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恋姫天衝 ~対極の御遣い~  作者: 雀護
 ・~西涼への帰路~
36/44

間違いと勘違いと、誤解







++待望の再会に為るのは、誰の為か++








 ”人は苦難の中でその真価を見せるのさ”


 在りし日の師匠の言葉だ。

 その時は随分と無責任に適当な事を言うものだと思ったものだ。

 そして、その戯言に俺は「なら、苦難に対面しないと皆無価値だと言うのか?」と合わせてみたものだ。

 その時の俺は苦難とは何を指していたのかなど辞書に書かれている内容程度にしか理解していなかった。

 俺は苦難と言う概念を軽く見ていた。

 苦難とは様々な形で己の回りに、当たり前に存在していたのを俺は一度死んでからようやく理解する。

 

 それは天意と良く似ている気がした・・・



  あぁ、もっと上手く生きられたら、こんな事にはならなかったんだろうな・・・






 ・・・・・・・・・




 ・・・・・・




 ・・・





  

 「んーーーっ、良い天気。良い風だねぇ~~」

 そう言っての後ろに大きく伸びをするヴリトラ殿。

 馬上でお構いなしのそれに嘲風が少し歩を乱したけれど、嘶く嘲風はヴリトラ殿に同意して少し笑っているように思えた。

 「ねぇ、約束の日は過ぎちゃったけど・・・どうしようか?」

 「どうしましょうか?」

 そう鸚鵡返しにすると、私の脇から顔を覗かせるヴリトラ殿は不機嫌そうだった。

 「むぅ~~っ、それを僕が聞いてるんだけどなぁ。閻忠って馬鹿?」

 言葉は不満な顔でそれを口にしているけれどそれは格好だけ。

 すぐにその顔を楽しげな笑み変える。 

 常山で合流してからここまで短い時間だったけれど何故か私はヴリトラ殿と自然と会話できていた。

 きっとその要因はこのあのお二人のおかげなのかもしれません。

 そう道中の光景を浮かべていると、ふと私達の前方を行く文醜殿が振り返りヴリトラ殿に真っ直ぐ指を挿す。

 「おいおい、姉御の悪口言ってんじゃねぇぞ、チビッ子」 

 

  っ・・・?! 

 

 もっともな事を言っている気がするが、それは私の肝を冷やす一言。

 ヴリトラ殿の逆鱗に触れたとしたら以前の私が受けたあれを披露するかもしれない。

 特に普段から文醜殿の言葉は少々乱暴な物言いをするので私はそれが少し危うく感じていたの、ですが・・・

 「悪口のつもりはないけれど・・・そうだね、悪口は良くないね」 

 「うむうむ、わかれば良いんだ」

 何故かヴリトラ殿が文醜殿の言動で苛立ちを見せる事はなく、逆に自身を改める事が多かった。 

 四人での旅路の中それが気になって遠回しに聞いてみると「僕はね、僕を恐れない人って新鮮で好きなんだ」と答えた。

 それが事実で物怖じしない文醜殿を許容している要因なのだと理解はできた。

 何せ今も私の命が繋がっているのはヴリトラ殿が私を”裏切らない”と判断してくれているからだ。 

 とても簡単な心理・・・いや、極端な心理なのだと思う。

 好きか、嫌いか。そんな両極端な考えなのだと思えた。

 それは今のヴリトラ殿の傍にいて実感する。

 ヴリトラ殿とあの日、常山の宿で再会してからここまであの殺意を発する事が一度もない、それで少なからず私達に危害を加えるつもりがないと分かった。

 何故分かるのかと問われれば、初対面の時の事を思えば簡単だった。

 あの時のヴリトラ殿は無意識で放っていたそれに私は体が竦ませてしまった。

 けれどここまで私達がヴリトラ殿の圧力に潰される事はなく穏やかに旅路を進んでいる。

 それを考えればヴリトラ殿が私達に配慮して抑えてくれていると言う事だ。

 「閻忠、悪く言ってごめんね」 

 「いえ、私の答えが適したものではありませんでした」

 今もこうして笑みのままヴリトラ殿は私に頭を下げた。

 あの時、あれほどの力を見せ付けられなければ素直な子供のような方なのだと思えてしまう。

 けれど今こうして人柄を見て取れても、まだ私の中で言葉にするのが難しいけれど胸の内に隙間風が吹いているような・・・何か言い得ないどこか冷たさが残るような、そんな息苦しさがある。


  馬龍殿だったら分かるのでしょうか・・・


 「穎川ではヴリトラ殿の探し人の情報がありませんでしたし、このまま安定で馬龍殿にお会いする方が宜しいかと。ヴリトラ殿との約束の期限を過ぎていますが、こちらから馬龍殿の元へ向かっても行き違いになるかもしれませんし・・・・」

 今、馬龍殿がどこにいるか分からない。

 もしかしたら琢に留まったかもしれないし、起きた後西涼に戻ろうとしたのなら早くても穎川辺り、董君雅殿の元へ行かれているかもしれない。 

 私がいる中でいきなり私達の時のような大立ち回りを繰り広げるとは思えないけれど、何処で合流するかによっては馬龍殿を追う役人の目にとまり面倒事が起きる可能性が高い。 

 それは避けなければいけない、馬龍殿の意思を妨げる事は私自身を”裏切る”事だからだ。

 詳しく言葉にする事はしていない、けれど大まかな事情はヴリトラ殿に話している。

 「う~~~ん、馬龍って人の匂いは覚えてるから行き違いにはならないと思うけど・・・まぁ~いっか、閻忠には困ってる所助けて貰ったし、引き返すより安定ってとこでもお兄さん探した方が良いもんね」

 助けたと言うほど大仰なものはではないけれど、一先ずにこやかな笑みで提案をのんでくれるようで安堵した。

 「チビッ子、何言ってんだ?あの時、あたいらと一緒に姉御について行くって言ってたよな」 

 「えぇっと、文ちゃんあの時の話あんまり聞いてなかったんだね・・・」

 少々呆れ顔で顔良殿は溜め息を吐いた。

 その姿は少し見覚えが在った、同行者がらみで苦労するのは何処も同じなのだろうか。

 「なんだよ斗詩。あたいなんか間違った事言ったか?」

 「ううん、文醜は間違ってないから大丈夫だよ。ちょっと確認してただけだから」

 気に入っているとしてもヴリトラ殿は文醜殿に優しい気がする。

 見た目の年恰好で言えばヴリトラ殿の方が幼く見えるというのにこうしているとふと以前の馬龍殿の姿が被って見える時がある。

 程銀殿のような無邪気さを持つと思えば、馬龍殿のような包容力があり、それでいてあれほどの・・・殺気を放てる。

 馬龍殿と出会ってから出会う人に驚く事ばかり、私はよくよく経験が浅かったのだと思い知らされるばかりだ。

 「ヴリトラ殿はこうして安定へ来てくださると確認したのですが。お二人は宜しかったのですか?穎川は人が多いですし、安定より司隷の河南や弘農へ行かれれば仕事があったかと思うのですが・・・」

 「ん~~・・・いんじゃね?あたい都とかお上品な奴ばっかな所って好きじゃないんだ。『おーっほほほ』とか変な笑い方してる奴とは一生関わらないと思うぜ」 腰に手を当てて妙な高笑いをする文醜殿。

 さすがにそのような笑いをする方と言うのはいないと顔良殿と一緒に少し苦笑いを浮かべた。

 「あ、あははは・・・でも文ちゃんあんまりそう言うことは言わない方が・・・でもまぁ、そうなのかな」

 文醜殿の言を一度否定しようとした顔良殿は何か思う事があるのか軽く宙に視線を向け意見を肯定に変える。

 その変化に私が少し疑問を浮かべると顔良殿がそれに答えてくれた。

 「私達は元々名家の生まれでもありませんし、都のある司隷では雇ってくれる所はないと思うんです。穎川は悪くはないと思うんですけど文ちゃんが閻忠さんについて行くって言うなら私はそれも良いかなと」

 「そうですか。でしたら隊長にお二人が出来そうな仕事の相談をいたしましょうか?」

 「本当ですかっ?」

 「えぇ、お二人が宜しければですが、それで幾ばくかは給金が手に入るかと」

 「おぉーーっ!さすが姉御、話が早いぜ」

 「よかったね、文醜」 

 

 

 それからまたしばらく、安定までもう目と鼻の先。

 時折、文醜殿とヴリトラ殿が退屈そうにしていた事以外は平穏無事に進む道程だった。

 二人の不満は狩りと称した乱獲に近いそれで解消されていたけれど、二人の胃袋はそれを平らげるので無駄になった事はない。

 「おっ、街が見えてきた。姉御の街ってあそこでいいのか?」 

 「私が統治しているわけではありませんので私の街というわけではないのですが・・・私の主、皇甫義真様の街です」

 「いいじゃん細かい事は」

 「そうだね、閻忠って細かいよねぇ」

 文醜殿との協調性がまた数日の間に高くなっている気がする。

 仲が良いのは良いことではあるのですが、この先は私個人の料簡だけで済ませられない。


 

 程なく街に入り、一先ず私の家へ三人を案内する事にした。

 さすがに義真様の許可なくいきなり対面させる事はできないし、三人も義真様を訪ねてここに来たわけではないとの判断。

 「手狭な所で申し訳ありませんが、私は先に主に報告をしなくてはいけません。私が戻るまでここでお待ちしていただけますか。部屋の物は好きに使っていただいて構いませんので」

 そう願いを口にしたのだが文醜殿は不満そうな顔、というより不思議そうな顔をしていた。

 「えっ?なんだよ。あたいらもいくぜ」

 「だ、だめだって。閻忠さんもお仕事があるんだから」

 顔良殿は気を配って文醜殿を制止してくれたけれど、これは私の言葉が足りなかったせいかもしれない。

 「私は義真様の屋敷へ赴かねばなりません。そこに文醜殿達が来ると言われるとなれば、最低限礼の取り方を問われることになるでしょう」

 「うへっ、それは確かに勘弁だわ」

 「ですので、私が先んじて屋敷へ行き報を終えた後、隊長にお話を通しおきますから。どうか旅の疲れをここで癒していてください」

 「そっか、姉御ばっか働かせてるみたいで悪いな。あたいらに出来る事があったら言ってくれよ」 

 「はい、その時は是非」

 これで一先ずの検案事項は済ませられただろうか、文醜殿達がここにいれば自ずとヴリトラ殿も・・・ 

 「残念、文醜は行かないのか~」

 

  えっ・・・?

 

 「堅苦しいのは嫌いだけど僕は君についていくよ。なんだかお兄さんの匂いが大きな屋敷の方からするんだ。君の主ってそこにいるんでしょ?」

 「で、ですが・・・」  

 ヴリトラ殿を屋敷に招くのは軽率な行動だ。

 「大丈夫、僕は大人しくしてからさ。それとも君の見てないところで大人しくしてない方が良いのかな」

 金色の瞳がほのかに光りを見せ背筋に汗が流れるのを感じた。

 ヴリトラ殿は言葉にした事を反故にする事はない、それを信用する以外に私の取れる方策はないのだと腹をくくる事にした。



 それから文醜殿と顔良殿を自宅に残して義真様の屋敷へ赴く事になった。

 門兵にヴリトラ殿を連れている事を怪訝な顔で見られ、義真様への取次ぎの間も文官たちからヴリトラ殿は奇異な目を向けられていた。

 私の胸に届かない背の人間が屋敷を出入りする事はないのもあるが、要因はその姿が主かもしれない。

 銀に輝く地面につくほど長い髪、北部では見ない褐色の肌で、一番目立つのは金色の瞳。

 それがヴリトラ殿の浮世離れした雰囲気を増長させているのだと思う。

 初めて見た者はそれを好奇の目を向ける事は仕方ないかと思うけれど。

 ヴリトラ殿は静かに俯いたまま私の後ろを歩く。

 大人しくする、その言葉を守るつもりでいてもやはり不快な思いがあるのは確か。

 「ヴリトラ殿、申し訳ありません、皆悪気があるわけでは・・・」

 「大丈夫、この位は慣れてるから」

 ヴリトラ殿の声は旅の中で聞いた事のないほど静かで沈んだ響きだった。 


  慣れて・・・しまうほど、何があったのでしょうか   

 あまり旅の中で語られる事はなかった、ヴリトラ殿の過去。

 それがもしかしたら、あの殺意に繋がるのかと思っている内に義真様の部屋の前についてしまった。

 鍛錬の時のように呼吸を一つついて気を取り直し、先に待たれている義真様に入室の許可を得、戸を開き礼をとる。

 「閻仲孝、戻りました」  

 「ご苦労様でした。さぁ、入ってください」 

 「はっ・・・」

 頭を上げると義真様一人きりのようだった。

 それが私に都合の良いものなのか、悪いものなのかと数瞬頭をよぎった。

 「そちらがヴリトラさん、で宜しいでしょうか」

 「ん、そうだよ。僕はヴリトラ宜しくね」

 先にヴリトラ殿が同伴する事は伝えていたけれど、義真様は不思議とそれよりも前からヴリトラ殿が訪れるのを分かっていた・・・ような気がした。

 「私は皇甫嵩と申します。諸々お話があると思いますが・・・」

 「大丈夫、待つのも慣れてきたから。閻忠の話を先に聞いてあげてよ」

 義真様は一度頷いて視線を私の方に向け直された。

 「そうですか。では、貴方が安定へ帰還したという事はあの方は無事幽州へ辿り着けたと、そう理解しても宜しいですか?」

 馬龍殿と旅をしてきたおかげか、いつもより義真様の瞳の奥が見える気がした。

 そこから感じるのは言葉と裏腹な感情。

 それに私は少し言葉を詰まらせ、一度心を落ち着かせてから答える。 

 「・・・その事で申し上げる事がございます」

 私は私の任を果たす為、穎川、沛国、琢で起きた全てを義真様に告げた。 



 ・・・・・・

 

 ・・・・・・ 


 

 穎川を発った後が主な話だった。

 それに・・・いや、それ以外でも気になる事もあるようで話の端々で義真様の勁力は熱を上下させる。

 旅路での馬龍殿の様子や振る舞い、沛国で陳珪殿に会った事、それよりなにより馬龍殿の体に異変が起きた事。

 その話をした時に反応は大きくなる。

 けれど、一番はやはり馬龍殿の安否に関わる事を気にされているように思える。

 「・・・馬龍さんもですが、風鈴さんもまた思い切った方法を取ったものです。本当に馬龍さんは問題ないのですか?」

 「はい、私の見た限り体に問題はありませんでした」

 「そうですか、それなら一安心です」

 それを答えると義真様は胸を撫で下ろし、これで一先ずの段落は着いた。

 もう少し細かな所を話すと長くなるので要所のみを伝えたけれど、これ以上の報告は・・・。

 ちらりとヴリトラに視線を落とすと小首を傾げて話が終わったのかと言うようにこちらを見返された。

 その視線に義真様も気付かれているようでヴリトラ殿に声をかけられる。

 「そうですね・・・まだ色々とお聞きしておきたい所ですが、そちらの方の話をお聞きしましょうか」

 先程から静かに義真様を見つめる瞳はまるで煌々としていて、何故か子供のように笑っていた。

 「お待たせしました、ヴリトラさん。貴方のお話を窺いましょう、人を探されてるとの事ですが」 

 「そっ、僕の相棒。お姉さんからその人の匂いがするんだけど”佐伯龍成”って名前・・・お姉さん知ってるよね?」

 ヴリトラ殿は確信めいた言葉で義真様に尋ねると。

 「・・・はい」 

 と短く答えられた。

 予想外の答えだった、義真様が知る人物であった事もそうだが義真様が表情を曇らせた事が私には一番予想外だった。

 「ですが、同名の方と言う事もあります。私が知るのは佐伯と名のつく方ではありませんので」

 「そうなの?でも・・・そうだね、どこにいるか教えてもらえないかな?」

 「・・・・・・」 

 義真様は少し考え込む仕草を取りながらヴリトラ殿に真剣な眼差しを向ける。

 「分かりました、ですが先にその方とは私がお会いします」 

 「く、くふふふっ、お姉さん凄いね。僕はそれでいいよ。それでどこにいるのかな?」

 「それは後ほど、こちらへ来ていただく事にしますので、それまでは・・・そうですね、ヴリトラさんの願いを聞く代わりと言うわけではありませんが少し私のお手伝いをしていただけませんか」

 ヴリトラ殿はそれに頷き私と合流してからここまで出一番の笑みを浮かべた。

 けれど、この二人のやり取りに何があったのか私では分からない。

 もしかしたら義真様は殺気を抑え振る舞いも普通の子供のようなヴリトラ殿の何かを見抜いたのかもしれません。

 そして、当のヴリトラ殿もそれを感じた、そう取れるやり取りにも見えた。

 私はそのやり取りでは蚊帳の外だったけれど、ふと義真様の視線を感じそちらを窺えば・・・。

 義真様は私に告げる。

 新たな私の任を。 




 ・・・




 ・・・・・・・




 ・・・・・・・・・・・

 




 


 

 疑惑と疑念、雑念と雑感。

 実感をないまま、新たな事実を目にした。

 先に行くと書置きを残しながら、穎川であった程銀は何故か俺を待っていたと言う。

 そして、俺達と合流する事無く姿を消した。

 俺の世界の欠片を残して・・・。


  


 冬の装いが強くなってきた。

 通る村や町では完全に冬支度を終え、野で人を見る機会が少なくなっていた。

 道程からして西平に着く頃にはより寒さが増しているだろう。

 俺の思考が西平に向かうと自ずとあの笑顔が思い浮かぶ。

 その笑顔がごちゃごちゃしていた頭をリセットさせてくれて、翠達には何か温まるような料理か、服か土産を探しておいても良い頃合か、などと思考するようになっていた。

 それから・・・。


  安定で何か見繕って、おこうか?・・・安定で、なにか・・・


 「・・・っ?!!!」

 思い立ったので土産を考えてみた所で更に思い立つ。

 「ん?雲成どうした。何か気になる事でも・・・」  俺の異変にいち早く気付く李堪だが、これは気になる事などで済む話ではない。

 李堪に声をかけられなけば小一時間は固まったままだったかもしれない。

 「だ、大丈夫だ・・・」

 「ふむ、まぁ、詮索はしないようにしておこう。こちらも探られたくない事が出来てしまったしな」 

 実際大丈夫だと言えないがそう言うしかなく、それを聞いた李堪は俺に無常な一言を付け加える。

 「そろそろ頃合だ、以前話したように俺達の隊は安定には入れない、一先ず確認してもらった経路には配置しておく。だが、期日を越えるようなら俺がそちらに行かなくてはいけない、出来れば予定通りの日数で到着してくれ」

 「それは・・・分かっている。これ以上の面倒は俺もごめんだ」 

 李堪は確認のためなのか穎川でした打ち合わせの内容を再度口にした。

 俺の切迫した状況を知らないからか・・・無理からぬ事かもしれない。 

 助けてくれ!、そう口にするわけにもいかないし、李堪から説明された事情を踏まえれば言った所で鼻で笑うか、血管を浮き上がらせる事しかしないだろう。

 受け入れなければいけない、俺が口にした言葉の責任と現状を作り出した行動を。

 「・・・何を考えているのか知らないが、約束は違えないでくれ。主に引き合わせるのが今の俺の任だ」

 黙りこんでしまった俺を怪訝な表情で一瞥し、李堪は手綱を軽く波打たせる。

 「では安定の先で待っている」

 「・・・え、ちょっ」

 俺が思考を汲み上げ直し言葉を見つけるより先に李堪の波打つ手綱が馬に伝わり、俺達を置いて先に走り去っていった。

 思わず伸ばした手は宙を掴むばかりで遠のいていく李堪を引き止める事は出来なかった。

  

  ・・・・・・・まずい 

 

 背水の陣というか、排水の陣という気分だ。

 流れのまま流れていく先を見つめる。

 状況からして俺と昇竜だけの状況は安定に入った頃に似ている。

 だが、あの時のように昇竜を駆けさせたいと思わない。

 まずまず俺もどうかしていた。

 忘れていた。

 考えていなかった。

 この状況を打破出来るなら、程銀に懇願してでも傍においておくべきだったかもしれない。

 抱えた問題はあったが多くは糸口なり、方針と言うものが決まっている状況、それに天意の一端を垣間見る事も出来た。

 だが、西平から旅立ち、問題を抱えたままそのままの形でお持ち帰りしているものがある。

 それが安定・・・楼杏の事だ。

 また俺の右腕はあの魔球に囚われるのかと考えると気分はテイクアウトからのテイクオフ。

 「あぁぁぁぁっーーー!!なんでこんな時にこんな状況にっ!考える時間はあったのにぃぃぃっ!!」

 がりがりと頭を掻き毟りながら思考をかき回す。

 だが、解決法はすぐに浮かばない。

 やはり、色が関わると俺は途端に対処の仕方が分からない。

 空が飛べたらよかったのに・・・俺の叫びだけが空に飛び立つ、苦悩だけを残して。

 だが、現実逃避をしてばかりしてもいられない、閻忠とヴリトラが一緒ならきっと今頃は安定にいる。

 合流できる機会をわざわざ無視して西平に戻るわけにはいかないし、そもそも一番会わなくてはいけない人物がそこにいるなら安定にいくしかない。

 それに安定を発つ前に帰りも寄ると約束させられてしまった。

 紅姉さんに書簡を頼む流れで安定にもそれを頼んでいた、途中経過と言うか閻忠の事を含めて、その責があるからその事で話もある。

 更に程銀の事、次にあいつに会う前に現状の認識が少しでも高める必要がある。 

 ならば選択肢は一択、楼杏の元へ行くのは決定事項。

 だが、この状況で天意の一部を知った状態だと語るか。


  ・・・Noだ

 

 危険すぎると直感以前に俺の右腕が理解している。

 なら、嘘をついて誤魔化すか。


  ・・・否だ


 官の人間を相手にするなら楼杏の助力と承認が必要になる、何も言わずにそれが得られるとは考え難い。

 幾つかの街で滞在し、琢では比較的近い歴史も紐解いた。

 楼杏は”涼州三明”その血族の皇甫、その姓の影響力は中央にも力を持つはずだ。

 目を通した記録通りならば父に当たる皇甫規は清流派の人物、濁流へ赴くならそのバランスを取るのは前提として必須事項。

 少なからず俺はそこで重要な決定を下す事になる、ならば中立として物事を見なくては道を違える。

 これまで書簡を調べて違和感と記憶の食い違いがあるの思い出した、それを確認する必要がある。

 思考は一つきり、分かりきった結論のみを俺に突きつける。


  『四の五の言わず前に進め、お前は行くべき道を進むんだろ?俺に示せよ、その覚悟を』


 そうもう一人の俺が言っている気がした。


  ・・・あぁ、分かったよ 


 所詮、予感は予感だ。

 ひとますこの予感が的中しない事を願って俺は安定への道を進む。

 覚悟を履き違え、勘違いしたままの愚者として。 

 

 

  

 ・・・・・・・



 ・・・・・・・ 



 

   

 ここしばらく、水面の上も下も慌しい情報が飛び交う。

 その中でも私を悩ませるものは大まかに二つ。

 けれど、これを対処するには私一人では荷が重いかもしれない。

 「閻忠さんもまだ戻って間もないですし、何より・・・」

 経験不足は否めない。

 それは旅先からの文で龍成さんが書いていた事と同じ感想を持つ。

 そして出した結論もまた龍成さんと同じ。

 安定を発ち二ヶ月程の旅路で閻忠さんは一兵ではいられないほどの成長を見て取れた。


  風格を得た、と言うべきでしょうか

  

 東屋で一息をつきながら、先日のその瞳の強さを思い出す。

 「・・・将、足り得る瞳ですが」

 「まだその瞳が写すべきがある、か・・・」

 

  えっ・・・?!

 

 独り言を呟けばそれに答えられて咄嗟に振り向いた。

 「・・・・・・え?」

 聞き覚えのある声、けれど私の瞳が写したのは想像のそれとは違う殿方。

 「ん・・・閻忠から聞いていると思ったんだが・・・」

 「えっ、あのもしかして、龍成さんなのですか」

 「あぁ、外見が少し変わったがな」 

 閻忠さんの報告に龍成さんの容姿についてもあった。

 けれど、少しどころではない、面影はあれどその姿は別人と言っても過言でないほど変わっていた。

 しかし、その口調は確かに龍成さんのようで、その瞳の私の知る輝きを持つ。

 以前会った時は歳の割りに幼い容姿だと思っていたけれど今の姿はその魅力に釣り合う様。


  これは不意打ちです・・・酷い裏切りですーー


 驚きと動揺が胸の打ち鳴らす。

 熱くなる鼓動を抑え龍成さんを見つめていると兵の一人が屋敷から慌てた様子でやってくる。

 「義真様っ!申し訳ありません邸内に不審者が現れたと・・・」

 「はひっ?!・・・コホン、しょ、詳細を」 

 唐突は横槍に変な声で答えてしまった。

 みっともないそれに顔が熱くなるのを感じながら龍成さんを見れば小さく笑む、その笑みは変わらない私の惹かれたそれだ。

 「フフッ、悪い、それ俺だ。外見が変わったと門兵に信じてもらえなくてな」

 「そ、そうでしたか・・・では、問題ありませんね。えっと、他の方にもその旨伝えていただけますか」

 そう告げると兵は幾度か私と龍成さんに視線を向け、疑問を持ちながらも自身の持ち場へと戻っていった。

 「すまないな、少し騒がせた。だが、それほどまでに変わったとは思ってなかったんだが」

 「いえ、変わりました。とても、その、魅力的に・・・あっ、ではなく閻忠さんの報告だけでは目にするまで信じられませんでした」

 「そう、なのか?ふむ、董々は何の疑問も口にしなかったが・・・」

 変わらない、こうして悩む姿はもう違える事無く龍成さんだ。

 初めから面と向かっていれば私だって疑う事はなかったと思う。

 「それより門兵には閻忠辺りに取り次いでもらおうとしたら、不在だと言われたが何かあったのか」

 「狭風郡との郡境にて奇妙な報告がありましたのでその視察に」

 「さっそくあいつの成長具合を確かめてくれているようだが・・・。奇妙か、気になるな、俺も・・・」 

 こちらを気にかけていただけるのは正直嬉しいのですが、せっかく再会できたというのにお茶も出来ていないうちに発たれてしまいそうな龍成さんを慌てて制止する。

 「い、いえっ!龍成さんの手を煩わせる程の事ではありません!閻忠さんも数日中に戻る予定ですし」

 「そうか・・・だがなぁ~~その、出来ればあいつがいてくれると助かるんだが・・・」

 そう呟くと小さな溜め息をついてこめかみを撫でる。

 「しょうがない、か。順序を変えよう、楼杏この後予定は空いて・・・」

 「ます!この後も、その後も龍成さんのためなら空けてみせますっ!」

 「はははっ・・・嬉しいが、本当に手の空いた時で良い。少し話したい事があるんだ、出来れば二人きりで」 苦笑いを見せるその眼差しは少しだけ沈んだ色をしていた。

 きっと私の予想が正しければここ最近耳にしていた事が要因なのだと思う。

 けれど”二人きり”という響きは嬉しいもの。

 一先ず自身の予定を頭で反芻して龍成さんに答える。

 「後日、ヴリトラさんがいない二人だけの時に告げられた言葉が私の中に残っていた。 

 「私の仕事は夕刻までに終わらせてしまいますので、申し訳ありませんがそれまでお待ちください。部屋は以前使われた所をそのままにしておりますので」

 「・・・有り難う。お茶を用意して待っているよ」

 彼はそう儚げな笑みで私に答えた。

 変わらず・・・旅の果てそれは変わらずまだ彼は。


  忘れる事は、出来ないのですね・・・  


  



 ・・・・・・




 ・・・・・・




 

 戦況は芳しくない、むしろ劣勢である。

 

  助けてくれ、閻忠・・・


 夕刻過ぎ、約束したとおり仕事を終えた楼杏が俺の部屋にやってきた。 

 その間に予定していた話の内容をまとめ直そうとしたが、待たせきりになっていた昇竜の機嫌を取ったり、町で店主と会ったり、屋敷に戻れば兵の助言をしたりと俺の方が落ち着く間がなかった。

 何より、この状況に対応するための準備が出来なかった。

 そして、万端整う前に俺の腕は捕まる、当然のように楼杏の魔球に。 

 「え、えぇっと、楼杏」 

 「なんでしょう?」

 「出来れば、だな。その~、椅子に座らないか、その方が落ち着いて話が出来ると、思うんだが・・・」

 「それは出来ません。椅子では私が落ち着きませんし、龍成さんと距離が出来てしまうではありませんか」

 問いかければほぼゼロ距離から俺を見上げる楼杏の瞳。

 正直近すぎるそれは目の毒だ。


  ・・・甘かった。想定していたよりもこれは苦戦しそうだ

  

 今の状況、寝台の上の腰をかけている。

 隣には楼杏、密着するように俺の右腕に掴りその頬を肩口に埋めている。

 椅子に座って机を挟んだ状態が俺の望んだ場なのだが、楼杏は入ってくるなり俺の手を取りそれを疑問に思っているうちに至極当然、自然とこの状況を作り出した。

 楼杏のそれに慣れる事はない。

 柔らかく、暖かい、胸の感触が俺の思考を惑わせる。

 酷く真面目な話をしようとしていたというのに思考が定まらない。

 

  なんで・・・なんでこうなるんだ・・・


 閻忠がいればこの状況を回避出来た。

 だが、その支援は受けられない。

 「・・・こうなれば」 

 勁力を左手の指先に集める、集中も乱れに乱れてながら集めたそれで静かに右手に打ち込む。

  

  これで右腕の感覚は麻痺させればっ・・・!


 「龍成さん、今何を?」

 「な、何でもない。それよりそうだ、まずは礼を。楼杏のおかげで助かった」

 「私は当然をしたまでです。えっと、その、未来の夫の力になるのは、つ、妻の役目ですから」

 

  かはっ・・・!年貢なのか・・・年貢を納めるのか俺はっ!!

 

 頬を赤らめて言う楼杏。

 他者から見ればそれは可愛らしげで魅惑的なのだろうが、それが俺には怖くてしょうがない。

 

  妹達よ。今、兄は震えているぞ・・・男女と云うものに恐怖を感じているぞ


 震える心を押さえつけ、旅路で得た答えを頭に描く。

 「楼杏、その妻と言うのは気が早い、というか気が滅入・・・じゃない。まだ俺は君に似合う人間ではないさ、官の事で君には迷惑をかけているだろう?俺を見限るなら今の内だと、思うんだ」  

 嫌な切り出し方だ、望みを口にしながらも望まれるのは楼杏の心を利用したそれ。

 それは俺が違えた一歩目、人道を侵す、信を侵食していく俺の違えた五徳の一つ。

 「私は言ったはずです、貴方以外の殿方を想う事は有り得ないと。私は貴方の傍にいたいと」

 「だが俺は君にとって不利益な存在になるかもしれない、それが一個人としてだけの話で済むかわからない」

 これは先に閻忠の事と一緒に書簡を送った内容。

 官の使者が俺に目をつけている事、それだけのリスクを共にさせる可能性を書簡に書き綴った。

 「貴方を官の人間がどうこう出来るとは思えません。貴方は西涼の”馬姓”、馬援様の血族にして馬后姫に連なる方なのです。利用を画策する宦官がいても陥れようと試みる者はいないと思います」   

 これは紅姉さんの名を借りるに当たって西涼を出る前に庖徳・・・紫庵から受けた授業で知った事だ。  

 西涼の馬姓の血は漢において無視できないだけの力を持つ事を。

 馬皇后、良妻であり賢妻であったとされ、馬援も光武帝気に入られた存在と言われていた。

 その死後、悪評を流されその威信を貶められたが馬援の為したそれは流布されたそれを回復させるだけの偉業であった事。

 更に、貶められた中でも紅姉さんまでにその血筋は多くの益を国に納め、治める地でも有能な人物が多かったと聞く。

 それだけでも小役人程度がちょっかいを出せるものではないと理解した、一度貶められたが故に再度それを実行するには最初のそれを上回る権力が必要となるからだ。

 だから、俺は恐れる、俺の置かれている状況を。 

 俺が西涼を危うくする存在足り得てしまうから。

 管輅の言葉はまさに俺の存在意義を問う言葉に成り得た。

 あの邂逅がなければ西涼に戻り次第すぐさまに名を返上しただろう、俺の”馬龍”の仮初の死をもって。

 「なら、もう少しわかりやすく言おう。官をどうこうと考えているのは俺だ。あの濁流は国の多くを攫っていく、俺は家族がこのまま濁流に飲まれていく事を許せない。その行き着く先は怒りと哀しみの泉だ。俺を利用しようとする輩はその泉を大きくする事を望むのだと思うんだ」

 わかりやすく、だが明確にそれは口に出来ない。

 これ以上の言葉を使うなら”黄巾”、”漢の滅亡”、”群雄割拠”、それを接続して説明しなくてはいけない。

 今の内から行動すればその着地をずらせるのではと俺は考えている。

 だがそれは俺がこの世界の未来を知ると語る行為、危険極まる事で誰にもそれは言えない。

 知りたい事、聞きたい事、頼みたい事、それぞれが存在する中で語れる事が俺には少ない。  

 楼杏は俺の言葉を聞くと俺に体を預けるように傾けた。

 「・・・必然、なのでしょう。貴方が大切な者を守ろうと思うのは、貴方は家族を亡くしている人ですから」 呟くようなそれは同情・・・だけには聞こえなかった。

 「・・・俺はさ、俺に笑っていてくれる人が好き、なんだと思う。その笑みが俺の中でいつまでも残っているから」 

 いつまでもあの微笑が残っている、哀しげな寂しげなそれが・・・いつまでも。 

 「その中には私も入っていますか」

 言葉の途中、楼杏からの声にここでの笑みが脳裏を通り過ぎて俺の口はそれを肯定した。

 「あぁ、入って、しまったな」

 

  ・・・あっ


 するりと言葉を選ばずに漏らしてしまった。

 「そうですか・・・」

 楼杏は沈んだ声で俺から視線を外し俯いていた。

 俺の言葉では楼杏を好意の外側に置いていた、置きたかったと取られたに違いない。

 状況がいけない、頭の中で冷静を保っているつもりでも彼女との距離がこうも近いと・・・駄目だ。

 「・・・・・・」 

 「・・・・・・」

 急に出来た沈黙が重たい、気まずさが漂いだす。

 

  これは、まずいな・・・  


 話題を切り替えて仕切り直すか、それとも援護なしを覚悟して切り出すか。

 そう岐路を選ぼうかと思っていると楼杏の瞳が再び俺に向く。

 「・・・嬉しく思います。私は貴方の内側にいたのですね」

 麻痺させた腕に温かみが戻っていく。

 勁力の込め方が甘かったらしい、俺の腕の熱と楼杏の熱が伝わってくる。

 ぎゅっと掴れていた腕は少しの窮屈さを感じ、少し痛かった。

 「貴方は優しい人で、とても酷い人です」 

  

  俺は・・・


 楼杏の好意を利用としていた。

 最初は勘違いから始まって、訂正する機会を失って。

 それでもそのおかげか、道中は影ながら助けられていた。 

 閻忠の事もそう、だから戻って間もなく任を任せてくれている。 

 その上で俺は楼杏に明確に答えず、曖昧さを残したままでいようとしていて、言われた様に酷い奴だと思う。

 でも、彼女は気付いていたんだ、俺が言葉にしたそれよりも前から。

 だが、どこからかは俺にはわからないけれど、それなら今の俺が言葉を紡ぐにはこれを言わずに先にはいけない。

 「すまない、俺は・・・」 

 「言わないで下さい!」

 楼杏は声を張り上げた。

 俺はそれに吐き出した言葉を飲み込んでしまい、思考が途絶える。

 「・・・言わないで、下さい。言われてしまったら私はこうしていられなくなってしまいます。もう少しだけ勘違いしたままでいさせて下さい」

 篭る力は俺の腕に伝わる、その感情と共に。

 

  ほんとに、今までの俺のままじゃいけないんだな


 天意を知った、だがそれもまだ一部。

 いつもだ、選択をしたくない場面で俺は選択を迫られる。

 きっとそれは俺がまだ人の道に戻れていないからなのだろう。

 中途半端、それは人と獣の間を行き交う異形の者だから。 

 「・・・楼杏はそれで良いのか?」

 「はい」 

 問いかけの言葉に楼杏は静かに答え、真剣な眼差しで俺の顔を写した。

 「・・・そうか」 

 俺はどう答えるべきか思考を回す。

 損得という勘定を無しに俺の”すべき”がある答えを求めて。

 「心の赴くままに・・・」 

 「・・・?」

 思考していた一部が口から漏れ、楼杏は少し不思議そうな顔をした。

 「俺は、やはり愚者だな。俺は君を騙し裏切ろうとしていた。だからその対価を払わせてくれ」 

 「っ?!何を言うのです、騙すなど。これは私が勝手、に・・・?」 

 それ以上の言葉を言わせてはいけないと空いている左手で楼杏の頭を撫でていた。

 「君が今の関係を望むなら俺はそれに答える責がある」

  





 「俺は・・・楼杏の事を好きになっても良いか?」

 

 







 ・・・・・・





 ・・・・・・






 

 

 「へっっぷしっ!!うぅぅぅ~、寒ぃぃ~~」 

 荒野に盛大なくしゃみが木霊する。

 それはあまりに遠慮なし、全体が驚きでその歩を止めるほど。

 「文ちゃん大丈夫?」

 「お、おう、でもさすがにこの時期は冷えるな~」 

 「馬車に予備の外套がありますが使われますか?」

 「使・・・わない!なんか負けた気がすっから使わない」

 無駄に強気、というかそれがこの方らしさなのかもしれない。

 「文醜が寒いなら火をつけよう。あの村とか良く燃えそうだし、良いよね閻忠」

 

  寒いからと村を燃やすなどどこの暗君ですか!

 

 いや、暗君だろうとそのような逸話を聞いた覚えがないほどに大胆で残酷な所業だ。

 「えっと、ヴリトラ殿それは良くありませんよ。そこが我々の目的地ですので燃やすのはご勘弁願います」

 「へぇ~そうなんだ。でももう人の気配がないから無駄足だしさ」 

 「はぁぁ~~、一先ず村は燃やしません。ですが人の気配がない、ですか・・・隊長はどう見ます」

 「”元”だ、今は雇われ者、呼び捨てで構わない。指揮権はお前にあるんだそれに従うが・・・意見を言うなら先の情報通りなのだろう」

 今回の視察に当たっては多くの兵を必要としないため、数人の兵とその護衛・・・と言う名で傭兵としたヴリトラ殿達と麹義元隊長。

 麹義殿が隊長をやめたと知ったのは義真様への報告の後に親衛隊の副長から。

 その麹義殿がいるのは西涼から西方へ行く途中で寄っただけだと言う。

 何故親衛隊を抜けたのかと聞けば馬龍殿が原因らしい。

 麹義殿は真に忠義を知る方、私はこの方から親衛隊の何たるかを教わった。

 その麹義殿は仕事の時もその充実を感じているようだった・・・それだというのに役を失くし放浪の武人に為るのは並な事ではないと理解している。

 それを与えたのは当人も言うように馬龍殿の影響、今この方の瞳はその時よりも一層に輝きを増している。

 

  それだと言うのに・・・


  ”こいつのせいで望みを絶つのは間違いだ” 


  何故、そんな事を言うのか


 私には新たな夢を与えたように見えた。

  

  ”こいつとの縁を切れ”


  そんな事が出来るわけないではないですか


 私もその夢を見た一人なのだから。

 私は麹義殿と再会し、そんな事を思い同時に羨ましく思った。

 彼は彼の道を進んでいる、だが私はまだその道を進むには馬龍殿に言わなくてはいけない事がある。

 

  それまで私の夢はお預けですね

  

 「なぁ、どうするんだ新米の隊長殿」

 思考は麹義殿の言葉で途絶えた。

 隊長としての役がなくなったせいか少し口調が馬龍殿に近い、それは本当に羨ましく思えた。

 

  これが本当の麹義殿だったのですね 

 

 少しだけ瞳を閉じて自身もそうなれるだろうかと自身に問いかける。

 それから後ろを振り向く。

 十人程度の小さな部隊。

 けれど、初めて人の上に立っての任務。

 私はこれからを思い描きながら号令を発した。

 「全体、村へ進みます。各自周囲の状況に注意してください」 

   


 

 






 NextScene

 ++軽率な行為は、身を滅ぼす++




 久々に解説と言うかなんやかんや

 

 今回は視点が難点で、結構試行錯誤感です。

 えっと、一先ずそこは置いておいて

 途中でふわっと名前が出した人、馬援と言う人史実に存在する方です。

 結構な傑物らしく、キャラクター的に史実黄忠と被るような逸話があったりする人で「男子たるもの、苦しい時は意思を強く持ち、老いてはいよいよ壮んでなくてはならない」なんていう言葉が残っているそうです。

 

 それから解決というか着地点として皇甫嵩さんの話

 一先ず、勘違いと間違いを互いに認識した上で現状維持の関係に・・・恋人?から恋人(仮)もしくは恋人候補くらいのつもりで書いています。

 ほんとニュアンスだけですみませんがこの関係も後に使えるかなと関係のリセットしていませんがどう思われるか心配な所です。


 ではさて、帰路安定編はもう少し続きますので少しコメ要素をここで書いていこうと次話を・・・・禊も引き続き書いていきます。 





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