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恋姫天衝 ~対極の御遣い~  作者: 雀護
 ・~西涼への帰路~
34/44

縁、それは結んで開いて








++願望を夢に、帰路を行く閻と龍++








盧植殿の屋敷を出て二日、嘲風と行く道は静か。

「・・・やはり落ち着きませんね」

その原因は先に立つ事を馬龍殿に告げなかったせいか。

それとも、あの谷で得た事を告げる事ができなかったからなのか。

どちらにしても眠ったままの馬龍殿と会話する事が出来ずにいたせいだ。

丘でその本心の一部に触れる事が出来た。

きっとそれが殊更私の不安を煽るのかもしれない。

「もう少し待つべきだったでしょうか・・・」

私が立つ頃には勁力の働きは落ち着きを見せていて今頃は起きているかもしれない。

けれど、いつまでも義真様に報告をしないままにはいられない。

与えられた任は馬龍殿を盧植殿の下へ届けた時に終えていて、あの谷へは盧植殿の頼み・・・ひいては義真様のためと言う所があった。

けれど、その二つを終えて尚、留まるにはやはり報告をしなくてはいけない。

馬龍殿を狙う者がいる手前、下手に伝令を他者に頼むわけにはいかずこうして帰路を行く事を決断した。

寝ている最中に何者かが現れても程銀殿がいればそう容易く馬龍殿に危害を加えられる事はないだろう。

鍛錬の際に何度も手合わせをし、それを実感している。

あの守りを突破できるのはヴリトラと名乗る人外の化生くらい。

「しかし・・・」

頭で不安は解消しているがそれでも胸の内がもやもやとしてしまう。

「なぁっ?!」

急に嘲風が嘶きそれに不意をつかれて鐙を踏み外しそうになった。

「???」

嘲風は行く足を止めて横目で私を見ているようだった。

そして少し小さな声で啼く。

馬龍殿がいてくれれば何を言っているのか通訳してくれているだろうが、恐らくは心ここに非ずを見透かされたのでしょう。


 私を心配してくれているのでしょうか・・・


「有り難う御座います、嘲風。それからすみません、今は先を行きべきなのですね」

嘲風は私の言葉を受け取ってくれたのか首を軽く上下させ再び歩を進める。


 そうですね、私はもう決めましたから・・・

 




それからしばらく、琢から中山を抜け常山に入った頃、町が見えてきたので一度そこで宿を取る事にしようと嘲風の手綱をそちらへ向ける。

それは丸二日野営を選択していて嘲風を休ませると言う目的とこの後の経路を確認するため。

このまま進路を西に取り最短距離で安定を目指すのが一番であるが、馬龍殿の伴をしていた私が下手に州を跨ぐのは良策と言い難い。

そのため現状は一先ず極力幽州を通り陳留、穎川を目指し、その後安定へと考えていた。

それに董君雅殿に穎川で何も言わず出て行った非礼をお詫びしたいという思いもある。

「・・・あれは、なんでしょうか?」

宿についてからの事を一人頭の中で浮かべていると町の入り口辺りに人だかりが出来ていた。

嘲風から降りてその中の一人に声をかける。

「一体、どうされたのですか?」

「んぁ?あんた旅の人かい。あれりゃ行き倒れらしいさな」

「行き倒れ、ですか・・・」

「まぁ、ありゃ見るからに孤児かね。関わらんこっよ」

「そんなっ・・・」

私にそれだけ言うと興味を失くしたのか町の中に消えていく。

非道と言う事は出来ないけれど慈悲というものもないのだろうか。

私がそう思っていると次第に人だかりは少なくなっていく。

それとともにその中心にいた二人が目に入った。

そこにいたのは緑がかったの髪の少女と青みがかった黒髪の少女。

「うぅぅぅ~~はらへった」

緑色の少女がそう呟くと同意したと黒髪の少女が頷く。

「トシ、なんかもってねぇ?」

「もうなにもないよ~」

緑髪の少女に黒髪の少女は涙目で答える。

いたいけな少女達に誰一人手を差し伸べる事がなかったのか、気づけばあたりには私と嘲風だけになっていた。

そこで思い返す、それはやはり馬龍殿の事だ。

あの方はきっと目にした瞬間に溜め息を吐き・・・。


 ”しょうがない”


そう言いながら少女達に手を差し出すのではないだろうか。

面倒事は嫌いつつも面倒を見る事を嫌うわけではない。


 そんな馬龍殿が私は・・・


ならば今、馬龍殿達と別れ一人となってしまった私が取るべきは何か。

「・・・決まっていますね」

私の役目を忘れ、抱いた望み。

それこそが私の空に色をつけているのだと。

それを抱いた事で私は忠臣となれない事を私は知ってしまった。

そんな予感あった。

だから、私は知りたくなかった。

だから、私は目を背けた。

けれど、そんな私を私は後悔する。

それを知った、それと私は向き合う事を選んだ。

彼が私に何を望んでいるかを知っているから。


 





 ・・・・・・・・・





 

 ・・・・・・






 ・・・








後悔とはやはり先に立たないのか。

俺は絶賛後悔中である。

言葉にする必要はなかった。


 ならば・・・


言う、べきでは、なかった。


 助けてくれ、閻忠・・・


俺は気まぐれの一言で現在大変な事態に陥っていた。

心の涙が止まらない。


 

時は遡る、発端は盧植さんが屋敷に戻ってきた所からだろう。



李堪から報告を受けた日の夜、予定より早く盧植さんが戻ってきたのであの谷で起きた詳細を聞いた。

そして、その後の話を聞きここを離れる必要が生まれる。

「そうだったのか・・・それで情勢は?」

「清濁共に落ち着きつつあるようですが、水面下では未だ交わらずと言う所ですね」

清濁、それは官の対極の派閥『清流派』と『濁流派』の事だ。

利権、賄賂、など権力を使い私腹を肥やすのは濁流派。

それを嫌い、民のためと己が理念を通すのが清流派。

そして、俺を追うのは濁流派の首魁とされている。

大まかに二つに分けているがその濁流派は官の中で力を持ち、互いに利権を争うため細かなところで更に派閥を持つらしい。

その中の一つ、幽州の濁流派。

その中の中枢が公孫賛の家系。

まだ駆け出しの公孫賛自身は清濁に属してはいないものの公孫の家系は長らく幽州の北部、東部を治めている。

濁流と一括りにしてしまうと語弊が生まれるが中央への利権を欲するのではなく、あくまで幽州の範疇でその政策を行いやすくするための利権を求めるのが公孫の家系だと言う。

主に必要悪として行うのは賄賂。豪族、大商との癒着をすると言う。

行為だけで見ればそれは清流派からしたら濁流のそれ。

圧政を良しとするでもなく、悪とするわけでもない統治で一先ず安定をさせているらしい。

無理に悪を排除する事は周りに敵を作る。

だが濁流の中、利を欲し続ければその波は対岸を削り取っていく。

望んで濁流にいるものは多くも公孫のように仕方なくその流れに身を置く者だと盧植さんは悲しげな顔で俺に言った。

今その流れを正す事は国の瓦解に繋がる、それを思い徐々にその流れを変えようとしているのが盧植さんや私塾を開放している人なのだろう。


 確か穎川にも・・・確か水鏡と言ったか


「俺は召還に応じるべきだな、流れはそこに行き着く」

「やはり濁流の渦に進まれますか・・・、ならば一つ、先達の一人として風鈴は貴方に送りたい言葉があります」

俺が琢を後にする、それを告げると盧植さんは小さく頷いた後、いつも通りの笑みを俺に見せる。

とても柔らかで温かみのある生徒たちに良く見せていた笑み。

「・・・人、我に背けども、我、人に背かず」

人に裏切られても自身は人を裏切らない、俺の事を言うものなのだろうか。

それとも俺のしてきた事は足りていないという事だろうか。

盧植さんは言葉を続けた。

「人は常に一方向を見て進む生き物ではありません。時に背を向ける日もありましょう、時に対峙する事もありましょう。ですが、忘れないで欲しいのです」

そう言って袖の内から何かを取り出した。

それは三枚の書簡。

差し出されるそれを受け取って中を開く。

「これは・・・」

内容を確かめる必要などない。

一目でそれが何であるかを理解した。

「貴方を思う人がいる事を、絆がある事を忘れないでください」

三通の書簡、それは俺に向けたものではない。

けれど、それを実際に目にして視界が開けたようだった。

三人の姿が思い浮かぶ。

これは楼杏、董々、陳珪さん、その各々が盧植さんに向けて書いた推薦状だ。

そして、俺は愚かなのだと痛感する。

今まで心に思い描いていた今後の絵、それを三人に見せたのなら様々な形で怒られてしまいそうだ。

三通を広げ、その中を繁々と見つめていると盧植さんはそこにもう一通を差し出してきた。

「どうぞこちらもお受け取り下さい。既に風鈴もその一人なのですから」

受け取った書簡を含めてこれで四通、これは開いてもよいものか見つめていると盧植さんが言う。

「それは開く必要がなければ一番なのですが、宦官は一筋縄ではいきません。もう一つの縄、それが必要になったのでしたら”袁”の名を持つ方にお渡し下さい。それで概ね貴方に助力して下さる事でしょう」

現状、この国の懐を切り開くつもりはないが、確かに思いのままに事が運ぶ事はない。

盧植さんは俺がそれに関わるかもしれない、その保険の提示としてこれを渡したのか。

「・・・これを使った時、盧植さんに危険はないのか」

巡らせた思考、ふと過ぎる嫌な予感が俺にそれを告げた。

そして告げられた事を盧植さんに告げると笑みのまま少し困ったような顔をした。

「えぇっと、その危険は・・・なくはない、ですかね。危険と言うよりも少々の面倒事というか、嫌味というか意地悪があるかもという程度です」

いやに歯切れの悪い返答。

それに俺は受け取ったばかりの書簡を懐に仕舞う事は出来なかった。

「それは・・・」

「それでも!風鈴は貴方と言う風を感じていたい!・・・と思うのですよ。ですから受け取ってくださいませんか?」


 ほんとうに、俺って奴は・・・


自己嫌悪だ、本当に失礼極まる行為だった。

厚意に対して愚かな行為。

「・・・分かった、なら俺からも渡さなくてはいけないな」

「これは?」

「俺の証・・・と言うにはどうにもやるせないが、やはりこれが俺だった。俺もこれを使わないで済むのなら良いと思っている。だから貴方に預けたい」

盧植さんはそれを俺の手から受け取ると一度頷く。

「わかりました。貴方に良い風が吹きますよう、風鈴は願っています」


「ねぇ、あたしにはないの?」


突如と机の下から程銀が現れた。

「・・・」

いる事は知っていたが、何故そこにいるのかと思いつつ放置して見れば・・・。

「ねぇねぇ、馬龍。あたしの分はー?」

「ない!」

「えぇ~~、良いじゃん。ねぇ、ねぇ~」

なんだろう、どこかでこの手の人間を目にした記憶が・・・。

一先ず、無視を決め込んでおこうかと思っているとふと盧植さんの視線が俺を見つめている事に気づいた。

「程銀さんには何もお渡ししていないので?」

「ん?あぁ、まぁそうだが・・・」

「そうですか・・・っもしかして、閻忠さんにも?」

「あいつには渡す機会がなくてな、安定についたら改めて渡すつもりではいるが」

言われて思えば機会がなかった気がする。

良い機会に恵まれている閻忠、ならばこれはその機会に含まれないのかもしれない。

そんな風に思っていると程銀は俺の腕を掴んで振り回して抗議してきた。

「えぇっ?!ずるいよ~、一緒に旅してきたんだよ?閻忠さんが貰ってあたしは・・・」

「道中は食っちゃ寝で何を言うか」

助けられてはいるんだが、どうしてかこいつにそれを認めると色々とそれを利用されそうで当人に対してそれを認める事が出来ない。


 って、そろそろ腕が痛くなってきたんだが・・・


成長していてもこいつの馬鹿力は冗談でも中々堪えるらしい。

「はぁぁぁ・・・、わかった、今度な。今、お前に渡す持ち合わせがない」

「い・ま・が・良・いーー!」

「他のは先約がある。あぁ、メンマで良ければすぐに出せるぞ」

「メンマっ・・・はちょっと違うかも」 

一瞬、嬉しそうな笑みが咲いたがすぐにしゅんと萎む。

「なら、しばらく我慢しておけ・・・それより荷はまとめ終えたのか?朝には出るんだ、間に合わなければ全部置いていくぞ」

「ふえっ?!ちょ、馬龍、待ってよ~閻忠さんがいないからまだ終わって・・・」

なにやら言い訳をしようとしたので少し意地悪く程銀の制御棒を使ってみる。

「なら、早く済ませてしまえ。俺に期待するのなら今日の夕食か明日の朝食は諦めろよ」

「す、すすすぐに終わらせてくるぅぅぅーー!!」

体の変化があれど、この効果は変わらず効いてくれるらしい。

脱兎の如く、駿馬も真っ青な速さで部屋を駆け出していった。

「まったく・・・相変わらずで助かる」

「ふふふっ、ですからあのような意地の悪い物言いをされる、という事なのですか。好きな子を虐めてしまう男子のように」

「違う、とは言え語弊はあるが否定しきれない、か。好ましいとはいえないが憎めないと言う所、困り者だよ本当に」

素性は概ね把握できた、それを思えば程銀は俺にとって危険な存在に為り得る。

だが、まだそのきっかけが訪れていない事、何より本人があの外面を持っている性でどうしてか距離を測りかねる時がある。

「憎めない、ですか。良い事だと風鈴は思いますよ。・・・それで馬龍さんは何をお聞きになりたいのでしょうか」

「・・なんとも、敵わない女性が多すぎる」

普段温和な雰囲気でいてもその人は賢人なのだと思い知らされた。

このやり取りの中でも俺の思惑の大凡を見抜いたのだろう。

程銀が荷をまとめに行った今、これで盧植さんと二人だけの場が作られた。

ここに来て初めて願ったのは”知識を貸して欲しい”そしてそれはまだ達成していない。

確かに谷ではいろんな事を知った。

それまでの間は書庫を自由に使わせてもらっていた。

だが、未だ直接盧植さんに尋ねた事の中には聞きておかねばならないそれは含まれていない、機会がなかったというべきか、それともやはり天意と言うものになるのだろうか。

それでも盧植さんは俺からその言葉がない事に気がついていたのだ。

数日前ならば二人がいた時に機会があればそれを口にしてしまっていた。

だが、状況に変化が生まれた。

だから、俺はこの時まで口にする事はするべきではなかったのかもしれない。


そして、そんな風に自身の事ばかり考えていた俺は考えてもいなかった。

きっと、それは俺が油断していたからだ。




幾つか整理するべき荷と思考をまとめ終えると朝を迎えていた。

「思う以上に世話になってしまった」

「いえいえ、風鈴も楽しかったですし。生徒達も・・・」

盧植さんの背後には生徒達が見送りに来てくれていた。

「馬龍様、銀ちゃんまた来てね」

「今度、お料理を教えて下さい」

「銀ちゃんがいないと寂しい・・・」

などなど、俺に向けたものや程銀に向けた言葉が送られた。

それを程銀と二人で宥めていたのだが、終いには程銀が「もう少しいちゃ駄目?」などと言い出すので即座に却下し、名残惜しそうなそれを荷台に放り込んだ。

「良き出会いに感謝を。貴方がこの国の良き風となる事を風鈴は期待しております」

「感謝するのは俺の方。だが、あまり過度な期待はしないでくれ。さすがに身に余る期待には応えられないからな」

「ふふふっ、そうでもないと風鈴は思ってしまいます」

盧植さんは優しい笑みで無茶な事を言ってくれた。

ならばその言葉に俺はどう返すのか、天意の一端を見た俺が応えられるのは・・・。

「どうかな・・・まぁとりあえずは出来る事をしてみる。次に会う時良い報が出来るように」

そんな別れの言葉を告げる俺は、改めて俺らしくはないのだろう。

けれど、きっと、それでも、多分・・・。

そんな曖昧な言葉でしか表現できないけれど、追いかけてきた天意のおかげで俺らしさは変わり始めているのかもしれない。


 

 ・・・・・・


 ・・・・・・



風は流れ行く、一所に収まる事無くただ気まぐれに。

その先に何があるのか、風鈴はいつも不思議に思っていました。

馬龍さんの背を見てそれが少し分かった気がします。

彼の背が見えなくなり、そろそろ皆と屋敷に戻ろうした時一人の生徒が見えないその背を未だ見ている事に気がついた。

「ねぇ、盧植先生」

「なんでしょう?」

風鈴に呼びかけていながらその瞳は風鈴を見ていない。

何を言うのかと言葉を待っていると・・・

「私は大きくなったら馬龍様の・・・臣になりたい」

「っ?!」

その言葉に風鈴は驚き、そして嬉しくなった。

その子は生徒としてはあまり勉学の成績は良くなかった、運動も同じ。

それはいつだって本気になれないでいるせい。

本来なら競う相手がいればと悩みの種であったけれど、馬龍さんはそれを補うに余りある姿に映ったのでしょう。

「閻忠さんと一緒に、あの人の剣になりたい」

「そうですか。では、授業中に寝てしまう癖を直さなくてはいけませんね」

「はいっ!!」

そう笑顔で答える姿に風鈴も嬉しくなり自然と笑みが生まれる。


風はいつだって気まぐれで。


人の思いもしないものを運び込む。


喜びも、怒りも、悲しみも。


「明日吹く風はどんな風になるでしょうか」

「先生?」 

「なんでもありません。さぁ、そろそろ授業の時間ですよ」


 どうか、良き風を・・・



 ・・・・・・


 ・・・・・・




琢の町を出てると李堪達が俺達を待ち構えていた。

「さすがに時間通りだな」

「なんとかな。っと、しばらく静かにしててくれ。後ろのあれが起きると面倒だ」 

「ふっ、言われるまでもない。付き合いは俺の方が長い、小声だろうと”あれ”は禁句だろ?」

さすが幼馴染、良く理解している。

その時の李堪の苦労を想像すると笑い声が出そうになり口元に手を当てて堪える。

「で、俺はこんな人数で行くつもりはないんだが?」

待ち合わせの場所にいたのは李堪とその部下達。

これだけ集まっていれば人目につきやすくなる。

「心配するな、俺達と行動は別々だ。これは一先ずの顔合わせだ、警戒されすぎて斬り合うというのは避けたい」

「まっそれはそうだな。なら、少しは友好を示しておこう」

そう言うと李堪は少し眉間の皴を作ったが気にせず馬車から降りて李堪の部下が乗っている馬車の傍に歩み寄る。

「おい、その中にはっ・・・」

中には負傷したと言う数人が乗っている。

重傷だと傷が癒えるのを待つ事は出来ないらしい。

一応の応急処置はされていて命に別状はないがそれを確認して李堪に声をかける。

「悪いが、勝手に治療させてもらう」



それから数日。

負傷していた者は勁力の流れを確認、治療、点穴を用いて痛みを麻痺させた。

それを終えると後方の隊に割り振られ、それ以外の者が前方を行き俺達の経路を牽引している。

最悪、逃走と闘争に巻き込む。

だが治療した事で負傷した者も一人で動く事が出来る、それならば必要以上に気を向ける必要はなくなるだろう。

そして、傷の具合を診て確信したものがある。

それは・・・


 閻忠・・・お前って奴は・・・


李堪の部隊と閻忠、傷の程度に違いはあったが間違いなく同系統のもの。

それが俺の中で一つの線を引く。

閻忠がヴリトラと対峙していた可能性。

もしそれが事実であったのなら、以前診た傷、そこからその時の光景が脳裏に浮かぶ。

一度倒れた後構わず立ち上がってあれに剣を向けていた。

だから、あれほど勁脈が疲弊していた。

無謀だと言う事は勁測が伝えていたはずだ。


 それでも、あいつは・・・


あの時俺は事情を深く聞くことはなかった、俺に隠し事をしているのは分かっていた。

閻忠はともかく程銀がヴリトラの存在を隠す理由が思いつかなかった。力の残滓、それは確かに感じていたがヴリトラのそれとは違うように感じていたからだ。

「ねぇ、馬龍」

「ん?」

荷台から呆けっとした声で呼ばれて振り返る。

よくよくこいつは俺の思考を邪魔するようだ。

「今どこ向かってるの?」

「・・・李堪、これで普段やっていけてるのか?」

昇竜の引く馬車と並走している李堪は眉間に浮き上がった皴を揉み解して応える。

「言うな、それは俺も不思議で堪らないのだから」

「李堪、今だってちゃんと仕事してるんだからそう言う事言わないで欲しいな」

このやりとりに覚えがあるのだが李堪が程銀に問いかける。

「・・・どんな仕事をしてる?」

「連絡係だよ」

「「はぁ?」」

李堪と同時、理解不能なそれに怪訝な顔を浮かべた。

また知らぬ間に知らない役職を得ている。

「ちなみにそれは何をする係なんだ?」

「馬龍が浮気したら閻忠さんに報告する係。閻忠さんが帰る前に頼まれたんだよ」


 ・・・頼むならもう少しまとも事を頼んでくれ 


「で、次はどこいる女の人に会いに行くの?あっ、でもあたしがいる限り浮気は出来ないんだからね」

「毎度女性に会うのが目的でもないし、浮気以前にそんなことになってないだろ」

「えぇ~~っでも、いつも真名の事で閻忠さんに怒られてるし」

「くっ、好きでその状況になって・・・」

「言っても無駄だ、馬雲成。・・・それよりそろそろ先の隊が郡を越えた頃だ。俺も一度そちらに合流する」

さすがに手馴れている李堪が話題を切り替える。

今後の予定は先に顔合わせをした時に済ませてある。

琢と隣接している中山は縦長の領地で進むのに都合が良い。

中山の次は西にある常山には進まず、そのまま南下し鉅鹿へそこで一度状況を確認すると言うのが李堪との共通見解だ。

「そうだな、了解した。俺達は予定通り先の町で宿を取る、後方の隊にはこれを残していけば良いんだな」

李堪から託されている青に染められた石、それは行軍時に変更なしを示す目印だという。

「あぁ、こいつがこの調子だ。すまないが頼む、予定通りなら明日の朝には戻る」

「へ?李堪どっか行くの?」

「・・・本当にすまない」

徹頭徹尾、李堪の非ではないのだが、同僚かつ幼馴染の不甲斐無さに頭を下げる李堪を見て同情してしまった。



李堪が前方に馬を走らせてしばらく、日が傾く前に街に入った。

先に李堪の隊が通過している事もあり、街の様子は至って平穏なものだ。

宿までの道で俺を監視したり、探る瞳を感じる事はない。

「おい、程銀着いたぞ」

「うぇ?ご飯出来た?」

凄まじい聞き間違い、というよりも腹の中に脳みそが入っているのでは?と錯覚するような返しだ。

「面倒だな。もうお前は宿に行かずそのまま荷台で過ごした方が良いみたいだな。それなら宿代も節約できて俺も助かる」

「っ?!!じょ、冗談だよ!うん、あたし分かってるよ。宿に着いたんだよね」

俺の言葉に飛び起きて、荷台から飛び降りた。

「なら、俺は必要な物の買出しに行く。部屋の事は任せるぞ」

「は~い」

起き抜けだと言うのに元気な返事を返してきた程銀だが・・・思えばこの時にはまだ避けることが出来たのかもしれない。

そしてそれを任せてはいけなかった俺は後悔する事になる。



久々に一人、町並みを見て歩く事が出来る状況に少し時間を掛けてしまった。

宿に戻り自身の部屋の戸を開くと珍しく読書をしている程銀がいた。

「あ、遅かったね」

「なんだ?飯の準備は出来てないぞ」

その姿が気になりはしたが普段通りに軽口をたたきながら、一先ず空いている机の上に荷を降ろす。

「分かってるよ、まだご飯の時間じゃないし」


 なら、何故俺の部屋にいるのか


旅中は節約のため昇竜の傍で寝る事が多かったが、それでも必要な時は閻忠と程銀で一部屋、もう一部屋を俺で使っていた。

今回は李堪からの援助もあり金銭を気にする必要がなく、俺と程銀の部屋を別々に取ったはずだ。

程銀はパタリっと本を閉じて思考を巡らせる俺に小首を傾けた。

「どうしたの?」

「飯が出来るまで自分の部屋で寛げば良いんじゃないか?」

「ん?寛いでいるけれど・・・」


 嫌な予感がする・・・話がかみ合わない時は、特に・・・


「俺は二部屋とったんだが、お前の部屋は・・・」

「あぁ、その事?さっきお客さんが来て部屋が足りなくなったらしいんだよ。それで宿の人が困ってたからあたしと馬龍の部屋を相部屋にしたんだ」


 なん、だと・・・


嫌な予感が的中。

だが、何故かまだそれが終わっていないそんな予感もある。

「いいよね、あたしと馬龍の仲だし。困ってる時はお互い様なんだから」

どんな仲だと言うのか、お互い様と言うにも先客の俺達が融通するべき相手なのか俺は知らない。

だが、もう決定してしまった事に駄々を捏ねるわけにもいかない。


 今日は昇竜の所か・・・


昇竜の傍で寝るのに不満があるわけではない。

だが、経路を見直したり資料をまとめるには宿の厩舎は手狭で夜中に墨の香りをさせると昇竜がむずがるので寝る以外の行動が取れないのが難点。

俺のまとめている資料には前の世界の言葉で書き込みを行っているため、一人の時にしか出来ない。

しょうがないので今の内にまとめられる物を済ませてしまおうと机に置いたばかりの荷に手を伸ばす。

「はぁ~~、もう少ししたら飯の準備をする。それまで昇竜の所にいるから何かあれ・・・ば?なんだ、さっそく用か?」

溜め息交じり、今の時間なら昇竜も嫌がらないと考えていると程銀に袖を掴まれた。

「馬龍もここで寛げば良いと思うよ」

「いや、構わない。少し荷も整理・・・」

「琢を出たばかりで整理するほどじゃないと思うよ」

確かに整理するほど中は散らかってはいない。

「・・・なら、早めに飯の準備をしよう。そうすれば一品増やせる」

「あたし、そんなにお腹すいてないから。馬龍は少しゆっくりしたら良いと思う」

一先ず、部屋を出る理由を口にしてみればやけに程銀が邪魔をする。

 

 ・・・なんだ?やけにしつこいな


それに飯を出しにして見ても程銀が引き下がらない。

どう言ったものかと後頭部を掻きながら理由を考える。

無視しようにも程銀の力で握られたそれを無理やりに振り払う事は出来そうにない。

「ねぇ、馬龍。あたしと二人になるの、嫌?」

「・・・・・・」

適当に合わせればよかったが、咄嗟に返す言葉を俺は持っていなかった。

「あたしずっと思ってたんだ。馬龍はあたしの事どう思ってるんだろって、だから少し話したいんだよ」

「特にないだろ。それとも飯の献立で何か不満でもあったのか?」

少し遅れて茶化してみるが程銀の瞳が沈む。

「馬龍って、そうなんだよ。距離があるんだ、どんなに近づいても縮まらない距離。こんなのあたし初めてだよ」

「そんな事ないだろ。等しく同じ人間なんていないんだから」

「あたしさ、いろんな人と仲良くなるのって結構自信あるんだ。でも馬龍は全然遠い、嫌われてるって感じじゃないのに、嫌われるより遠くに感じる」

「求める事に答えはしているはずだ」

「答えになってないんだよ、それじゃ」

珍しくしおらしい仕草をする程銀。

けれど、その言葉は的を射ているのかもしれない。

「ねぇ、馬龍・・・あたしってさ、邪魔なのかな?一緒にいちゃ迷惑、なのかな?」

「そう言う関係じゃないだろ、俺とお前は」

程銀の言葉は私的な思いなのか。

けれど、俺と程銀とはそんな私的な関係で済ませられるものではない。

程銀が今こうして俺の傍にいるのはその任務在ってこそ、閻忠の護衛と言う厚意とはまったく違う性質のそれは私的な感情に左右されるものではない。

それを俺も程銀も理解しているはずだ、必要以上に近づいてはいけない間柄なのだと。

「・・・でもね、あたしは馬龍の事知りたいって思ったんだよ

「それがお前の任務だろ、知りたい事を隠しているつもりはないが」

「そうじゃなんだよ。あたしはさ、知りたんだよ。・・・西平でいつも何をしていたのかとか、馬龍はどこで料理を覚えたのかとか、馬龍の小さい時の話とか、盾を持つあたしが知らなくても良いようなそんな事」

堂々巡りな程銀の言葉だが、なんとなく言いたい事は理解できた。

けれど、俺がそれに答える事は難しい。

そう考えていると俺を見ていた程銀は俯き、ぽつりと呟く。

「あの丘であった裏馬龍ってさ、閻忠さんも言ってたけどあたしもあの人を馬龍なんだ、って思ったんだ」

裾を掴む程銀の手が少し震えている気がした。

「あの馬龍はさ。あたしの事見てなかったんだ・・・閻忠さんや盧植さんには言葉を掛けていたのに、あたしだけそこにいてもいなくても良いみたいだった」

「・・・・・・」

「それってさ、普段の馬龍と同じなんだよ」

返す言葉を捜しても否定する事はできなかった。

「意地悪でも優しくて、作ってくれるご飯は美味しくて、あたしが我が侭を言っても怒らなくて、鍛錬してる時は真剣で格好良くて・・・」

うわずった声で程銀は続ける。

「そんな馬龍といると楽しいのに。なんでだろ、今もこんなに近くにいるのにいつも遠くにいる気がして、時折凄く・・・寂しいって感じるんだよ」

掴まれていた袖から程銀の指先がするりと滑り落ちる。

「・・・それが本来の俺とお前の距離だ」

「っ・・・!」

確かに距離を測りかねていた時がある。

それは本人の言うように周囲に溶け込む上手さがあったせいだろう。

だが、こうして二人、他の人間が関わらない所ではこれが正しい距離なのだ。

友好があるわけでも敵対する意思があるわけでもない、互いに不干渉であるのが本来持つべき姿。

「わかったのなら、これ以上は互いの利にならない」

これ以上の会話はいらない事象を生みかねない。

それ以上の言葉を言わず、荷を取らず、部屋の外へ足先を向ける。

「ば、馬龍っ、待って!」

「ゴホァアッッ!!」

足早に立ち去ろうとした所からの背面ベアハッグ。

ホールドされた腕が丁度鳩尾を捉え、意もせぬ言葉と共に空気が吐き出される。

「あっ、ごめん。でも待ってよ、馬龍」

程銀は謝罪と共に多少力を弱めたが、それでも抱きついたまま離れない。

「ゴホっ、だ、だがな・・・これ以上はお前の立場もあるはずだ、やめておけ」

「立場とか関係ないっ!あたしは馬龍と一緒にいたいって。だから、だから・・・邪魔なら邪魔って言って欲しい、嫌なら嫌って言って欲しい!いっその事、嫌われても・・・嫌だけどそれでも嫌ってくれた方が馬龍の傍にいける気がするんだよ!だから・・・」


 ・・・あぁ、これは諦めなくては、いけないか


俺もこいつも互いの距離を間違えた、踏み込みすぎてしまったのか。

俺の背に張り付いているこれを剥ぎ取るには『離せ』と言った所で効果はないと感じた。

俺がこいつに抱くそれを話さなくてはこいつは俺を離さない。

力づくで離させても、道中一緒にいればそのどこかでまたこれは話す事を望むのだろう。

「馬龍はあたしの事、どう思ってるの」

こいつが求めているのは二極論だ。

好きなのか、嫌いなのか。

好意と敵意、それ何故この場面で言うのかは知らない、それが任務としてなのか個人的なものなのか俺には判断しきれない。

この状況で程銀の言葉を信用する事はまだ許せない。

これの主と敵対する可能性が残っている限り・・・

「・・・・・・」

だが答える事にした、個人としてこいつをどう思っているのか。

それは情と移してしまっていた俺の落ち度。

少なからず助けられてきた事への義。

「俺はな、お前の事が・・・」

俺が言葉を続けると腹に巻きついた程銀の腕がギュッと強張る。



「・・・嫌いだ」



それが俺の抱いている感情。

それは誰も救われない答えだ。

口しなければ曖昧なまま、無事にこの道程を進めたのに・・・そう俺はこの後で後悔する。




 ・・・・・・・・・




 

 ・・・・・・





 ・・・





「ぷはっーー、生き返ったぁ!!姉ちゃん、助かったよ」

「本当に助かりました、ありがとうございます」

先程まで無心で食事をしていた二人から礼を述べられた。

二人の名前は緑髪の方が文醜、黒髪の方が顔良。

「いえ、私はするべきと思った事をしたまでですから」

お腹を空かせていた二人を見かねた私は声を掛け、傍にあった飯店へ連れて行った。

最初は少し元気がなかったが料理を前にし、レンゲを口に運ぶとその後は程銀殿も驚くのではという速度で皿を空にしていった。

「でも、危ない所だったぜ。もう五日はまともな飯食べてなかったから」

「もう、節約しようって言ったのに文ちゃんが食べちゃったからじゃない」

「あんだよ、斗詩だって食ってただろ。それにあの時はすぐに金が入る予定だったんだから」

金、と言うとここでの出費が気になってしまうところではあるけれど、言い合いを出来るほどに活力を得る事が出来たのならそれはそれで良かった。

「まぁまぁ、それでお二人は何故あのような事に?」

「えっとですね。私達は賊退治をして食を賄っていたんです」

「お二人で、ですか?それにしては・・・何も」

荷物を持っていない。

賊退治と言うからにはそれなりに装備を持っていなければと思う。

それに私より若い、郷を出て独り立ちするにはもう少しと思える年齢。

「あーー、剣とかその辺は前の町で売っちまった」

「売って・・・?!」

今し方まで生命の危機だったかもしれないと言うのにけろっとした様子で答えられた。


 ・・・程銀殿以上ですね


「その、大変だったのですね」

「はい・・・徐州から流れてきた賊を捕らえていればこんな事にならなくてよかったんですけど」

頭の中に何かが引っかかった。

「それは平原あたりでの話では?」

「そうだぜ、あん時は驚いたな。行ってみればもぬけのの殻。ひっとこ一人いやがらねぇ」

「そうだね。ですけど、なんでお姉さんが知っているんですか?」

「っ・・・いえ、そのぉ私もそこを通ってきましたので」

危うく口を滑らせて仕舞いそうになった。


 きっとあの時、馬龍殿が退治された・・・

 

それを知ったら二人の機嫌を悪くする。

せっかく、空腹を満たし笑みを見せているのだからそれは知らせてはいけないのだとお茶を濁す。

彼女達が私の前に現れたのも巡り合わせなのかもしれない、ここでの散財した理由が生まれた気がした。

「それよりもお二人は何故こちらへ?」

「それは賊が出たからに決まってるだろ」

「私はそのような話は聞きませんでしたが・・・」

少し迂闊だ、兵として経路の先の情報を取り逃していたのはやはり気を抜いていたのだと自己嫌悪していると顔良殿が苦笑いを浮かべながら私に告げた。

「聞いていないのも仕方ないです」

「それはどうしてです?」

「まだ褒賞も掛かっていませんし、それ以前に賊かもわかりません。ここで怪我をしている人を大勢見たって話を聞いてそれを文ちゃんが・・・」

「だってよ、褒賞がかかってからじゃ平原の時みたいに横取りされるだろ?なら先にとっ捕まえちまえばいいじゃないか」

文醜殿の理屈は通らないでもない。

けれど、その代償が大きすぎる。そしてその代償を払ったのがあの結果。

「ですが賊ではなかったのですよね?」

「・・・姉ちゃんそれを言うなよ~~」

文醜殿は涙を流し、その頭を慰めるように顔良殿が撫でる。

「それで結果なんだったのです」

「わかりません。でも賊ではないみたいで何も情報がないんです。熊か虎、っていう話も聞かなかったのでデマだったのかも」

「くっそぉぉ~~、せめて熊か虎なら、斬って焼いて食えたのによ~」

踏んだり蹴ったりの様子、けれど踏んだのは間違いなく馬龍殿が原因。

だからと全ての責を取る事は出来ないが少しばかり今後の二人がどうするのかを気に掛ける事にした。

「賊退治をされていたと言う事ですが剣を売ってしまい、これからどうされるのでしょうか」

「うっ・・・」

「どうしましょう・・・」

言葉を詰まらせる二人を見て意地の悪い質問だったのだと反省した。

八方塞がりになってしまったから行き倒れていたのに。

「収穫期も大凡終えてしまいましたし、この辺りで働き手は必要とされないでしょう」

「ですよね・・・」

けれど、理想だけをいう事は無責任と感じ事実を告げれば顔良殿は同意し、項を垂れる。

ここの周囲は小さな村ばかり、ここも町という規模ではあるけれど最低限の宿や飯店がある程度。

今いる飯店も私達以外に客がおらず、暇を持て余している店主を見れば給仕を雇うような気配はない。

「ですので、もう少し大きな町まで私と共に行きませんか?」

「えっ?!姉ちゃんいいのか?」

満面の笑みで疑問を口にされた。

不思議とその雰囲気は程銀殿に似ている。

「えぇ、ここで会ったのも何かの縁なのかと」

「でも・・・会ったばかりの私達になんでそんな親切に」

「斗詩、渡りに船じゃんか」

「・・・文ちゃん。わかりました、宜しくお願いします」

私の提案に素直に同意してくれる文醜殿、それに押されるように頷く顔良殿。

きっと、旅の中でそうやって二人は歩んできたのでしょう。

そんな姿が今の私には少し羨ましい。

一人旅と言うものはやはり寂しい。

そんな思いがさせて提案なのかもしれない。

けれど、それ以上に・・・


 繋がっていたい、のかもしれないですね私は




それから三人で宿へ向かう。

「いやぁ~~姉ちゃんのおかげで腹は膨れて、久々に布団で寝れる。捨てる神あれば拾う神って奴だな」

「そうだけど、閻忠さんは私達の恩人なんだから”姉ちゃん”って言うのもそろそろ・・・」

「ん?あぁーーそうだな。じゃ~~、姉御」

「ちょ、そうじゃなくてー」

顔良殿の言葉を少し違う形で理解したのか文醜殿から告げられるそれは少しむず痒いものだった。

「ふふっ、私は構いませんよ、呼びやすいもので」

「おおぉ、さすが姉御、斗詩よりおっぱい小さいけど器はでかいぜ」

「なっ・・・?!」

文醜殿の言葉は私に突き刺さる、小さいと言われるその胸に。

確かに誇れるほど大きなわけではない、鎧を脱ぐまで男だと馬龍殿に勘違いをされていた。

その事実が胸を痛める。

「すみません、すみません。文ちゃん悪気があって言ってるわけじゃないので」

「大丈夫です。事実・・・ですから」

「あたいは褒めたのに何で斗詩謝ってんだ?・・・まぁ、いっか」

悪気がないのはこの一言で充分に理解できる。

けれど、それが一番残酷な事実で、抉るのだ・・・私の小さなこの胸の内を。

「それよりさ、あそこが姉御の部屋でいいのか?」

「・・・えぇ、そうです」

刺され、抉られ、萎んでしまいそうな胸を押さえながら文醜殿に頷くと部屋の戸に文醜殿が手を掛ける。

「っ・・・?!」

開いた途端、部屋の中から寒風が廊下へ吹き出されるようだった。

「なぁ、姉御。部屋間違えてないよな」

二人はそれを”視る”事が出来なかったのか私の反応に疑問を持ったようだが文醜殿は構わずそれを確認した。

「えぇ、合っています」

文醜殿の背後から見えた自身の部屋、その中には私達を出迎えるかのように立つ人影。

「やぁ、閻忠」

部屋の中だというのに目深に外套を被るその声に私は聞き覚えがあった。

けれど記憶にあるそれに比べ背が低い気がする。

それはあの時あれの圧力に押されていたせいなのか。

「えっと、お知り合いなんですか?でも、町に入る時は一人でしたし」

今はまだあの時見せていた殺気はまるでない。


 けれど・・・


注意を配りながらちらりと傍にいる二人の少女を見る。

「少しばかり縁のある方です。申し訳ありませんがお二人は・・・」

あまりにも危険な存在、これの標的になる前に二人を宿から逃がそうとするとそれを遮る声がする。

「大丈夫だよ、約束は守るから」

口元は笑み、敵意を持たないままでいるが何を考えてここにいるのか私は理解しようとするので一杯だった。

「・・・では、何故ここにいるのです、ヴリトラ殿」

「よかった、僕の事覚えていてくれたみたいで。少し困った事が合ってそこに君が通りがかったから来て見たんだぁ」

「困り事、ですか。貴方のような方が何を困ると言うのです」

何かあってもその力でねじ伏せてしまえそうだと私は感じていた。

「にひひっ、なんだか君はお兄さんに似てるね」

何かを企む様な、それでいて純真な子供のような笑い声。

「僕は・・・」

そして、次に開かれる言葉に私は疑問符を浮かべたが、その後の答えに何を私に求めているのかを知った。









NextScene

++帰らずの銀、行く末に待つ玉++




えっと、ようやく話を進められる段階に来たのかと

空転している頭をフル回転・・・では前に進まないので一度落ち着きたい。

ここから内政と外交という部分を書くので話を整理しないといけないです


で、ちょっと章管理というものをしてみました。

まぁ、話のタイトルがどこにいるのか分かりにくいのでこんなかんじになっています。

後々変える可能性もありますが、見る限りでひとつの章で一つの地域の話って感じで見てもらえれば幸い。

まずはルートが黄巾になるまで、と思ってください。


えっとここはさらっと書く事が多いのでまたどこかで解説的な何かを上げさせてもらいます。


では、次話、年を越えてだと思います

来年こそは本当の星が落ちますように・・・



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