曖昧な答え
++帰らずの銀、行く末に待つ玉++
”お前の事が・・・嫌いだ”
そう程銀に自身の思いを口にした。
これは二極においての思い。
好きか、嫌いか、それだけで答えたのなら俺は程銀を好きと言えない。
盧植さんに言ったように”憎めない”そんな思いがあるが天秤の傾きは確かに嫌いに傾く。
事細かに言うのなら苦手と言うものがあるかもしれない。
元より俺は人間が嫌いだった、それは自身を含めて。
だから程銀に限らず、好きに傾く人間は一握りに限られる。
ただ嫌いになれない、嫌いではない。
だから好きなのかもしれない、という曖昧な消去法。
それは好き、という感情が理解出来ないのが一番の要因なのかもしれない。
昴でさえ、俺は好きだったと言うにはあまりにも遅すぎた。
翠達でさえ・・・俺は胸を張って好きだと答えてやれない。
好ましいのは確かだ、だがそれを好きだという事に出来ずにいる。
これは誰のせいでもなく、俺がまだ恐れているせい。
何かに感情を傾ける事が俺は怖くて仕方ない。
今回、程銀と会話した事で俺はそれを再認識してしまった。
曖昧なままで・・・いれたら良かったのに
あれから、程銀の拘束が自然と外れ俺は一人宿の裏手で空を見つめていた。
虚空に答えを求めていたわけではない、ただ自身の感情に自問自答していた。
そして、気づけば空に陽はなく黒が空を支配していた。
それで我に返り、急いで晩飯の支度を済ませ、気まずさがあったが飯を食べれば普段の程銀に戻るだろうと部屋の戸を開いた。
「・・・・・・?」
部屋の中には誰もいなかった。
「・・・外に食いに出たか」
だが、部屋に残していたはずの荷物がないのは何故なのか。
一先ず、晩飯を片手に持ったまま部屋の中に進むと机の上に本が置かれている。
それは程銀が読んでいたものだ。
部屋に残されているのはそれだけ。
晩飯を机の上に置き、空いた手でその本を手にする。
「”虎になれない狼”・・・童話のような」
紙で作られたそれは存外新しい書籍だろう。
それに高価なものだ、これを置いてそう遠くへは行かないだろうと少しその本を見ながら帰りを待とうと一枚、二枚と書かれている内容を見てみれば墨絵が描かれた絵本のようだった。
それを適当に眺めながらバラバラとめくっていると何かが本の間から滑り落ちた。
それは短冊状のしおり、それを指先で拾い上げるとそこには丁寧でとても短い文字が書かれていた。
”先去 為了你”
それを書いたのは程銀だと理解したが、文字を軽く指でなぞると指先が墨で汚れなかった。
それは随分前に書かれていたと言う事だ。
「あいつ、分かっていたんだな。問いかけた先に俺がどう答えるか・・・なら、なんで聞いたんだよ、あの馬鹿」
書かれていた文字を読む事が出来るようなっても俺は何故、程銀がこんな事をしたのか理解する事は出来なかった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
それから俺は部屋を空にしたまま昇竜の傍で夜を明かし、朝になると李堪が宿にやってきて一言。
「馬雲成、お前はあいつに何を望んだ」
とても静かにそれでもはっきりとした声で言う李堪の眉間には皴が深く刻まれていた。
「何も望んではいないが?」
「っ・・・・・・!」
そう答えれば李堪の表情に感情が更に露わとなる。
「あいつと会ったのか?」
「あぁ、先行する部隊は任せて欲しいと夜更けにやってきた」
李堪は視線を落とし沈んだ声で答え、その手は振るえ拳を作っていた。
「俺の事で何か言っていたのか」
「っ・・・いや、何も。だがな、あいつは隠し事が苦手だ、いつだって気ままにその表情を変える。そんなあいつが楽しくもないのに笑っている時は大抵辛い時だ」
幼馴染な分、李堪は俺の知らない程銀を知っているようだった。
だから、そこにどんな思いがあるのか俺には分からない。
それでも俺は・・・。
それを利用する・・・最低だな、俺は・・・
最善で最悪の決断、けれどそれが退路を作る。
旅の中では必要以上に距離を縮めてしまったかもしれない。
曖昧なまま答えずにいれば他の方法もあっただろう。
けれど敵対する事を視野に入れ、相手がどれ程の策略を持って俺を待つのか知らないのなら、俺は禍根を残さずに済むほうを選ぶ。
史実が再現された時、俺は間違いなく程銀達に刃を向ける。
だから今、李堪、程銀と友好であってはいけない。
かといって明確な敵対を示す事も出来ない。
それはまだ可能性の内だ。
史実では存在しない俺がどれほどの影響を与えられるか。
董卓の時は特別・・・あの時は情報を優先させた。
だからあの時に距離を詰めておかなければ俺は路傍の石程度の認識になってしまう。
それに・・・・・・あれを魔王とするのを良しとできなかった。
だが、程銀の主は違う。
根本からその目論見が違う、乱世と関わるものとは別にある。
これから程銀の主と対面する事で可能性の傾く先を理解できるだろう。
本当の最悪が起きたのなら、そう思えば俺はこの程度の吐き気いくらでも飲み込む。
だから・・・今は・・・
・・・・・・
・・・・・・
それから数日。
既に中山から鉅鹿に入ろうかとしている。
李堪と二人になり進む道程は静かだった。
どちらともなく語りかける言葉は事務的で、それ以外は馬蹄と車輪が地面を転がる音だけ。
必要以上に会話がないのはきっと程銀がいないせいだ。
いや、むしろ程銀がいたから必然的に会話していたというべきか。
「ん?・・・・・・そうか」
今ある状況を意味もなく分析していると、小さく何かを呟く李堪が馬の足を止めた。
それに合わせて昇竜に止まるよう声をかける。
「どうした」
「予定変更だ。先行した隊はそのまま幽州、豫州を抜ける、合流点を穎川に変更だと」
一先ず、色付の石を使った伝達方法を教えられたが、見る限り足を止めるまでにそれを俺は見ていない。
俺の知らない符丁を使っていたのか、それとも郡の境が近づいた事で俺にそれを伝え忘れていたのかのどちらかだが、これは前者。
李堪は疑問からそれを頷くまで時間があり、その間視線は左右に揺れていた気がする。
伝令もないというのにこれほどまでの詳細を後続の隊に伝えられるその方法は想像以上に高度なものらしい。
その方法が気になるところではあるが、変更した理由の方が気に掛かる。
だが、それはすぐに思い当たった。
・・・俺と顔を合わせたくない、か
変わらず進み、その都度前方から何か合図があるようだったがほとんどが変更なしの青の石が目立つ。
時折、速度落とす指示があるようだがその位置と内容を考えると程銀の気分と言う気がしてならない。
隊は互いに半日程度の距離を保ち動いている。
俺達が指示を受けるのはいつも朝方、逆算して前方の隊が町にはいる前日の夕方頃。
そのため停止でないのは前方の隊が町の安全を確認するための時間を必要としてなのか、それとも町で宿を取るという意味でしか意図を読み取れない。
変更理由がないのは合流の時に意図を聞き出せれば問題のない範囲なのだろう。
その事で俺の思考は程銀の意図を読む事をやめ、これからある二つの事象に頭を使っていた。
管輅が俺に残した言葉のせいだ。
違う事、許されず・・・か
もし、それを違えた時俺の希望は叶わないというのだろう。
そして、これから迷う事もまた破滅を齎す。
それは以前の俺の望み、もう一人の俺の望んだ結末。
予定していたよりも野営の回数が多かったがそれ以外は何一つなく穎川に着いた。
少し拍子抜けと言うか、李堪の隊を襲ったそれはどこへ向かったのか、この道程でその痕跡を見る事はなかった。
だが、あれならきっと・・・
違和感以上に疑問が先立つ中、一先ず合流予定の宿に行く事にした。
そして、前方にいた隊の面々と再びの対面を果たすがそこに程銀の姿はなかった。
どこにいる、と李堪が聞いたが答えは”ちょっとだけ宜しく”と言い残していなくなったらしい。
「・・・・・・」
こめかみに血管を浮かべ眉間を手で抑えて何度か床を足の裏で叩く。
それで何とか怒りが収まったのか深い息を吐き出して視線を俺に向けた。
「まずは後続の隊が合流するまでは待つ。その後、ここで中央と西方の情報を集めるため一両日は足をとめるが、それであいつが間に合わなければそのまま進む」
「あぁ、問題ない。俺も少し寄りたい所がある」
当たり障りない提案に俺は頷き、李堪は少し眉を動かした。
「以前立ち寄った役人のところか。連絡用に一人つけたいところだが・・・」
「俺は行き先も言わずいなくなりはしないさ。拠点はここでいいんだろ?」
「あぁ、そうしてくれ。だが宿はいくつかに分け町にも人を配置しておく。問題はないだろうがここは中央に近いから用心してくれ」
その忠告を受けとり、俺は董々の元へと向かった。
辺りに気配を配って町を歩いていたが平穏だった。
そして、董々の家に入るなり・・・。
「度重なるお気遣い感謝いたします」
「えっ?いや、感謝するのは俺の方だったんだが・・・」
俺の容姿の違いに戸惑う事無くいきなり頭を下げられた。
その事に困惑しながら答えるが董々は中々頭を上げてくれない。
「何も言わず発ってしまったし、馬車も使わせてもらった。董々が商人に頼んでまで書簡を送ってくれたおかげで琢では無事盧植さんの助力を得られたんだ」
頭に描いていた段取りと少し違うが改めて礼を述べるとようやく董々は頭を上げてその笑みを見せてくれた。
「いえいえ、お役に立てたのなら何よりです。ですが先に閻忠さんから申されたとおりですね」
「やはりあいつもここに立ち寄っていたか。何と言っていたんだ?」
一先ずは想像通り閻忠が董々の元へ来て先に言ったとおりの事を俺に代わって誤り、俺の言動を 予想して伝えていたのだろう。
次いで容姿の違いに驚かないのもその時に。
だが・・・
「先に申された事を言うでしょうと、それがそのまま言われるとは閻忠さんが羨ましい。それに帰りは別々になったとの事ですが、なにやらまた賑やかで楽しかったですし」
賑やか?・・・
俺の想像していなかった言葉を董々は口にする。
閻忠は一人で安定に戻ったはずで、賑やかしいのは俺とさほど変わらない時期に到着している。
俺より四日は先、単独で進む道で行くならもっと早くここに着いているはずだ。
半日程度の差しかないそれが閻忠と合流できているとは考え難い。
「誰かと一緒だったのか?」
「はい、なんでもこちらへ来る前に出会った文醜さんと顔良さん、それから・・・」
少し、溜めを持って董々は俺の表情を見た気がする。
そして、董々の瞳に嫌な気配を感じた。
俺の内を覗く様なそんな瞳だ。
「ヴリトラさんと言う方と一緒でした」
「っ・・・?!」
董々の発した言葉にただ驚愕した。
そして、その表情を隠す事が出来ず、思考が一瞬停止。
それから頭の中にあるのは少し離れた間に閻忠は何をしていたのか、と言う純粋な疑問が湧き上がる中、董々の瞳が俺を捉えている事に気づく。
「やはり、馬龍様とお知り合いでしたか」
俺の作った一瞬の間、それで確信を得たのか董々は瞳を閉じ小さく頷いた。
忘れかけていた事だが、賈クが言っていた以前董々は校尉の話があったという事を。
董々も人を見る目を持っていると事を。
嫌な感覚を得たのはきっと董々が俺に疑問を持ってそれを向けたせいだろう。
董々に嘘をつきたくはないし、隠し事もしたくはないんだが・・・
幽州までの旅路、その中で董々は恩人と率直に思える一人。
それにここ穎川は都からも近く、俺がいなくなった後も迷惑を掛けていたというのは想像に難くない。
だと言うに董々は憎まれ口一つ言わず、再会した瞬間逆に俺に頭を下げ笑みまで見せてくれた。
だからこそ、これ以上俺の面倒に巻き込みたくはない気持ちと、対等な関係であるためにそれを偽る事をしたくないと言う気持ちの板ばさみによって俺は紡ぐ言葉を見失っていた。
「馬龍様、わたくしは貴方と出会った瞬間嬉しさで飛び跳ねるのを我慢していたのです。貴方の事を聞いた時まるで英雄が現れたようで、そしてお会いしてその思いは一層に強まりました」
「董々、急に何を・・・」
言っているのか。
確か、董々が俺に”様”を付け、愛称を求めたのはあの五胡との戦いが噂として董々の耳に入っていたからだと理解している、董々はその時の思いを口にしているのだろう。
だが、何故今それを言うのか。
「わたくしにとって貴方の役に立てる事はこの街を発展させる事と並ぶほど、いえそれ以上に喜ばしく、嬉しく思うのです」
「だが・・・」
俺がそれに言葉を返そうとした時、覗き込む董々の瞳に映った俺がいた。
俺が俺を見つめていた。
”人、我に背けども、我、人に背かず”
言われたばかりの言葉が頭を過ぎる。
未だ信頼する、信用する事に俺は抵抗があった。
それは無意識だったのか、俺の口にしようとしているのはまさにそれと同義。
俺が言葉にしようとしたのはこれ以上俺を信頼させないための否定の言葉。
程銀の時と同じ、踏み込ませてはいけない距離を取ろうとしていたんだ。
対等であれたら、友人であれたらと願った目の前の笑みに対して。
それをきっと董々も感じて自身の思いを口にしたのだろう。
「・・・なぁ、董々。俺は」
董々の瞳を見つめ、内側にあるそれを口にした。
全てを口には出来ない、けれど今董々が俺に描いているそれを訂正せずに董々の望むそれを口にする事は許されないと感じた。
・・・・・・
・・・・・・
それから少し董々と言葉を交わし、思いを伝えた。
俺の言葉に董々は静かに耳を傾け、そして笑みのまま俺に『やはり馬龍様はそのままが良いです』と言う。
そこで認識を改めた。
この世界の女性だけでなくここに生きる人が強いんだと。
俺が弱かったんだと。
それから俺は覚悟を決めた。
董々と信頼を築いていこうと。
その決定打があった、それは董々が俺に秘密を伝えたから。
董卓に伝えられない秘密、他者にバレれば董々は今の職を辞する事になると言う。
その真偽は俺の瞳が捉えていた。
間違いなくそれは真実だ。
それほどまでに重要な秘密を俺は聞いてしまったから、俺はそれに頷き応える事にした。
そして話は閻忠の事に戻りその様子を聞いた。
「・・・違和感だな」
「何がでしょう?」
「俺の想像が正しければあいつとヴリトラは一戦交えている。そんな相手をなんで連れて歩ける」
「ふむ、ですが道中で何か共感できるものがあったのでは?」
閻忠とヴリトラが共通して知るものと言うなら俺なのだが、それ以外での共通する何かがあるように俺には見えない。
だが、道程で何かきっかけがあれば仕方なしに同行する事もあるのかもしれない。
「そう言う事もあるのか・・・だがヴリトラの嗅覚なら俺がどの方角にいるか位わかってもおかしくない。それを逆の方角に進むのはどうしてだろうか」
「閻忠さんが馬龍様の真名を知らなかったので”違う”と言われたのではないでしょうか?」
俺が問いかけそれに董々が答える。
その答えを反芻して憶測を立てる。
それでも違和感が拭えないのは何故なのだろうか。
「一先ず、閻忠が一緒なら安定で合流できるか。あいつが皇甫嵩さんに何か仕出かす前に早く行くべきだな」
「・・・ん~~」
とりあえず、ヴリトラの所在が分かった事で安心しつつも不安なそれを口にすると董々が小さな声を出しながら頭を捻る。
「どうしたんだ?」
「いえ、わたくしがあのヴリトラと言う方を見る限り馬龍様が危惧すべき事にはならないと思うのです。馬龍様が何故それほど気にされているのか分からないもので」
確か董々は閻忠たちに会い”賑やか””楽しかった”と言うが、俺からしたらそんな雰囲気でいられるものなのだろうかと思う。
確かに初対面で対峙していなければ素直な子なのだと思うが閻忠は先にあれの力の一端を目にしているはず。
これは他に連れていた二人、顔良と文醜と言う少女が関係しているのかもしれない。
この二人の名前も聞き覚えのある名だ、それがきっかけならばやはり早い内に会わなくては清濁の流れなど気にしている余裕はなくなってしまう。
「まぁ、董々がそう言うようなら良いのだが。あいつにも早く話しをしておかないといけないからな」
「それでは今回もゆっくり出来ないですか」
笑みのまま器用に残念そうな顔をする董々に申し訳なさが生まれるが、まだ安堵して董々とゆっくり食事をしている間がない。
俺に関わるものを終えないと董々に必要以上の迷惑が掛かる。
「すまないな」
「そうですか・・・ですがまたこちらへ来られるのですよね?」
「あぁそのつもりだ、次は何か土産のひとつでも持参させて・・・」
と、話を締めくくりそうになって思い出す。
「そういえば董卓達は司隷に行くと聞いたがその後何処かの郡に出ると聞いたが?」
「そうでした、文和さんから言伝が。二人は狭風郡で役に就くとの事。西涼に帰った後、時を見て遊びに来て欲しいと申しておりました」
濁流の渦へ行く前に俺はそこで情報を整理しその首魁に対面する。
だが・・・
「帰った後、か・・・」
俺は西涼に帰る道で寄ると言った。
董々から告げられる狭風郡は安定の南方、帰郷する際に必然と通り来る道でも通った郡の一つだ。
だと言うのに敢えてその後という事は事態に何か変化があったのか、それともある程度俺の支度が整うまで時間を稼いでくれるという事なのか。
どちらにせよ、これは紅姉さんに相談しておくべきなのだろう。きっと賈クならばそれを見越した上での言伝なのだと思う。
「わたくしからもお願いいたします、馬龍様にお会いすれば仲穎の悩みも解消すると思いますのでどうか」
「悩み?」
それは幾つかぽんぽんと浮かぶけれど、俺と会うだけで解決するようなものはないと思う。
「えぇ、司隷からこちらへ戻った時少しですが寂しげな顔をする事があったので」
「そうか、だがあまり期待はしないでくれ。俺なんかがそれを解決出来るかわからないからな」
「いえ、馬龍様はきっと解決してしまう気がします」
「・・・そう言われると困るな。わかった、出来るだけはしよう」
「よろしくお願いします」
董々から具体的な内容を聞く事は出来そうにない、多分だが董卓も親である董々に話していないのか当人も気づかない所で董々が気づいたのかなのだろう。
一先ず実際会う必要もあり、その時見定めれば良いだろうと控えめな返事を返せば、董々はまるで既にそれが解決したかのような笑みで俺に頭を下げた。
それで俺の中の検案事項が一つ増え、旅に出る前に比べて随分と荷を背負ったものだと自身の望みの高さを思い知る。
そして、それをまとめる手順が必要だ。
まずは李堪に経路を変えてもらうか
その後は今日は一人の時間がとれるだろうと一先ず宿に戻ろうと席を立ち、董々に声をかけようとすると。
「馬龍様、まだ一つ言伝があるのです」
と、董々に袖を引かれた。
まだ何か抜け落ちていた事があるかと思考を巡らせていると董々は重ね合わせになっている竹簡を懐から取り出した。
「程銀さんからです。馬龍様が立ち去る時に渡して欲しいと」
「・・・程銀が?」
あいつもここへやって来ていたらしい。
何を伝えるつもりなのかその意図は分からないが、一応竹簡を受け取り目を通して・・・
通し・・・通・・・
せないっ?!!墨が接着剤みたいになって開かないじゃないか!!
爪すら入る隙間がない。
指先で左右に割く様にそれを開こうと試みるがもうこれは開いてはいけない類に変貌している、 何か解呪の呪文でも唱えないといけないのかもしれない。
だが、生憎と師匠からその手の事を教えられていない。
少々無理やりだが勁力を使う事にした、更に指先に勁力を集め圧力を高める。
勁力の極意の一つなのだが竹簡相手に使う事になるとは思いもしなかった。
じわじわと勁力が竹間に伝わり、メリメリッと内側の墨が剥がれる音とが聞こえ出す。
そして・・・
バリバリバリバリッ!!と最早竹簡が立てる音ではないものが部屋に響き渡る。
「・・・なぁ、董々」
「・・・なんでしょうか?」
「あの馬鹿!はどこにいるか知らないか?」
「確か、人がいない開けた場所を聞かれましたのでそちらをご案内しましたが・・・あの、その竹簡は・・・」
董々に俺の手にしたそれを見せると苦笑いを浮かべた。
竹簡と言う役割を終えた、というより元より簡と言う役目を失ったそれを静かに董々に見せる。
「これは・・・さすがに読めませんね」
開く事は出来た、だがそこには文字はない。
俺の手にした竹の上に乗るのはボロボロになった文字の残骸。
何がしたいんだあの女ーーっ!!
心の叫びが木霊する。
そして生まれるのは深い溜め息。
「はぁぁぁ・・・、しょうがない本人聞く事にしよう。何とも締りが悪いが、次に会う時にはゆっくり時間をとれるようにしておく」
「はい、馬龍様が来るのを首を長くしてお待ちしております」
帰ってくるのはやはり笑み。
その姿が程銀のせいで毛羽立った心を静めてくれるようだった。
「ついでに次会う時にはその”様”をとってもらえると嬉しいんだが」
「それは無理なご相談です。未だわたくしの中で馬龍様は馬龍様ですから」
まったく、その笑みには勝てそうにないな
少々の不満を笑顔で一蹴され董々の屋敷を後にした。
・・・・・・
・・・・・・
董々が程銀に教えたと言う場所へやってきた。
そこは以前武術大会が開かれた会場。
何か催しをする時以外はほとんど人が立ち入らないらしい。
街の中とも外とも言われなかった、だから一番手近な場所を紹介したと言うところだろうか。
だが、どこであろうと人がいない場所にいると言うのは都合が良いと思えた。
最悪、あの時の続きをするのなら人に聞かれて面白いと思えないから。
だが・・・会いづらいんだよな
場の勢いと言うならまだ聞こえが良いが、あの時の程銀の様子はおかしかった。
だからだろう、あの竹簡だったものに書かれている内容が気になっていた。
酷く嫌な予感と久々に働く俺の鼻が伝える。
今、会わないといけない、何か取り返しがつかない事になる、そんな気配があの竹簡からした。
そして、会場の中に入る。
人の気配は一つきり、何度か探ってみるがそれは隠す様子もなくそこにいる。
もう見知った気配を放つのは会場の中心。
程銀の気配だ。
そのおかげで会場中を探し回ると言う手間はなかった。
未だ、詰まり気味の嗅覚だがそれでも随分前からそこにいたのが分かる程濃い匂いがした。
程銀一人だけ、けれど警戒はしたまま会場の廊下を歩く。
カツンッ、カツンッと足音が反響する廊下を抜けると広がるのは見覚えのある武踏台と観客席。
それと・・・そこにただ佇む背中。
それは少し空を見ているようだったが、近づく俺に気づきゆっくりとその顔をこちらへ向けた。
「・・・よかった。来てくれないかと思った」
顔を見たら文句の一つでも言おうとしていた。
けれど・・・言えなかった。
それは振り向いた程銀が微笑んでいたから。
旅の中で見せていた子供のような笑みでなく、それは年相応の女性の顔をしていて。
なによりその瞳は少し虚ろで、安堵しているような、悲しみを浮かべているような、俺では言葉に出来ない表情を浮かべていたからだ。
「あたしの顔に何かついてる?」
「・・・いや」
普段と違うその雰囲気に飲まれそうになるのを程銀の言葉で我に返る。
「変な馬龍・・・あっでも、あたし普通な馬龍って知らないや。あの時初めて会った時から馬龍は変だったもんね」
「言ってくれる。お前だって変な給仕だったよ」
思えば変な出会い方だった。
俺が客でこいつが給仕。
それで開口一番、変な客だと言われた。
あの時はまだこいつが俺の監視役だと言うのは知らなかったが、それでもおかしなやり取りだったと思う。
「そうかな?」
「そうだ、今までお前のような人間と会った事はない」
「ん~~、そうかな?でも、あたしも馬龍みたいな人とあった事ないからお互い様って事で」
何がどうお互い様だと言うのか、けれど少しらしくなってきたようでそれでようやく俺も落ち着いた。
「それより、来てくれたって事は馬龍は”良い”って事だよね」
「ん、何の事だ?」
少し昔話をという流れだったのを程銀は戻したようだが、俺は何が”良い”なのか分からなかった。
「董々の所へ言ったんだよね?竹簡、読まなかった?」
「あぁ、これの事か?」
懐からもう用途不能となったそれを取り出して程銀に投げ渡す。
それを受け取ると自身で書いたそれを開いて首を傾げる。
「何これ?読めないんだけど・・・」
「墨が乾く前に閉じるからだ。俺はその内容を聞きに来た、だからお前が言っている事がわからない」
「え、っと~あはっ、あはははは・・・そっか、そうだよね。ちょっと勘違いしちゃった」
後頭部を掻いて照れ笑い、直後にその表情は沈む。
良くも悪くもよくこうもころころと表情を変える事が出来るもの、本当に変な奴だ。
「で、内容を確認したいんだが?」
俺の言葉に程銀は俺から視線を外し少し俯き加減で口を噤んだ。
「・・・えっと。あ、あのそれは・・・」
それでも何か言おうとしているのかモゴモゴと何か聞こえる。
そんなに言い難い事を書いていたのなら想定外の事かもしれないとそれを聞き逃さないよう耳を傾けると。
少し俯いていた程銀は突然顔を上げて小さく頷くとその顔は笑顔だった。
「ん・・・やっぱりなんでもない」
「はぁ?!いや、なんでもないじゃないだろ?わざわざこんな所にいると言うのに・・・何かあったんじゃないのか?」
「な、何でもないってばっ」
そして、程銀は何故か照れ笑い。
ふざけているとしか思えない、俺をおちょくっているのかと思っていたがふと、李堪が言っていた言葉を思い出した。
”あいつが楽しくもないのに笑っている時は大抵辛い時だ”
思い出すと俺の胸が痛む。
今ある状況が楽しい要素など皆無だ、何一つそんな事は話していない。
だと言うのに笑みの種類は違ってもこいつは笑っている。
「それよりさ、続きしない?」
「続き・・・?」
急に話の方向が変わる。
続き、と言うのは俺が程銀に言った、あの言葉からの続きという事だろうかと首を捻ると程銀はそれを明確に行動で示した。
「そう、つ・づ・きっ!」
程銀が両腕を左右に伸ばし、地面を両足で踏みしめるとその四肢に具足を装着させた。
それから舞台の影から盾を左右に一枚ずつ握る。
俺の見た事のない盾だ、やや大きな楕円のそれは中央から端へと弧を描き、曲面装甲のようだった。
それを見て俺は自身の温い考えに落胆する。
俺は何をこいつから聞こうとしていたのか、何が聞けると期待していたのだろうかと。
「鍛錬って、わけじゃないか。なら言ったはずだ”続きをするなら・・・”」
殺し合いになると。
だが俺がそれを言いきる前に程銀は頷く。
「うん、覚えてる。でもね、馬龍鍛錬の時も”剣”抜かなかったからさ。知りたいんだよ、剣を持った馬龍の力を」
確かに、組み手として程銀と道中で相手をしていたが刃を持っての鍛錬は閻忠とだけだった。
これが竹簡に書かれていた内容だったのか、それともこいつの気まぐれなのかは知らない。
だが、剣を抜くつもりはない。
もしそれをするならもう少し後の事だ。
「俺にその気はない。これ以上話がないなら俺は帰るぞ」 踵を返し、程銀に背を向けて来た道を進もうとすると程銀は盾を地面で打ち鳴らした。
「・・・にする」
打ち鳴らされた音で少し聞き取れなかったが何か程銀の声がして、振り向くと程銀は何を思うのか少し真剣な表情で俺を見ていた。
もしかして何か言い残している事があったのかと少しだけ耳を傾ける事にした。
だがあまり期待はしない。必要のない事ならすぐにでもここを後にするつもりでいたが、次に程銀の口から発せられた言葉で俺はここを出て行く事が出来なくされてしまった。
「馬龍が相手してくれないなら、あたしは・・・馬龍があたしの事好きだって事にする!!」
「っ?!何、言って・・・」
「だって、馬龍言ったよね。”続きをするなら殺し合い”、それにあたしの”嫌い”だって。じゃあ、なんであたしと戦えないの?それってさ、実はあたしの事好きだから傷つけたくないって事じゃないかな」
屁理屈ここに極まれり、とてつもない曲解をされた。
俺はまだ敵対であるわけにはいかないから続きをするわけにはいかないだけだったと言うのに。
だが、誤解を持ったままにされるのは迷惑も極まる。
屁理屈も、迷惑も、面倒も、どれだけ極めれば気が済むのか知れないが、少し本気で手合わせすれば気がするのだろうかと程銀を睨みつけて言う。
「冗談も程ほどにしておけ。そんなに相手して欲しいなら・・・」
小さく呼吸し、程銀に拳を向けて構えを取る。
「・・・やっぱり、剣は使わないんだね」
「使う必要があるのか?」
殺気を込めた拳を向けていると言うのにそれを見て尚、程銀の振る舞いに変化はなかった。
武具は手にしていてもまるで戦うつもりがない。
「ふふっ、それ、最初会った時も言ったけど・・・。それに馬龍、それは違うよ”必要がない”じゃなくて”使いたくない”じゃないかな」
そして、俺の腰を指して俺の心理を見透かすかのように言う。
「今の馬龍が剣を抜いたらどうなるか、あたし分かってるつもりだよ。馬龍はそれがしたくないんでしょ?」
「っ・・・!」
「剣なら伯仲すれば血が流れるのは当然、でも拳なら加減が効く、そんなところかな」
これでもやはり俺の傍に来るだけはある。
この姿になってから見せていないその力を程銀は見抜いているようだ。
本気の程はどうかわからないが、鍛錬している時の感覚のまま測るなら俺がこいつを倒す時はこいつを殺す必要が生まれる。
それは俺と対等以上にいると言う事だが、今は違う。
扱える勁力は以前の倍に近い量はある、それなら圧倒は出来なくても拳だけで充分にこいつを倒せる。
それにこの体に戻ってから一人で鍛錬する事が出来ていない事が重なる、扱いきれない勁力のまま刃を抜けば加減が難しい。
実力差で圧倒していればよかったが、そうでなければきっと間違いが起こる。
それを程銀は俺が拳を向けただけで見取った。
「確かに拳なら加減出来る。だが、これでも人は傷つけられるし、殺す事だって出来る」
「じゃあ、馬龍はあたしを殺す?」
「・・・必要があればな」
俺はそれを嫌ったから剣に手をかけなかったと言うのに言葉が先に出ていた。
「・・・相変わらず素直じゃない。やっぱり馬龍ってあたしの事好きでしょ?」
こいつ・・・
一瞬、俺を挑発するための言葉だと思ったのだが、こいつは本気でそのように取っているようだと、吐きたくもないため息を吐く事になった。
「はぁ~~、もういい。何が目的なのか知らないが悪ふざけに付き合う程、俺はお人好しじゃない。それに・・・」
さっきから何度も敵意、殺意というものをぶつけていると言うのに程銀は一向に反応する気配がない。
感じ取っているのは頭に載せた黒い耳が揺れる事でこちらも分かっているのだが、程銀は平静である事を貫いている。
鼻から戦うつもりが無いようにしか見えなかった。
「時間があるなら少し一人で町を回りたい。お前も李堪の血管が切れる前にあいつの所に戻れ」
「・・・駄目、だよ」
程銀の声は聞こえていたがもう振り向く事無く来た道を進む。
「馬龍っ、駄目だよ。そのままじゃ虎になっちゃうんだよ。そんなの馬龍には似合わない!待ってよ馬龍!」
何を言っているのか俺はわからない。
もうそんな戯言に耳を貸す事はしない。
今、こいつの言うままに動く事は俺にとって不利益でしかないのだからと再び反響する廊下に足を踏み入れる。
「うぅ~~!待ってくれないなら、あたしの事、好きだって事にしちゃうんだからねーー!!」
もう会話に応じる必要はない。
これとの会話は一時の気まぐれだった、そう自身の中で整理をした。
・・・俺は何を感じていたんだかな
鈍っていしまった嗅覚だというのに昔の感覚を求めたのは俺の落ち度だ。
要らない時間くわされた事でそれを取り戻るように歩調は早くなり俺は会場を後にした。
今の俺には考えなくてはいけない事が増えている。
閻忠とヴリトラの事。
董卓の行く末。
董卓を使いに俺に接触しようとしていた人間。
それから程銀の主、その意図が史実での立ち回りと同じなら・・・翠達を守るために必要なら俺はあいつを殺さなくてはいけない。
これを黄巾の乱が起きるまでにその可能性を見極め、必要あれば軌跡を変えさせなくてはいけない。
そう思考を切り替え、少しでも自身の瞳にこの世界を写そうと町を歩いた。
「・・・っ」
奥歯の鳴る音がした。
俺がしていたのは以前にも見た町並みをただ歩いていただけだと言うのに。
平穏で、活気があって、戦と無縁のような、これから内乱が起きるように思えないほど・・・良い町を歩いて。
何で、俺はこんなに苛立っているんだ
この平穏を乱す奴らがいると知っているからか。
表面を繕うような活気は農村の人々を蔑ろにしている様に思えたからか。
俺自身、未だ為すべきに届いていないからか。
程銀にいらない手間を取らされたせいか。
方向は見えているのに明確な解決法が見出せないでいるからか。
ただ、心が・・・ざわつくのは何故だ
もやもやとしたままほとんど収穫がないまま陽が傾き、それに気づいて李堪達のいる宿へ戻った。
「戻ったか、なにやら町を歩いていたと隊の奴らが言っていたが、お前は程銀の奴を見なかったか?朝には発つと言うのに未だ戻らん」
それが俺を見た李堪の第一声。
「・・・戻っていない、のか」
「その口ぶりだとあいつと会ったのか?」
「あぁ、早く戻るようにと言ったんだが・・・」
戻っていない。
俺を呼び出すためあの場にいたのなら、もう用は済んだはずだ。
もしあいつ自身済ませていないと思っていたとしても、俺はそれに応じる気はないと意思を示した。
ならば、ここに戻らないとしても李堪の部隊いるほかの宿にいてその報を李堪が受けているはずだ。
あいつ、何を・・・
まだあの場所にいる、とは思えない。
「お、おい、馬雲成っ!一体・・・」
けれど、李堪の制止の声も最後まで聞かず駆け出していた。
くそっ、なんで・・・
自身でもなんで走り出したのか分からない。
直感、それだけが俺を突き動かし再び会場へ辿り着く。
まだ少しだけ程銀の気配が残っている。
それを感じ取ると閉じられていた戸を開ける間を惜しむように壁を駆け上り、一気に中央が見える観客席の最上段へ。
そこからなら先程いた舞台全体を捉える事が出来る。
「・・・っ」
その姿を見ている者がいたら滑稽だと笑うだろう。
ただ一人で会場の一番高い所で呆然としていたのだから。
風が吹く、程銀の残した匂いを掻き消すかのように。
「あいつは・・・どうして」
疑問を呟きながら俺は舞台の中央に降り立ち、程銀の代わりに残されたそれを拾う。
夕陽に光る金属、それは俺の良く知る形をしていて手に取ると何故か懐かしさを感じさせた。
俺の手にしたのは短剣・・・いや、コンバットナイフと言うべきそれだった。
俺の懐に仕舞われたものと同じ形の同じ印の刻まれた失われたはずの一本。
「な、んでこれが・・・」
動揺に手が震えた。
そして、それに巻きつけられた手紙を震えた手で取り中に書かれているものを恐る恐る開く。
そこには・・・。
ったく、あいつはどこまで・・・!!
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
太陽が沈み、とっぷりと夜が暮れ出す頃。
女は一人、部屋で盃を酒で満たす。
それを静かに口元に運ぼうとしたその手を止めると、部屋の戸が開かれた。
「・・・利玉様、ただいま戻りました」
そう言って部屋の中に一歩踏み入れ膝をつき礼をとる者一人現れた。
「おや、報より早い戻りだね~。首尾はどうだったのさ」
「はっ、恙無く利玉様の御命じのまま」
女は頭を垂れたまま利玉に解を返す。
「そうかい?聞いた話と少し違うようだけど・・・なら、飛蘭は馬雲成はこっちの思惑に乗ってくると思うかい?」
「乗る事と思われます。あれは利と理を持つ者であります、必ずや西涼のためと動く事でしょう」
それを聞くと利玉は妖艶に微笑み満たされた盃に口をつける。
「ぷはっ、なら重畳。こちらの存在に気付いた時は馬騰が何か吹き込んだのかと思っていたけれど。そうかい、お前はあれは動くと見るか、ならその通りなのだろうさね」
利玉はなにやら企み顔ながら上機嫌に新たに盃に酒を注ぎ夜空を見上げる。
その姿をただ黙したまま飛蘭は礼の形を崩さずに覗う。
「ん?まだ何かあるかい?」
「いえ、任の途中で帰還しましたので、これで我が任を果たせたのかと・・・」
「あぁ、それはいいのさ。あんたがそう判断したのなら構わないよ。あたいはあんたを信頼しているからね、あの男と違って」
「そうでありますか」
「詳しい報は皆が集まった時にでも聞くとしよう。それより長旅だったんだ、一杯どうだい?」
酒を口にし頬を赤らめた利玉は手にした盃を飛蘭に差し出す。
飛蘭はそれに静かに首を振り答える。
「申し訳ありませんが、私は報をまとめねばなりません。それに旅で空けていた間の政務もございますので」
「それは残念だ、良い酒なんだけどね~。まぁ、時は金成りさ、一先ず無事帰還した事とその報は受けた、もう下がって良いよ」
「はっ」
飛蘭は再度礼を取り、部屋を後にした。
利玉はまた一人になり、盃に満たされた空を見る。
僅かな手の揺れに波紋を作る空にあるのは半分に欠けた月。
「くくくっ、らしくもなく、随分と大人しく下がるもんだ。まさかとは思うけど馬雲成に・・・」
ほくそ笑む利玉は顔をあげ偽りの空から天へとその瞳を向けなおす。
「飛蘭には悪いけど、少し保険をかけさせてもらうとしようかね・・・その方が利が膨らみそうだしね、くくっあははははははっ」
NextScene
++待望の再会に為るのは、誰なの為か++
2016始まって最初の投稿に成ります
一先ず・・・大変です。
意図が糸となるなら絡みすぎて本作も私生活も身動き取れなくなるのが怖い今日この頃。
今回・・・というか前話から続いてですが
オリ主と程銀の二人模様と言った所を書いてみました。
ここまで出てくる回数が多い二人、でも二人だけでの絡みが無かったわけとかその心情って所です。
まぁ、色々書いてみたいと思っている所もあるんですが、こういう人との距離間の取らせ方ってのも書いてみたい作者です。
ついでに往復までにどれだけオリ主が抱えた問題があるかと言うのも少し整理した回。
書いている部分だけでは足りてなかったりするんですが一先ずとオリ主の認識部分はこの辺りでしょう。
その中でまたわかりやすく石を置いてたりするんですが”回収してから置けよ”と自身ツッコんでたりしますが、置かねば逆に長くなるのでご容赦ください。
そろそろ、色々名前を伏せていた?人たちを明らかに出来る頃合。
むず痒さがあるのですがもうしばらくと言った所で次話を書いています・・・が!!禊も平行して行っております。
お読みいただいている皆様、作風が安定しておらず申し訳ありません。
順次、改稿しておりますのでそこでおよそ安定出来るかと思います、生暖かい目で見守っていただければ幸いです。
では、次話もしくは改稿を進めていこうと思います




