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恋姫天衝 ~対極の御遣い~  作者: 雀護
・沛国~
29/44

主賓無き会合









++変わり始める、流れの間に間に++







昼の日差しは程よく暖か、風は緩やかで清々しい。

だが、心境で言うのであれば目の前にある家のせいで台無しだった。

町の中で目印にされていそうなほど大きな邸宅。

その中は悪趣味といわざるを得ないほどに装飾過度でその在り様は家主の性格を現していた。

実際にろくな人物じゃない。

自身の分を超えた地位にいるというのにそれを確固たるものとしているのだからまともな人物でいるはずもないのだろう。

それを象徴しているのか高々と積み上げられた壇上の頂上に座し、その権力の元で僕らを見下ろしている。

僕と月はその段に昇る事どころか近づく事も出来ず、頭を垂れるばかり。張温が命じない限りその姿勢を正す事も許されていない。

ただ頭を垂れ、この男の欲した時のみ発言し、言われるままに穎川で起きた事を報告した。

「中々興味深い男よ。良い見世物にはなりそうだが西方の田舎者だ、礼というものを知っていればよいが・・・どうなのだ、董卓」

礼などとどの口が言うのか、僕は心の底でそう思った。

けれど今それを口に出来ないのが腹立たしい。

人を見世物にして帝の機嫌伺いをしようと考える、そんな人間に僕は頭を垂れてなくてはいけない。

何より月にそれをさせなくてはいけない事が・・・僕自身の弱さが腹立たしい。

「張温様、人柄は我が父、董君雅が認めるものであります」

「ふむ、あの者が言うほどであるなら違いはないのだろう。最近では中常侍どもが帝に取り入ろうとしていた所。我もそれには負けていられん」

どこまでも欲深い男だ。

司空の座だけでは足りないとそれは言っているように聞こえる。

恐らくは帝の機嫌をとったのち自身の息の掛かったものを中常侍に置こうとでも考えているのだろう。

「そうよな・・・帝にお披露目したいがその前に困った事がある」

何を絵空に書くのか張温は上機嫌の様子だったが、声の調子が少し落ちた。

「・・・どのような事でしょうか」

「貴様らが報告に来る前に早馬が届いたのだ、馬雲成を見失ったとな。実に不甲斐無い連中よ、目を掛けてやっているというのに見張り一つできんとは」

それはあの男は上手い事張温の目を掻い潜ったという報告だった。


 やっぱり只者じゃない、というわけね・・・


僕らの時間稼ぎなど必要なかったのではと思える。

この男への報告をするまでに書簡を二通やり取りし、牛が歩むような時間をかけて都へ戻ってきた。

報告すべき事があるそう書き記す事で下手にあの男に手を出せないはすだからだ。

それでも簡単にとはいかないと思っていた、だが僕の算段よりもあの男の経験と言うものの方が勝っていたという事だろう。

ならば一つの手間が省けたと今は喜んでおく。

そして、次に僕のすべきを実行する。

「それは仕方のない事ではないかと」

「ん?どういう事か」

張温は棘のある声を僕に投げつける。

僕が唐突に口を開いた事への不快からか、僕の言う言葉の意味を知っての事かは張温の器からして前者の方が大きいがそれでも僕の言葉を気にせずにはいられないのが張温。

次にあれの口にする言葉は全て僕の頭で予想済み、そしてあれが僕らに命じる事も・・・。

「お主・・・賈クと申したか。言うてみよ、何が仕方のない事であるのか」

「はっ、恐れながら馬雲成の乗る馬は西涼でいても随一との事。なれば並の馬でその足を追うのは至難かと」

「ふむ・・・西涼の馬か。その質の良さは我も聞いた事がある」

「西涼の民である馬雲成は人馬一体と言うほどに馬を巧みに繰ると聞きました。それならば一日に千里と走らせても驚くべきではありません」

「それほどまでか・・・成程、ただの田舎と思っていたが。見世物の題目が増える良き報でもある、それに・・・だが・・・だがそれを知った所で我の悩みは晴れん」


 勝手に悩めば良い・・・なんて他人事に出来ないのが辛いわね


自身の頭の中で何の方策も取れないこの男が何故ここまでの地位に来れたのかと疑問も沸き立つ。

このまま放置すれば己の部下に丸投げして無茶苦茶に引っ掻き回すのがオチ。

そんな所に有効なものがあれば迷わずこの男は掬い上げて己の手柄にする、そんな性格でいてくれる事が今は都合に良い。

「一つ良い方策がございます」

「ふむ・・・それは何を為すためか言うて見ろ」


 ・・・何を?


張温は僕の言葉に疑問符をつけた。

会話の流れを見れば馬龍を手中に、と言う事以外にない。

これは僕が思う以上に馬鹿なのだろうか・・・一先ず切り出さねばならないらしい。

少々出鼻を挫かれた気分だったがこの策を布けば他の者があの男に手を出せないようになる。

それは張温は勿論、馬龍も僕らも望む三方に得があるもの。

「馬雲成を張温様の元へ・・・」

そう切り出した一言を言い終える前に張温がそれを遮る。

「お主は少々勘違いしているようだ、我の悩みはそれではない」


 っ・・・?!


歯車が軋む音のように聞こえた。

僕の予想していた言葉にない事を張温は口にしたからだ。

僕の策を気取られたとは思えないが曲がりにも司空の座を手にした者。

謀略に関してこれは油断ならないのかと判断を改めようと考えていると先に張温に言葉を許してしまった。

「お主は董卓の補佐であったな、通りで頭が回る。まぁ、良いだろう先にお主の勘違い聞かせてみよ」

何か誤算があったのかと僕は思考を巡らせた。

張温は悩みは違うと言う。

それに今までと様子が違うように感じる。

今、目の前にいるのは別人だと錯覚してしまいそうだった。


 けれど、あいつは・・・


まだ話の修正の範囲内として策を転換し張温に向かい言葉を並べる。

「馬雲成は他の郡を通る事で田畑の状況を知る事を望んでいました」

「・・・何を考えてだ」

「あれは農を知る者、己が郷の実りを良くするためではないかと。それゆえにより多く見る事が益となり、穎川にては田を臨み、市を見て回っていました」

乱世が起きるきっかけと言う馬龍の言葉はそれが突端だと言った。

故に他の地域の状況を見て回る必要があると。

きっと僕では知らない知識をあれは有している、ならばあれが見た田畑の状況が一番この国の寿命に近いものをはじき出す。

「しかし、あれは西涼の盟主、馬騰の実弟。他の領主の地を公に見て回ればそれを嫌う者もいる事でしょう」

「それは何を持って」

「元より田畑を見るという事はその郡の兵糧を知ると言う事になります。それを馬雲成も理解し問題になるのを嫌ったのでしょう。故に誰に気づかれないよう足跡を早めたのではと」

幾分かの間を置いて張温は小さな息と共に言葉を吐きだした。

「・・・・・・まぁ、それなりには筋が通る」

やはり何かが今までと違う、それほど思考を巡らせる人間ではなかったはず。


 このずれた感覚はいったい・・・?


先程もそうだ、そして今の一言もいちいちひっかかる。

「だがもうこれ以上は良い、お主の言いたい事はわかったがやはり我の悩みを解決せんだろう」


 っ・・・?!!


思わず顔を上げて張温を見ていた。

その顔は僕らを見ておらず外に向けられ空を見上げているようだった。

「で、ですが・・・」

「賈クよ、我はもう良いと言っている」

「くっ・・・」

僕が口を開こうとするとそれを一瞥して片手で払らわれ、それを閉じる事になった。

「お主は少々出過ぎる気来があるように見える。・・・董卓の補佐である身であるのを忘れているのではないだろうな、それともそれがお主にとって不服ならば・・・」

「そのような事はっ!」

心外だと思う悔しさと自身の力足らずに奥歯を噛み締めると月は不安げに僕を見ている。

その瞳に大丈夫だと小さく頷くが笑みを作って返す事は出来なかった。

完全に場を張温に支配させてしまった。

それにこのように言われてしまえばもう僕から言葉を紡ぐ事すら許されない。

「そうか、ならば出過ぎるなそれは業に焼かれることぞ。臣として使えるものが焼かれるなど我の失点であるからな」


 そうか・・・この男、この言い回し・・・


傍と気づけばひっかかっていたものの正体が見えてきた。

今までの僕らの前に座していた時に比べて今日の張温は口数が多い。

それに気づいた、それで気づいた。

「では、これにて貴様らの任は終わりだが董卓よ、お主は此度の褒美に何か所望するものはあるか」

「いえ、特に望むべきものはございません」

月は張温にそう答えた。

それは当然と言える選択、許可は得ていたとはいえ友としてと様々を口にしてくれたあの男に対し、僕らが平然とそれを受け取れるわけがない。

だがそれを知らない張温は眉を寄せて怪訝な表情を浮かべる。

「・・・我は情報という利を得ている、その対価をいらぬと言うか。それとも相応の対価を得ていると言う事なのか」

「そのような事は・・・」

「ならば、お主も利を得よ。共に利があるものこそ信頼に足る」

張温の言葉に月がピクリと肩を振るわせた。

そして、静かに顔を上げて張温に瞳を向けた。

「・・・っ?!」

その瞳は一際大きく見開かれ、驚きの表情を見せていた。

僕には何を見てそうなったのかは想像するしかないが、きっとそれは僕と同じ所に行き着いたのだと思う。

「・・・我の顔に何かついておるのか?」

「し、失礼いたしました」

「ふむ、してお主が望むものがないのであれば・・・」

次いで来る言葉に返す言葉を考えていたがそれは唐突に切られた。

「董卓よ、それは何だ?」

張温は言葉を変えて月の首元を指差した。

そこには銀に輝く首飾りがある。

月が顔を上げる事でそれが張温の目に入ったのだろう。

「これは・・・」

ちらりと月は僕に目配せをしてきたのでそれに頷く。

今のあれを侮るわけではない。

故に下手に偽りを告げることは出来ない。

「これは、馬龍より友好の証と受け取ったものにございます」

これは別に隠す必要はない、むしろ今のあれには良い牽制になると思える。

張温が指差したのは馬龍から渡されたものに細工を加えたもの。

馬龍から渡された、この事実は”この”張温にどう働くのかそれを確かめるには良い基点に成り得る。

「ほぅ、上手く取り入ったものだ・・・その首飾り良く見せてはくれまいか」

その一言で今までとは様子がおかしいのは歴然。

前までなら”くれまいか”などと遠回りせず”見せろ”と命令していたはずだ。

張温の願いに月は応えるように首飾りを外す。

それを侍女が受け取り張温に手渡した。

「やはりそうか。っくくく、そうだったのか。”俺”はこのために・・・・・・」

明らかに張温の雰囲気が変わり僕らに視線を向けた。

僕が思っていた以上、想像していた以上にあの男はこの国に影響を及ぼすのかもしれない。

「董卓よ、これがなんであるか知っておるか」

「それは・・・自身の証であると」

「ならば間違いではなさそうだ・・・関志っ」

張温が手を一度叩くとその脇から他の兵士とは違う井出達の男が現れた。

関志は張温の脇で礼を取り静かにその声の続きを待つ。

「人払いを・・・それから天井にいる客人に茶でも振舞ってやれ。我はこの二人と少し込み合った話がある」

「御意・・・ようやく私の出番で御座いますか」

関志は静かに立ち上がり片手を振るうと僕らを除いた兵や侍女が退室していく。

そして、関志はまるで影に消えるように解けると天井から小さな物音がした。

「これで少しは話しやすくなったであろう」

もうこれは僕らの知る張温ではない。

以前ならば間者など気づきもしなかったはず。


 これは・・・


張温は僕らに言い様の得ない笑みを見せていた。

「賈クよ、疑問があるようだな。ならば話を聞く前に一つ安心を与えておかねばならんか」

思考が纏まらない、予想外の事態でこの先にあるのは最悪以上の事態かもしれない。

張温は椅子から腰を上げて僕らの元まで降りてきて、手にしていた月の首飾りを直接返してきた。

「まず、馬雲成の処遇だが主らに任せる」

「「っ・・・?!」」

「今からでは命の届かぬ者もいるだろうが、主らの元に馬雲成が現れる時まで我はあれを求めぬ」

手に余る、まだ僕の力ではこの男を読みきることは出来ない。

けれど、まだ諦める事はできない。

それをしてしまったら月の傍にいる資格がなくなってしまう。

「それはどういったお考えで」

返ってきたのはただ驚きに尽きる言葉だった。

「あれはまだ見ねばならぬのだろう・・・この国、この世界と言うものを。故にしばらくの間は好きにさせよう」

張温の言葉の真偽は月から伝わった。

真意は知れないだが偽りでないと分かった。

「我は先に困った事があるといったがな。あれは馬雲成が我の手の者共に対して警戒心、敵意というものを感じているかもしれない、それを危惧したのだ。・・・あれが乱世を変える者ゆえにそれでは困るでな」


 ・・・・っ?!!!


返す言葉を失ってしまった。

もう否定をする事は出来ない、張温という男は愚を装って今の今まであの椅子に座っていたのだ。

そして、これを耳にしたのは二度目、”乱世”の到来だ。

これも乱世を確信している者だった。

「董卓、それに賈クよ。主らは・・・」

張温が口にした言葉に僕は真意を問いかけた。

だが返ってきたのは曖昧な言葉だった。

張温は上機嫌のまま、まるで僕らを試すかのような答えと共にまた一つの蜜命を与えた。

僕らはその命を承服するのをためらっていると張温はそれに添えるような一言を放った。

その言葉に僕らは目を丸くするばかりだった。

そして、僕よりも先に月は力強く頷いて納得を得たようだった。

だが僕には疑問が残っていた。

せめてそれだけは明確にするそれは僕の役目だ。

「張温様は”いつから”馬雲成の存在を知っていたのですか」

これは些細なものかもしれない。

けれど重要だ。

僕の問いに張温は答えた。

「天が我に教えた・・・南中した太陽から零れた星が」

そして、聞き流せない重要な言葉を口にした。



「馬雲成は”同郷”のものであると、主らはその確信を我に与えた」










 ・・・










 ・・・・・・












 ・・・・・・・・・








夕陽が差す寂れた村の跡、そこは数日前まで山賊の根城になっていた場所。

だがそこに山賊の姿はなかった。

「・・・面白くなりそうじゃないか」

比較的損壊が少なく大きな家の中で一人の女が笑みを作っていた。

そしてその女の前に座るのは彼女の信を得た四人の部下。

彼女の持つ力の代名詞には人数が足りないが他の者は今は別の任のためここにないない。

女を含めた五人は先に潜伏していた山賊を根絶やしにした後、物のついでとそこで身を潜めていた。

わざわざ山賊がいた廃村にいるのかと言えば彼女達がいる場所は自身の領地でないからだ。

元より廃村である事を見越してたどり着きたまたま山賊そこに居合せてしまった。

その山賊たちは女の「利にならない」と言う一言でその場で殺され外に投げ捨てられた。

そして、静けさを取り戻した廃村で女は二つの書状に目を通しその内容を部下に伝えた。

「あまり私は喜ばしい内容には思えません」

「そ~かい?これなら充分な利になるさ。まぁあんたの言いたい事はわかるけどね」

不満を漏らす部下に対して言葉を返すと女は手元に置いてあった盃を口元に運んだ。

そこに屈強な肉体を持つ老兵が口を開く。

「わしも同意しかねるの。その報告を聞いた限りまっとうな道を進んでいたとは思えんよ。暗器を使うと言うのが特にの」

「あはははっ、それが良いんじゃないか」

「俺も良いと思う・・・同種の人間とは久しく出会えなかったからな。だが主殿、少し気がかりがある」

老兵の危惧すべき事を女は変わらず笑い飛ばす。

まだ歳若い少年がその笑みに同調したがそれでも懸念される事を告げた。

「ん?珍しい、言ってみな」

「わざとそれを報告書に書かせているように見える、俺は気がかりだ。それしか取りえがないというのならまだしも、他に俺達と同格に使える得物があるのなら俺だったら晒す事はしない」

「それは確かにね~。その分で何か隠していると言う事になるのかい?」

女は少年の次の言葉に先回りして問いかけた。

「確実に。まぁ俺だったら、と言う話だがな」

「私が危惧しているのはまさにそれです。見もしない相手にこれほど胸襟を開いているのが不自然でありません。早々に銀をこちらに戻すべきです」

少年の言葉に便乗するように最初に反論を唱えた少女は女に再度忠告した。

その目には不安よりも姿なきそれに憎しみをぶつけているかのように思えた。

「あたいらの名を知っているくらいだ。あれなら名以上にこっちの情勢を知っている・・・いや、それに対しての牽制、と考えるべきだ。ならば現状に変化を与えるにはまだ早い」

「しかし・・・」

「まったく、お前の程銀に対する気持ちは理解しているがな。あれ以上に人の無防備を誘える人材はいない。まぁ、多少の露払い位はしておこうかね~・・・」

女は顎に手を当てて深く思考を巡らせた。

場にしばらくの静寂が流れ、集められた皆が同じように考えをまとめようとしていたが・・・。

「あぁぁーーーっ!もうっ俺に頭を使わせないで欲しい」

静寂を破り少年は大声をあげて頭を掻き毟った。

「しようのない奴だ、だがわしも良い案が浮かばん。あれが帰還するまでは李堪に程銀の二人に任せる他ないだろう」

「だろうね~あんな書状を寄越すくらいだ。遠からず直接会う事になる、それまではちょっかいを出すなってのがあれの要望だろう。他は馬玩と同じかい?」

女の言葉に集まった部下は皆一様に頷いた。

「なら、他をどうにかして見るとしようか。そちらの方が利がありそうだからねぇ」

女がそう結論を述べたところに沈黙を貫いていた男が呟いた。

「・・・・・・来た」

「ん、誰だい?」

男の視線に誘導されその気配に気づくと女は懐の短刀を戸に投げつけた。

戸が縦に割れて地面に倒れ、外にいた兵士が姿を現した。

「に、西平より書状が来ましたのでそれをお持ちいたしました」

兵士はやや動揺しながら自身の役目を述べる。

「そうかい、ご苦労」

女は顎で近くの部下に指示し兵士から書状を受けとらせた。

その書状を受け取り内容を確認する。

「・・・そうかい、あんたも考える事は同じ。兄弟というのはあながち嘘と言えないらしいね~」

「それは・・・」

「紅からの招待状さね。丁度良かった、こっちから送る書簡の代金が浮いたよ」

女は書状をひらひらと宙で仰がせて不適な笑みを浮かべた。

「我らはいかがいたしましょう」

「そうだね、ここからじゃ距離があるし全員と言うのは無理だね。馬玩は一旦金城に戻りな、他は予定通り各地に網を」

「「「御意」」」



「さて、あんたはどこまで気づいたのかな。あの男の利用価値に」










 ・・・










 ・・・・・・












 ・・・・・・・・・









陽が落ちた荒野。

暗闇と静けさに全てが解けてしまったかのように辺りに人影も獣の気配も存在していなかった。

そこに外套を被った少年が一人地面に横になり空を見上げていた。


「随分機嫌がよさそうじゃないか」

少年のような声ではあるが、何処からともなく響く声は少年のものではなかった。


「ん、まぁね。思いのほか面白い事になりそうだと思ってね」

その声に少年は空を見ていた瞳をあさっての方角に向けて答える。


「ふむ、では南斗と接触したと言う事だな」

先程と違い今度はナイスダンディ・・・ではない、少し野太い声が響く。


「あれ?・・・あぁ、そうか僕がいるせいで君達はこっちを認識出来ないのか」


「そうですね。もう少し力を抑えていただければ私もそちらを観察できるのですが・・・」

遠巻きに少年の事を責めるようにまた別の声が少年に語りかける。


「それはごめん、と謝っておこうか」

まるで悪びれることなく少年は答えた。


「でもぉ、前に南斗の彼には干渉しないって言わなかったかしら~~」

なんとも判断に困る、響く声の持ち主を男性として女性というべきか・・・漢で乙女というならば漢女と記すのだろうか。

その漢女、男性の声色で女性の口調の声が疑問を唱える。


「ん~~わざとかな?まぁいいけど。今回のは干渉じゃなくて仕事の部分さ”管輅”として流れ星の行き先を答えただけさ」


「じゃあ、前に言っていた枷やら鈴やらをつけてきたのか?」


「・・・何の事だい?」

管輅は寝返りを打って眼前にあった草をいじまわす。


「ふざけるなっ貴様が言った事だろう!!」


「あははははっ、冗談だよ、君は相変わらず怒りっぽいね」

笑みは少年のそのもの、けれど姿を現さない声たちの顔を見ることが出来たのなら一様に苦々しい顔をしているだろう。


「くっ・・・」


「けどそんなに焦らないで欲しい。今回は彼を確認して僕を認識させると言うのが主だった仕事だったからね」


「では、まだ鈴も枷もないままと言う事ですか」

それは以前に少年が彼らに告げた仕事の内容の一部だった。


「そうなのん?それって大丈夫なの?」


「大丈夫みたいだよ。彼は自身で枷をつけていたからね」


「ふむ、自身で枷を・・・何故だ」


「さぁね。彼自身それに気づいているかも怪しいけれど、それはきっと矛盾存在の運命なのかもね」


「それは興味深いですね。やはりそちらを観察できないと言うのは歯痒いものです」


「君はそれだけじゃ満足しないだろ。”今回は”少し大人しくしていてくれないかな。基点はより選択肢を持たせてあげた方が良いと思うからね」


「・・・わざわざそのような言い方をするなら何かわかったと判断しても?」


「少しだけ、ね」

少年は両手を伸ばして指で空に額を作った。


「それは?」


「彼はまだ神殺しの存在に気づいていないんだよ。あんなにも近くにいると言うのにね」


「たったそれだけの事が結末に影響するわけないだろう」


「くくっ、せっかちだねぇ。勿論それだけじゃない、僕が意識を覚醒させたのは最近だけれど。それでもここが他とは異質なものだと理解できたんだよ」


「我らがこのような形で集うというだけでも異質と思えるが?」


「だね、でもこの世界はそれを必要としていた。だから僕らは知らずのうちにこうして集まるんだ」


「っ・・・?!!ここは外史だぞ、それも末端の。俺達がそんなものに呼ばれたと言うのか?!」


「結果で言えば・・・ここは様々な星が流れる場所らしい」


「ぬっ?どう言・・・まさか、お前の役目と言うのは?!」


「僕だけの役目でもないんだけれど、僕の意識が覚醒する前にこの体はいくつかの星を導いたらしい」


「「「「っ・・・・?!」」」」」

管輅の言葉の意味を皆理解した。

そして、その重要性と異常性を。


「誤算だったね。世界樹を把握していればこんな事すぐに分かったはずなのに」


「・・・ここまで複雑だと素直に喜べませんね。それに生み出された物は果たしてどうなるのかも想像がつきません」


「だが困りものよ、それでも尚我らに出来る事はない」


「まぁ、そのあたりはなんとかなるはずさ。予定調和なんだろうけど北斗が落ちてくるはずなのだから。全てそこで修正は可能だ、世界が存在していれば、ね」


「まったく、随分と楽観的ですね。さすがの私でもそこまで悠長に事を構える事はできません。今回貴方が目覚めているのはやはり正解と言う事ですか」


「まだ僕の仕事は残っているみたいだから。もうしばらく力を蓄えたら君達にも確認できるように視野を共有できるようにしてあげるよ」


「見えているからと何が出来るわけではない」


「僕が眠りにつけばきっと君達の出番も生まれるさ」


「っ?!それってまたご主人様と会えるって事かしらん?」


「さぁ、そこまで干渉出来るかはまだ可能性の中だよ。それにね・・・」

少年は指で作った額を徐々に広げた。


「それに・・・?」

漢女は不思議そうな声で聞き返す。


「ん~~~・・・・・・」

少年はそれに答えかねたか空に伸ばした両手を地面に戻し沈黙のまま空を見上げた。


「随分と勿体つけるではないか。なにやら良からぬ気配だがその可能性の中に主は何を見たというのだ」


少年は告げた、南の星の未来の可能性を。


「北斗が訪れる前に・・・」


それは外史を否定する。


「彼は・・・」


そして・・・


それは・・・


少年にとって世界の終わりよりも危惧すべき事態だった。



「この世界に殺されるかもしれない」












NextSceen


++間隙はその背に、陰影を作る++



えっと、今回でようやくと出てきた人たち。

これで一息いけるかなって感じですが・・・

今回は一気にまとめてしまいたいという所から結構面倒な見直しが・・・・・・

すみません、完全に言い訳です・・・気づけばUPまで時間が結構がかかってました。


でもようやくなんです。

これでたらたらと書いてきた話に一応の句読点をつけられた気がします。


さぁ、一息つくのは次を上げてからさっさと次話を書かねば。







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