合いは俺の方に傾く。だから俺はお前個人に対して一つ返さなくてはいけない」
「返す、だと?!・・・俺は仇を討てず、お前に仇で返されるという事、だと言うのならっっっ」
ぷるぷると震えだす李堪。
今のこいつの頭の上にやかんでも乗せたら軽く沸騰して中身が全て蒸発・・・多分このままで放置したらこいつは憤死する。
「ここでお前の言う事を何でも聞く、と言っても信用はされないだろう」
「あ、あた、当たり前だっ」
・・・怒りで呂律が怪しくなってないか?
「まぁ、望みがあった所で今ここで実行出来るもの以外は信用すらされないし、出来ると言えばこの首を差し出す位が精々だ」
「首をっ?!いや、だというならどうすると言う」
「だから一つ、物で解決してくれないだろうか」
「物・・・っっくっ、はぁ~~、いかん・・・少々熱くなっているようだ。遺憾ではあるが、お前の口上を聞く。お前は何で詫びとする?」
ようやく頭に上った血が引いてきたのか、メロンのような血管が引いていく。
多分だがもう一回浮き上がる気もするが俺は懐からこの旅で得た収穫物を取り出して李堪に渡す。
李堪は俺が渡した巾着袋の中身を見て眉間に皴を寄せる。
「・・・なんだ?米?しかもこの量で詫びだとっ」
「早まるな。それは沛国で得た物だ、あそこの農学士の手伝いをした時の報酬で受け取った」
「・・・それがどうしたと言う」
「それは日照りに強い米・・・厳密に言うなら少量の水で育てられ、その中でもしっかりと穂を垂れ下げた物。それが広く地に広まればどうなると思う?」
「・・・旱魃、日照りがあっても充分な量が収穫出来ると言うのか」
「まぁ、それだけでは無理だがほかに必要な農法も書簡になっている」
「五年後の千金、と言う辺りか・・・真実ならばだが。しかし、これがこの米がそうだとしたのなら、貴様は先に言った言葉を否定しているぞ」
「確かに、この場で証明できないからな、それでは不足があるだろう。だからもう一つ・・・ヴリトラ」
ある程度の予測通りの反応を得て予定通りにヴリトラに声を掛けたのだが・・・。
「ん~・・・なぁに?話終わった?」
「いや、あと少しだ。だからあれ持ってきてくれるか?」
「あれ・・・?あっ、昨日お兄さんが言ってたやつかな。ここに持って来ればいいの?」
「あぁ、頼む」
ようやくの出番に元気良く頷き、ヴリトラは飛び出して行き、それと同様の速度で戻ってきた。
そして俺の脇に置かれる、人が入れるほど大きな水瓶。
だがその中身は水ではない。
「・・・酒の類か?いや、違うな貴様ならば『これはただの酒ではなく五年後には良い老酒になる』とでも言いそうだ」
「ははっ、それで良いなら今後の事もある用意しておこうか。だが生憎とこれは酒ではない」
そう言って、瓶の中に手を入れその中身を取り出す。
「・・・白い石?」
「岩塩だ・・・海から遠いこっちでは塩は金と等しいと思うのだが俺の思い違いではないだろう?」
「岩塩・・・この中身が全て」
この反応なら俺の理解どおりで良いらしい、そう思っていると李堪の口から興味深い一言が告げられた。、
「・・・確かに塩は貴重だ、塩の取れる湖は五胡の支配する地。それを個人でこの量か・・・不足、とは言うには少々難儀する」
・・・こっちにも塩湖が、土地の先入観、だな
危ない所だった、もし五胡の支配地でなかったのなら交渉材料にするには量が少なかったかもしれない。
だが、一先ず李堪は水瓶の中の岩塩で手を打ってくれるようだが・・・。
「だが、何故これ程の量を。どこで、いつの間に手に入れていたと言う」
当然の質問を李堪は口にする。
塩が貴重なのは何処も同じ、古来から塩は専売なり国の管理する所、入手経路次第ではと考えていてもおかしくはない。
さて、ここは素直に言うべきか・・・いや、後々これで利用したくはない
道中の金策として用意しておいた物ではあるが、その方法を教えろ・・・と言うのに答えるには迷惑を掛ける人達がいる。
「悪いな・・・それに答えろと言うなら目の前の当金と千金の粒は返してもらう」
「・・・っ、わかった。貴様の答えを聞いて俺達が出来る事ならば目の前の当金は金に非ずだが、今の貴様の言には目の前の利を手放すだけの信はない・・・そこまで見越して貴様は”物”と言ったのか」
「そこまでは考えていないな。ただお前がどこで頷くかどうかと考えたくらいだ」
「そうなのか・・・しかし、その答えにすら信用はない。何故、米粒を出す前に塩を出さなかった。価値と言うのなら塩の方が上・・・」
「価値が大きいものから、と言うのならその通りに俺は提案したつもりだ」
「五年後の千金など俺が信用するとでも?」
「・・・さぁ、どうだろうな。俺は真に信と言うものを知らない愚者だ、お前が俺をどれだけ信用しているかなどわからない」
「愚者、か・・・。ふっ、確かにそればかりは信用してしまいそうだ。少しばかり貴様を理解した、この件は米と塩、それで水に流そう。・・・まったくこれではあいつも苦労した事だろうな」
「あいつ?・・・まさか程銀の事を言っているのか?苦労させられたのは俺だと思うのだが・・・」
道中でどれだけあいつに対して溜め息を吐き出したことか、それを数えたのなら比を見る明らか。
だが俺の答えに李堪から明確な肯定はなかった。
「貴様がそう言うのならまぁ、良いだろう。これは俺個人的な意趣返しとさせてもらう・・・精々苦労しろ、馬雲成」
そう言って似合わない笑みを浮かべる李堪。
俺はその言葉の意味を出来ないまま李堪は俺に背を向けて部下に行進の指示を飛ばした。
・・・
・・・・・・
李堪とその部下達が旅路に加わり所帯が増えた。
李堪は水に流すと言ったが、さすがに多少の遺恨が残っているのか李堪の部下に落ち着きはないのを感じる。
ヴリトラはそれをどう思うのかと思うとあまり気にするそぶりはない。
ただ俺以外の人間を見て遊びたそうにしている・・・ような気がするので道中は俺の背中に引っ付かせておいた。
広魏郡を抜け武威郡から少し迂回する形で金城郡に入った。
それから半日程度馬を進めると俺が行く時には通らなかった街・・・と言うか砦というべきか。
なかなかの規模の城壁が周囲を囲っている。
「・・・雲成、ここから主の屋敷へ向かうのだがお前の連れの事もある。一先ず先に俺が向かい主にそれの同伴を確認してくる」
「そうしてくれると助かるが・・・」
「俺も貴様の連れに対して理解できる事があった。それは貴様の傍にいた方が面倒が少ない・・・下手に離しておくと折れる骨の数が違うと判断した。一先ず一刻でその報を返す」
そう言い半数の部下を残して李堪は砦の中へ向かっていった。
・・・旅気分もここまで、か
これまでの道中の事をほんの少し思い出す。
天意、それを追いかけながらこの国の情勢を知り、幾つかの望みを抱いた。
・・・俺はここから・・・それならあいつに
ヴリトラと再会を果たし、新たな約束と共に、供にある事を知らせた。
ようやくこの世界に来た一歩、この世界で生きるための一歩、俺がやり直すための一歩を踏み出すのだと砦を見つめた。
「お兄さん、どうしたの?」
「いや、なんでもない。一先ず昼にしようか、ヴリトラ」
早めに昼を取っていると李堪からの伝令がやってきた。
その答えは「構わない」と言うもの。
歓迎ではないが拒否しないと言う回答だ。
・・・腹の探り合いは嫌なんだが
選択を委ねると言う表現なら易しいが、相手にもよるし選択できる状況にもよる。
単純な選択ならば俺はヴリトラと昇竜にはここで待ってもらう事を選ぶ。
不測の事態、それが起きた時そちらの方が自由が利く。
だが、今回の「構わない」と言う答えならば連れて行かないとならないのだろう。
そこであえて待たせておくという事をすれば相手はこちらの腹を隠す行為、警戒すべき者と判断する。
それでは相手は決して腹を見せない。
探る腹のない場所へわざわざ向かうなど、それではこれまでこっちの情報だけを投げ渡した事になる上に俺が想像する以上の最悪に展開していく可能性が生まれる。
俺の存在を利用できる・・・それがあるから相手は俺との対面を望んでいた。
だから相手の顔を拝むまではその望み通りに俺は進む事にした。
その先は・・・
食事を終えて、広げていた荷を片付けて、そこからゆっくりと砦へ相棒達と進んでいく。
その中で周囲には当然と李堪の部下が同行するのだが、それが厄介だった。
可能ならヴリトラに砦の様子を確認したかったし、昇竜には万一の時を伝えたかった。
事、街であったのなら昇竜には万一何かあればと幾つか伝えているものがある。
だが・・・砦と言うものは面倒だ、城門を閉じられると出入りできる場所が限られる。
壁の厚い場所、薄い場所、それを知りたいが実際に触れて回れるような状況ではない。
ヴリトラがいれば・・・その考えに甘えてしまうのは危険だ。
・・・俺はそれで間違えている
周囲に気取られないようにどうにも役に立たない鼻を引くつかせて城門を潜る。
中には常駐している兵の姿、それに行商の馬車。
一先ずは平常運転の形のようだが、兵達の視線が気に掛かる。
あえてこちらを見ないようにしている、そんな気配。
さすがに無防備、無警戒というわけではないだろうし、あちらも何か考えているようだ。
そうこうしているうちに俺達を先導する兵は建物の前で立ち止まっていて、そこで俺は昇竜を待たせて中に入る。
・・・にしても、面倒な
この砦の作りの所為だけではないが気配が読みづらくてしょうがない。
だが、周囲に気取られないようにと配慮していては結果は分かっていた。
一先ず、外にいた兵の数は概ね、だが建物の中は近くを通らないと把握し難い。
敷地と建物の規模、外にいた兵から逆算して総数で三百、多くても五百いるかと言う所。
これくらいならばと思いたいが・・・
あれこれと思考を巡らせているとふいに俺の視界に写り込んだ笑み。
砦に入ってから一言も発していないが大人しくしていると言うよりも周囲を観察して・・・楽しんでいると言って良いのだろうか。
少なからず機嫌が良いと思う、それが何故なのか・・・と考える前に思いつくことがある。
「・・・ヴリトラ、ここでは遊べないからな」
「っ?!だ、大丈夫だよ。ただ少し面白い人がいるなって思っただけで・・・」
「それなら良いがここで始めてしまうと昇竜が困る事になるんだ。遊べそうな時は教えてやるからそれまで大人しく頼む」
「ほんとっ!なら、大人しくしてるよ」
「・・・ふぅ、しかし、早々に遊び以外の楽しい事を見つけないとな」
そう希望を口にしてヴリトラの頭を撫でていると、一目で砦の主の部屋だと分かる装飾が施された戸の前まで来ていた。
そして、先導していた兵が戸の前で声を掛けると「通せ」と言う声が返ってきた。
戸が開き、その向こう側にはまるで玉座のような椅子、そしてそこに座する妖艶な格好の女。
脇に控えるのは李堪、ともう一人・・・初老というには少し若い男。
「よく来たね~。さあ、こっちに来て顔を見せてくれるかい」
そう笑んで俺達に声をかけるが・・・余り好きになれない類の笑みだ。
それに上から物を言うその態度はあまり好ましいとは感じない、だが選り好みしている状況ではない。
いきなり敵対心満々と食って掛かるつもりない。
その言葉に従うように部屋の中央まで進んで軽く一礼する。
「お初にお目にかかる、俺が馬龍、字は雲成だ。こっちのは相棒のヴリトラ」
「ふぅ~ん・・・聞いていた通りだね、奇妙な傷跡だ。ふふっ、さながら黒毛の虎かい?それにあんたの連れの名、この国の者じゃないみたいだね~」
品定めされるように俺達は一頻り観察される中、女の視線に違和感を感じた。
そして、続いてきた女の言葉は敵意よりも興味、俺の違和感はそこで確信に変わった。
「・・・俺達に興味を持ってくれたのは良いのだが、先にあんたの名を聞きたいものだ。名乗らずとも良い場であったというのなら知らず名乗ってしまった俺が間抜けのようだ」
「くくっ、言うね~。あんな書簡を寄越しておいてあたいが誰か知らないって言うのかい?」
「悪いが二度同じ事を言うのは面倒だ・・・だが、だからと段取りを飛ばして話をする気はない」
「・・・省ける手順をわざわざと、聞いた話とは少し違うようだ・・・まぁ、いいさね。名乗ろうじゃないか」
そう言って女は脇の二人に視線で指示する。
すると、二人は一歩前に出て俺達を見る。
「雲成殿、気を悪くされるな、若い者は兎角面倒事を嫌う。これは主なりの配慮なのだ」
「俺は貴様が面倒なやり取りを好むとは思わなかったが・・・姓を李、名を堪、字は子満だ。道中と変わらず良く分からん奴だ」
「李堪、そう言うものではない。節度を弁えるべきと雲成殿は言うのだろう。ワシの姓は馬、名を玩。字を公読」
李堪と馬玩の二人は思いのほか友好的な口ぶりで名を答えた。
そして、女が立ち上がると二人は元の位置に戻る。
「あたいは・・・韓遂、字は文約さね」
・・・やはり、か
女が名乗るその名を俺は知っている、それは俺の数少ない三国志の知識の中にあって俺が危険視する者の一人の名だ。
幾つかの逸話を聞いて俺は韓遂が西涼の中で・・・いや、漢の国にあって特異な存在と思えた。
それが俺の知る通りの自分物であったのなら俺はこの場で・・・。
と、目の前の人物と頭の中にある知識を照らし合わせていると袖がクイクイッと引かれた。
「・・・ねぇお兄さん、遊んで良いの?」
「まだだ」
「でも・・・」
「わかっている。だからもう少し任せてくれよ、相棒」
そう小声でやりとりしている間に再び椅子に座してこちらを窺う視線。
ヴリトラの頭を軽く撫でてから視線をそちらに向け直す。
「これで段取りは元に戻るだろ。今度はあたいの質問に答えな。あんたの連れの同伴を許した”手順”としてさ」
「・・・・・・」
俺はその声に黙した。
黙す必要がある、これ以上舐められてはこれからの会話は向こうからの一方的な言い分を聞くだけになるから。
「なんだい、あたいにもう一度問い直せというつもりかい?」
「いや、あんたが問う必要はない。もうあんたに用がないだけだ」
「っ・・・雲成、貴様っ!」
・・・あぁ、血管が
俺の答えに李堪は一瞬で青筋を浮き上がらせて怒声を上げる。
李堪がどれほど声を荒げているとしても気になるのは一つ・・・いつ、李堪の血管がはち切れるか。
じゃ、ないよな・・・そろそろ茶番は片付けよう
「李堪、そう怒るな・・・俺は韓遂殿と話をしに来たんだ。そろそろ会わせてくれないか?」
「なっ、何を・・・まさかっ?!」
「ほぉ、これは・・・」
「っ・・・」
俺がそう言うと李堪は驚きに声をあげ、馬玩は感心するような息を漏らし、一人座する者は苦虫を噛み潰した。
それらは目の前に座る女は韓遂ではない、と言う証拠だ。
材料がこれほど揃っていればさすがに気づく。
俺が名乗った後、自然な流れなら自身から名乗る。
だが、それをせず、こちらが求めると女が心を揺らすのを俺は見逃さなかった。
名乗りの後、女は嘘をついた・・・ヴリトラはそれを合図と取りそれを俺に伝えた。
そして、なにより・・・
「時間がかかるようならそこらで暇を潰させてもらう・・・ここは良い遊び場だからな」
「にひっ、それって良いのかな?遊んで良いのかな?今度は李堪も遊んでくれるよね?」
ヴリトラがそう李堪に笑いかけると李堪は慌てて視線を泳がせる。
「い、いや、待てっ!!・・・お前達まさかっ、俺まで?!!」
「第三席より命じる、今しばらく黙っておれ」
「馬玩っ・・・」
李堪も・・・という事は敵を騙すのならまずは味方から、とでも言うつもりだったのか。
だが、なんとなくだが何をしたいのかは理解した。
「・・・馬雲成、何を持って今の言を吐く。事と次第ではあんたの出自を暴いてもいいんだよ」
「好きにすればいい・・・が、まぁ一つ答えるなら、あんた程度だったら話し合いの必要がない、そう判断した」
「・・・どこからだい」
「これ以上欲張るな・・・俺はそっちが答えないのなら答えやすいようにするのも厭わない・・・程銀の時とは違う、ここで遠回りする気はない」
「っ、手負いのくせに、吠えるじゃないか」
先程までの余裕の笑みはない、女は立ち上がり俺を睨みつける。
その様子に李堪は俺ではなく女を睨み、馬玩は腕を組み静観していた。
「・・・軽く遊んでやるくらいには直っている。それじゃ、ヴリトラ」
「ひひっ、じゃあ~かくれんぼしてる人からっ♪」
俺の声にヴリトラは飛び出す、正面の三人ではなく真横の壁に、そしてそのまま壁を掌打で破壊した。
「にひっ、み~つけた。君も遊んでくれるよね?」
「ちっ・・・」
舌打ちと共に現れるのは全身を黒の衣装を纏う少年。
見つけ出した少年に笑みを向け、次いで李堪達の方へ視線を向けてヴリトラは一歩足を進める。
「じゃあ、後もう一人・・・」
「あーー、それは待っておくれ。これ以上部屋を壊されてはかなわない」
これは韓遂を名乗った女の物ではない。
声は李堪達の後方から発せられた。
壁の一部がめくれ上がるとその向こうから姿を現す・・・。
「あたいが韓遂だよ、本物のね」
瓜二つの顔、体格、しゃべり方、良く似ている。
だが一つ違うものがある・・・風格、それだけは真似出来ないのだろう一目でその名を信じることが出来た。
「ようやく、か・・・ヴリトラ、残念だがまだ遊ぶのは出来ないみたいだ」
「えぇ~~っ」
「まぁ、俺もこのままはあまり面白くない。これ以上つまらないやり取りをするようなら次は止めない、全力で遊んで良い」
残念がるヴリトラは渋々と俺の隣に戻ってきた。
その様子を見ながらもう一方に注意を向ける。
・・・これが、韓遂・・・あんたの挨拶か
「いやいや、ちょっとした余興のつもりさね。そう怖い事を言うもんじゃないよ~」
「韓遂様・・・申し訳ありません」
「面白いものが見れた、充分さ」
偽りの韓遂はその化けの皮を剥ぎ取り、黒装束の少年と共に韓遂の傍で膝を着き自身の主に頭を垂れる、その姿に少しばかり驚く。
化けていた時に比べて身長が違いすぎる、よくよくこの”八旗”単純な力の集まりじゃないように見える。
それにこの韓遂と言う女は俺たちがどこまで偽者と会話し、その情報を漏らすのか、試すにしても悪趣味だ。
「さて、警戒させてしまったかい?あんたの事を色々と教えてもらった代わりにちょっとこいつの特技をみせてやろうと思ったのさ」
「面白いものではあるが、楽しめるものじゃなかったな」
「くくくっ、そうかい、それは悪かった。なら、仕切り直しさね。あたいに化けてたのが張横。あんたの連れが見つけたのは楊秋、こいつは間諜として優秀なんだけど・・・その子の方が一枚上だったみたいだ」
悪かった、そう言って悪びれる様子のない韓遂は俺達に二人の名を明かして俺達に再び興味を示す。
「面白いね~、あの馬騰にこんな隠し玉、弟がいたなんてさ・・・この二人が同時に暴かれると言うのは初めてさ。今後の”利”のために教えてくれないかい」
「・・・俺の言葉程度で心が揺らぐ人間であったのなら期待外れというだけ。それとこいつは隠れている人間を見つけるのが得意だ、見つかりたくないなら千里先にでも行くべきだろうさ」
俺の答えに韓遂は上機嫌に笑う。
「ははっ、それはそれは、また面白い。言葉でも想定外を運び込んでくるね~」
「言葉でも、という事はここにいるというのはあんたの想定外なのかな」
「ふっ、そうさね。・・・ここで対面すると言うのは想定外ではない、けど想像以上と言う所。けどね、あんたの連れのおかげで風通しが良くなってしまったというのは想定外さ。ここでは風が入って寒い、場所を変えようかね」
奥の間、というのか先程韓遂が出てきた所を通されると先程の間よりも幾分か小さな部屋があった。
そして、そこには一卓の机と人数分の椅子が揃えられていた。
・・・ここに通されて初めてお目通りかなった、というわけか
「さて、自己紹介が終わった所で、先ずは予定通り問うべきを問わせてもらいたいんだが、いいかい?」
俺は少し考えた・・・ふりをする。
問うべきとは何を指すのか、そんなもの俺が送りつけた書簡の事以外にないのだ。
だが、この女からは嫌な雰囲気がする。
ただ素直に受け答えする事が危険と思えてしまう。
「・・・元よりそれを話す事が目的だ」
「食えないねぇ~、まぁ話を進めない事には・・・なら先に送ってきた書簡の内容、あれをどこで知ったんだい?」
「俺は可能性を書いただけ。俺の噂にひれをつけたあんたなら恐らくと」
俺を馬騰の血族”馬”の姓を持ち、西涼に突然と現れた俺を一番に利用したいと、排除したいと考えるのは韓遂以外にいない。
そして可能性を抱く・・・抱けるのは俺が韓遂を知っていたからだ、三国志の中にあって俺が唯一嫌悪した韓遂だったのなら俺という存在はそう看過出来ないはず。
俺の中では呂布をも超える裏切りの代名詞・・・韓遂。
こいつが何をこの世界で考えるかによっては、西涼を、家族を、俺が新たに得た目的を悲劇の底に投げ込む。
ただこの世界は俺の知る三国志の世界ではない、それをこの旅の中で俺は理解した。
けれどそれらしさを残している部分もある、だから俺は韓遂に会う必要があった。
俺がやり直すためにはこの韓遂の存在、それが害悪となるならば躊躇せず、迷いなく・・・殺すために。
さぁ、どう答える・・・
心が揺れそうになるのを堪えて韓遂を見れば・・・その顔は笑みに歪む。
「くくっ、あはははっ、あたいはまんまとあんたの鎌にかかったって訳かい?」
韓遂の顔には嫌に、嫌気が差すほどに余裕が溢れていた。
俺はその笑いに笑みで返す。
「いや、掛かりが甘いらしい。対応はそれらしいが、まだあんたは明確な事を口にしない」
「それはお互い様さね。”切り取りの時機はいつだ”なんて内容なんだ。あんたが何を考えて、何を言いたいのか、それ次第さね」
「まぁ、そうだな。先に二つ確認させてもらう、それが俺の勘違いでは話にもならないからな」
「あぁ、構わないよ」
「俺が幽州へ向かう道中、自身の噂を耳にしたがあれを流したのはあんたの仕業だな」
「どうしてそう思うんだい?」
「噂の内容が誇張されている事、俺の足よりも先に噂が流れていた事、それを知り実行出来る人物、それで得をする人物・・・そう絞る中で接触してきたのが程銀だった、あの書簡を受け取ったという事はその根元はあんただ」
「偶然、とは考えないのかい?それに噂を誇張させる事で得をする者が他にもいるだろう・・・ただあんた達に損をさせたいだけと言う者もいたはずさね。その”可能性”とやらは考えないのかい?偶々、あたい達がそこに乗り合わせしまっただけだと」
俺の噂、それを聞いた時は降って沸いたような話に感じた、尾ひれがつくこと事態は自然だ。
だが、その数日後に俺が思い浮かべ考え始めたのは・・・。
あんたの事だけ、なんだ・・・それ以外は
「考えない。あんたが噂を確かめたいのなら先に西平へ使者を出すのが妥当、俺が不在ならば待てば良い。わざわざ追いかけてくる必要はないはずだ・・・俺に何かさせたいと考えない限り」
とぼけるように答えた韓遂に利で答える。
すると、韓遂は軽く二度頷いてから話を再開させた。
「まぁ概ね、認めようかね・・・で、何故噂を流したと思うね」
「あくまで主導権はあんたか、だがそれを話す前に確認する事がもう一つあるのを忘れないで欲しい」
「何を確認するつもりだい」
「・・・あんたが涼州を欲しているかどうかをだよ、”韓約”殿」
「っ?!・・・ははっ、これは驚いた。その名を知っているのかい?いつぶりかね~その名を聞くのは」
「韓約・・・?主、それは一体」
「あたいの昔の名さ、これは馬騰も皇甫嵩も知らないはずさね。・・・あんた何者だい」
俺の口にした名は韓遂の急所だったようで冷たい視線で韓遂は俺を突き刺す。
だが、同時に瞳の奥に熱さを感じた。
強い瞳、気高い瞳が俺を映し出す。
そこに写る俺は、笑っていると感じた。
だが、俺が笑っているわけじゃない・・・もう一人の俺が韓遂の瞳から俺を見て笑っているのだろう。
・・・もう後戻りは出来ない、と言うんだろ?わかってるさ、俺はやるべきを・・・その先の答えを求める
心は決まっている、あの笑顔を俺は知ってしまったのだから俺がするべきはこの道を行く事。
鼓動する心臓を一つ、二つと数えてから韓遂に応える。
「・・・答えがないならここで終わりにしよう。どうも俺の勘違いがすぎたようだ」
「そいつは早計さね~。はぁ~、あたいもまだまだだね~見込みが甘かった・・・いいよ、一先ずあんたの鎌にかかってやろうじゃないか」
韓遂はそう言って俺の言葉にようやく応じる形を取った。
これを聞いてしまったら俺はそれに乗るか反るか。
乗ればこの世界に干渉する、史実、演義と違う流れを生み出す。
反れば韓遂達を敵として殺す算段を始める。
そう一度胸の中にある答えを取り出してもう一人の俺に宣言する。
・・・俺は進むぞ。俺は今度こそ守る、もう一度、俺はっ、
「・・・じゃあ、聞かせてくれるか。あんたの望みを」
「あたいは・・・この地、涼州を欲している。そして、涼州は漢から独立するそれが望みさ。あんたが書簡で寄越した内容に違いはないさね」
韓遂の答えに俺の可能性が肯定され始めた。
しかし思うよりも簡単に俺の問いに答えたものだ、これは反乱の兆しでなく、反乱の宣言。
韓遂は更に言葉を重ねる。
「それにね、あんたはどう思うね。この国は広すぎるとは思わないかい?宮廷から必要なお達しが来る頃には季節が変わり、下手すりゃ年が変わる。そのくせ税の取立てだけは早いさね」
「税を納めてそれに似合う利がない、そんなもの足枷と言った所だろうな」
「それだけじゃない、取り立てた税を宦官連中だけで喰らうのさ。あんたはこんな事が罷り通っていて黙っているかい・・・あたいは出来ない」
「その所為で自身の名を捨てる事になっても、それを望むのは何故だ」
「そうさね~・・・結局は自分のためさね、自分の利のため、それに違いはない。ただあたいは自分のためだけに使うつもりはないさね。その利を使えばもっと大きな利を、それを皆で等分できるものに変えられる」
「それを支持してるのが・・・」
程銀達、というわけか・・・
「そうさね。こいつらという訳さ。こいつらはあたいを主と呼び、巷じゃ手下八部なんて呼ばれてるけど、心同じく集う同志って所さ。まぁ、その呼び名も都合が良いからそのままにさせているけど、あたい達の中じゃこう呼ぶ・・・”八席忠旗”ってさ」
聞いた事のない呼び名だった。
俺が知る名は”手下八部”もしくは”旗本八旗”。
やはり何かずれている、と考えるべきか・・・
「八の忠義、八の旗、八の席で”八席忠旗”さ。まぁその話もしておきたいと思っていたんだけど・・・少し答えすぎたようだし。さぁ、今度はあんたの番さ」
幾つか先手で情報を得る事が出来た。
だが、韓遂からの言葉はここで打ち切られ今度はこちらの答える番が回された。
多く答えた、その釣り銭をどうするつもりなのか韓遂の様子を窺ってもそれは見抜けない。
「・・・さっきの問いは変わらずで良いのか」
「くくっ、面白い奴さね。・・・それは変えても良いと取るよ」
「変えると言うのなら何を聞く」
韓遂は数瞬考える中、李堪を見た。
・・・何を問うつもりだ
明確な出自を問うものでないのなら概ね答えられる。
何を俺から引き出すつもりか・・・程銀、李堪に持たせた俺の情報の中で何を求めるのか、それがこの場での最後の問い掛けになるかもしれない。
そう、これまで与えてきた情報を整理し記憶の引き出しに手を掛けてると韓遂の口が開く。
「あんた、酒は飲めるかい?」
「っ・・・?!」
・・・はぁっ?
思考の中で韓遂の言葉に呆れる自身がいる。
引き出しの中にない問いが来て、巡らせていた思考が停止した。
「報告の中には酒を飲んでいる様子はなかったからね~・・・良い酒があるのさ、飲むのなら付き合ってくれないかい?」
俺が答えに悩んでいるとり先にヴリトラが反応を示した。
「お酒っ?!僕は好き~!」
「ははっ、まだ小さいというのに酒を知るかい。あぁ、飲むと言うのなら用意するよ、ただ悪いけれど盃が足りないから少し待っててくれるかい?・・・で、あんたの連れはこう言っているけど、どうなんだい?」
韓遂はこの問いに対し答えたものが大きすぎる。
それをこの場で俺が疑い、その酒など飲むわけなど皆無だという所、それに誘いをかけるというのは・・・。
「・・・毒を盛るなんて陳腐な真似をするつもりではないだろうが・・・何を考えている」
「少し話しすぎたんでね、喉が渇いたさね。それに酔ってくれりゃあんたの口も軽くなるんじゃないかと言うあたいなりの策さね」
「・・・・・・」
この策は俺が飲む事が前提。
それでなければ、自身が酔うばかりで軽くなるの自身の口だけ。
もし、飲んだ所で俺より酒に強くない限りそれは愚策。
俺の疑念に何かが写りこむ。
・・・これは、昔・・・誰かが
そう誰かが言っていた・・・安易に相手から差し出された物を口にするなと。
その意味するところそれは、暗黙の中で・・・。
「どうしたんだい?答えてくれないのかい、飲むのかい?飲まないのかい?」
韓遂は催促するように問い掛ける。
その問い掛け方は、やはりそう言うことなのだろう。
俺は李堪達に向けて言う。
「あんたらは俺が酒を飲むという事に異議はないのか」
だが、それに李堪達からの答えはなく、韓遂がそれを代弁するかのように答える。
「異議があったならあたいは問わないさね。意義があるから問うのさ。・・・あたいらの同志にならないかと、さ。問うべきは全てあんたが答えてくれたさ、なら後はあんたが問うだけで構わない・・・元よりここはそういう場だからね」
そう言い韓遂は立ち上がり部屋の棚から酒瓶と二つの盃を取り出して俺が問う前に答える。
「あたいは気にしていたのは一つ、あんたがこの国を、この西涼をどう思っているのかという事だけ。でもそれはもう充分に伝わったさ。あんたが西涼をどうでも良いと思っているならここにはいない、どうでも良いと思っているならあたいに問い掛けたもの全て意味はなく何の利もない。会ってからずっとあんたの瞳はあたいを逃がさない、それだけの想いを持って対するなんて相手、八席忠旗以外なら馬騰しか知らないさね」
韓遂は再び席に着き、手にした二つの盃を満たす。
「それで確信したよ。この酒を飲もうと飲むまいとあんたは西涼のために動く・・・なら、あたいはそれで良いさね。あたいが大事なのはこの西涼、そして涼州。あんたがあたいの昔の名を知っていていると言うのに共に来たのは宮廷の役人じゃなく、可愛らしい童。という事は馬騰よりもあたい達に近い思想の持ち主という事さ」
注がれた酒の香りを楽しむように顔を近づけて、その色を確かめるように軽く盃を傾ける。
「それならついでのついで、あんたはあたいの注いだ酒を飲むんじゃないかと、誘いを掛けるのさ」
そして、満たされた盃が差し出される。
「どうだい?この酒はあんたの期待を裏切らない味だとあたいの名で保障するよ。さぁ、ここからはあたいのくだらない雑談に付き合っておくれよ」
差し出された盃に写る韓遂は笑みは暗く深く、盃の底を隠すように俺は感じた。
NextScene
++貴方の色と、私の異路++
えっと・・・から始まるあとがきです。
懺悔と後悔はどこへやら・・・
ここでの対話パートちょっと頭がくねくねと揉みくちゃになりながら・・・と考えて、考えて、プスプスと頭から煙が上がっています。
一先ず、まとめると”韓遂と会いました”で終わってしまう部分。
ただここでそれで済ませられないのは韓遂の独立、反意という部分でしょう。
三国志の知識があまりない・・・としているんですが、ないわけではないと、人は忘れる生き物ですですが、消去されているわけではない・・・って所です。
裏切りの因果を知り、世界を跨いで記憶されていたものが引き出された・・・と言いたいのですが。
うぅぅぅん、言い訳っぽい、解釈次第、解説必要って感じがしてしまってちょっと、じゃない!・・・力不足感っぱねぇ!!
さてはて、ここからきっともっと辛くなっていくことでしょう。
さぁ、脳みそ回転させすぎて遠心力で潰れない事を祈りながら次話を書きます。




