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恋姫天衝 ~対極の御遣い~  作者: 雀護
・幽州、琢~
30/44

問うべきを問えず





++間隙はその背に、陰影を作る++








沛国を出て数日、何のトラブルもなく幽州に入った。

だがここから平原からは安平の方へ進路を取る。

少しばかり慎重さが必要になるのが面倒な所だ。

これは幽州の特色の一つだが他の州に比べ小さな郡が多くある琢郡はそのやや北方、厄介な位置にある。

進路次第では四、五くらいの郡を跨ぐ事になる。

沛国で陳珪と出会わなければここが一番の賭けどころだっただろう。

だが運よくというべきか陳珪の助言により比較宮廷との繋がりが薄い郡、町を知る事ができた。

自意識過剰とも取れるがリスクを考えればこれ位の警戒はしておくべきだ。

馬車を引く昇竜の足取りも先日の一件から調子を戻しているようだし、この調子なら最悪馬車を捨てて駆け抜けるという事も出来そうだ。

他の面々も今までどおりに旅路を進む事ができている。

程銀は・・・まぁいつも通り荷台でのんびりと、閻忠は嘲風に跨り昇竜の行く手を先導している。

「ん~~・・・」

一先ず琢郡までの道筋は見えたものの手に開いた地図を見ては一人悩み地図に筆で印を付けていく。

もしかしたらと予想していたもののこの世界の地図はかなり曖昧なものばかりだ。

道すがら自身で付けてみているものの見えているだけの部分だけではやはり精密さに欠ける。

このあたりを琢郡にいる学者から仕入れたいところだが望みは薄いかもしれない。

「速度をあまり落としたくないし・・・どうするか」 

小脇に置いた壷から保存食として作っておいた試作品を取り出してコリコリッと固め食感を楽しみながら味を確認しながら風景と地図を見比べる。

「あぁぁぁっ!!」

「をっ?!なんだ?!」

唐突に荷台からの悲鳴にも似た大声が響き、驚きで手にした地図に間違えた印をつけてしまった。

「馬龍!それ!」

「・・・どれだ?」

昇竜の足が止まらない事から敵襲ではないだろうと判断できたが何を言っているのかいまいち分からずとりあえず振り返る。

「それ!一人でおいしそうなの食べてるのはずるいよ!」

「あ、あぁ、これか、驚かせるな」

振り返ってみれば程銀が指しているのは壷の方だった。

「食べるか?」

「食べる!」

即答だ、気持ちの良いほどに間髪ない即答。

昼は既に済ませているが太陽の高さを見ればおやつという時間あたりだろう。

「・・・味見だけだからな」

そう言うと程銀は壷の中に手を伸ばしてそれをつまみ出しそのままそれは口の中に入れた。

「んん~~美味しい、少し固いけど・・・これメンマ?」

「・・・お前は何か分からないものを口にいれるんだな」

「だって馬龍食べてたし」


 今度イナゴの佃煮でも作って・・・いや、こいつなら平気そうだ・・・


パクパクと壷の中身を喰らい尽くす勢いで食べ続ける程銀から壷を取り上げる。

「あっ、何?!馬龍は食べて良いって・・・」

「食い過ぎだ。誰も全部良いとは言ってない」

壷を取り上げると程銀は不服そうに頬を膨らませたが作り直しには時間が掛かる。

味見ついでにと安易にこいつに食べ物を渡したのは早計だった。

「あまり量は作れてないから味見だけ・・・」


 って、こいつ・・・


ふと程銀の顔を見ると俺の持つ壷を凝視している。

手にした壷を左右に動かすと程銀の瞳もそれを追いかける。


 食い物に対する執着が・・・強すぎる!


まるで得物を捉えようと身構える虎のようだった。

そして虎は得物目掛けて跳びかかってきた。

「いいじゃん、また買えばっ」

「買ったものならっ、良いがっ、これはまだ試しで作ったんだっ!」

馬車の上でメンマを取り合う攻防が開始された。

これが子猫だったのならよかったがそれが食べ物を前にした程銀はそんなに甘くなかった。

「それがなくなるとっ、作り直しになる!」

「馬龍っ、だったらー、すぐにっ!作れるーーよっ!」

何の根拠もない事を言いながら飛びついてくる。

更に実戦さながらのフェイントまで織り交ぜて壷を強奪しようとしている。

「っと?!・・・おま、虚に気配まで飛ばしてくるな!」

「うぅぅっ、それでも避けるくせに~~。なら、これでどうだっ!」

程銀の気配が幾股に分かれながら壷を持つ左手に、だが程銀の勁力の動きはその逆、それでいて視線は俺の腰辺りへ向けられる。

得物を狙う振りをしつつ、右手に逃げさせそこを抑えるつもりではいるがあくまで俺の体が動かないように注視するという流れか。

ならばと、先に程銀を抑えてしまおうと動き出すと程銀の勁力が反転した。

「なっに?!」

程銀に勁測は教えていないので意図的に勁力によるフェイントなど出来るはずはないと舐めていた。

咄嗟に程銀の動きに反応しようと力を入れてしまい一瞬の硬直が生まれた。

「捕まえたーー!」

間合いが取れていたのなら避ける事もできたが馬車の上は狭い、一瞬とはいえ程銀にはそれで充分だった。

程銀は俺に抱きつかれるように掴まり動きを封じる。

ここまで密着されては左手を伸ばして程銀に届かないようにするのがせめて。

俺の体を登るかのように程銀は壷に手を伸ばす。

「あと、すこしーー!」

「だぁぁぁ、なんでそんなにこれが食べたいんだよ。他にも食い物は積んでるだろ?!」

「美味しかったから!もうあたしはメンマの口に、なってるんだよ!」

素直な感想ではあるだろう、だがこれが食べられないでいるイライラで口調が荒い。

だからと素直に褒められたとしてもこれは後の保存食にできるかどうか試すか思案中全てを食べられるわけにはいかない。

どこまでの保存が利くかというのは後々に重要になる。


 もういっそ気絶させ・・・


「・・・お二人とも何をしているのです」

諦めの悪い程銀の首筋に一撃入れようかと考えていると、いつの間にか馬車の脇まで嘲風を下げていた閻忠が怪訝な顔でこちらを見ている。

「あっ、閻忠さんも馬龍抑えるの手伝ってよ~」

「抑えるのはお前の食欲の方だ!」

程銀を引き剥がそうとするが抱きつく力が強すぎて密着状態から脱出できない。

「まったく・・・程銀殿はもう少し慎みと言うものを覚えた方がよろしいかと」

「えぇぇっ?!!」

閻忠の一言にほっと安堵し程銀の意識が閻忠に向いた瞬間、体を捻らせて程銀を振り切り馬車の上から飛び降りる。

「閻忠の言う通りお前は少し奔放がすぎる」

「馬龍殿もです」

「は?」

程銀の悪癖を改めさせようかと口を開くが閻忠の咎めるような口調が俺の方を向く。

「馬龍殿もあまり女性と、あ、あのように密着されるのは良くありません!」

ようやく解放されたと思えば、あぁそうだったと頭が痛くなった。

元より閻忠は楼杏のためとこの旅に同行していたのを忘れていた。

「・・・以後気をつける」

「そのようにお願いいたします。・・・それでですが先程より前方に村が見えていますがいががしましょう」

不機嫌そうに俺を見ていた閻忠だったが少しの間をおいてその表情を切り替えた。

閻忠からの報告の通り目を凝らせば先に集落が見えている。

「そうだな・・・」

程銀に飛びつかれた際に咄嗟にしまった地図を開きなおして考えをまとめる。

地図の上では主要な街道からは外れた村だ。

宿や市があるかどうか、ないのなら補充は利かないので別に寄る必要もない。

だが、まだこの辺りは陳珪からの情報では比較安全なはずだ。

昇竜も閻忠も調子は戻してきているが本調子ではない、屋根があるところのほうが回復も早まる。

様々な可能性を考えつつそれらを結びつける。

「少し見ていこう。村の様子次第ではそのまま軒を貸してもらおうか」

「了解しました、ではそのように」

村へ向かう事を決めると閻忠は再び昇竜を先導するため嘲風を前に向かわせた。

そして、村まで俺は昇竜の隣を歩く事になった。

それは程銀の瞳が未だ馬車の上で壷を狙い続けているから。




辿りついた村は良くも悪くも村だった。

周囲には田畑が広がり、所々では牛や鶏の鳴き声が聞こえる。

行き交う人の数は先に通ってきた穎川や沛国、安定に比べ必要もないほど少ない。

だが閑散としているという風ではない。

町と街道を区切りはなく家屋が建っている所からが村でそれがなくなったところが街道。

村に入った所からは閻忠も嘲風から降りゆっくりと村を歩く。

旅人というのは珍しいのかすれ違う村人の視線は俺達に向いていた。

少々警戒されている様子が伺えるのが気がかりだが必要以上に接触をしなければ事なきを得られるだろうとこの時は気に留めなかった。

「市はないか。茶屋と宿はある・・・まぁ上々か」

「では本日はこちらで?」

「あぁ、そうしよう」

「・・・ご飯は?」

閻忠と話していると程銀は不貞腐れた顔を馬車から覗かせる。

「店はなさそうだからな、また主人に相談してやるからそろそろ諦めろ」

「馬龍、食べ物の恨みって怖いんだよ?」

「これが上手くいけばもっと美味くなるんだが、お前はそれを邪魔するのか?」

「うぅぅ・・・馬龍の意地悪~~」

頬を膨らませているが一先ず諦めがついたのか馬車の中から程銀はのそりと降りてきた。

それほど大きな村と言うわけではないこんなやり取りをしている間に既に宿屋の目の前。

宿の中に入っていく閻忠と共に程銀は宿屋の中へ入っていった。

「・・・ったく、最近また遠慮がなくなってきたな」

一人昇竜の傍らで愚痴るように呟いた。

「あの~、あんたら旅の人かい?」

「ん?」

先程から感じていた視線、その中の一人が俺に声を掛けてきた。

第一声で厄介ごとの気配がした。

「あぁ、何か用か?」

「旅をしてるんだったら気をつけぇよ。最近東の森に徐州から賊が迷い込んだって噂があんだよ」

厄介ごとではあるが警戒するほどでもなかったようだと忠告をしてくれた村人への警戒を下げた。

村の様子もこの噂が原因なのだろうと理解した。

「賊、か。忠告感謝する」

「えぇよ。けど、陳情をあげても中々返事がないもんでな。村のもんら皆不安がってしょうないて、もし街の方に行くんなら役人に話しちゃくれんか?」

「街か、わかった頭に入れておく」

「助かるぁ。んじゃ、道中気いつけろよ」





昇竜を小屋に連れて行った後、宿の一室の戸を開いた。

中は比較的質素というか簡素というか最低限の寝具と椅子と机が一組あるだけだった。

程銀は手持ち無沙汰なのか椅子に腰掛け足を投げ出してぷらぷらと揺らしていた。

そして、俺が部屋に入ってくるとジトリと陳登から伝授されたかのような瞳を俺に向ける。


 ・・・食べ物の恨み、か


「あの、先程村の方と話しておりましたが何を話されていたのです?」

「東の森に賊がいるらしいと言う話だ。地図で見る限り距離がある、警戒の必要はないだろうが徐州から流れてきた賊だと言っていた」

「徐州、ですか・・・あまり良い報ではありませんが、気をつける越した事はありませんね。経路を見直しては?」

閻忠は賊の発生地を知ると顎に手を当てて少考してそう提案してきた。

徐州、搾りかす程度にある三国知識では治安が良くないという印象がある。

現状での進路は平原さえ抜ければ幽州の中央を通る予定でいるから徐州とは隣接する地帯はここだけだ。

経路自体を見直す必要は感じないが野営予定は少なくしたい所ではある。

「まぁ、一先ず一息入れよう」

「了解しました。近くに茶屋がありましたのでそちらで何か買ってまいります」

茶菓子程度なら俺が行こうとしたのだが止める間もなく閻忠はすっと戸を抜けていった。

先程から感じている視線が絶妙に居心地の悪さを感じさせる。


 ・・・まったく、しょうがないな


居心地の悪さと言うのはストレスとなる、それなりにこれにも節度と言うものを知って欲しい所だが今回はこちらが妥協しておこう。





茶屋で茶と茶菓子を揃えて空を見上げた。

抜けるような青の空。

時折吹く風は少し冷たい。


 あと何度・・・


そう不意に旅を始めた時はありえないだろう感傷に浸っていた。

既に幽州入りしている、経路事態はほぼ最短距離を通る予定でいる事からあっても数日、寄り道をしたとしても十日もいらずに目的の琢へ到着できるだろう。

途中の野営を考えれば後何度こうして落ち着いて宿でお茶などできるだろうかとつい思ってしまう。

「それに・・・私は・・・」

普段となんら変わりない二人の様子、程銀殿に至ってはむしろ遠慮と言うか馬龍殿と昔からの友であるかのような振る舞いをされている。

それに少し羨ましさを感じていた。

だが、私には役目がある、それは許されないのだと思っていた。


 ”身分など友好を結ぶ事の障害にはなりません”


陳珪殿の言葉は私に少しの希望と苦しみを感じさせた。

主が思いを寄せる人物。


 それゆえに私は思い悩むのか


仕えし主がいる、義真様は私が義を、忠を捧げし方。

それに何一つの不満もない、仕えることが出来るその充実を、誇りを遠くにあっても感じている。

それだというのに私はあの方に心動かされている。


 それが私を苦しめるのか


彷徨う思いは秋の空に消えていく。

その答えをないままに・・・。

けれど時間はあまり残されていない。

後、一ヶ月もしないうちに私は答えを出さなくてはいけない。

約束を、誓いを守るために・・・。





宿まで戻ると戸を開く前に頬を数度叩いて心を引き締める。

「・・・よしっ」

気持ちを切り替えて戸を開ける。

「馬龍殿、ただいま戻りました」

「あっ、閻忠さんおかえり~~♪」

私を迎え入れてくれたのは機嫌を戻していた程銀殿一人だった。

「あの馬龍殿は?」

「えっと、少し荷物を整理してくるって馬車の方だよ」

「そう、でしたか」

程銀殿の答えに何故だろうか少し安堵している自分がいた。

安堵してから手にしていた荷を程銀殿いる机の上に置き、お茶の準備に取り掛かる。

「・・・程銀殿何を食べているのです?」

「メンマ~っ♪馬龍が食べていいって♪閻忠さんも食べる?」

ふと視界に入ったのは傍らで壷を抱えてその中身をもぐもぐと口にしていた程銀殿。

私の記憶が確かなら先程馬車の上でそれを取り合うように暴れていたと思っていたのだけれど・・・。

「ん?あぁーー、これは大丈夫だよ。さっきのと違ってこれは・・・なんだっけ?」

「賞味期限は見極めたから食べても良いと言ったんだ」

「そう、しょうみきげん。これも美味しいよ~♪」

程銀殿は小首を傾げていると戸口に立っていた馬龍殿が答えたが程銀殿が美味しそうにメンマを口に入れると溜め息をついた。

「ば、馬龍殿っ・・・荷物の整理と言うのはもう終えられたのですか?」

「あぁ、琢まではあと少し。残りの食材の量を確認していただけだ」


 あと、少し・・・


恐らく、馬龍殿の計算では既に琢に入った後を考えているのだろうかと思うと胸が少し締め付けられるようだった。

「不調か?勁力は昼に確認したが・・・」

「いえ、問題ありません。お茶の支度をしますのでお座りください」

「まぁ、不調ならすぐに言え。見立てなら琢に着く前には完治するはずだから我慢はするなよ」

馬龍殿はすれ違いざまに私の肩をぽんぽんっと叩くと椅子に腰掛け手にしていた地図を机に広げた。


 

それから馬龍殿と共に何度か経路を確認したが、概ね問題ないという結論に落ち着いたがその日程を短縮しようと幾つかで野営地を変更した。

そして夕餉の後「今日の鍛錬はこれで終わりにしよう」との馬龍殿の一言で早めに切り上げられ床に就いた。

不調はなかった、けれど「勁力が乱れている」と私の心の乱れを見抜かれての事だ。

理由を問いただされる事はなかったけれど気持ちが入っていなかった、集中できていなかったのは確かだ。

床についてしばらく目を閉じても眠りに入る事は出来ず体を起こした。


 少し書でも読んで・・・


隣で寝ている程銀殿を起こさないように馬車に乗せたままになっている荷を取りに部屋の外へ。



宿の裏手、厩舎というには小さな馬小屋の傍に止めている馬車の元へ。

馬車の中は暗く手にした火で手元を照らす。

「・・・『西楚の覇王--項羽』まだ途中までしか読めてませんでしたね」

書の置かれている区画からそれを手にして馬車を降りる。

「・・・?」

ふと小屋の方が気になってそちらに足が向けると小屋の中で寝ているはずの馬龍殿と昇竜殿の姿がなかった。

辺りを見渡したが鍛錬をしている馬龍殿の姿はない。

普段であれば宿の傍から離れて鍛錬をする事は少なく、もし離れる時は何か置手紙をしている。

一度馬車の中に戻りそれがないだろうかと見渡すがそれらしいものはなく、けれど見れば馬龍殿が使っている大双剣はそこに置かれたまま。

「一体どこに・・・」

「東の森だよ」

馬車の外に出ると背後から声をかけられた。

「程銀殿?!」

そこにいたのは程銀殿、そしてその姿は眠りにつく前と違い手足に具足をつけた状態。

「ですが、東の森には賊が出ると・・・」

「だからじゃないかな。で、閻忠さんはどうするつもりかな?」

程銀殿は笑みを作って私に問いかけた。

私はそれに自身の為すべき事を告げる。

「私は・・・馬龍殿の護衛です。賊がいる所にいると言われるのなら」

「それはちょっと困るな~。あたしは閻忠さんが馬龍を探すようなら止めてくれって言われてるし」

程銀殿の中で勁力が高まっていく。

それは鍛錬の時よりも熱量をもっているように見えた。

「・・・力づくでも、ですか」

護衛として力不足だというのはもう十二分に理解できている。

それでも馬龍殿の傍でその在り方を知る事、それは私が旅に同行した時からある目的だった。

「仕方ないよ。そうしないとメンマ食べさせてくれないって言うから」

「め、メンマですか・・・」

緊張感に欠ける理由だった。

「うん、メンマ」


 私の思いはメンマに遮られるのか・・・


程銀殿が具足をしているという事は理由はともかく冗談ではないと言う事だ。

馬龍殿の教えのおかげで穎川の時よりも上達はしているとは言え未だこの中で私が一番弱い。

程銀殿の本気になれば私を止める事など造作もないことだろう。


 けれど・・・


丸腰の状態で構えを取る。

私の武具は嘲風の傍に置いている、隙をつければ程銀殿を振り切る事もできるだろうと気力を高め勁力内部に充実させる。

「本気だね・・・」

「えぇ、私の役目ですから」

「でも止めるよ、絶対に」

程銀殿は盾を取り出すことなく深く腰を落とした。

具足をしているだけでも私相手には充分そう判断したのか、私が剣を手にしていないからか、それでも私のすべき事は変わらない。

一歩、小屋のほうへ踏み出すとそれよりも先に程銀殿はその間に回りこんできた。

「そう、簡単には行きませんか」

「ごめんね。閻忠さんの代わりはあたしがするから、閻忠さんは安心して部屋で待っててよ」

「代わりですか?」

どうしても程銀殿を倒さないと先に行けないのかと思っているところにそれは糸口のように感じた。

「程銀殿も東の森まで行かれると」

「そうだね。あたしも馬龍が何をするのか気になるからね」

「そこまでは徒歩で行かれるつもりですか」

「えっ?」

「ここから東の森までは距離があります。今から徒歩では日が昇るでしょうし、私の言葉がなければ他者を乗せても嘲風は駆けませんよ」

はったりだ、昇竜殿のような事にはならない。

けれど、程銀殿には嘲風が私以外を乗せて駆ける姿を見せていない、程銀殿の笑みは苦々しいものに変わった。

「えっと・・・そこは閻忠さんからお願いできない」

「出来ませんね」

「うぅぅぅ、どうしよう・・・」

程銀殿は頭を抱えて悩みだした。

その隙にと一瞬考えたがそれでも程銀殿の勁力は問題なく動き続け居ている事から動く事はできなかった。


 馬龍殿はこうなる事も見越していたのでしょうか


あくまで誰も自身の下へ来ないように。

「では、こういうのはどうでしょうか?」





程銀殿を説得し東の森の入り口に到着するとそこに馬龍殿姿を見つけた。

「で、結局来ちまったか・・・まぁ、メンマだけじゃそうか」

「あ、あははは、ごめんね馬龍」

既に事は終えていたのか鐙に足を掛けようとしていたところだった。

「何故、お一人で賊が居る森まで行かれるなど」

「それは・・・終わった事だから気にするな」

乾いた笑いを浮かべる程銀殿とは裏腹に私の思いは眉を吊り上げていただろう。

「気にします!御身に何かあれば義真様、馬騰殿に顔向けが出来ません!」

「少しばかり賊を潰してきただけだ」

「潰すとはお一人で退治されてしまったのですか?!」

馬龍殿はまるで散歩でもしてきたという程度の気軽さで答えた。

だが潰すとは言葉の通りなら森にいた賊を一人で退治されたのかそれとも・・・と馬龍殿に確認する。

「大した数ではなかったがついでに実戦のために少し相手になってもらった」

「では、その者たちは森に?」

「あぁ」

馬龍殿は頷いて答える。

私はその姿に・・・至って普段どおりの姿に違和感を覚えた。

「縛にしたのであれば役人に報告を・・・」

「その必要はない」

馬龍殿は首を横に振り、ちらりと森を見る。

ならば、何故賊を潰したというのか、先程の違和感と疑問が少しずつ何かに繋がっていく気がした。

「どうしてです。もしや、既に突き出されたのですか?それとも・・・」

「いや、少々懲らしめただけだ、少なからず賊として徒党を組むことはないだろう」

「それで潰したと、ですが一体なにを・・・」

「獣の域に足を踏み入れたらどうなるか、それを身をもって体験してもらった。その後どうするかはあいつら次第だ」

「・・・・・・」

馬龍殿の一言が何故ともしかしたらという疑念を繋げた。


 ・・・そうだ・・・やはり


「さぁ、用は済んだし戻るぞ閻忠」

けれどそれを私は馬龍殿にいう事は出来なかった。

何故だろうか、自身で答えを見つけるためか・・・違う。

知りたくないというわけではないそれは今も私の中で答えを求めている。

もしかしたら、私が今感じているものを馬龍殿は感じ取っているのかもしれない。

だから私を同行させなかったのか。

私は疑問の渓谷に入り込んでしまったかのような錯覚の中、一先ず馬龍殿と共に宿へと戻った。





今までと何一つ変わらないはずだというのにそれからの旅路に違和感を感じた。

いつも通りに程銀殿は馬龍殿を困らせていたし、馬龍殿は馬龍殿で普段と変わりなく料理をし、鍛錬をし、私の勁力を見てくれていた。

馬龍殿は完治と判断されたようで二日前には私の背に触れる事をやめた。

私の体は元に戻れども正体がわからない違和感を抱え、私自身答えを見出せないまま琢の地を踏む事になった。

街の人間に学者と尋ねればすぐにあそこだと答えられ、言われたままに着いた先は盧植と言われる人物の屋敷だった。

「さて、ようやくだな」

「少し遠回りしたしね~」

馬龍殿は入り口にいた若者に小さく何かを告げると懐から書簡を渡した。

「わかりました。少々お待ちください」

そう答え若者は屋敷の奥へと姿を消した。

それからしばらくしないうちに先程の若者を連れて一人の女性が現れた。

ふと馬龍殿を見ると表情が硬い・・・というべきか、少し強張っているように見えた。

少しだけではあるが馬龍殿の足元にも熱量を感じる。

警戒・・・という風には見えない、私自身も女性の足取りはゆったりとしていて友好とはいわないまでも少なからず悪意、敵意と言うものを感じなかった。

そして、女性は私達の前に立ち小さく会釈をして私達一人ひとりの顔を眺めるように瞳が動くと馬龍殿の前でそれが止まる。

「遠路遥々ようこそー、盧植と申します」

やや間の伸びた口調ではあるが女性らしさというべきか母性のあるやわらかな印象をそれに受ける。

それは自身とは縁遠いのだろうと思えてしまう。

そんな感想を思っていると馬龍殿はそれに答えるように頭を下げた。

「突然の来訪大変ご迷惑かと存じます。俺は西涼が馬騰の実弟馬龍、字を雲成と申します」

「ぷっ、あはははははっ、何それ。馬龍おっかしい~」

久々と改まっている馬龍殿の姿に指をさして程銀殿は笑い声を上げた。

それに馬龍殿の眉間がぴくりと反応を見せたが盧植殿はその光景を笑顔で受け入れているようだった。

「っ、程銀、後で覚えてろよ」そう小さく呟いたように聞こえた、それは程銀殿にも届いていたようでさしていた指が静かに天を向けて盧植殿に向き直る。

「あ、あははは・・・あたしは程銀。ええっと、河東へ里帰りの途中、です」

ここまで自身の身分を隠してきたのは分かるがこうして改まって名乗るという場面が少なかった。

ここまで来て初めて程銀殿の出身地を知った気がする。

「私は閻忠と申します。安定は太守、皇甫義真様の命により道中の護衛をさせていただいております」

二人の名乗りの後に盧植殿に馬龍殿の同様に頭を下げる。

「ふむ・・・・・・ここでは落ち着きませんね。どうぞ屋敷の方へ」

考え込むような仕草した盧植殿は再び微笑を浮かべて私達を屋敷へと招き入れた。




 


屋敷の中に入ると先に机の上には料理が用意されていた。

まるで俺達が来るが分かっていたかのように。

豪華絢爛が並ぶというわけではなく、お茶請けとして少しというふうだ。


 ・・・どちらかというと酒に合いそうだが、一先ず歓迎ととって良いのかどうか


盧植さんが席につくとそれに続けて俺達も空いている席に座る。

「ではでは、幾つか先に少々お話しておきますね~」

それはこうして料理が並ぶ理由にもなるのだろうか。

こうして屋敷の中に入り席にまでついて尚、状況に対して測りかねている部分がある。

「えぇ、出来れば俺の方先に口を開くべきなのですが・・・」

「そうですねぇ。先に用件をお聞きすべきなのですけど~、馬龍さんが言われた事を訂正させていただいてからでないといけないでしょうし」

訂正・・・という事は、そうなのだろうと想定していた可能性の一部が現実になっているのだろう。

だが、それならばこうして易々と屋敷に足を踏み入れる事は俺だとしたらさせなかった。

今のある事実と可能性は少しのズレがあるのかもしれない。

「ふふっ、ではでは改めて。先程”突然の来訪”と言われましたが、実は先触れが着ていたんですよ」

盧植さんが口にしたのは俺の可能性の一部と重なる。

嫌な可能性だ・・・俺を探る人間、賈クの言う興味を示している人間の手先が先回りしていたと言う事だ。

穎川を出る際に振り切りはしたが、また何処ぞから目的地はばれていたとそう言うことなのだろう。

だが、だとしたのならやはり盧植さんの態度が落ち着きすぎている気がしてならない。

「それはいつ頃でしょうか」

「ええっと、ですね。来たのは四人の方なのですが、そうですね時期はまちまちと言う感じですね。一ヶ月以上前の方と半月ほど前に二人、それから数日前に一人、それぞれ別の人物のお使いだとお聞きしてます」

「っ?!」


 別々?・・・一ヶ月前なら楼杏か紅姉さんのどちらかだろうか・・・だが残りの三人は・・・


一人は先触れとは聞こえが良い言い方だろう、想像通り先回りしていた官の者たちだろう。

「順番に申しますと~、一ヶ月前の人は楼杏ちゃんからで、二人目が司隷から来たそうです」

盧植さんが言うのはほぼ予想と同じのようだった。

ならば残りの二人、官の中でも勢力が分裂しているという事か、などと幾多の想定を組み上げる。

だが、俺がそれを汲み上げ切る前に盧植さんから正体が告げられた。

「三人目は董君雅さんの頼み事で来られました」

「董々、か」

あの少年のような笑みが思い浮かぶ。


 迷惑はかけたくないんだがな・・・


「董々?それは董君雅さんの事、ですか?」

董々の心配をしているとふと漏らした言葉に盧植さんは反応した。

「そうだよ。董々って言うのは馬龍がつけた愛称」

「愛称・・・。あの人らしくないと思っていましたが、結果あの人らしいかったという事ですか。納得です」

俺の代わりに程銀が答え、それに盧植さんは口元に手を当てて俺の顔を観察するような瞳を向けた。


 らしくない・・・


董々を”らしくない”と評していた事が気になった。

それはただ普通な形で先触れを送ったのではないという事になる。

それを想像し問いかけようとすると先に盧植さんの口が開く。

「少し聞かれたい事はあるかもしれませんが最後のお一人を言わせてくださいね」

こちらの思考に答えるように盧植さんは笑みでそう言い最後の一人の名前を言う。

「最近来たのは沛国の陳珪さんの使いの方です」

「・・・なんとも、周囲に世話になりすぎだな俺は」

「そのような事はありませんよ、馬龍さんの人徳と言うものだと思います。それに・・・」

これほどの人物が先触れを出した噂の人物・・・という事になるのだろうが何を感じるのか笑みを見せていた盧植さんの口調が少し落ちた。

あまり良い印象ではないのかと不安がよぎる。

「実は・・・ですね。二人目、司隷からの使者が来られた際大変失礼ながら屋敷へ取り次ぐ事を少々悩んだのです。こちらへお迎えする事を良しとすべきか、生徒達のため別の方を紹介させていただくべきかと」

盧植さんの言いたい事は至極当然と思えた。

この屋敷に足を踏み入れた時から生徒と思われる歳若い子が多く歩いていた。

宮中の面倒事、もしくはそれが着いて回っている俺がいたのでは迷惑と言うのは想像に難くなかった。

屋敷の戸口で対面した時俺はそれが一番危惧していた所だ。

だが、こうして屋敷に入れたというのは今言われた先触れの面々が関係しているのだろう。

「董君雅さん、陳珪さん、楼杏ちゃんに馬騰さんこれほどの一角に立つべき方々から紹介をされる方というのは興味ばかりが先に立ちます。ですので対面させていただいた時に決めようとそう思いました」

恐らくは俺も同じ立場になればそれに近い対応をしただろう。

だが、対面しただけそれだけではきっと判断は下せない、それをこの人はしたと言う事だ。

その理由が気になる俺は静かに盧植さんの言葉に耳を傾けた。

「・・・くすっ」

続いて聞こえてきたのは小さな笑い声だった。

見れば盧植さんは小さく頷いて笑みを浮かべていた。

「一羽の燕が夏を齎すのではない、とは頭で分かっていても文字通りに体験したのは初めての経験かもしれません」

燕とは先触れをいうのか、盧植さんの言いまわしは俺をどう評価しているのか未だ理解し切れなかった。

「秋に夏は訪れ、盧植さんはどう思われるのでしょう」

「その夏が秋の穂を枯らさずにいてくれるのならそれに水を振舞う事くらいですが秋の穂は既に蔵の中、冬の近い夏ならばその一時の熱を感じるものまた風流ではありませんか?」

少しばかり小難しい言い回しで返してみれば、さすが学者なんの苦もなくそれに合わせて解が来る。

それを言い終えると盧植さんは湯呑みを手にして口元に運ぶ。

これで一先ずの訂正を終えたという事だろう。

ならばこれからが本題になるのか、助力はしてくれるとなるなら何から言うべきか旅の中で考えていたが先に言うべき事がある。

「感謝いたします。そして、蔵の穂を傷つけないと誓います。俺の魂に掛けて、友好であってくれる人達のためそれを裏切りません」

ここまでに通ってきた旅路、そこで出会った人々が天意を手にするきっかけをくれた。

それに感謝と誓いを立てる。

「・・・それが貴方ですか。では、その友好に風鈴と言う名を加えていただけますか」

「風鈴?」

夏から流れて風鈴の鳴る季節と言うわけではないと思う。

ならばなんだと視線が宙を仰ぐ、だが流れで人の名前だと思い至るのはすぐだった。


 まさ、か?


宙に浮いた視線を盧植さんに戻すと当人は笑みのまま小さく会釈してそのまさかを口にした。

「風鈴の真名です」

真名に関しては当人同士の意思が重要であるが俺にはまだ当人だけの事情では受け取れない事情がある。

「馬龍殿・・・」

背筋に嫌な汗が流れる。

「どうかしたのか、閻忠・・・」

呼びかける声にそちらを見れば勁力など見なくても分かる閻忠の手が柄を握り今にもそれを俺の首に押し当てようとするのが。

盧植さんの手前それをしないでいるが冷ややかな顔だ。

女性の真名を、という事になるとこいつのプレッシャーが半端無い。


 この真名って制度どうにかならないのか


どうしようもない、地域の法というのは国の定めた法よりも時折強い力を持つ。

それが今回は世界単位であるもの、余所者の俺がどうこう考えた所でこれに慣れないといけないのだが・・・。


 こんなに圧力を感じないといけないとは思いもしなかった


とにかく、なだめなければと材料を探していると傍では盧植さんと程銀がくすくすと笑っている。

この事に対しては助力は得られそうにない。

「盧植さん真名というのは、ですね・・・」

「くすっ、そのようですね。ではせめて敬語ではなく自然な言葉でお話ください。風鈴はそちらの方が貴方の天意に近づくものだと思いますよ」

失礼ながらとそう言ってみれば理解していたかのように少しいたずらめいた笑みで盧植さんは答える。

それで閻忠も納得したのか圧力が引いた。


 それにしてもまた、言われた・・・天意と敬語になんの関係が・・・また言われたよ、俺


安堵した瞬間にこれほどまで様々な人に初見で言われた事を思い返しがくりと頭を垂れる。

「馬龍さんが良い風を運んでくれたようです。夏の風、風鈴は大好きです」

「・・・ありがとうございます」

「馬龍っ」「馬龍殿っ」

フォローだろうか、それに礼を口にすると隣からステレオで俺を呼ぶ声がした。

それに顔を上げて問いかける。

「なんだ?」

「敬語になってる」「敬語になってます」

「うぐっ・・・」

このやりとりは何度目になるのか、そして同じような事を何度言われているのか知れない事で再び上げた頭を落とす。

「ふふふふっ、董君雅さんが羨むのが想像できます。では、馬龍さんのお聞きしたい事、にお答えさせていただきたいのですが概ねの事情は書簡に書かれていましたので風鈴はそれにお答えさせていただくので構いませんか?」

ここまででようやくの段落かと少し疲れた顔で盧植さんに頷く。

「あぁ、盧植さんの知恵を貸してほしい」

教えを請うというのに敬語を封じるという行為でやりづらさがあるがそれも何か考えがあるのか、それとも本当に天意に近づけるのだろうか。

「人を探し、天意を探す。きっと道中でも人を探されていたと思いますが様子から察するに手がかりはつかめていないようですね」

「有意義ではあったけれど、その影すら感じられない始末だ」

「そうですか。では馬騰さんのお考えの通り天意を見るべきでしょうね」

「見るとは?」

「天意とは森羅万象、全ての事象に介在するものなのです。教え子達もよく勘違いをしている事です。天意とは与えられるものでも与えるものでもなく、常に天意と言うものを意識して世界を見ればありふれた挨拶の中でさえ天意と言えます。なので天意とは世界の捉え方次第なのですよ」

「・・・それは、そうだな」

きっと自問自答の中でそれを見出すのだ。

見方一つで変わる、そう知る事もまたきっかけの言葉で天意ではない。

西涼からここまで幾つものきっかけはあった。

天意というものを探していなければ口を噤んでいた事もある。

その意思を意識しなければ語らなかった言葉もある。

けれど、俺自身の天意と言うものには確信がない。

「ですので風鈴に出来る事は話し相手になるくらい。後はそうですね。幾つか案がないわけではありません」

「案・・・?」

「はい、まずは数日ご滞在いただくことになります。馬龍さんが必要とされている知恵というものがあれば風鈴がご教授させていただきます」

「それは・・・願ったりだけれど」

数日の滞在と言うのが気になる。

時間は最良の説得者という、そう言うことだろうかと盧植さんの答えを待つ。

「馬龍さんがこの時期に来たのは天意と思えます。もし早すぎれば馬龍さんはそれを待たず西涼に帰る選択もあったでしょう、遅すぎても同じ。数日後、ご案内した居場所があります」

数日後、それはまだ曖昧だった。

何か予定が組まれているのなら明確な日数を言うと思う。

だが場所というのなら季節、風景、という事かもしれない。

それとも誰かが来る予定でもあるのか。

憶測で言えばいくらかは考えられるがそれで何があるのかは想像できない。

だがここまで来て何か分からないからという理由で盧植さんの案を断る事もできない。

「今はあまり深くは考えはせず、まずは長旅の疲れを癒してはいかがでしょう」

盧植さんの事を信じないわけではない。

けれど、と頭の中で呟く自分がいる。

少しの間思考を巡らせてから結局はそこに行き着くのか、頷くだけだった。

「・・・そうさせてもらう、か」

「では、以前住み込みだった生徒の部屋が空いていますのでご自由にお使いください。街の宿ではご案内できる時機を失うかもしれませんので、確か三部屋は空いていたかと」

一ヶ月と言われなければ宿を取る程度の路銀は残っていたが盧植さんの提案は助かる。

「盧植殿、ご厚意大変嬉しく思うのですが私は道中の同行が役目。馬龍殿が無事到着した旨、ここで安定に戻り報告せねばなりませんので私の部屋は必要ありません」

閻忠は随分と堅い言葉遣いで盧植さんにそう告げた。

言われて思うのは閻忠の役目。

琢に入った時点でそれは終えてもいいのかもしれないがこうして盧植さんに会い、助力を得られたのだ。

ここまで来ればその役目を終えたと判断でき、それ以上はその役目の範疇を超えるのだろう。

盧植さんはぽかんという風だろうか唖然としているようにも見える表情で閻忠に瞳を向けていた。

「・・・」

それ以上の盧植さんからの反応はなく思いもしない間が生まれた。

程銀ですら・・・いや、見れば程銀は途中静かになったと思えば目の前の料理に夢中のようだった。

「ん?ばるう、たべりゅ?」

「・・・いや、お前が食べてろ」

「んぐ、わかった♪」

程銀はそう言うと周囲の状況を気にせずまた料理をハムスターのように頬張りだした。

そして、再び閻忠と盧植さんの方を見れば先程よりも進展しているのか盧植さんの瞳はまるで閻忠の瞳に繋がっているように見えた。

屋敷の入り口で会った時もそうだ、数瞬ではあったが俺の瞳の奥からその奥を見られるようだった。

それからしばらくその光景が続き盧植さんは静かに瞬きをすると。

「・・・貴方も天意を探しているのだと思っていました。ですが、それはもう見つけていたのですか」

「・・・・・・」

閻忠はそれに答えず静かに瞳を閉じるだけだった。

「ですが、未だそれに確信を持てずにいる・・・いえ、今の立場のせいで思い悩んでいると」

「そのような事はありませんっ!・・・私は皇甫義真を主とし忠義を捧げました。思い悩む事など・・・」

盧植さんの言葉に声を荒げる閻忠。

その事実に本人は我に返りながらも否定の言葉を続けた。

だが、盧植さんの瞳は閻忠の思いを見抜いているのか小さく頷くとその否定の言葉を受け止めながらも俺と話している時よりも真剣な表情で閻忠に語りかける。

「そう、ですか。ならばその忠義のため閻忠さんは馬龍さんと同じくあの場所へ赴くべきでしょう。迷いは貴方の主を、楼杏ちゃんを傷つけるものに変わります。これは楼杏ちゃんの友人として貴方にしばらくの滞在を求めます」

「・・・わかりました」

そう言われると渋々と閻忠は引き下がる。

すると、盧植さんに笑みが戻った。

「では、部屋のご用意が出来るまで旅の話をお聞かせ願えませんか?風鈴はあまり郡の外へ行く機会が少ないので興味が溢れんばかりです」

「えぇ、それくらいならいくらでも」

「ありがとうございます」

しばらくの滞在が決まった今、取り急ぐ事もないと盧植さんの提案のまま旅の話をした。

そこからは主に程銀の独壇場となるのだが、そんな話を聞く中で訂正を入れつつ時折閻忠の表情を覗った。

表情は暗く、そんな中で何を考えているのか気になる所だった。

学者と言うが閻忠を見つめていた瞳は紅姉さんのようだった。

俺では見えなかった閻忠の悩みを見抜いたのかもしれない。

閻忠が悩む事、それは幾つか分かるがきっとそれは俺の思うところとは違うのかもしれない。

俺では解決してはやれないのかと力足らずと思いながら、盧植さんが常人ではないと言う事実を認識するとふと思い浮かぶものがあった。


 この人、自分の事を真名で呼ぶけどそれって・・・下手したらこっちが危なかったんじゃ・・・









NextScene

++霧の陰は、空の色を知る++




懺悔と後悔の時間です

えっと、これで幽州入りです。

あぁぁぁ、これで幽州だ・・・幽州です・・・まだ幽州なんです

という部分が大きいです

亀速で申し訳・・・申す事は少しありますが至って私事

ここの話について骨組み自体は随分前には出来ていたのですがちょっと視点を変えてみたり、ちょっと盧植さんが掴みにくかったり、つかめてなかったり・・・

誤字王の実力を発揮していたり・・・・・・

書き方って大事なんです

ほんと、もう少しやる気出せよ自分

と、懺悔と後悔なのです

ですが次に活かさねば懺悔と後悔の意味がないですから

亀でも前に進みます



では、ちょっとの捕捉

ここからが第一ルートの総まとめ

なので今まで書いてきた中でも序盤は自然な流れを意識してみました

程銀とのやりとり、村人とのやりとり、閻忠の視点


さて、ここを終えるとごちゃっと人が出てくる予定

普段よりツヤツヤテカテカ三割り増し

と次話を書きます





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