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恋姫天衝 ~対極の御遣い~  作者: 雀護
 ・~西涼への帰路~
37/44

解らず、変わらず







 ++軽率な行為は、身を滅ぼす++








 

 ”軽率な行為は、身を滅ぼす”

 

 そんなもの言われずとも知っている。

 だが、人は得てしてその軽率さを知らないものだ。

 だから世界には身を滅ぼす者が絶えない。

 


  特に俺はその典型だったらしい・・・

 







 楼杏との会話で色々な誤解、行き違いは一先ずの形で句読点を付けられたと思う。

 自身の在り方を問われたような・・・一歩だけ人の道に戻れるようなそんな気がした。

 楼杏との話し合い?・・・せめて椅子に座って机を挟んでいてくれれば話し合い、相談、会談とか言えたんだが・・・。

 だがそこで閻忠の今後を聞き、その中でヴリトラの事も耳に出来た。

 やはり、ヴリトラは閻忠と共にいるらしい。

 楼杏がどうして俺とヴリトラが繋がっているとわかったのかそれは疑問を感じていたが『秘密です』と言われた。

 気にはなるが詮索の必要はない、事実は変わらずヴリトラの居場所が知れたのだから。

 ならばその他は些事と言える。

 後はあれとのどのような再会を果たすべきかを考えるに終始する。

 見知った相手がいることへの安堵が俺に油断を与えたんだろう。

 大まかな状況を楼杏から確認すると俺は夕飯を食べようと楼杏と共に町へ繰り出した。

 右腕を解放してもらう機会を伺いながら・・・まだ問うべき事があった事を忘れて。

 



 

 安定で町飯を食うならまずはここだろうと以前程銀と出会った飯店に入った。

 ある意味ここは俺の馴染みの店と言って良い。

 その証拠に戸を開けば店主から憎まれ口を叩かれて、その直後楼杏がいる事に困惑し慌てふためいていた。

 それから顔を真っ赤にした店主が「さっさと席に座りやがれ」と照れ隠しのように言うのを楼杏と二人で笑ってやった。

 西平とは違った心暖かになるやり取りに感じて自然と笑みがこぼれるようだった。 

 だが、俺が笑うだけの余裕を持てたのはそこまで。  料理が運ばれてきて箸を手にしようとしたのだが右腕が封じられたままだったからだ。

 ”しょうがない”そう心の中で溜め息をつき左手で箸を手にしようとするとすでに料理が口元まで運ばれていた。

 箸の先を見れば楼杏がニコニコとした笑みで俺を見つめていて、途端に言わんとも度し難い汗が溢れ出した。

 

 それから、何とか食事を終える頃には来た時と逆に店主に笑われ俺達の顔は真っ赤だった。

 俺は恥死量が限界に近づいていたせいで、楼杏は途中から口にしていた酒のせいだろう。

 腕を上げている店主へ少し助言をしたい所だったが、そんな余裕はもう使い果たしていて「また、来やがれ。その時聞いてやる」と言われた。

 少し飲みすぎたようで足元が覚束ない楼杏を支え屋敷へ戻っていった。 



 

 「大丈夫か、少し飲みすぎのようだが」

 「だいじょうぶれす~、りゅうせいさんが~そばにいてくれるなら~、な~んにも問題ありましぇんよ~ふふふふ~♪」

 酔っているのは明白、足取りもふわふわとしていてる。

 上機嫌はなによりだが。

 「兵にそんな姿を見せるわけには、屋敷に戻る前に少し酔いを醒ました方が良いんじゃないか?」

 「それこそたいじょうぶ~れすよ。わたしを~ささえてるのが、りゅうせいさんれすから~~」

 何がどう大丈夫なのか、孫氏曰く”将軍の事は、静にして幽なり”じゃなかっただろうか。

 部下にその心中、弱みをみせるべきではない、はず・・・なのだが、酒を抜くにしても少し酔いが深そうでもう日が暮れている。

 太守がいつまでも戻らないとなれば問題が生まれそうだし、酔っ払いに逆らうとより疲弊する羽目になるのを俺は知っている、それに・・・。

 「ふふふ~~♪」 

 当人が笑っているならそれで今はいいのだろう。

 「・・・しょうがない」

 「へぇ?・・・んふふふ~♪」

 それでもふらふらしすぎていては拙いだろうと腰に手を回して体を安定させて楼杏の足取りを整える、これで少しは印象が違うはずだ。

 酔っ払った楼杏を見てか門兵は少し驚きの表情をしていたが怪訝な表情となる事なく、「お帰りなさいませ」といたって普通な対応で門を抜ける事ができた。

 通り過ぎた後もしかして何か楼杏の信に関わる事を言っていないかと耳を澄ますと「今日の警備は・・・」、「・・・配慮を」など俺達とは関係ない仕事の内容を口にしていたようだ。

 これなら後日、悪評が立つ事はないだろう。 

 一先ず、問題がないようなのでそのまま楼杏の部屋に連れて行く。



 「楼杏着いたぞ、っと」 

 戸を開く際に少し姿勢が崩れたのを支え直すが、トタトタと千鳥足に。

 楼杏の足元に勁力が流れていない脱力状態なのが見て取れた。

 酔いながら楼杏も兵の前では多少なりとそれを繕っていたのだろう。

 脱力した楼杏の体を抱え上げて寝台へ運び、その上に降ろそうとすると。  

 「ん?」

 楼杏は両腕を俺の首に回していた。

 「嫌です~もう少し~」

 「だが、少し横になった方が楽だぞ」

 「やです、やです~~」

 少し子供染みた口調になって、これは酒が抜けるどころか深まっている気さえする。

 「まったく、しょうがない・・・少しだけ、な」

 「にへへへ~♪ずっとこのままがいいでしゅ~♪」

 だらしない笑みだ、普段からじゃ想像もしなかったそれはなんともまぁ・・・悪くはないと思った。

 一先ず楼杏を抱えたまま立ち尽くすのも疲れるので寝台に腰を掛け楼杏の頭と背を肩と腕で支える。

 「ふぅ・・・」

 「ごめいわく~でした?」

 「いや・・・だが、俺も男だからな。あんまり無防備な姿葉見せない方が良いと思うんだが」

 「ふふふ~♪りゅうせいさんだからです~~りゅうせいさんにはぜんぷしってほしいんでしゅ。いろんな~わたしを好きになってほしいとおもうのです」

 楼杏は笑みのまま言うがそう言うものなのだろうか、好きになると言うものは。

 男女の機微と言うのはやはり苦手だ。

 「好きと言うのは難しいな。楼杏こそ迷惑じゃないのか、俺なんかに好きになるなんて言われて」

 「いえ~~、とてもうれしいですよ~~♪」

 そう言って楼杏は俺の胸の中に頭を埋めるように体を寄せる。

 胸の中で楼杏の柔らかな感触が揺れる。 

 

  さっき・・・いや、以前までより余裕があるな


 楼杏の誤解がなくなり、改めて宣言したせいかどぎまぎと心が波立つ様子はなかった。

 何と言うか相手が酔っているというのもあるだろうが、性的な方向に考えが向かわない。

 距離を取り方がわからなかったから変に意識してしまったんだろう、それに飯店では人の目も合った。

 こうして二人だけであれば、腕の中に楼杏を抱いて色情に悩む事はないようだ。

 

  無駄に意識し過ぎだったのかな・・・

 

 酒で高揚している勁脈の流れを正すように静かに楼杏の頭を撫で、頬の熱を感じ取る。

 今、感じているこれは庇護欲と言うのか、翠達を見ているのに近いかもしれない。

 それからしばらく、西涼で待つ妹達と姉の姿を思い浮かべていると楼杏の口が小さく動く。

 「・・・りゅうせいさん」  

 そう呟く楼杏の瞳は俺の瞳を見つめていた。

 先程から勁脈を整えようとしているがやはり酒の力は偉大のようだ、程は一定以下へは収まらないようだ。

 これ以上は点穴を用いて強制的に流れを変えるほかないし、ここまで収まれば二日酔いにはならないだろう。 「そろそろ横になるか」

 「・・・はい」

 提案してみれば小さく頷く楼杏。

 

  ん?なんだ?急に勁力が・・・


 だが、高揚したものがぶり返したように手の内から跳ねるのを感じた。 

 飯店の酒は悪酒ではなかったはずだがこの世界の酒ならではの効能があったのかもしれない。

 旅中に作ったあれなら酔い覚ましに良いはずだと思いながら、楼杏を抱えたまま立ち上がりその体を寝台に下ろした。

 「水を貰ってくる。他に何か欲しいもの、は?」

 楼杏を下ろし一歩下がろうとするとそれの袖を楼杏がつまんでいた。

 「あの・・・からだがあついです、服を・・・」

 片手で自身の服を肌蹴させる楼杏。

 只でさえ露出の多い服から肌が・・・。 

 

  ぶはっ?!!・・・くそっ油断した!!

 

 「あっ、いや、そうだ。侍女を呼んで・・・」

 「きっといません。さきほどからへいしの足音をきいていませんから」

 言われてみればそうだ。

 不自然なほど静かで部屋の周囲に人の気配を感じなかった。

 以前滞在した時は夜間も屋敷を警備する人間がいたはずで、定期的に屋敷を回っていた。

 体感で一刻程度は部屋の周囲で人気を感じなかった。


  なんで、・・・あれかっ?!あの時の”配慮”ってまさかこれか?!!


 門兵が言っていた言葉が蘇る。

 

  ”エロ展開があるから配慮する”ってか、やめてくれ、その配慮・・・と、とととにかくどうする  


 あの穏やかさはどこへ、あれは嵐の前の静けさだったのだろうか、俺は突然の事態に思考がパンクしそうだった。

 

  そうだ、まずは冷静に”将は静にして幽なり”だ・・・ペースを乱すな。さっきまでの感覚で・・・

 

 優しく楼杏の手をとって一先ず袖を離してもらう。

 「酒が抜けていないだけだ。外はもう寒いし、あまり体を冷やすのは良くない」 

 そう言って冷静に、落ち着いて、肌蹴させようとしている方の手に触れる。

 「あっ・・・ん・・・」

 楼杏の手に触れると楼杏は甘い声を漏らす。


  っっっっ・・・!!やめてくれっそんなエロ気の強い声を出さないでくれーーー!!


 決して、楼杏の手以外に触れていない、決して桃色に流されるつもりはない。

 脳が将なら体がその部下、静なれ、静なれ、静なれ・・・そう念じながら性の文字を静ませる。

 そして、ゆっくりとその手を服から離させて首筋に手を添える。

 「ん・・・っ」 


  うぐっっっっっっ!・・・た、確かに熱はあるか、なら・・・

 

 顔を薄く紅潮させ、瞳が少し惑ろんでいるようだ。 

 それよりもなによりも俺も俺で少し顔が熱い、後何回もこの声に耐えられなさそうだ。

 聴覚を潰してしまおうかとも考えたが先に楼杏の熱を取る事を優先させた。

 首筋に当てた指先から緩やかに勁力を流し込む。

 点穴より効果は薄いが血管が太いそこを経由させれば先ほどよりも熱を抑える効果は生まれる。

 後は・・・。

 「楼杏、君はとても魅力的だ。そんなあられもない姿を見てしまったら俺はその魅力に耐えられそうにない」 本当に耐えられそうにない、このままでは頭パンクで七孔噴血しかねない。

 「わたしはみりょくてき、れすか?」

 「あぁ、とても」

 「そうれしゅか~~、よかったれしゅ。れも~りゅうせいさんもとってもみりょくてきなのれしゅよ?」

 少しずつ勁絡の効果が出てきたのか楼杏の目蓋が少し落ちていた。

 逃げ口上ばかりだがあと少し・・・そう思うと油断が油断を呼び込む。


  っ・・・?!まずいっ・・・


 楼杏の腕が再び俺の首を捕らえ引き込まれ体が楼杏に接触するほどに近づいた。

 咄嗟に寝台に手を着いてその引力をとめる。

 目の前には今までで一番近い距離に楼杏の顔があった。

 「・・・貴方は~ご自身の魅力に気付いていますか?」

 それは思っていた以上にしっかりとした口調で語りかけてきた。

 先程までのは演技だったのか、それとも酔いが覚めてきたのか、だが勁脈を診たし、当人の頬はまだ赤みを残している。

 多分だが、楼杏は真にこれを問いかけようとしているんだと思えた。

 その真剣な言葉にエロが頭から抜け落ち、思考が少し落ち着いた。

 「魅力、か。わからないな・・・俺は俺が一番嫌いだからな、そんなものが俺にあるとは思えないんだ」

 俺はそう心中にあるそれを答えた。

 すると、楼杏は微笑む、とても優しく。

 「・・・聡い方だと思えばとても鈍い方です。ですがそれも魅力の一つです。・・・私が好きになります」 

 「・・・?」

 楼杏は何を見て俺の魅力というのか、俺自身を振り返ってもどれも惹かれるものであると思えなかった。

 過去の自身に対面したのなら恐らくはあの幽州であった影と同じ表情をするのだと確信が持てる。

 「貴方が自身を嫌うと言うのなら、その分まで私が貴方を好きでいます」

 「楼杏・・・だが、俺は、っ・・・?!」

 きっと好きなれない、と口にしようとしたがそれは出来なかった。  

 楼杏にその口を塞がれた、楼杏の口で。

 柔らかで優しい感覚が俺の全てを支配する。

 今だけは色情に惑わされる人間の気持ちが分かる気がした。

 瞬間的に困惑したが、心地良さもある。

 互いに惹かれあう男女であったのなら・・・きっといつまでも、そんな思いを持つのかもしれない。

 酷く魅惑的で楼杏から何かが伝わってくるようで表面だけ装っていた心の荒波は静かな波が浜を撫でているだけになる。

 何を言おうとしていたのか、何を考えていたのか忘れそうになっていたが、ゆっくりと楼杏の唇が離れていく事で自我を取り戻す。

 「龍成さん、私は貴方の事が好きです」

 「・・・楼杏」

 楼杏はニコリと笑みを見せる。

 俺はその気遣いにただ感謝し、また少し俺が・・・嫌いになってしまった。

  

 それから、しばらく楼杏の頭を撫で、頬に触れ感謝を表していると楼杏は緩やかな眠りについていった。

 そして、俺は気配を探り少し離れた部屋にいた侍女を見つけ後を任せてから楼杏の部屋を後にした。

 思えば楼杏に対してはいつも酷く軽率な行動の繰り返しだったのかもしれない。

 

  いや、軽率と言うより軽薄だったのか、俺は・・・

  

 天意、その欠片を見れてそれからの俺が変わっていくのを感じた。

 

 




 ・・・・・・・




 ・・・・・・・




 

 

 


 廃村での調査を終え帰路の中、改めてヴリトラ殿が異質な存在である事を思い知った。

 それはまるで私達が見えないものをさも当然と見ているようだった。

 賊の根城となった廃村、そこには何一つ残されていなかった。

 人がいた痕跡それが一切ない、それは何者かが隠匿している事実をヴリトラ殿から告げられその通りに調査を始めれば次々とその事実が見つかる。

 内部が荒廃している家屋だと言うのに真新しい木材で雨漏りを修繕されていたし、そこに近しい家屋の戸や壁が意図的に崩され村のはずれでその燃え滓を見つけた。

 賊を退治した何者かがその痕跡を消す。

 それはそこにいたと知れると不利益を持つ者の仕業に他ならない。

 ヴリトラ殿の助力がなければこれを何もなく問題ないと報を出す事になったかもしれない。

 嫌な予感がこみ上げる。

 そんな中でも変わらず退屈そうな顔が二つ。

 「あ~~、久々に暴れられると思ったのにな」 

 「そうだね、僕も文醜と遊びたかったなぁ」

 人の上に立つのは今回が初めて、その中でこの二人の暴走を抑える自信はないのが正直な感想だった。

 賊相手に大立ち回りとならずにすんで少しだけ安堵している自分がいて、不甲斐無く思ってしまう。

 

  まだまだ・・・ですね


 「ふっ、最近の若いのは威勢が良いな」

 二人の姿を見て少し年寄り染みた事を麹義殿が言う。

 「麹義殿も若いではありませんか」  

 「そうでもない、だが刺激を受けてしまう辺り若さが残っていたのかもしれないな。義真様や副長には悪い事をした」

 「いえ、しょうがない事、ではないでしょうか。あの方を知って私もそう思ってしまいましたから」

 「そうだな、西平に行った時にも同じように影響を受けた者が多いように見えた。不思議な方だ」 

 そう言って麹義殿は空を見上げた、その瞳にはどんな色の空が広がっているのか私は少し興味が引かれた。

 「それにしてもほんと暇だ~、なんか眠くなってきた」 

 「ちょっ、文ちゃんこんなところで寝ないでよ?!町までまだ・・・でも、あれ?私も、少し眠く・・・」

 いつもの調子の二人を見ると冗談ではなく二人とも目を擦って眠そうでいる。

 それを見て、独り立ちしているといってもまだ若いのだからしょうがないのか、と思っていた。

 だが・・・それは早合点で異変の始まりだった。

 前方を歩く兵が突然歩を止めた。

 「・・・?」

 何かあったのかと前方を見れば何もない、だが足を止めた兵はそのまま膝をつきぱたりと地面に倒れこんだ。

 「なっ・・・?!」

 そこに別の兵が駆け寄るが同じようにふらりと動きを止め倒れこむ。   

 矢が飛んできたわけではない、ただ分かるのは明らかに異常事態。

 「全体周囲の警戒をっ・・・!」

 そう言葉を発するがそれは風に消える。

 周りにいた兵、馬車に乗る者、それらは次々と意識を失っていく。

 

  一体何がっ・・?!


 傍で倒れた一人に近づいてみるが矢傷どころか外傷は見られない、勁力も至って普通に流れ・・・。

 「・・・何故、この状態で気を失うのです」

 異変だけで済ませるには異質。

 勁力が起きている時と変わらずのまま脈を波打つ、気を失っている時、眠りについている時の流れならもっと緩やかなものになっているはずなのに。

 起きながらにして眠る、そんな無茶苦茶な流れだった。

 十も数えないうちにほとんどがその場に倒れ、残されているのは麹義殿、文醜殿に顔良殿、そして、ヴリトラ殿だけになっていた。

 周囲に敵の姿はない、皆見えない落雷を受けたかのように倒れたそんな状況。

 「文醜殿、顔良殿、大丈夫ですか?!」 

 「え・・・あぁ姉御・・・大丈夫だぜ~ただ少し、眠・・・」   

 「文ちゃん、だから寝ちゃ・・・駄目だっ・・・て」

 けれど二人が意識を保っていたのは声を掛けたところまで、二人はゆっくりと倒れこむのを両腕で支え勁測を試みたが先程の兵と症状は同じ。

 「閻忠、一先ず倒れた者を馬車に乗せろ。幸い馬は皆おかしなものはいないようだ」

 「はい、・・・ヴリトラ殿手を貸していただけますか」

 麹義殿の判断の通りに私は二人を馬車に乗せ、ヴリトラ殿に声を掛ければ。

 「えっ?う、うん、分かった」

 一瞬、困惑した顔でいたのを私は見た。

 それから急いで手分けをし皆を馬車に乗せ、重量のある荷をその場に残し馬を走らせる。

 馬車を麹義殿が、私は嘲風に乗り他の馬に乗ったヴリトラ殿と共に手綱を握る。

 その場に残るのは危険、その判断の元一番近い集落を目指す。

 

 半刻ほど走らせ河が近づくと急に嘲風が嘶きその歩を止め、それと同様に馬車を引く馬も歩を止めた。

 「っ・・・?!嘲風、どうしたのです!」

 突然の事に体勢を整えながら問いかけると嘲風は再び嘶き、僅かながら震えていた。

 

  ・・・何に怯えているのです

 

 「・・・閻忠、文醜達守ってね」  

 振り向けばヴリトラ殿は馬から降りていて私達の後方に体を向けていた。

 「ヴリトラ殿・・・」 

 既視感、そしてなによりヴリトラ殿の勁力が乱れている、それは私と相対した時から想像もできない姿だった。

 

 『ふふふふっ、そんなに急がなくてもいいじゃないか』


 どことなく、声が聞こえてきた。

 「誰だ!」 

 麹義殿がそう声を発する。

 

 『誰?君こそ誰かな。僕は君を知らないけれど』

 

  ・・・?!  

  

 麹義殿の声に答える声はさきほどよりもはっきりと方向を示していた。

 それはヴリトラ殿の見つめる先、瞬きした間にさも当然とそこにいた。

 「ヴリトラ以外にその二人が動けるのは予想外だったけど・・・これも南斗の影響かな」 

 汚れ一つない真っ白な外套を深く被った童子。

 私は咄嗟に剣に手を掛け身構えた。

 その風貌はヴリトラ殿と出会った時に似ていたから。

 「そんなに身構えないでほしい、僕はただ”鈴”を付けに来ただけなんだからさ」  

 不敵な笑みを浮かべる童子から殺気はない。

 けれど、私はその笑みが冷ややかで作り物染みている事が異様に恐ろしかった。 

 






 ・・・




 ・・・・・・





 ・・・・・・・・・





 

 朝日が眩しい・・・、眩しすぎて脳みそが蕩けそうだ。

 「あぁーーー、・・・眠い」

 あれから三日、閻忠達の帰りが待ち遠しく思う。

 李堪と合流するまでの猶予が折り返していると言うのもあるが、俺自身の心身共に疲弊しているのが原因だろう。 

 まぁ、色々と踏ん切りをつけて一歩前に進んでみた結果なのだが・・・。


  軽率だった・・・踏み込みすぎた感が否めない


 悩みが尽きないのはいつも通りだが寝不足がそろそろ危険水域。

 最後にしっかり睡眠をとったのは琢で意識を飛ばしていた時くらいだろう。

 それからの旅路では李堪が加わり、まだ味方であるわけでない者相手に警戒を怠る事が出来ない、昇竜が起きている間に少し目を瞑る程度。

 そして、安定に着き警戒を少しは解けるかと思っても俺が夜を部屋で過ごす事は出来なかった。

 それは兵士達の鍛錬を見て少し遅い夕餉を取った後、戻った俺の部屋で艶っぽい表情をした楼杏が待ち構えていたからだ。

 心臓が飛び出るかと思った、それくらいに驚いた。  もう違える事無く色事に他ならないビジョンしか思い浮かばない。

 その時は何とか自身の鍛錬をしたいとかなんとか、その場の逃げ口上を口にして部屋を飛び出し有言実行。

 そしてその日から夜は鍛錬に費やし今に至る。

 前回の滞在時も同じようなものだったのだし、鍛錬自体は無意味ではないのだが休息も欲しい。

 師匠だったら”甘ったれるな”と言うのだろうが何と言うか甘ったるい展開から逃げている今、実際そう言われたのなら真摯に受け止めるしかないだろう。

 

  早いが店主の所で少し眠らせてもらおうか・・・


 などと考えても、その間も視線を感じる。

 どうやら逃げる選択は先に使い切っていたようだ。

 しょうがないと一先ず手にしていた剣を鞘に収めるとその視線達が駆け寄ってきた。

 「「馬龍様っ!」」 

 楼杏の所の新兵達だ。

 「ご、ご鍛錬おおお、お疲れ様でありゃますっ!」

 「あぁ、有り難う」

 何をそんなに緊張するのかカミカミなそれと共に差し出される手拭と水筒を礼を口にして受け取る。

 以前も閻忠と混じって視線を感じていたがこうして行動してきたのは戻ってきてから。

 俺が兵士達の鍛錬を見るのはいつも先輩が先、さすがに全員の指導をする時間もなく新兵達にまでその時間を割いてやれない。 

 だからこうして早朝、俺の鍛錬が終わる頃にやってきたのだろう。

 

  あぁ、眩しいな・・・


 俺が眠い顔を手拭で拭いている最中も太陽宜しくキラキラと輝く瞳が俺を照らす。

 慕われていると捉えて良いものだろうか。

 個の力が多少秀でているくらいだが、駆け出しならそれを見て憧れを抱くだろうか。


  ・・・俺の魅力、か


 ふと頭をその言葉が過ぎるが俺はわからない、これはやはり俺自身抱けない感情なのだろう。

 ただ、まぁなんとも、現状もうしばらくは俺の睡眠事情は解消されそうにない事だけはわかった。

 


 ・・・


 ・・・・・・



 新兵の鍛錬を終えるとそれを連れ立って朝飯を食べ、腹が満たされた所で自室で一眠り・・・出来なかった。

 俺の部屋の前に数人の人影。

 ここの文官達だ。

 そして、そのうちの一人が俺の顔を見るなりにこやかな挨拶と共にこう告げた「馬龍様、探しましたよ」と・・・。    

 もうその言葉だけで俺は理解した、まだ俺は眠る事を許してもらえないようだと。

 新兵の次は文官、ぼ~っとしだした頭の中に聞こえてくるのは何やらその頭を貸して欲しいと言う内容。

 以前の街作りで口を出してしまったのがいけなかった、ツケがここに来て回ってきたらしい。

 「・・・内容は分かった。少し俺の方でまとめるから夕刻まで」 

 

  寝かせていて欲しい・・・

 

 そう純粋な要望だけは心の中で、一先ず時間を貰おうとしたのだが。

 「いえ、その必要はございません。これは我々の仕事ですので、ただ馬龍様には我々の考えに不備がないか義真様に献策する前にご確認していただきたい次第でして、その場にいてくださいますと大変嬉しく思うのですが・・・」

 欠伸をしたいのにそれが溜め息に変わっていく。

 いるだけ・・・今の俺にとっては苦行となるだろう、文字通りにいるだけで済む気がしないし何よりも会議の場で居眠りなどして良いわけもない。

 かと言って無下に断ろうものなら以前口にした責を放棄したのと同じ、それを知っていて否を口に出来るはずもない。

 俺はただ力なく頷き文官達と共に会議に参加する羽目になった。

  


 ・・・


 ・・・・・・


 

 思った以上に白熱した議論だった。

 確かに楼杏の所まで上げる前の段階だと聞いていたのだがもっと簡素なものだと期待していた。

 

  互いに事細かに決めてしまっていたら・・・あぁもなるだろうさ

 

 文官達は互いに仕事を分けていて、その部署事に考えたものがあるようだった。

 だが、こちらを立ててばあちらが立たず・・・折り合いを付けにくいほどに細かいところを決めてしまっていた、見方としては良い事ではあるのだがこれはただ柔軟性に欠けるだけだと感じた。

 楼杏に出す前だとしてもこの献策とやらに対して統率している人間がいなかったのが問題だ。

 農地、街道、市の改善はそこから人口や戸数の管理、徴兵や開墾様々に至るまでの重大な案件で文官達の力が入るのは分かる。

 だが、俺の希望に沿う形の会議ではなかった、以前顔を出した時はもう少し厳かで静かな話し合いと言えたはずだったのに。

 目尻がパンダのように垂れているのを感じながら傍にいた一人にこっそりと聞いてみると「武人である馬龍様に文官である自身が負けるわけには」とかどうとか。

 俺が原因らしい、それに武人ではないのを訂正したかったのだが・・・。

 とにかく現状のままの熱だと内部で変ないざこざやまた面倒な派閥だったり、いがみ合いなんていらない事が起こり得ると鎮めさせるのに奔走していた。

 そして気付けば「各々他者の案を考慮した上でまた後日」と言う締めくくりまで何故か俺が会議の場をまとめていた。

 「・・・そろそろ・・・やばい」

 もう鏡はいらない、自身がどんな顔をしているかわかるし俺が欲しているのは安らかに眠れる布団と時間。 

 三度目の正直なのか、数日前から数えたら指が足りないくらいの正直で自室の戸に手を掛け・・・ようとした。

 「あっ、龍成さん」

 背後から楼杏の声がした。 

 

  ・・・まだ、駄目なのか


 がっくりと肩を落とし戸を静かに通り過ぎて垂れ下がる我が右手。 

 「龍成さん、昼食をご一緒にいかがでしょうか」

 

  あぁ・・・もう昼だったのか


 眠りたい、そう思いながらもう半日が過ぎていたらしい。

 このままだと昨日の二の舞だ・・・きっとこの後また何かにつけて誰かに捕まり日が沈む光景が浮かぶ。

 「あ、あの龍成さん?」   

 「昼、だったな」 

 不思議そうに俺の横顔を覗きこむ楼杏に聞こえていた事を示したが、戸に手を掛けた時もそうだったが睡眠不足は駄目だ・・・人の気配を読むのすら間々ならなくなっているようだ。

 


 ・・・


 ・・・・・・



 昼飯・・・だったんだがはっきり言って寝不足のせいか空腹を感じておらず少し胸焼け気味だ。

 自身の眉が歪んでいるのが分かる。

 味は美味い、ただ俺の体調が不味いことになっているだけだ 

 そんな姿を見て楼杏が不安そうな顔をしているので一先ずの弁解を。

 「すまない、せっかく作ってくれたと言うのに」

 「いえ、私がしたくてしているので・・・ですが、龍成さんお体の方が優れないのでしょうか?先程から瞳が虚ろですが」

 「体はまぁまだなんともないが、少し眠くてな」

 本来一週間だろうと二週間だろうと三十分程度目を瞑り横になれれば問題なかった、それでもその後はある程度ちゃんとした睡眠時間を取っていた。

 寝溜めは出来ないが後日睡眠の返済を行う、それで睡魔は黙り込むものだ。

 旅の中でも概ねそのような生活で問題はなかったのだが、ここでの三日は横になる間すらなかった。

 「鍛錬も宜しいのですがやはり夜はお部屋で休まれた方が宜しいのでは?わ、私も眠られやすいよう、その・・・ど、努力しますので」

 そう言って頬を赤らめる楼杏なのだが。 


  ・・・俺としてはそれを避けたがために眠れてないんだよ、楼杏

 

 いらぬ気遣いとまでは言わないが、色々と恐怖するものが先にある。

 そう物申したい所ではあるが、色々と脳にエネルギーが足りないので今は穏便に済ませたい。

 「楼杏すまないな。急に成長してしまって技を体に馴染ませないといけないんだ。あいつと再会するためには万全でないといけない」

 とってつけたような言い訳だが必要な事でもあった。

 あいつと再会するにはどうしても避けられないものになるだろうから。

 「そう、なのですか?ですが性急に事を進めても良い結果ばかりではないと思いますが・・・」

 「それもそうだが約束が、な」

 最期を迎えてしまい結果嘘をつき守ってやれなかったのはやはり心残りだった。

 あいつも俺と同じ独りきりだった者だ。

 そうヴリトラの顔を思い浮かべながら差し出されたお茶を一口・・・。  

 

  っ・・・?!!


 「ングッ・・・これっ、まさか?!」

 舌で感じるさっぱりとした味、口の中に広がる柔らかな香り。

 違和感以上に驚きながらそれを飲み込み、湯飲みのそれを恐る恐る見つめる。   

 「?先日、龍成さんから頂いた、モーリーホアチャなのですが」

 

  まずい・・・いや、美味いんだ、だがまずい


 これは旅路で試行錯誤していたものの一つ。

 一月ばかりで大凡形になったのは重畳で、それを土産と言う建前の酔い覚ましに楼杏に渡したもの。

 モーリホア・・・茉莉花ジャスミン茶という花茶だ。

 香りよく、その効能も中華料理と合う。

 どの町でも茶屋があった事から一時はこれで旅費を稼ごうかと考えて見たんだが熟成に時間が掛かった上に結局それは必要なかったのだが・・・。

 「・・・これは・・・軽率すぎ、た」

 一杯の効果は微々たる物だが・・・今ここでそれを口にしたのは、結果俺の判断が間違っていたのかもしれない。

 万能効果を持つ花茶だ、ビタミンとミネラルの補充、胃腸に働きかける効果、殺菌や鎮痛にも役に立つ。

 だが、俺がこれを作るきっかけになった最たるものは閻忠の鍛錬、これには集中力を上げる効果があり心を鎮める効果があるからだ。

 だが、目覚めの一杯とされていたこれはそれに反する効果をも持つ。

 今回、それが意外なほどに効能を発揮してくれやがっているらしい。

 今一番俺が受けてはいけない効果、リラックス効果と不眠改善効果が・・・。

 ふわふわと頭が揺れる。

 「あ・・・・・・」

 恐るべしはお茶の力よ。

 崖っぷちで支えていた眠気が完全に取り直せないほどに傾いて、眠りの大河に落ちて行く感覚が襲ってきた。

 「龍成さん・・・。はっ、宜しければ!」 

 腕にくっついていた感覚が離れた事でガクリと体が前のめりに、俺は机に腕を着いてぎりぎりで体を支える。

 見れば楼杏が俺の腕を離して何やら膝を差し出しているように見える。

 

  ・・・膝? 


 「ひ、膝枕・・・です。どうぞ!」

 普段だったのなら恥死の恐怖に逃げ口上、だっただろうがこの時の俺は。

 

  寝て、良いのか・・・


 色艶なく寝れると言う魔力に魅入られ、引き込まれるようにそこに頭が傾いていく。

 

  暖かくて柔らかいな・・・


 耐え難い眠気の海の中に思考が沈んでいく。

 楼杏の手が俺頭を撫でている。

 とても優しくなんだか落ち着く。


  これが人の、温もりって、やつか・・・ 

 

 それを感じながら瞳を閉じると共に俺の思考は完全に停止した。  

 この時自身を傷つけてでも耐えておくべきだったのにも関わらず。

 

  


 ・・・



 ・・・・・・



 ・・・・・・・・・





 おかしな事態に巻き込まれた。

 私達に前に現れた”管輅”と言う童子。

 それに明確な敵意を示すヴリトラ殿だったがどちらとも動く事無く数度言葉を交わす。

 その中で耳に残るのは「君はどこまでも独りきりさ。渇望すればするほどに」と言う不思議な問いかけ。

 そして、ヴリトラ殿は「お兄さんは僕と一緒にいるんだ、相棒だって言ってくれたんだ」と声を荒げると管輅は小さく笑い満足気に頷いて「本当にそうだと良いね」と言い残し姿を消した。

 その後すぐに皆が目を覚まし、まるで私は白昼夢でも見ていたのかと思った。

 だが確実にそれは体感していたのだろう、背筋に掻く汗がそれを物語る。

 ただ実害はなく、これをどのような報とするべきか悩んだ。

 「大丈夫だよ・・・あれは僕のせいだから。閻忠はそんなに心配しなくて良いよ」

 「ですが・・・」

 「にひひっ閻忠は優しいんだね。でも本当に大丈夫だよ、もしまたあれがちょっかいだそうとするなら・・・次はないから」

 ヴリトラ殿の瞳は静かに澱み、私はそこに確固たる意思を感じた。

 それはまるで馬龍殿がよく口にした”裏切らない”と言う時とよく似ていた。

 「・・・わかりました。ですが、問わねば分からない事もあります、言葉にしなくては分からない事も。独りで抱え込むのは良くありませんよ」  

 「うん・・・わかった。有り難う」

 私が旅で得た解の一つを言葉にするとヴリトラ殿は今までどおりの無邪気な笑みで頷いた。

 それから少しして、一度捨てた荷を拾ってから元の経路に進路を戻した。

 戻ってきたのは事態が事態であった事もあるが、ただ何も確かめずに進むには不安のみが残るからだ。

 だがやはり何もない・・・何もない事に首を傾げるのは私と麹義殿だけ、他の面々はいつのまにか知らぬ場所にいたことを驚いた以外ここでは何も感じないようだった。

 気にしすぎていては先には進めない。

 それは麹義殿と共通しての見解、進路は既に戻しているのでとにかく帰路の足を早め警戒を怠らぬよう義真様の下へ戻る事に専念した。



 

 

 翌朝、何もないまま町まで数里という距離になり少し安堵を漏らす。

 「なぁ~んだかな、ほんと何もなかったな」 

 「そうだね・・・」

 文醜殿がそう言うとヴリトラ殿が小さな声でそれに頷く。

 「ん?どうしたチビッ子。元気なくね?」

 「文ちゃんそう言う言い方は。でもヴリトラ君は本当に大丈夫?」

 「大丈夫、僕は元気だよ。顔良も文醜優しいね・・・ううん、みんな優しい。早くお兄さんに会いたいな」 

 くすくすと喉を鳴らして笑うヴリトラ殿は空を見上げる。

 「お兄さんとならきっともっと楽しいよね。あんなやつお兄さんと一緒なら、怖くないよね・・・」  

 そう呟くと再び笑みを作るがそれは少し馬龍殿のそれと似ていた。

 何故かその面影を重ねてしまう姿・・・その儚げな微笑に私は自身の判断を違えたのではと思ってしまう。

 

  あの時、引き合わせていれば・・・よかったのでしょうか

 

 そう過去を振り返っても答えはない。

 それはまだ私の中にある違和感が拭えずにいるからだ。

 だがそれも馬龍殿が安定を訪れば分かる事、義真様に訊ねれば分かる事なのかもしれない。


  此度の任の報を述べた後にそれが聞ければよいですが・・・


 


 それから昼が訪れるよりも前に町に辿り着き、義真様の下へとその足を進める。

 「なぁなぁ、姉御、あたいらも行かなきゃ駄目なのか」

 堅苦しさがあると先に言ってしまったので文醜殿はそれが気になるのでしょう。

 「ふむ・・・ですが、お手伝い願いましたのでその報酬をお渡ししようと思うのですが」

 「なら兵舎を使わせてもらえるか?俺も”元”がつく身だ、文官あたりがあまり良い顔をしないだろう」

 傭兵として今回の同行を頼みはしたが直接屋敷まで連れて行く必要はないと思えるし当人達の事情があるのなら。

 「わかりました。お二人はそれで宜しいでしょうか?」

 「はい、文ちゃんもそれで良いよね」

 「おう」 

 「それなら荷を解いた後は兵舎で待つ事にする。ヴリトラ殿は閻忠と一緒に行くのだろう?」

 「うん、僕は閻忠と一緒に行くよ」

 三人は他の兵と一緒に荷を解くために兵舎へ私とヴリトラ殿は屋敷へと別れる事になった。

 

  


 荷をほとんど任せたのでほぼ手ぶらで屋敷の前まで来た所で何やら異変が。

 「・・・なんでしょうか。中が騒がしいのですが」

 「ん~~・・・なんだろね。皆で遊んでるのかな?」

 屋敷の中から喧騒が聞こえる。

 まさかこんな昼間から賊が入り込んだ、とは考え難い。

 だが、中の様子がおかしいのと門に立つ兵の数も平時よりも多い事から何かが起きているのは確実のようであるが、それにしては門兵の緊張が足りない気がする。

 義真様に危害を加えられる輩が侵入しているなら勁力で体を熱くさせているはず、一先ずはその事情を聞いてみると。

 「文官と武官が競い合いをしているのです」

 「何をでしょう?」 

 「どちらが先に馬龍殿を縛にするかを」

 

  ちょっ?!何をしているのですあの方はっ!

  

 私は驚きで石の様に固まり、ヴリトラ殿は何かに期待を膨らませるように笑う。 

 「閻忠さんも参加されますか?確か褒美が出ると噂に聞いていますが」  

 「褒美ですか、欲しいとは思いませんが緊急事態でなく安堵します」

 「ほうびって何?」 

 唐突な事態に驚きは舌が剣呑な雰囲気でない事に胸をなでおろしているとヴリトラ殿が興味を示して門兵に首を傾げる。

 「そちらの方は・・・義真様の御客人でしたね。武官、文官先に見つけた方が此度の滞在中優先して馬龍様と友好を深める事ができるとの事です」

 「ん~~?それはその人独り占めして良いって事?」

 「言ってしまえばそうですね」

 「なら、僕も参加する~~」

 その言葉に満面の笑みを浮かべ門を抜けて独り屋敷の敷地へ駆け出していった。

 「っ・・・!ヴリトラ殿ーー」 

 制止する間もなくその背を追い駆ける形で屋敷へ向かうと中は騒然としていた。


 「西側はどうだっ!」

 「こちらにはいません」  


 外ではまるで演習時よりも気合の入った親衛隊の面々と兵の姿。


 「まだ邸内にいるはず、侍女にも手を貸してもらいましょう」

 「では厨房にも声を・・・」


 屋敷の廊下では文官達が真剣な面持ちで戦略を練る。


 「にひひっ、なんだか皆楽しそうだね。でも僕が先にだからねーー」 

 

 その中に混じるヴリトラ殿。

 普段これほどまで騒がしい日などなかったと記憶している。

 それがただ一人、馬龍殿がいると言うだけでこれ程までに様変わりするものなのでしょうか。

 一先ず、ヴリトラ殿を一人にしてしまうのは拙いと屋敷の中へ消えようとする背中を追う。

 中に入ると駆けていた足を緩め首を右に左に振りながら歩くヴリトラ殿に追いついた。

 「ん?ん~~?・・・にひっ、み~つけた」

 探している素振りなど首の動きだけだったと言うのにその仕草もすぐに一点で止まりヴリトラ殿は笑む。 

 そこは寝具が置かれている物置部屋。

 廃村でもそうだった、あの時も私には見えないものを見つめる。

 そこからガチャリと戸が開く音がしてまたヴリトラ殿の言ったとおりになったのかと思った。

 出てきたのは馬龍殿を探していたであろう文官が一人。

 中に人がいたのは間違いなかったようだけれどその文官の事を勘違いしたのだと思っているうちに、ヴリトラ殿は文官と入れ替わるようにその部屋の中に入っていく。

 出てきた文官は小さく「ここでもない」などと言っていた事から中は捜索されたはず、それに中は寝具が置かれているがそれ以外に人が隠れるような場所はなかったと思う。

 ヴリトラ殿に続いて中に入れば想像以上に隠れる余地はなさそうだった。

 もう季節は冬そこにあるはずの物は別の部屋で使われているのか部屋の中は空っぽだった。

 「・・・ここにはいないようですが」 

 そう口にするとちらりと私を見て天井を指す。 

 

  天井、しか・・・あれ?でもほのかに熱が・・・まさかそこに・・・


 ヴリトラ殿の指につられ見つめた先の天井、目を凝らすと何故か一部分で熱が見えた。

 そして、ヴリトラ殿はその熱に向かって声をかけた。

 「僕はかくれんぼ好きじゃないんだけど、得意なんだ。さぁ出てきてくれないか、なっ!」

 ヴリトラ殿は腕を大きく振りかぶり空気を投げるように天井にぶつけるとカタカタと天井がゆれ一部の板が剥がれ落ちた。 

 そうすると私の眼にも見て取れた、薄暗い天井裏にある人の影が。

 「馬龍殿、なのですか?」

 「ヴリトラっそれに閻忠、戻ってきたか」

 恐る恐る声をかければ返って来た声は覚えのあるもの。

 そして、天井の板がまた数枚外れそこから声の主が部屋の中に降り立った。

 「助かった。危うくこのまま日を跨ぐのを覚悟する所だった」

 「っ・・・?!!!な、ななななんて格好をしているのです!!」 

 天井から降りてきたのは馬龍殿、そしてその格好はほぼ裸同然だった。

 申し訳程度に腰に布を巻きつけてはいたけれど私は思わず眼を手で覆い隠した。 

 「ん?あぁ、これは色々あって、ナガッ?!」

 「やっぱりお兄さんだぁ!!」

 馬龍殿がこちらに顔を向けるとヴリトラ殿は今までで一番の笑みで馬龍殿に抱きついた。

 「ぐ、・・・ヴリトラ少し力を抑えろ、苦しい」 

 「あわっ、ごめんなさい。でもよかった会えた、あいつはやっぱりウソツキだ。くふふっ、お兄さんまた一緒に遊ぼう」

 「くくくっ、まったくしょうがない相棒だな」

 抱きつくヴリトラ殿の頭を撫でるその表情は少し困ったようでそれでも嬉しそうだと思えた。

 

  相棒、ですか・・・


 旅路の中、馬龍殿からそんな表情を見て取れたのはあっただろうかと少しだけ羨ましくなった。

 馬龍殿が安定に来た時に聞こうと思っていた事も、話そうと思っていた事もあるけれど、現状それをする事は出来そうにないので一先ず状況を確認する事にした。

 「馬龍殿、再会を喜ばれるのも良いのですが、一体何があったらそのような格好になると言うのです?それに武官、文官達が馬龍殿を縛しようとするのは?」  

 「えっとだな、一言で言うのは難しいんだが・・・”軽率な行為は身を滅ぼす”と言う奴だ」

 「「・・・?」」

 その答えにヴリトラも理解が得られない様子で二人で首を捻ると馬龍殿は言葉を続ける。

 「とりあえず事情は後で説明する。先に閻忠は俺の服を持ってきてくれないか?それとヴリトラ」 

 「ん~~~、何かな~?」

 馬龍殿の言葉に抱きついた体に顔を擦りつけながらヴリトラ殿は満足そうな表情で聞き返す。



 「さっそくだけど少しだけ遊ぼうか」














NextScene

++彼の者の身命、秘められた真実++



 今回ボケ?ではないのか、ちょっとはっちゃけた回。

 プラスで細々したかも・・・ってところです。

 詰まるところ、後先を考えよう、睡眠大事、って回です。

 睡眠大事ですと言いつつあと少し、もう少しと気絶するように寝るのが日課になりつつある今日この頃。

 こんな風に特に書かなくても良い後書きでちょっと逃げ口上を書いている作者ですが、ここで長々書く自身も後に見れば軽率だったと思うのかもしれません。



 ついでのちょっと蛇足 

 前のあとがきで書いておこうと忘れていました、タグに道中記つけているのでそのあたりの捕捉。

 現在の総移動距離おおよそ2500km位を想定しています、適当に地図から距離を測っているので間違っているかもしれませんが・・・

 ほのぼのと言いつつ滞在していた期間を引いて大体二ヶ月、60日割ると一日平均50キロ・・・

 徒歩の時速が7kmだと毎日7時間は歩き続け、その中で炊事と鍛錬なんかもしているつもりなので

 えっと・・・徒速よりも結構な高速で移動していると思いますが西平から安定を昇竜さんがすっとばしているので平均がぐんと下がっているはず・・・です。



 さて、少しばかり禊がおろそかになりつつありますがちょっと考えが二分化してしまっているので長考していますが次話で落ち着いてからもう一度禊ます。







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