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恋姫天衝 ~対極の御遣い~  作者: 雀護
・沛国~
25/44

友好は、明日のためになるのか




++易者なる者、探し求めた存在(前)++







夕暮れが近づき、風に流された厚い雲が空を覆い隠そうとしている。

そんな中で荷台からは賑やかしい会話が漏れ聞こえる。

進むほどに騒がしさが増していく旅なんてものをするのは初めての経験。

任務である事を時折忘れてしまいそうになるほどにそれは・・・言い例えるには惜しいと感じられた。

それでもと気を取り直して馬龍殿に声を掛ける。

「雨が降る前には町に入れそうですね」

「あぁ、あいつが頑張っていたからな」

ふと視線の先を見れば馬車の横に並んで歩く馬の姿。

「伊那(イナ)殿ですね。昨日つけたと陳登殿が言っていましたが」

「無理をするなと言ったのに名をつけてもらえたのはやはり嬉しかったんだろうな」

陳登殿と出会い、その翌日陳登殿は馬龍殿の真似をするようにして馬の頬を撫でてその名を呼んでいた。

聞けば一度も名を呼んだことはなく、それでも一度の反抗もなく農作業を手伝ってくれたとの事。

名の由来はその尾がまるで垂れ下がった稲穂に似ているからと陳登殿は少し頬を赤らめて言った。

「そろそろお前も名を呼んでやったらどうなんだ」

「わ、私ですか?!私は騎兵隊ではありませんし、ましてや将でもありません。そのような勝手は・・・」

不意を突かれた一言。

馬龍殿はまるで私の心を呼んだかのようなそれを口にした。

けれど、私はたかだか親衛隊の内の一人。

その任に馬を必要とする機会は少なく、隊長か騎馬隊にでも所属していなければ愛馬というものを持つ事はない。

ならばそれは分不相応と言うもの。

「お前も名を呼ばれないというのは淋しいだろ」

だがその事実を知らぬとばかりに私の乗る馬に言葉をかける。

馬龍殿の言葉を察したように啼く小さい鳴き声が私の胸に響く。

「うっ・・・ですが」

「既に名をつけていると言うのに、呼ばないなんて随分と酷い奴だな」

「馬龍殿、いつからそれを?!」

更に虚をつく馬龍殿。

だが隊規においても隊の所有するものを勝手に利用する事は禁じられている。

それでも考えなかったわけではなかった。

馬龍殿と同じように接してみれば親しみを感じられた。

頬に触れ、身体を藁で擦り、声を掛けるたびにそれは大きくなっていった。

「確か、名前の候補が十を切った辺りから」

「最初からではありませんか!」

そして、穎川を発った翌晩から夜の番をするたびに一人でそれらしいものを地面に書いていた。

それは朝になる前には焚き火を消す前には分からぬようと消していたはずだった。

バレぬはずと高を括っていたというのに馬龍殿は平然とそのささやかな秘め事を私に伝えた。

「最初からだったか。どれも良い名前だと思うぞ。候補に”忠”とか”義”の字が多い辺りお前らしい」

「あの、違うのです。それは何と言いますか戯れと言いますか。私個人の一存で軍の馬を愛馬が如く扱うわけにはいきません。もし、もしも名があったのならどのようなものが似合うかと言う絵空事であって」

「戯れか、ならこれも戯れ。一度呼んでみたらどうだ?ここには馬の名を呼んで咎めるような人間はいないし、俺もお前を乗せた馬がどんな名なのか興味はある」

戯れのはずだった、それに偽りはない。

義真様から貸し与えられた馬に勝手に名をつけるような真似をしたのはあくまで戯れ・・・のはずだった。

だから、途中で地面に名を書くことをやめた。

「しかし・・・」

否定を口にした私に馬龍殿は少し口角を上げた。

次は何を口にするのかと思考を巡らせ待ち構えていると上機嫌な声と共に私を驚かせた。

「しょうがない、なら俺が勝手につけてしまおうか。そうだなー、栗毛だし栗坊とか・・・」

「そ、そんな安直な?!この子は嘲風(チョウホウ)と言う、名を・・・つけてみても良いのではないかと」

馬龍殿の適当な名のせいでつい口から零れ落ちてしまった。

地面に書くことをやめ頭の中でだけで考えたこの子の名を。

「く、くふ、ははははっ。嘲風か、少し意外だったが良い名だ」

馬龍殿は小さな笑い声と共に私と嘲風を見比べて言った。

「こ、これは戯れです。断じて名をつけたわけでは」

「いいじゃないか。遠きを望む事を好む者、良くその馬を見ていたお前だから付けられる名だ」

慌ながらもそれを誤魔化そうとしても馬龍殿にはもう通じなかった。

「このことは義真様には・・・」

「分かっている。ちゃんと伝えておくさ」

せめてもと懇願するように馬龍殿に伝えようともその意思を解さず馬龍殿の中での決定が下される。

「馬龍殿、違います。これは・・・」

「馬を道具としか見ない者、それをその背に乗せるなんて事をさせたいなら構わないんだが」

言葉にされ私は否定できなかった。

その光景を想像しようとすることを私自身が拒んでしまった。

「それは・・・」

「お前のしたいようにしたら良い。それでも気になるなら”策”を立てるが?」

「宜しいのでしょうか?」

「事後報告となるだろうが問題はないと俺も皇甫嵩さんに伝える。時には規律よりも大切なものがあるのだから今はそいつを大切にしてやってくれ」

そう言って馬龍殿は優しく笑みを作った。

それはまるで・・・。








朝方には沛国に入り、日が暮れる前には町に到着する事ができた。

町の入り口を潜りあたりを見渡すと同じく荷台から町の様子を見ていた程銀が静かに口を開いた。

「・・・ねぇ、馬龍」

「なんだ?」

声のトーンから言いたい事は予測できたが敢えて聞き返す。

「ご飯は?」

「一食くらい抜いても死にはしない」

「馬龍っ?!」

俺の答えに程銀は抗議の声を上げるがしょうがない事。

何故なら町の店が粗方閉店作業を終えようとしているからだ。

予定では久しぶりに町で夕食を取ろうとしていたがこの状況では難しいだろう。

だからと言って町の傍で野営をするわけにもいかない。

そんなことしたら衆人観衆の目を集めてはいらない詮索をされ、最悪警備に槍を突きつけられる事態になりかねない。

「とりあえずは宿を確認しないと、飯はそこで交渉しよう」

「馬龍殿、あちらを・・・」 

「あっ・・・」

事態は少し都合が悪い事になりそうだった。

閻忠の指差す方を見ればそこは恐らく宿屋、その戸に張られた紙の内容がこの状況の説明してくれた。


●収穫期につき一時休業中


閉店の早さはこれが原因で、まだまだこの世界の感覚に順応できていないと言われた気がする。

「さて、どうしたもんかな。一先ずは二人を送り届けた後に野営地を探すしかなさそうだが」

時間を考えればやはりまともに料理を作る時間はない。

町の近くでは野営が出来ないのだからある程度の距離をとらなくてはいけない。

町から離れる時間を鑑みれば食事を作り終えるのは日付が変わる。

それだけの時間がかかるのであればいっその事一食抜いてしまった方が良い。

食べるものがないわけではない。

保存食として干したものや塩漬けにしておいたものはあるが程銀が嫌がるので結局は食事=料理する事という構図になる。

「あの、宜しければ私共の屋敷に来られませんか」

まだ開いている店がないかと辺りを懸命に見渡す程銀の脇から顔を出した陳珪の提案。

「お願いしますっ!!」

程銀は即座に陳珪の両手を捕まえて勢い良く頭を下げる。

想像に易い光景だった。

「いやしかし、それは・・・」

「大変お世話になりましたし、困った時はお互い様ですから」


 この人はまさか・・・というか分かっていて・・・?


この状況が分かっていれば町の手前で二人を閻忠に任せて野営準備も出来た。


 聞かなかった俺も悪いが・・・


思考を巡らせるのはいくらでも出来るがまだまだ底が見えない相手に泥沼状態では危険と言える。

主導権だけならば良いがそれは一方通行の答えにたどり着く可能性が高くなる。

「そうだな。さすがに今からじゃ何をするにしても遅い。一晩世話になっても構わないだろうか」

天気には勝てない。

雨の中を進むとしてもこれから先の宿もこの調子では昇竜たちに今無理をさせるのは愚行といえる。

自身の中でそう結論を出して陳珪達の屋敷へ向かう。

陳珪の屋敷へ向かい、その裏手にある馬小屋につく頃には小粒の雨がちらつき出した。

「見通しの甘さは俺も同じだったか」

「いえ、馬龍殿に落ち度はありません。収穫期だからと休業するというのは珍しくはありませんがここまで一斉に休む事はないと思いますから」

陳珪たちは先に屋敷の中へ入り、家政婦のような女性が俺達を馬小屋へと案内してくれた。

そこで閻忠と二人で昇竜たちを小屋の中へと導き共に濡れた身体を拭きながら今後について打ち合わせをする。

「収穫期となるとしばらくは宿は休業だろうか」

「さほど長い期間ではないでしょうが詳しい事は陳珪殿にお聞きすればわかるかと」

陳珪に聞けばすぐにわかるかもしれない。

だがそれは何の思惑がなければの話。

郡における相の地位にある人物がわざわざと屋敷に招き入れるというのは紅姉さんの時に経験した事がある。

太守に次いで二番目の地位に位置する相、その陳珪が恩や義があろうと俺達のような旅人を屋敷に入れるのはそれなりの理由が必要だと思う。

曲がりにも郡の政治を任された人物、単純に事を捕らえる事はできない。

それにここでしなくてはいけない事がある。

いや、ここで出来たらと考えていた事がある。

ならばこの縁は必然と素直に思える。

それは俺がこれからする交渉のための出会いとして。

「そうだな。一先ずは向こうに合流しよう、程銀が何をしでかしているか心配だ」


 晒した札は三枚そして、伏せた札も三枚・・・それに相手がどんな札を持ってくるか





会食に使われているだろうやや広い部屋に通された。

そこには既に陳珪、陳登ついでに程銀が席についていた。

「改めまして、ようこそ沛国へ。本日は私共が持て成す番ですのでどうかごゆるりとお過ごしください」

「その厚意に感謝する、っと感謝させていただきます」

「普段通りで構いません。貴方はそちらの方が魅力的です」

陳珪に対して言葉を繕いなおし頭を垂れれば返ってきたのは微笑ともうお決まりのような一言。


 ほんとに何がおかしいのだろうか


「ふぅ・・・陳珪さんの言葉に甘えさせてもらおう。だがただ厚意に甘えるだけというのは俺自身落ち着かない」

「ですが、恩を返すのは私共ですし」

「道中にも言ったが俺は特に何もしていないからな。恩と言われてもな・・・」

恩はなく、義もない、それでも先の出会いは必要な手順を幾つも省略してくれた今はそれで良い。

俺はここで陳珪との会話が出来ている事が重要。

そして、席に座らないまま交渉への一言を切り出す。

「もし、それでもと言われるのなら幾つか頼み事・・・というかな少しばかりの相談事があるんだが」

「お答えしたいのは山々ですが、今沛国は収穫期。助力できるかどうか」

道中での会話ではなく今だからこそ出来るそれは今後の方針を大きく左右する。

「難しい事ではない、ただしばらく辺りに滞在したいと考えていると言う話なんだが」

「現在どこの宿も休みを取っていますからね、そのような事でしたら・・・」

陳珪は俺の意を汲んでか言葉を返そうとした。

だがその言葉を続けさせないようにと割り込む。

聞いてしまってはそこで頷く事になる。

「人が立ち入らない場所が好ましい。少しばかり激しい鍛錬も行いたいんだ、その心当たりがあると大変助かる」

やや強引な物言い。

だが言葉を止め考え込む仕草の陳珪を見る限りではまだ若干のアドバンテージがあると思えた。


 さぁ、これでどの手札晒してくれるだろうか?


少しの遠回りをした言葉を陳珪に投げるが陳珪は一度空に視線を泳がせて呟く。

「・・・・・・そうですね」

そう呟いてから陳珪は俺の瞳をちらりと確認した。

俺の姿はその瞳にどう映るのだろうか。

「滞在中は何かと迷惑をかけるかもしれないが、その分何かと力を貸せるかもしれない」

答えによっては俺が伏せた手札を知らせるそれを暗に伝えると陳珪の眉がピクリと反応を見せた。

「これから何かと人手が入用になる時、その助力を得られるというのは私としては喜ばしい事・・・・ですが馬龍さんは幽州に行かれるものと記憶しましたがこの滞在の理由をお聞きしても宜しいでしょうか」

一先ずは友好の形をとっての返し、それには当然の如く伏せた一枚目それが必要になった。

晒していた札を繋げるために必要なもの。

だが容易に晒すとこちらが不利になる。


 どうするかだ、が・・・?


不意に俺と同様にまだ席についていない存在に気づいた。

「そうだな、それはこいつが説明する。穎川からこの沛国へ来た理由と滞在の理由を」

「え、あ・・・あの私ですか」

「お前は聞かずとも俺の意図を理解しているだろ?」

閻忠に目配せをして見れば陳珪と俺を見比べながら言葉を返してきた。

「で、ですが・・・その宜しいので」

「何も隠す事なく好きに話せ、違っていれば訂正する。陳珪さん、悪いが・・・」

「私は構いません。馬龍さんのお考えしている事に少し興味がありますし」

俺の思惑がどのようなものなのか見極めるつもりでもいる陳珪はその提案に軽く頷き閻忠に視線を向けた。

閻忠はその視線に気づくとハッと姿勢を正して一礼してから陳珪に説明を始めた。

「で、では僭越ながら・・・」

少なからず多からずその匙加減を閻忠に託す事にした。

虚実を使い相手の弱点と思えるもの、それを指摘してしまえば主導権を得たまま事なきを得ることは出来る。

だが、それでは信頼できる関係の構築は出来ない。

今必要なのはこちら側に天秤を傾かせる事、天秤を取り上げる事ではない。

知りえる状況においては閻忠が一番の適役だ。

何より俺自身の口から言うにはあまりに自信過多な説明と感じさせてしまうのは一番したくない事だ。

「陳珪殿は馬龍殿の噂はご存知でしょうか?」

「噂ですか?そうですね昨今涼州方面の情報と言うものは届きにくいもので以前に聞いた話は異民族の動きが怪しいと言うくらいです」

閻忠もいいところから会話を切り出してくれた。

「その情報の後の話から。実際に西涼に五胡が侵攻してきました、その数はおよそ三万を超えたとのことです」

「三万・・・ですか」

五胡の兵数を聞くと陳珪の顔は深く鋭い表情に変化した。

「その戦いで馬龍殿は一騎駆けにて千を討ち果たし、その戦果は現在涼州で話題に上がっているのです」

「・・・・・・」


 なんだろうな、こんな時どんな顔でいればいい・・・


閻忠の言葉に陳珪の視線が俺に移動する。

この説明がないと色々と話が進まないが心情的にはしなくても良かった気がする。

「そして、その噂を聞きつけた司隷の役人の一人が馬龍殿に目をつけたのです」

「・・・その方は十中八九馬龍さんを利用するつもりでしょうね。それほどの武を持たれる殿方とは珍しいですから」

「はい、その通りの話を穎川にて聞きました」

ここまではおおよそ賈クからの情報で閻忠も耳にしている。

そして、俺が閻忠に説明をさせる必要があるのはここから。

「それでしたら、何故滞在をお求めになるのでしょうか」

「その目を欺くためかと、既にその役人の手の者には馬龍殿が幽州へ向かうという情報が漏れていると考えられます。ですから穎川を人目がつかぬうちに出、こちらへ回り道をしたのです」

この回答が聞ければ一先ずは充分。

旅の中で俺が閻忠に向けた唯一つの望み。

それが少しずつ育ちつつあるのが確認できた。

だが・・・。

「先を行くのでなく回り道ですか。ですがそれではその役人に先回りされたまま待ち伏せ、と言う事も考えられますが?」

「そ、それは・・・」

陳珪の鋭い返しに閻忠は言葉を詰まらせた。

だが、まだ俺がそこに助け舟を渡すつもりはない。


 良い機会、だからな・・・


閻忠がどう答えるのだろうかと閻忠の顔を覗えば考えを巡れせるよう幾度か目を泳がせて、その瞳が陳珪と合うと数瞬その動きを止めた。

そして、閻忠は静かに瞬きをして陳珪を見据えると小さな呼吸が聞こえた。

「・・・陳珪殿にお会いするため、ではないでしょうか」

「私にですか?」

思わぬ方向へ閻忠は舵を切り、陳珪は思わずと疑問を口に出した。

それは俺としても少々意外な答え。

「はい、道中他郡を通りましたが一度として馬龍殿は町に入る事はありませんでした。ですが沛国、こちらへ向かうのは既に決めていました」

それは決定事項だがどの町と言うのまでは決めていない事だったが閻忠はそうだったのだと答えた。

閻忠の思考を捉えるのなら道筋を考えた時に張温の手先が先回りさせるとしてここが立地的に好ましいと思えたから。

司隷からも幽州からも近すぎず遠からず、最悪海路という手もある故に閻忠にはそう考えが至ったのだろう。

確かにそう答えればおおよその理解を得られる。

だが閻忠が続けて答えたそれは違う意味で陳珪を唸らせた。

「ここ沛国は高祖、劉邦の出世の地。その高潔なる地で官職に就き、馬騰殿が馬龍殿に名を伝えていた人物となれば、人を見世物とし益を得る役人と繋がりがあるはずがありません」

閻忠は胸を張るとまではいえないがそれでも高らかとそう断言した。

「「っ、あはははははっ」」

陳珪と笑い声が重なる。

すると、閻忠は俺の顔を見てうろたえる。

「えっ?あの、間違って・・・」

「いや、くくっあはははは」

笑い声を堪えながら否定を口にしようとしても思わず声が出てしまった。

閻忠と旅をして俺の嗅覚を疑いはしたが目も狂っていたのかもしれない。

その事実と閻忠の勘違い、そしてその可能性があまりにおかしくて堪える腹をくすぐった。

「閻忠さん、馬龍さんがあの時私に言ったことはちょっとした挨拶のようなものですよ」

俺よりも先に立ち直った陳珪が答える。

「っ・・・?!!!」

事実無根の事実を告げられた閻忠は顔を夕日のように赤々と染め上げる。

自身の勘違いを恥じるように小さくなる閻忠だったが期待以上の収穫を得、確信できた。

「くくっ、まぁ悪くはない」

「えぇ、思わぬ虚をつかれ、高祖の名を出されては私としてもお答えする他ありません」 

「それは一体?」

「閻忠さんの説明に理解を得たと、少々骨が折れそうですが私の力の及ぶ限り協力させていただきましょう」

「有り難いが・・・まぁ閻忠のおかげ、か」

予想以上にすんなりと陳珪から得るべきものは得られた。

「いえいえ、元より興味の尽きぬ方々。私としてはこの縁が良いものと思えましたし・・・。どうでしょう、閻忠さんも私の手をとってはいただけませんか」

「わ、私ですか・・・ですが、私は他郡の親衛隊の一兵・・・」

「身分など友好を結ぶ事の障害にはなりません。一個人として友人となってはいただけませんか?」

そう言って陳珪は改まって笑みを作り手を伸ばす。

その笑みには作られたものと感じつつも優しさを感じた。

閻忠はおずおずとその掌を見つめながらもちらりと俺を見たがすぐさま視線を戻した。

「私などで宜しければ馬龍殿と共にある友好を」

「えぇ、共に在れる友好を」

閻忠は少々緊張しながらも陳珪の手を取った。

そして、その様子をおとなしく見ていた程銀がようやくと不満を漏らした。

「ねぇ~~そろそろ、ご飯にしようよ」

「うん、程銀の言う通り」








「話は夕食の後でもよかった~」との程銀から文句を言われながらの夕食の中で陳珪から幾つかの頼みごとを受けた。

それは三つ。

治療知識、言うなら陳登の体調と食事面で気になる事があれば教えて欲しいと言うもの。

次いで、収穫の手伝い。これは俺が農学を学んでいると言った事からだろう。

そして三つ目、これに俺は少し首を傾げたがそれほどの制約は受けないので頷いた。

”滞在中、郡を出ても南方にはいないで欲しい”との事だった。

閻忠のおかげで互いに札を使い切る前に終えてしまった交渉だったが陳珪さんの手札はこの三つだったのだろうかと取ったばかりの栄養を頭に回していると陳珪さんに声を掛けられた。

「本日は離れがありますのでそちらをお使いください。明日、馬龍さんのお望みの物件へご案内いたしましょう」

「物件・・・あぁ、どこか心当たりが?」

「はい、当家の管理する林その中に。多少の不便があると思いますが普段人は訪れる事はありませんので丁度良いかと」

閻忠に任せる前に俺が言った事だ。

あくまであれば好ましい程度に提示していた内容だったが陳珪には既に心当たりがあるようだった。

「あるだけ助かる。逆にその不便さも有り難い」

「ありがたい、のですか?」

「まぁ程度にも依るがそれを解消する事も旅の面白さだからな」

俺の答えに陳珪はクスリッと微笑む。

「叶う事なら出来る限り長いご滞在を」





翌朝、陳珪に連れられてきたやや山間にある林。

夜のうちに止んだ雨は道を大いに濡らしてくれていたがそれほどの障害とならずにいてくれた。

それに案内された場所は町から比較的近い。

管理しているといっても一月に数回問題が無いか人が辺りの様子を見る程度で俺達が滞在するのであれば一石二鳥だったと言う。

それならば気兼ねなく使う事ができると内心で喜んだ。

「「きょ~うも♪あしたも♪あさっても♪ごはんはと~っても楽しみで♪きょ~うも♪あしたも♪あさっても♪いいゆめみれればそれでよし~♪」」

久々に柔らかい寝床だったのがよかったのか上機嫌の程銀とその歌を一緒に歌う陳登。

何故陳登までついてきたのかは知らないがこの様子から程銀と気でも合ったのだと思う。

そんな陽気な歌を聞きながら少しずつ林の奥へと進んでいく。

すると、程なくして少し開けた空間が現れる。

「・・・ここか」

「はい、如何様にお使いいただいて構いません」

そこには小さな小屋、その周りは石組みの釜戸と井戸、剣を振り回し多少の立会いをするには充分な空間がある。

だが、昇竜の足を止めると程銀が降りてきて余計な一言を口にした。

「なんか・・・今日はいい夢みれないかも・・・」

「て、程銀殿そのような事は思っても言わないのが礼儀で・・・」

お世辞にも綺麗ですね、とは言い難いものだった。

恐らくは小屋を建てたものの利用する機会はほとんどなかったのだろう、小屋には草花が生え蔓が撒きついていた。

井戸は多少それよりマシと思えるくらいで中を確認する必要はありそうだった。

「言っている時点で同じだ。だが俺はこういうのも嫌いじゃない」

「うぇ~~っ?!だってこれじゃ・・・」

「開拓精神ってのは大事なんだけどな。いくらか必要なものはありそうだが、ありがたく使わせてもらおう」

程銀は明らかに不満そうな顔だったが宥めるのも後回しに一先ずと陳珪に礼を述べると陳珪は「いえいえ」と笑顔で返してきた。

まとめておいた馬車の荷物を小屋の傍に置く、その様子を陳珪は見届けながらなにやら陳登と会話をしていた。

そして、その会話が終わったのか陳珪は俺の傍に歩み寄ってきた。

「大変身勝手なのですが一つ頼み事が・・・」

「ここに滞在する間は助力するつもりだが、内容は?」

まだ彼女の思惑の一端も見えていない。

だが無下に出来る話でもなさそうだった。

「これから何かと忙しくなってしまいますので数日の間で良いので、この子をお任せできませんでしょうか」

「それくらいなら一向に構わない・・・んだが」

この子とは陳登の事だ、そのつもりで連れてきたと言うことなのだろうが俺の預けるというのは何を思うにしても思い切った行動。

それをそのまま疑問として口にしようとすると陳珪は静かに口角を上げてそれを遮った。

「”友好を”・・・それで私を信じさせてはいただけませんか?」

「っ・・・わかった、その信に応える」

俺にとってそれは殺し文句に等しい。


 まったく、ずるい言い回しだ


否応無く頷く他ない俺を見て彼女は何を見たのか終始笑顔でしばらくそのまま俺を見つめていた。

「有り難うございます。では私はこれで・・・」

「町まで送ろう。少し町に用事が出来た」


 確かめたい事もできた・・・だから、近衛もつけなかったんだろな





「閻忠、少し嘲風を借りるぞ」

降ろした荷を確認していると陳珪殿と会話をしていた馬龍殿に声をかけられた。

「?馬龍殿でしたら構いませんが・・・」

町まで戻るというのに何故嘲風を乗るのかと思考したがその間に程銀殿が割り込んできた。

「馬龍、町まで行くならあたしも行っ・・・」

「お前は今日から掃除係だ。俺が戻るまで小屋の中片付けておけ」

けれど馬龍殿は聞く耳を持たずと程銀殿に新たな役職を言いつけた。

「えぇ~~っ?!馬龍だけサボるつもりだーー!」

当然の如く抗議の声を上げる程銀殿、それに馬龍殿は嘲風を馬車に繋ぐ手を止めて溜め息を吐く。

「サボるってな・・・ったく、新品の布団が埃まみれになっても怨むなよ、そっちの人手が足りなければしょうがない事だ」

「えっ?」

「まっ、どっちでも構わない。監視に昇竜を残す、昼飯が抜きで良いなら好きにしろ」

そう言い残すと颯爽と嘲風の背に乗り、陳珪殿と共に来た道を戻っていってしまった。

何故、昇竜殿に乗らなかったのかと言う疑問は解決したがそれでも聞きたいことがあった。


 まだ、私は・・・・・・


それは言葉にならず、ただ馬龍殿の背見えなくなるのを見送るしか出来なかった。

しばらくそうしていると、ポンッと背を叩かれる。

「馬龍が戻る前に終わらせちゃおう」

「・・・働かざるもの食うべからず」

振り返れば程銀殿と陳登殿が揃って私の背後にいた。

そして、そのまま私を促すように小屋のほうへと背を押す。

思わぬ力に歩調を乱しながら戸の前に立つ。


 仕方ありません。これはまたの機会にしましょう


心の中で一先ずの区切りをつけて目の前の事を済ませることにして戸に手をかけたがそこでふと程銀殿の行動に疑問が沸いた。

「それにしても程銀殿はもう少し馬龍殿に抗議するものかと思いましたがどうしてです?」

「ん?掃除係になっちゃったからね。やる事やらなきゃ」

「しかし、あのような強引な・・・」

「あ~~、あれが馬龍らしさだと思うけど」

反論の言葉がでない。

敬語で話す馬龍殿というものすら遠い過去のように思えるほど自然で今では馬龍殿らしいと感じる。

「それにあんな風にいう時ほど優しいからね、馬龍は」

優しさ、それを感じるのは私だけではなかったようでいつもあの方は自身よりも他者の心に配慮した行動を取る。

それが後に馬龍殿の優位に繋がるものだとしてもそれが常であるというのはある意味で董君雅殿に近いものだと思う。

だからこそ、何故か惹かれてしまう。

「優しい、ですか・・・」

「馬龍は基本素直じゃないからね、でも・・・」

「でも?」

私が鸚鵡返しに聞き返すと程銀殿は照れるような笑みで頬を指先で掻いた。

「そんな素直じゃない馬龍も好きだよ」

「な、なななな、何をっ?!それはどういう・・・?!」

程銀殿答えは私の思考を崩壊させた。

それは衝撃が直接頭を揺さぶるほど。

事在る事に思い当たるものはあったが、それでも普段笑みの絶えない程銀殿の表情は私には読み取れなかった。

今回、口にした一言はどのような意味なのかと問うほか無かった。

意味するのが私の予想通りならば・・・。

「あははは、落ち着いてよ閻忠さん。おしゃべりは済ませること済ませてからにしよ」

私を宥めるかのように戸にかけていた手に程銀殿はそっと手を重ねて戸を開けた。

そして、再び思考が別のほうに飛んでいってしまった。

「うぅっ、これはっ・・・!」

「んっ・・・く、くさい!」

小屋の中からは強烈なすえた臭い。

それに三人で同じようにして鼻を押さえて後退りし、昇竜殿は驚きで大きく嘶く。

外見から判断した以上に中は凄惨な有様。

埃が舞い、カビが生え、所々草木が侵入し、朝方の雨漏りの後と思える部分に水溜りが出来ている。

「思えば馬龍殿はあまり小屋に近づかなかったですね、この惨事を見通していたのでしょうか・・・」

「多分そうだね、馬龍だし。あたし馬龍の事ちょっと嫌いになったよ」

程銀殿に聞きたいことはあれど目の前の惨状を見てしまっては難しいのだろうと諦めた。

それからしばらく三人での会話なく小屋の清掃を開始した。






陳珪と二人で町まで向かう最中、沛国の現状を説明された。

全てが有意義な内容・・・とはいかない。

だが、不要なピースは一つとしてないのが今は大きい。

陳珪とは町の中で別れ、一人・・・嘲風と共に必要な資材を買い付けた。

無論、柔らかな布団も含めて。

中々の出費になって財布がだいぶ軽くなった。

滞在中に新たに何か稼ぎになる事をしなくてはいけないかもしれないがいくつかは充てはつけている。


 陳珪がそれを良しとしてくれくるか次第だが・・・


元よりただで助力するとつもりはないのは陳珪も理解してくれているだろうと多少は楽観的に考えている自分がいるがまだ安心できる状況でないのが面倒だった。

だが、一息つけるという状況に変わりはなく久々に羽を伸ばして町を闊歩した。


 『よっと、今日は良い天気で稼ぎ時っとくらぁ』     『まずいぞ、こんな忙しい時に寝坊したなんて親方に殺される』 

     『主人、肉まんを四つ頼む』   『あい、毎度ぉ』   『橋玄様、次はどちらへ?』  『姉者、買い食いなどしては』      『雨ばあがったし野ら仕事せんと』   『あんた、弁当さ忘れっとよ』   『出来た嫁さんで羨ましいこった、そろそろお前も嫁さんもらったらどうだ』  『うるさい、好きで独り身なんてやるかよ』   『兄貴、今度はどの町にいくんで』  『チビよぉ、これから寒くなんだから南に決まってんだろ』  『二人ともちょっと待って欲しいんだな』 

  『書店はこの通りの右手だ、新人覚えておけ』   『了解しました』    『ウチは酒屋の場所聞いてんけど・・・』   『おっと、それは・・・の門を』




多くの人が行き交う、行商の途中だったり、若い文官だったり、田畑へ出かける様子の夫にそれを見送る妻やその仲間。

不揃いな三人組みの旅人がいたり、道案内ついでに新人教育をする兵士。

大通りは良くも悪くも人でごった返していて嘲風の手綱を引くのもやや難儀するほどだった。

町の様子は収穫の最中だという事で中々の活気。

比較的余裕のある実りがあったのだろう。

少し目を閉じて辺りの気配を自身に取り込むと西涼を離れてそれほども経っていないというのにあの町の光景が目の裏に浮かんでいく。

以前の世界だったのならこの喧騒を疎ましく感じていただろう。

だが今はそれが酷く心に染み渡る。

「・・・あいつはこれをどう見るかな」

そんなことを感じながら大方の町での用事を済ませ、後は今頃小屋の様子に驚嘆しながら掃除をしている三人にみあげをもう一つ位は、と町の中ほどで考えを巡らせる。


 ん?なんだ・・・あそこ


ふと目に入ったのは活気で賑わっている大通りの一角、そこだけ人が避けて通っていた。

遠目からでは人垣で様子が覗えず興味本位で近づいてみた。

外套を頭からすっぽりと被った・・・少年、それが建物を背にして地面に座り込んでいる。

まだ人垣が邪魔をして正確には視認できないが戻らない嗅覚と合わせてようやくと分かるのはそれくらいが精々。 


「ねぇ、そこの人」


少年は誰に言うでもない声を発した。

それは呟くようで、それでも喧騒にまぎれることなく俺に届いた。


 まぁ、気のせい、か


気にするような事ではない、嗅覚を集中していた影響で意識が向いていたから聴覚がそれを拾っただけ。


「ねぇ、そこの”お兄さん”」


どこぞの誰かを呼ぶだけの声。

物乞いか何かか、道行く人に声をかけているのだろうと踵を返して喧騒に戻ろうとしたが足が張り付いたように動かない。


「ねぇ、そこの”迷子を探しているお兄さん”」


 まさか、俺を呼んでいるのか・・・


気配は消していないにしても向こうからも視認できていないはずの俺を呼んでいるのかと疑念が沸いた。

返すはずの踵は返らず、興味本位よりも直感に近いそれがゆっくりと人垣を分けて少年のほうに向かう。

先程ちらりと見え、嗅覚が伝えてきた通りの姿が見えた。


「ねぇ、探してるんでしょ。人ではない人を」


少年の瞳が外套の隙間から俺を見た。

見る限りで普通の少年としか感じ取れない。

「・・・何を知っている」

進んだ足は少年の眼前に来て止まった。

「知っているような、知らないような・・・。まずは自己紹介から始めよう」

未だにその容姿は隠されたまま、それを覗き見るように片膝をつき腰を落として視点を合わせる。

それでもあくまで座り込むのではなく、おかしな真似をするのならすぐにでも剣を抜けるだけの用心を配る。


 程銀っていう前例があるからな


恐らくは危険という警鐘すら後手になるのを想定する。

すると、少年は喉を転がすような声をあげた。

「くふっ、ははっくくくく、そんなに身構えなくても大丈夫なんだけどな」

少年らしい少年の笑い声。

見る限り感じる限りで丸腰の少年は俺のそれを知って尚、変わない様子で俺を見る。


 普通じゃないな、これは・・・


豪胆なんてものでは片付けられない余裕、その笑みはこの地で見たどの笑顔よりも不自然だった。

作り物ではなく、かといって自然と生まれたものではなく、自然を作り上げたような笑み。

「僕の名は”管輅”。流れの易者をしているんだけど”馬龍さん”は何を僕に聞きたいんだい」

「っ、何故俺の名を知っている」

少年が淡々とした様子で語るのは俺の名。

自身で気づくより先に体は剣の柄を握り締めていた。

そして、深く沈む瞳で少年を睨みつけている事だろう。

「驚く事はないし、怖がる必要も無いよ。僕は貴方の噂を知っているだけ。貴方の人相は特徴的だからすぐにわかっただけ、それだけなのだから」

「名を知っているからとただの易者が俺に用があるとは思えないが」

疑念はいくらでも沸き立つ。

そして、同量の恐怖と違和感。

何より”迷子を探している”それを知っている事という事実。

それを知りえるのは数えるほどしかいない、もし情報が漏れていても穎川からこちらへ先回りをしている者はいないはず。

沛国に入るまでに少しの間があれど、どこの町に入るのは陳珪に出会うまで俺自身決めていなかった。

「僕に用はない。強いてあげるのだったら貴方の用件を聞くのが用なのかな」

まるで会話として成立する気がしない。

俺に語るようで別の何かと話すようだと感じた。

「貴方に出会ってしまった以上僕にはあまり時間がないんだ。さぁ貴方は僕に聞きたいことは無いのかい」

「聞いているというのに答えになっていないんだが、俺に何を聞けというんだ」

多くの疑惑だが間違いなく異質な存在、だが不思議と張温や程銀の関係者とは思えなかった。

故に返す言葉は管輅と名乗る少年だけを見据える。

「そうだね、それもそうだ。でも僕が語るんじゃ意味がないんだ。それでもと”ヒント”を言うなら”貴方は何処から来て何処へ向かうのか”と言うところだね」

「何処から来て・・・」

「何処へ向かうのか、だね」


 こいつ・・・・・・。っ・・・まさか、俺の・・・?!


「そうだよ。それを聞いてくれるかな。ごめんね、今の僕には制約が多くてね」

少年は俺の心を読むそれはまるで掌の上と、それの上で俺の役目を果たせと言うかのように管輅は俺に告げる。

「・・・なら、俺は何処から来た、何故俺はここにいる」

まるで戯曲のような台詞。

それを聞いた少年は目を閉じて歌うように俺に応える。



『貴方は天の窓を開けて、


 零れ落ちた最初の流れ星。

 

 始まりを告げるため、

 

 終わりを告げる星を

 

 迎えるために流れた矛盾の星。

 

 死を追い、生を得るが貴方の定め。


 生を司る南斗の星は 


 生き行く全てに与えては 


 死に行く全てを奪い行く


 現実を知っては虚空に問いかけて


 夢想の中で解を見出す事だろう 』 



まるで、それは何を指すのか曖昧でそれでも何かが俺の中に風穴を開けた。

管輅は言葉を止めると、先程までの喧騒嘘のような静寂に包み込まれた。

「・・・・・・。俺を、何処へ向かわせる」 

そして、静寂破るようにその続きを口にさせられた。

言葉の続きに少年が開いた瞳は急激に光りを失い俺を見つめる。



『始めの終わりに


 落ちたる北斗がもたらすは


 絶望の終焉へ。


 終わりの始まりに


 落ちたる南斗の行き着く先は


 希望の終焉へ。 


 貴方の望む終焉へ


 天を覆う龍の背が


 南斗の天命を与えるだろう。


 迷いし道を


 辿りて行くならば


 己が破滅の道になり。


 違えることすら許されず

 

 希望を導き絶望す。


 絶望に希望を生むならば


 それは貴方の破滅の道標』



それが全てと管輅は再び目を閉じた。

それは現実味に欠ける内容ばかり。

だがまるでそれは星のように点々と瞬く言葉ばかり、俺の疑問をほのかな光で照らしているようだった。

曖昧模糊、だが不思議と信じがたいとは思えない。

幾つも気になる言葉を聞き逃す事は無かったから。


 天を覆う龍・・・お前の事だよな、ヴリトラ、


天を広く解釈するなら宇宙、それを塞ぐ存在として生まれた龍だと当人は言った。

渇望の龍、あいつの存在を俺以外に知る者はないと思っていたが管輅はその存在をちらつかせている。


 ならば、北斗・・・それは誰だ


流れを汲み取るのであれば管輅は俺を南斗と言う。

だがその反意として現れたのは北斗。

それは俺と同様に別の世界から存在を示している。

俺の知りえない誰か、それは俺と違う結末を求めるものと聞こえる。

その存在は嫌でも気にせざるを得ないが管輅の真意の方が先だと判断しそれを問いただす。

「・・・お前は、何を望む」

「僕は何も望まない、望むのは貴方達じゃないのかな?何を望むのか、それに興味があるだけ。望むを求めるのか、望まざるを求めるのか」

「悪趣味だな。人の破滅すらその興味の内か」

核心を突こうともまるでそれは虚空の中に消える。

「否定はしない、それは僕の役目じゃないからね。でも肯定もできない、託す事は仕方の無い事だとしてもこれは僕の役目になるんだろうし。どの結末を迎えるとしても、せめて少しの間だけは夢想するといいよ、貴方の過去と未来を。それを見て誰かが笑みを浮かべるのかは知らないけれど」

これは管輅の言葉を借りるのなら”ヒント”なのだろう。

「北斗、それが来るまでに俺の求める結末を決めろと言うのか」

「さぁ?それは貴方がどう受け止めたか次第。ただ僕は伝えるべきを伝えることしか出来ない。問われるべきに応えるのみだから・・・」

もどかしいばかりの答えに柄を握る手に力が篭るが、管輅は力ではそれに応じないだろう、俺の動きに気づいているからこその最後の一言。

「さて、そろそろ時間だね。さぁ、まずは”君”はどんな夢を見るのかな」

管輅は立ち上がると俺に一礼するように身体を折り曲げた。

そして、その体は外套に飲み込まれ、外套ごとそこから消え去った。

その奇怪な光景を剣を抜く事無くただ見ている事しか出来なかった。

管輅の前に膝をつき、剣の柄を握り締めていた・・・はずだった。

「はっ・・・?!!」

一瞬だった、視界がぐらりと揺れると俺は捲き戻されたかのように大通りに立っていた。

管輅の存在に気づいた場所、そこでただ立ち尽くしている。

つい先程までの空間は既に人垣に埋もれていて。

それはまるで、白昼夢。

嘲風の手綱を握り締めた掌に汗をかいていた事が管輅と話したのだということを実感させた。

そして耳に残る管輅の言葉。


 ”死を追い、生を得るが貴方の定め”

 

 ・・・それが俺の天意、とは考えたくは、ない・・・が


嫌でも、どれだけ否定の言葉を並べても、脳裏に焼きついて離れない過去。それは”定め”の通りの俺に現実を突きつけていた。

これから起きる事ではなく、これまで通ってきた道は言葉にするならそのまま管輅の言う通りと感じた。

けれど今の俺にそれを素直に受け入れられない。

今は生きる理由がある。

望む人がいる。

だから、死を求める理由はない。


 俺が望む、終端・・・。それは・・・もう・・・


独りでに動き出した足まるで沼地を進む様。

重い足取りで町を進みながらただ一人黙したまま、管輅の言葉に揺らぐ心を静めるばかりだった。 














NextSceene

++易者なる者、探し求めた存在(後)++




反省と懺悔の狭間の時間です


いや、絡んできます。

というより絡まっていきます。

ですがこれでオリ主のしがらみが明らかになるのでは?と思います。

さてはて、長々もやもやしていたもののを更にもやっとしていなければ良いのですが・・・・怖いんです。

匙加減って言ってしまえばそれまでですが

先々を見ればこれ位はいいだろうかと探るのって怖いんです。

よしっ、弱気は吐き出したのでもう大丈夫。


少し解説に行きましょうってこれ必要?

なんというかですね最初の方で馬の命名の話ですね。

オリキャラの真名って難しさを感じたのですが

この二頭の名前はさらっと出てきたんです。

まぁ名前って大事ですよって話。


滞在場所を考えた時に廃墟のような小屋の絵が出てきたのですが

これって男子特有でしょうか秘密基地のような感じがして

それを自由にアレンジできるのってある意味最高の贅沢なんじゃないかなっとオリ主にはこれから色々いじってもらうつもりです。


町にて今シーンでちょっとだけ出てきた人達。

何故ここにと言うのはまだ前回分からまとめていない活動報告にて。



さて今回は捕捉なしです。

と言うよりこのあとがきも次にまとめれば良かっただろうか


まずは色々各内容、書く内容の資料を眺めながら次の柱を削りましょう。

この話を上げたので少しだけ肩の荷が降りた気もします。

さぁ次話へ行きましょう。






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