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恋姫天衝 ~対極の御遣い~  作者: 雀護
・穎川~
23/44

柔らかな風は西に向かって




++武を磨くものは、腕を磨くもの++






夜を迎える。

穎川を離れ一先ずと野営の支度を整える事にした。

「本当に宜しかったのでしょうか。董君雅殿に言わず馬車をお借りしてしまいましたが」

「それは賈クが後で説明すると言っていたし、元は董卓と賈クが使っていたものらしいから問題はないだろう。それに”あれ”がな・・・」

計算外だったそれを見つめれば間の抜けた声でこちらを振り返る。

「ふぇ?あたしがどうかした?」

当の本人は馬車に繋がれていた昇竜を解いている最中だった。

「気にするな、大したことじゃない。それより少し坂になっているから車輪止めを忘れるなよ」

「わかってるよ。あたしだって結構旅してるんだから」

そう言いながら程銀は無断で借りてしまった馬車の車輪に手頃な石を噛ませる。

董々に無断で借りてしまったのは後ろめたいが程銀が馬を使っていなかったのでしょうがなかった。

聞けば町から町へは商人の馬車に乗り込んで移動していたそうだ。

その事で頭を痛めていたら董卓がこの馬車を提供してくれた。

最初はどうしようかと考えたが昇竜で二人乗りをしても元々大剣を載せている分負担が多いし、閻忠の馬に乗せてしまうと昇竜に遅れる。

こうして馬車に荷を乗せ引いてもらったほうが幾分か速いし負担も減る、そう結果付けて馬車を借りる事にした。

「馬車の事は西涼に戻る時にでも俺から董々に頭を下げよう。一先ずは閻忠も荷を降ろして自分の馬を休ませてやれ」

「はぁ~~まったく馬龍殿は・・・」

「ねぇねぇ、それより早くご飯にしようよ」

そう言って程銀は料理もないのに皿を突き出す。

「さっき食べたろ?」

「食べてな・・・って、もしかして・・・もしかして!!あのおにぎりが・・・?!!」

「今日の晩飯だったんだが?そう言ったろ」

馬車の中で転寝しそうな程銀にいくつか用意しておいたものを渡していた。

それはしっかりとその腹に収まっているはずだ。

「だ、だって~お腹減ったよ~~。馬龍~ご~は~ん~~」

「今夜の番をするなら夜食くらいは作ってやれるが食料を買う時間がなかったからあまり量は作れないぞ」

「えぇ~~?!でも結構食べ物載せてるよ?それに馬龍お金あるよね?」

どう訴えられようと予定外の行動に違いはない。

穎川ではあまり時間がなかったせいで買出しもできていないのだから次の町までは節約しかない。

「そうですね。この速度で進んでも次の町までなら明日の夕刻には着くでしょうし、そこで補充すれば宜しいのでは?」

「しばらく東に進むから明日は町には着かないぞ」

「えっ?いえ、しかし、ここからでしたら陳留を目指して一度北上した方が早いかと」

「えぇっと、少し待て」

ごそごそと荷物をあさって中から地図を取り出す。

「今がこの辺りだな。それで一度しばらく東・・・」

閻忠たちに見えるように開いた地図を指でなぞる。

穎川から海に出る少し手前まで右へ。

「この辺りまで進んでから少し北西ぎみに進めば琢に着く」

「えっと、その辺りですと沛国まで進むと言う事でしょうか」

「それって回り道だよ。素直に陳留の方に行ってご飯にしようよ。閻忠さんだってお腹減ったよね?」

「私はそのような事・・・」

クゥゥ~~・・・。

閻忠の腹は随分と可愛らしい声を上げる。

本人は否定しようと身体は正直らしい。

確かに大会前に昼を食べたきり、あれだけでは閻忠にはきつかっただろうかと少し思案した後、溜め息と共に結論を吐き出す。

「しょうがない、飯にしよう」

「わ~~い」

「宜しいのですか?」

「二人揃って腹が減って動けない、なんていわれる方が面倒だからな」

予定外でもまぁこの位は想定内としなくてはこの世界では行動不能になってしまうのだろう。






朝を向かえ予定していた進路を北にとって町を目指す事になった。

「見えました、あちらですね、予想より早く着きそうです」

昼頃に小さな丘を登るとその先に町が見えてきた。

「そうか」

そう返事をして手綱を軽く引く。

するとその意思汲んで昇竜が速度を落として立ち止まる。

「馬龍殿?」

「あとは二人で行け。俺はここで待っている」

立ち止まった馬車に慌てて閻忠は馬を反転させて俺に向き直る。

「一体なっ・・・・・」

当然問われるだろうと思っていた言葉。

それを閻忠は途中で止めて俯き加減で考え込む。

問われないならば答えるつもりはないので先に用事を頼む事にした。

「買い物の内容はこれに書いておいた」

「えっ、はい了解しました」

それを思っていたよりもあっさりと了解する閻忠。

木簡を閻忠に手渡すと荷台でのんきに昼寝をしている盾女に声をかけるが・・・。

「ん~~~あと半刻~~」

「おい、もう昼になる起きろ」

二度目、これで起きないのなら手段を変える。

「あと二刻~~~~ん~~」

仏の顔も三度まで。

俺は仏ではないので三度目はない。

「・・・・・・閻忠、水筒」

「はっ、はい」

差し出されたそれを受け取り荷台に乗り込む。

こいつに対して遠慮はしない。

遠慮なく最終手段を使う事にした。

あえて起こさないように頭を横向きに転がし水筒の口を開いて、目標に照準を定める。

チョロっ

水滴は逸れることなく程銀の耳に着弾。

「ふぁあっ!!!!?」

突然の事に飛び起きる程銀は辺りをキョロキョロと見渡すと俺と眼が合う。

すると、明らかに機嫌の悪い顔で俺を睨みつける。

「何するんだよ馬龍っ!!。うぅぅ~耳が気持ち悪いよ~」

水を出そうと頭を傾けトントンっと叩く。

そんな程銀に手拭を差し出してそのついでに用件を伝える。

「さっさと起きないから悪い。これで昼でも食べて来い」

文句を言われる前に財布を投げつける。

少々不機嫌そうな顔をしていた程銀はそれを受け取ると俺と財布を交互に見て首を傾げる。

「お金?・・・でもこんなに」

「ついでだ。閻忠の服を買ってやれ。いつまでもあんな重苦しい鎧のままってのもあんまりだからな」

それは建前。

いつまでも軍人が一緒というのはあまり面白く考えない連中がいるのはどこであろうと同じ。

立ち振る舞いからばれるかもしれないがせめて服装だけでも変えてもらう必要があるそれには今回の事態は良い機会だった。

「服?でもあたしにお金渡したらその分食べちゃうよ」

「食べるな!!」

想定外の答えについツッコんでしまった。


 どこまで食欲に貪欲なんだこの盾女は


程銀の答えに頭を押さえながら溜め息が漏らす。

「はぁ~~、閻忠に渡したってあいつの事だと遠慮しそうだからな。無理にでもお前に・・・と思ったがやめた方がよかっ」

「じょ、冗談だよ。大丈夫、あたしがばっちり選んでくるから」

渡した財布を没収しようと手を伸ばすと慌てて程銀が答える。

ぎこちのない作り笑顔に一抹の不安を覚えたが俺があの町に入るのは少々まずいので頼むしかない。

「他にも旅で必要になる食材やらを頼んであるからな。食べ過ぎるとその後ひもじい思いをするんだぞ」

もう取り戻せないのならと警告を一つ。

それに笑顔を引きつらせながら乾いた声で答える。

「ア、アハハっ、だ、大丈夫・・・だよ?」

「語尾を上げるな。とにかくあまり遅くなるなよ。それに・・・」

「い、いってきまーす!」

不安しか残らない。

だがもう遅い。

程銀は俺の小言から逃れるように荷台を飛び出していった。

仕方なしに閻忠達の背中を見送る。

それから昇竜を一先ず休ませるため馬具を取り外しながら一人溜め息を吐き出す。

「まったくあいつらは・・・」

そうしていると昇竜が小さく鳴き声を上げる。

「そうだな。二人が戻ってくるまでゆっくりしようか」

こうして昇竜と俺だけになるのは久方ぶりだ。

馬具を外すと地面に寝転がる。

昇竜は俺の傍らに寄り添いしゃがみ込む。

「そういえば翠達に送った手紙はどうなっただろう」

そう独り言を呟きながら西涼に残してきた三姉妹の姿を思い浮かべ柔らかな日差しを満喫する事にした。











「馬騰様、失礼いたします」

安定からの使いが深々と礼をしながら執務室へ入ってくる。

「こちらを馬騰様に、と馬龍様よりお預かりいたしました」

「龍からですか?」

差し出された木簡を受け取る。

それに目を通せばまだ拙い文章が並ぶ。

けれど、それを見るだけでどのようにしてこの木簡を書いていた龍の姿が思い浮かぶ。

頭を悩ませながら何度も書き直しながら、そんな光景が想像できてしまう。

それが微笑ましくてつい笑みが漏れる。

「馬騰様?」

「すみません、大丈夫ですよ」

使いは一礼しながら退室。

気を取り直して木簡の内容を読み取る。

そこには安定から穎川へ向かいそのまま琢に行くというものだった。

「仕方のない人ですね。ですがこの様子なら楼杏の助力を得られたみたいですね」

そうして、続きを見れば残りは・・・。

バンッ 

唐突に戸が開かれる。

「母様、兄様からてがみがきたってほんと?」

そこにいたのは愛娘達。

「翠、戸を開ける前には声をかけなさい」

「ぅぅ・・・ごめんなさい」

「だから少しおちついてって言ったのに」

「鶸だってはしったじゃないか」

入り口で言い争う姿を見ているとふとその後ろに龍の姿が浮かんだ。

『しょうがないな』なんて小さな笑顔を浮かべて二人の頭を撫でるそんな姿。

「えっ?」

「母様?」

二人の傍へ進み間に入って二人の頭を撫でて喧嘩を収める。

「ふふふっ、喧嘩をしていると龍に怒られてしまいますよ」

そう告げると二人はシュンと静かになる。


 貴方は立派にこの子達の兄なのですね


木簡に書かれたものの最後の方は翠達に向けた内容がほとんどだった。

それにそこに書かれている文章が一番龍にとって悩んだ部分であると思えた。

「さぁ、三人ともこちらに来なさい」

机の上に置いた木管を手に取り三人を手招きする。

「母様、龍にぃはいつかえってくるのぉ?」

「もう少し掛かってしまいそうですね」

「「「えぇぇぇ~~っ?!!」」」

事実と告げれば娘達から抗議の声。

「ですが、この木簡には貴方達に向けて書かれている部分がありますよ」

そう言って木簡を差し出すと意外にも蒼がハシッと素早く手に取った。

木簡を開いて一所懸命に文字を追い駆けている蒼。

「ん、んっ~?、んっ~~~~?鶸ねぇ~読んでぇ」

その様子を覗き込むように鶸と翠が見つめるが蒼にはまだ早いみたいで木簡を鶸に手渡す。

手渡された木簡を蒼と同じように眺める鶸。

「んっん~~。え、えっと、”無事”、”安定に”、”協力”、・・・ん~~~っ」

なんとか読み取れる部分だけを口に出している鶸。

それでも無理に読めない文字を読もうとしているせいでシュウーーーっと音を立てて鶸の頭から蒸気が立ち上る。

「鶸、あたしがよむ」

「あ~あうぅ、翠姉さん大丈夫なの?」

「ねぇちゃんにまかせとけ」

まるで龍のような口ぶりで翠は鶸に向かってトンッと胸を叩く。

だが木簡に目を落とせば鶸のようにうなり声を上げる。

「ん~~~っ?!んん~~っ!!」

「翠、貴方達の書かれているのはもう少し後ろの方ですよ」

翠、鶸が読もうと頑張っているのは最初の方。

それを指摘するとカロカロと木簡を転がしてもう一度文字を追い駆ける。

すると翠は溢れんばかりに笑む。

「・・・翠ねぇ?」

蒼の声にハッと文字を追いなおしてそれを声に出す。

「あ、えっと。”翠、元気か?”」

「えっ?姉さん読めるの?」

それを聞くと鶸は驚いたが、私も少しだけ驚かされた。

「翠ねぇ、蒼には?」

蒼に急かされるように文字を追い駆けて木簡を転がす。

「んと、”蒼、元気か?”」

「蒼、げんきぃ!」

「・・・あの私には?」

「ちゃんと書いてある”鶸、元気か?”って」

龍が来るまで読み書きなどほとんどしなかったこの子がこうした姿を、ただ文字を読むだけの事で笑みを作るなど想像もしなかった。


 私は甘えてしまっていたのですね


外では”公正明大”などと言われる事があった。

目指してそうしていたわけではない。

だがそうであることで皆が納得のいく政が、ここに暮らす同胞と喜びや辛さを共有できたのだと思う。

だが”公正明大”などこの子達の手を取る事も出来ていなかった私には過ぎたものだ。


 龍に出会って考えさせられるばかりですね


「翠ねぇ、ほかには~?」

「え、えっと・・・」

「少し待ちなさい。翠、よくできましたね。鶸も頑張りましたね」

急かす蒼を止めて、二人の頭を撫でる。

母としてまだまだ、だから今は少しだけ兄としての役割を借りる事にした。

翠の手に握られている木簡を取り翠達に向けて龍の意思を告げる。

「翠、鶸、蒼。龍はこのまま琢まで行かれるようですので帰りは早くても二ヶ月はかかるでしょう。ですからこの書簡を書いたのだと思います」

「「「??」」」

三人は見事までに同じ仕草で首を傾げる。

そこで木簡を机の上に広げて紐を解いていくつかに分ける。

三人の事が書かれているそれぞれを分けて手渡す。

「龍が帰ってきた時、ここに書かれているものを読めるようになっていたら・・・」


 この子達にとって・・・


「貴方達の兄様は喜ぶと思いませんか?」

龍の考えを口にすれば三人は揃って明るい笑顔で首を縦に何度も振り下ろす。


 貴方はもう必要な存在になっているようですよ






龍から木簡が届いて数日。

三人はなにやら頑張っているようで今日も朝餉の後すぐに町へ繰り出していった。

恐らくは紫庵のところへ行き読み書きを習っているのでしょう。

時間があれば私もいくつかを教えてはいるものの、最近では自ら紫庵の元に行くようになった。

 

 ”これが龍様の言う天の時なのです”


などと紫庵は涙を滝のように流して喜んでいた。

そして、龍の木簡に目を通したのか。

龍がこの場にいないのがもどかしいと自身も琢に同行するべきだったのかなどと私に相談してきた。

娘達の成長は素直に嬉しく思う。

「ですが、少し寂しいですね」

いくつかの案件を処理しながら一人執務室で愚痴をこぼす。

まだ五胡の脅威は薄れていない。

収穫期を迎える田畑の事、調練の日程、近隣領主との会合などなど年明けまで慌しい日々が予定されている。

直接娘達の成長に関われないのが今一番の検案事項かもしれない。

と、いくつもの予定を組あわせていると部屋の外からの声にそれを中断する。


『馬騰様、安定より使いが参りましたがいかがいたしましょう』


その言葉にやや疑問を持ったが使いを執務室へと通すよう伝え、一旦処理途中の書簡達を棚に戻す。

「失礼いたします」

部屋の中に入ってきたのは先日訪れた使いとは別の人物。

「久しぶりですね。麹義」

「お久しゅうございます、馬騰様」

「ふふっ、今は公務の場ではありませんから畏まる必要はありませんよ」

「いえ、此度は義真様より託された書簡をお渡しせねばいけませんので」

そう言って懐かしい顔は静かに笑み私に書簡を差し出した。

「今度は楼杏からですか」

書簡を受け取り紐を解いて内容を簡単に確認する。

「・・・あの人はまったく、ふふふっ」

「一体どのような・・・と内容が気にするところだが、きっと馬龍殿のことなのだろう?」

書簡を渡した事で公私を切り替えた麹義は普段どおりの口調に戻る。

「そちらの方が貴方らしいです。その口ぶりだとそちらでは”もっと面白い事”があったようですね」

「それはそれは馬騰殿が見たら腹を抱えているんじゃないだろうか。初対面での立会い手も足も出ないままだった。親衛隊の隊長なぞやっていたというのにな。伸びた鼻をいきなりへし折られたよ」

麹義は後頭部を掻きながら恥ずかしそうにそれを語る。

「それは見てみたかったですね。それでわざわざ貴方が来たと言うのは何か意味があるのでしょうか」

それは率直な疑問。

わざわざ伝令として安定を離れる事のできる身分ではない麹義がここに来るには相応の理由が必要になる。

「不思議な方だった。それから眩しい方だった」

「眩しい・・・それは龍のことですよね?」

私の問いに麹義は少しずれた答えをする。

龍を賞しているのであると思うものの少し違和感があるものだった。

「馬騰殿には理解できないかもしれない。この世の男は弱い、女でなくては届かない高みがある。だがあの方は男だというのにあれほどまでに武を極めた。自分でもその高みへ・・・そう思ってしまった。あの方に同行できなかったのは少々名残惜しい」

麹義の瞳はその行く末に思いを馳せているようだった。

「という事は。すでに龍は安定を立ったのでしょうが隊長の貴方が同行するわけには行かないでしょう」

「自分はもう隊長ではないんだ。この瞬間から全ての任を解かれた。というよりもそれを自分から願い出たのさ。今は副長辺りが代理をしているが閻忠が戻ればあいつが務めるだろう」

「もしかしたらと思いましたが随分と思い切りましたね。この後はどうするつもりなのです」

麹義の言葉は現在の地位を捨て今一度、一武人として高みを目指すと言うものだと理解した。


 龍には確かに惹きつけられる者がいてもおかしくはないでしょうが・・・・・・


兎角、名立たる武将に男性の名は少ない。

そう思えば麹義が龍の背に憧れを抱くのは必然なのかもしれない。

女性の私や他の方ではこうも彼を駆り立てる事はできなかったと思う。

「しばらくは各地を回ってみたいが、義真様に返事を出すのであれば伝令は”買って”出るが?」

「旅の餞別にお願いしたいところですが、そうですね・・・」

ふと考えを巡らせ、一つ提案をすることにした。

このまま彼を旅立たせてはいけない、そう直感が告げていた。

麹義の瞳は新たな目標に色鮮やかに輝きながらも何か危うさを感じた。

「しばらくゆっくりされたらいかがでしょう。ここは貴方の故郷ですし、得るものがあるかもしれませんよ」

私の提案に少しの考えた後、一度だけ首を縦におろした。

「君が義真様に返事を書かれるまでゆっくりさせてもらう事にしよう。元より気になる事もあるし・・・」





久しい友人、ここから他の地へと旅立った者が郷に帰ってきた。

その知らせは昼過ぎになってその当人と共に訪れた。

「それで、龍様は一体どのような技を使われたのですか。あるいはそれこそ勉学の体現なのでしょうか!?はぁ~~口惜しいです、悔しいです!貴方が恨めしいですーー!!・・・はっ!?まさかこれも龍様からの私への試練なのでしょうか!!?」

「・・・いや、自分ではわからないが恨むのはやめて欲しい」

書店に顔を出した友人は連れない態度でお茶をすする。

「恨みます、怨ります!妬ましいですーー!!まだまだ聞きたいことは山ほどあるのです。今夜は帰しません!あの方の一挙手全てを語っていただくまで逃がしません!逃がしません!!逃がしませーーーん!!!」

宣言する。

あの方の全てが私にとって天意。

その在り方が少しでも理解したい。

その情報を持つ麹義を逃がすつもりなど、一歩たりと外に出すつもりなど毛頭ない。

「逃げんよ、しばらくは実家にいるつもりなのだから。久しぶりだと言うのになんとも変わったな庖徳」

「私は私です。無職のドラ息子が帰っても父君の怒りを買うだけです!」

「あぐっ、それは・・・・・・」

「さぁ、話してください!!」

逃げようと口実を述べようとも関係ない。

頭を垂れて後悔しようと龍様の事を公開してもらうまで攻め手を緩めるつもりはない。

戦は終結するまで気を緩めてはいけないと龍様も言っていた。

「そ、それより馬騰殿にこっちに三姉妹が来ていると聞いたのだが」

「そ・れ・よ・り?それは馬騰様か龍様のご意思ですか?」

麹義の瞳を睨みつけると動揺の色を見せながらもコクコクッと頷く。

友人と言ってもあまり信用しがたい。

それでも龍様や馬騰様の意思ならばと一先ず退く事にした。

「馬超様達は今日の授業でいくつか読めるものが増えたからと早めに戻られました」

「入れ違いになってしまったか」

「今はお庭で鍛錬をされているでしょう」

龍様の木簡の言葉を思い出した。


 ”焦るな、ゆっくりでいい” 


それは馬超様達に向けたものではあるものの三人に共通して書かれた締めくくりの一文。

それは今の私にも言っているようにも思えた。

そして一先ず休戦として立ち上がる。

「では行きましょう」

「どこへ?」

「龍様の意思ならば貴方をお三人様に合わせるのは私の役目なのでしょう」

まだ最後まで読めていない。

けれど馬超様達を見守るのも私に課せられた龍様からの願い。




馬騰様の屋敷に着くと三人様は槍を持って鍛錬をしていた。

「たぁっ!」

「はっ、てぁぁ!!」

馬超様は馬休様の突きを斜に構えた槍で受け流しさらに打ち払う。

払われた槍は宙を泳ぎ、煽られた勢いで馬休様の体は崩れ尻餅を着く。

「あぅぅっ、翠姉さんもう少しかげんしてください」

「鶸はもっと型をおぼえたほうがいい。これじゃあたしのたんれんにならない」

座り込んだ馬休様の手をとって立ち上がらせる馬超様がふと私達と目が合う。

「ん?ほ、庖徳?!きょ、きょ、今日のじゅぎょうはおわったのに・・・。な、なんの用だ」

そう言って鍛錬用の槍の穂先を私に向ける。

その様子に頭を垂れ落ち込んでいると麹義が声をかけてくる。

「庖徳、この子達に何をしたんだ?」

「私は・・・何も~、しましたね・・・」

間違えた天意の元で行ってきた数々を思い返してしまった。

龍様から天意を授かる前少しだけ、ほんの少しだけ無理強いをしてしまった。

この反応は私への戒めなのだと、二度と天意を見誤らないようと言っているのだと、一人納得しようとするのだがそれでも少し悲しくなる。

「授業は日が高くなったらお終い、その決まりは守ります。それよりも馬超様は今日の授業で龍様の木簡をお読みになったのではなかったでしょうか」

「あっ・・・そうだった。鶸、ごめん。次はあたしがうけるから」

それを指摘すると馬超様はその内容にハッと我に返り馬休様に向き直って頭を下げた。

「翠姉さん。私、がんばります」

「翠ねぇ、鶸ねぇ。蒼も~~!」

「あぁ、蒼もいっしょだ。じゃあ型をやろう」

馬超様は槍を手に取り龍様の残していった『型』を始めた。


「蒼、この型はあんまり力いれちゃいけないんだ」

「ぅぅむずかしい」

「鶸、足はもうすこし前にだしたほうがやりやすいぞ」

「は、はい」

馬超様は横に並ぶ二人を見ながらも自身の動きを丹念に繰り返し確認する。

それは姉としてなのかもしれないが龍様が書いていた木簡にもあった事。

「これは、凄い」

その光景を見て横にいた麹義は感嘆する。

初めて見た人間なら皆一様に同じ反応をする事だろう。

同じ年頃の子に比べれば勿論、軍籍の者でも同じだけ切れのある動きはそうできるものではないのだから。

「自分も馬龍殿に幾度か師事を受けたけれど、年端のいかないこの子等まで馬龍殿にかかればこれほど・・・・・・」

そうなにやら呟く麹義。


 師事を受けた・・・何と羨ま憎らしい。・・・ですが、龍様が・・・?


頭の中で隣の麹義を締め上げていると現実の彼は前に進み出ていた。

「馬超様」

「ん?おまえ誰だ」

「自分は麹義。ここ数年は安定郡にいたので顔を合わせるのは初めてになります」

改まった口調で深々と頭を下げる麹義。

ここにいた頃は自身の武を誇り人に頭など下げる事はなかった。

皆にも五胡を相手に戦ってきた精鋭の一人として認められていたが・・・。


 ・・・これは龍様の影響?


きっと龍様が安定で何かしたのだとは思うが、それでも何か違和感のようなものがある。

「安定ではお兄様、馬龍殿にいくつか指南を受けました」

「兄様の?」

「はい、ですので自分と一手お相手願えませんでしょうか?」

「な、何を言っているのです?!!」

突然の申し出に馬超様も困惑の顔を見せている。

当然だ、槍を持ったのは数ヶ月前。

そうとは感じさせないほどの上達振りを見せはしているが・・・。


 おかしい・・・絶対に


納得ができない。

彼がこのような申し出をする意味も意図も理解不能だった。

「刃引きをしていない自分の剣では、駄目ですね。おっ、丁度良いところに木槍が・・・」

麹義はまるで私の言葉は聞こえていないかのように塀の片隅に立てられている木槍へ進む。

「それは龍兄さんの・・・」

「少しお借りするだけですから」

馬休様の制止も聞かず麹義は木槍に手を伸ばす。

「だめぇぇぇ!!」

シュッ

木槍と麹義の間に割って入るように馬鉄様の槍が突き出される。

麹義は伸ばした手を引いて後退する。

「龍にぃのだから、だめ!!」

馬鉄様は槍を麹義に構え睨みつける。

その姿に麹義も驚きの表情を見せているがそれ以上に私の方が驚きを隠せずにいた。

これほどまで激高する馬鉄様など私の記憶の中には存在しない。

「仕方がないようです。では、鞘に収めたままで・・・」

麹義は腰から鞘ごと剣を抜き取り鞘と柄を紐で固定し手の内に納めた。

「蒼がやる。龍にぃのって鶸ねぇ言ったのに龍にぃのさわろうとしたキクギ嫌い!!」

「馬鉄様駄目です。麹義は軍人なのですよ」

「蒼がやる!!」

普段、温厚で怒る姿すら想像できない馬鉄様。

三姉妹の中でも少し後ろから辺りを楽しげに見守ることの多い馬鉄様。

それが今は怒り、その瞳には確固とした意思で自らの槍を持っている。

その瞳を馬超様はじっと見つめ、一呼吸して馬鉄様に声を掛ける。

「蒼・・・・・・負けるな!そんなやつやっつけちゃえ!!」

「うん!キクギ、蒼があいてだ!」

「そ、蒼?!翠姉さんまで?!」

困惑した様子の馬休様を尻目に馬鉄様は構えた槍を麹義に向ける。

「庖徳、立会い人を頼む」

「ですが・・・」

酷く気乗りのしない役回りだった。

しかし、麹義の意図というのは気になる。

そんな葛藤をしていると辺りの目は私に向けられていた。

「・・・分かりました。しかし、危険と判断したらすぐにとめさせていただきます」

「庖徳、はやく!」

根負けしてしまった私にダメ押しとばかりに馬鉄様の声が刺さる。

両者の中央に進み、右手を上げ互いを見ながら忠告だけしておく。

「では・・・お互いこれは鍛錬ですからね。いいですか?」

二人は無言で頷き、相手を見据える。

「両者構え・・・始め!」

振り下ろすと同時に馬鉄様が駆け出し間合いを詰める。

「たあぁっ!」

突進したまま突き出される槍。

それはいとも簡単に麹義の剣が打ち落とす。

「やあぁっ!」

打ち落とされた勢いをそのまま回転させて麹義の腹部を横薙ぎの一閃に変化する。

だが麹義に剣で打ち上げるようにして払いのけられる。

技量はともかく力の差がありすぎる。

馬鉄様は打ち上げらた勢いで蹈鞴を踏む。

「まだっ・・・」

数歩後退して構えを取り直して再び麹義に前進して槍を突き出す。

しかし馬鉄様の槍は尽く打ち落とされ、払われ、避けられる。

素直すぎる攻め、それを捌くのは実戦を経験している麹義にとって容易なもの。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

そして、次第に馬鉄様の肩が上下し呼吸が乱れだす。

それでもと踏み出し繰り出された槍に麹義も同時に踏み込んだ。


ガキーーンッ!


「うぅっ・・・」

突き出された槍は麹儀の剣によって大きく弾き飛ばされる。

槍は宙を舞い、馬鉄様は地面に膝をつく。

「「蒼?!!」」

「それまでです」

そこで決着をついた。

これ以上続けさせるわけにはいかない。

「うぐぅっ・・・まだ、蒼はまだできるぅ」

だが馬鉄様は私が終わりを宣言しても膝に手をついて立ち上がる。

しかし、立ち上がる姿は痛々しいほどに消耗している。

息は乱れたままでその手は幾度も打ち払われたせいで震えていた。

「蒼、大丈夫だから」

「鶸ねぇ・・・」

馬休様が馬鉄様の前に出る。

「麹義さん。次は私がお相手します!」

「鶸!次はあたしが・・・」

槍を構えようとする馬休様を馬超様が止めようと口を開く。

「いえ、私の番です。私も蒼の姉さんなんです」

馬休様は一度馬超様の顔を見ると力強い瞳で短く答える。

そして馬休様の思いを汲み取ったのか同じ瞳で小さく頷く。

「鶸・・・わかった」

もし、私に姉妹がいたのなら私の瞳にはどのようにそれが映ったのだろうかと羨ましく思えた。

「次は馬休様ですか・・・よろしくお願いします」

「庖徳、合図を」

「はぁ~まったく。後で龍様になんと言われるか・・・」

「気に病むな、庖徳。馬龍殿が君を怒る事は無い」

溜め息混じりに愚痴をこぼすとそれに麹義が小さい声で答えた。

「えっ?」

何故そう断言できるのかと聞きなおそうと麹義を見ればすでに構えを取っていた。

それ以上語るつもりはない、その意思表示なのだろう。

「後で必ず答えてもらいますからね。・・・では両者構え」

私の声に二人は構えを取り対峙する。

「・・・始め!」

静かな立ち上がり。

馬休様は麹義に対して緩やかに間合いを詰める。

馬鉄様とは対照的なそれは静かだが確実に狙いを定めるようだった。

それに対して麹義は片手で剣を持ち腰を少し落とすだけ。

妙な構え、それは以前に見た彼のものではない。

私の違和感を尻目にじりじりと詰まっていく間合い。

「はっ!」

見事までに鋭い突き。

それは軽々と避けられても鋭さを失わず続けざまに何度もそれを繰り出す。

だが麹義の剣によってそれらは受け流された。

胴を狙っていた瞳が一瞬足元に流れた。

瞬間、繰り出されていた槍の軌道が麹義の足元へ向かう。

「えっ?」

馬休様の驚きの声を上げる。

麹義の虚を突いたと思えた槍は避けられた。

それだけではない、避けられただけではなくその槍の先に麹義の姿は無かった。

「鶸、後ろ!」

「っ・・・?!!」

馬超様の声に即座に反応を見せ前方へ転がるように跳び後方に構えを取り直す。

麹義は馬休様の槍を馬休様ごと飛び越えた。

そして、馬休様の背後を取ったのだ。

「良き突きですが、まだ虚というのは理解できていないようですね」

「くっ・・・・・・」

馬休様の瞳が幾分か厳しさを増す。

麹義の言葉は至極当然、まだ馬休様、馬鉄様は戦場を虚を突かねばならない。

麹義は構えを解いて静かに馬休様に踏み出す。


 あれは・・・


一瞬だけ龍様の姿が重なった。

私がその姿に一瞬気を取られているとすでに麹義は馬休様の間合いの内。

だというのに馬休様は構えたままその歩みを睨みつける。

あと二歩、それで完全に麹義の剣の間合い。

そこから一歩踏み出されるとそれに合わせて馬休様の足はズリズリッと後退りする。

立会いをしている人間にしか理解の出来ないものなのかもしれない。

それは麹義の持つ圧力に後退を余儀なくされているのか、麹義の無防備さその正体が知れないという不安からか。

突然と麹義は歩みを止める。

そしてそれに合わせて馬休様の後退が止まった瞬間、麹義が大きく踏み出して剣を突き出した。

「あぐっ・・・」

剣は寸でのところで馬休様は槍が弾き反撃に槍を切り返す。

「・・・・・・っ」

だが麹義の剣の方が速い、馬休様の槍を振り上げられることなかった。

「それまでっ!」

弾かれたはずの剣は馬休様の首の筋で止まっていた。

振り上げようとしていた槍は地面に矛先を落とし、負けを認めるがそれでもその瞳は麹義を睨みつけていた。

「っ・・・あなたは一体何を・・・」

奥歯を噛み締めながら問いかけられる言葉は私と同じ疑問だった。

麹義は剣を下げるがその問いに答えない。

「麹義!」

数歩後退した麹義の瞳はその声に向けられていた。

「次はあたしだ!蒼と鶸の分もまとめて泣かせてやる!!」

「では・・・よろしくお願いします」

互いに構えを取りすでに立会いの形。

キーーンッ!

剣と槍が重なり合う音。

それは私が二人の間に入ろうと僅かに動こうとするのと同時だった。

そしてその一撃を受けた麹義は一度距離を取る。

間合いを外しても追撃をかける馬超様。

「はぁぁーーー!!」

「っ・・・?!」

一瞬で間合いの内に入り込んでの振り払い、それを麹義は避けることなく剣で受け止めるがその表情に二人を相手にしていた時の余裕はなかった。

そして僅かに麹義の動きが硬直したところへ馬超様の槍が振り下ろされる。

「くっ・・・」

振り下ろされる刹那、麹義はそれを横に転がって避けるがそのすぐ脇を槍が通り抜ける。

避けられた槍は勢いのまま打ちつけ地面を砕いた。

その隙に麹義は速やかに体勢を反転させて馬超様に剣を振るう。

だが、馬超様は槍で振るわれた剣を払いのける。

「・・・見事。ですがっ!」

そう呟くと麹義は馬超様に向かって大きく踏み込んだ。

だが剣は払われ体勢が整っていない麹義よりも速く迎撃に向けた矛先。

「っ・・・?!」

ほとんど無防備の麹義は上半身を捻り寸前でそれを避け、更に馬超様との距離を縮める。

馬超様はその圧力に一旦後退を試みようとしたのか地面を蹴る。

麹義は槍を掴み後退の勢いを無理やりに止め馬超様の懐に入り込んだ。

そして、ぶつかるように剣を馬超様に宛がって吹き飛ばした。

「っうぁーーー!」

贖えない体格差によって馬超様の体が地面を転がる。

麹義の前進はとまらない、馬超様が身体を起こす前に構えを整えた剣を振りかぶる。

馬超様は地に体を残したまま槍で受け止めるが力の差でギリギリと迫る剣は程なくその抵抗も打ち払うだろう。

体は地にある馬超様、すでに勝負は歴然としてた。

『それまで』と声にしようとした瞬間、馬超様の瞳が私に映りこんだ。


 ”あたしは負けない”

 

強く気高いその瞳、それはまるでそう叫んでいるかのようだった。

そして、その一瞬で事態は変化した。

馬超様は受け止めていた槍を回転させた。

回転した槍は麹義の足元を払い、その僅かな一撃によって必死の体勢は崩れた。

一瞬だけのその間に馬超様が地面から抜け出し再び構えを戻す。

だが馬超様の消耗は激しく呼吸が乱れだす。

始めは優勢を感じさせた馬超様だが今の攻防は馬超様の精神を大きく疲弊させた。

そして私の中の疑問は大きくなっていく。

鍛錬と呼ぶには酷く乱雑な攻防だった。

「・・・馬超様」

麹義は構えを馬超様に向けたまま呟く。

「馬龍殿の教えは今のが全てでしょうか?」

龍様の名が口にされると麹義を捉えていた矛先が僅かに揺れる。

馬超様は口を開かず鋭い瞳が麹義を睨みつける。

そして、一瞬だった、ほんの一瞬だけ目蓋を閉じると馬超様の構えから力が抜けた。

それを見ると麹義は僅かに口角を上げた。

「まだ、あるようですね・・・行きます」

麹義が先に仕掛けた。

そして、その剣を振り下ろすが・・・。

「ぐっ・・・」

目視で確認できないほどの突きが剣を打ち上げた。

打ち上げられた剣の勢いに麹義の体が泳ぐがそこから無理やりに体勢を戻すと再び剣を振り抜く。

崩れた体勢からの一撃は無常にも空を裂き、その懐には馬超様が入っていた。

突き刺した形から持ち手を入れ替えて石突で足を払う。

崩れかけていた体勢ではそれを受けきる事は出来ず地面に倒れこむ。

「はぁぁぁっ!!」

そして、倒れこんだ麹義に振り下ろされる馬超様の槍。

防御に回る事もできず麹義はその一撃をうける以外術はもうない。

勢いのまま馬超様の一撃が打ち込まれれば麹義は無事ではすまない。

「馬超様っ・・・?!」

思わず声を出してしまった。

だが・・・。

「・・・・・・」

麹義の眼前で槍は静止した。

そして、槍を突きつけられたまま麹義が口を開く。

「・・・まだ自分は泣いていませんよ」

まるで挑発するかのようなそれに馬超様は構えた槍をそのままに答える。

「あたしが・・・兄様におしえてもらったのは守るための技。”打ち負かす技”じゃない!」

「・・・自分の負けです」

馬超様の答えに瞳を閉じて自身の負けを宣言する。






隣の町から戻り騒がしさに中庭に顔を出せばそこには見知った顔だらけ。

しかも一通りの事が終えた後だった。

「まったく、町に出ていると思えば揃いも揃って私を仲間はずれにしていたとは・・・」

「そのようなことは・・・なかったのですが」

言い訳と言う名の事情を庖徳と麹義に聞き、今回の麹義の帰郷の意味を理解した。

「冗談です。ですが、わざわざこちらへ来たのはこちらが主たる目的だったのですね」

「馬龍殿の頼みだったんだ。馬騰殿を欺くような真似をしてしまったのは申し訳がないが。もし、馬龍殿よりも先に西涼に行く事があれば馬超様達の力量を確かめ自分の指南された技を伝えて欲しいと言われていたのでな」

麹義は頭を下げながら私に説明をするがそんな姿を見たのはいつ以来だろうか。


 これもまた面白い事になるのでしょうか


そんなふうに考えていると麹義の言い訳に紫庵が抗議の声をあげる。

「それにしても強引すぎです。馬超様達に怪我でもさせたら龍様が黙っていないでしょうに」

「それは・・・殺されるのではと思える程の殺気と共に念を押さえたさ・・・」

その時の姿が思い浮かぶ。

きっと最大限の笑みを作っていたのでしょう。


 あの人は、本当に・・・


「それで貴方から見て娘達はどうですか?」

と、一先ずは娘達を庭に待たせているので麹義の報告を聞くことにした。

「申し分ないかと、心も技も」

「それは重畳」

私からだけでは客観的な意見としては不足していると感じていた。

それは実りの季節には良い知らせだった。

ならばそこに私の意見を加えよう。

「ではあの子達の武術を見ていただけますか。しばらくは貴方に嫌われ役をお任せする事になるでしょうが」

「それは自分が技を受け取る際の条件だっ・・・」

バンッ!!

麹義が答えを言い終える前に戸が開かれた。

「翠、戸を開ける前には声をかけなさいと言いましたよ」

「っ・・・母様」

戸の開き方も同じなら現れたのは数日前と同じ。

私の三人の娘達。

「だから、私は何度も・・・」

「うぅぅ・・・」

「翠姉、はやくぅ」

鶸に嗜められ唸るような声を上げる翠をなにやら急かす蒼。

「それで何か急ぎですか」

「あ、えっと、キクギ!」

私の問いかけに翠は少々狼狽しながら麹義を見つけると指を差して声を上げる。

「?自分ですか」

指名された麹義は驚いた様子で翠達に身体を向けた。

「キクギ、兄様の技をあたしたちにおしえてほしい」

「えっ?」

そして、娘達は麹義に向かって同時に頭を下げる。

心技共に申し分なし、そう評価した当人が驚いたということは少しおかしく思えた。

「ふふふっ、嫌われ役にはなれないみたいですね。さぁ、教えを請う者がいますよ、貴方はどう答えるのです?」


 








優しい風が鼻をくすぐる。

「っん・・・・・・」

「ブルゥゥゥッ」

むず痒さに目を覚ますと昇竜は鳴き声を上げて緩やかに立ち上がる。

「あぁ、おはよう。少し寝てたみたいだな」

暖かな陽の下昇竜のおかげで気を巡らせる必要は無かった。

そのせいで少しの間寝てしまっていたようだ。

そして、上半身を起こして少しの間辺りの気配を探り直す。

「ん?・・・あぁそうか」

そこで昇竜が立ち上がった理由を理解し、俺も立ち上がる。

陽の高さを見つめて時間を確認してからそちらに向き直った。

遠くから一頭の馬がこちらへ向かってくるのが見える。

俺が眠りついた頃から一時間と少し。

不意に昇竜が俺の背を小突く。

「ん?・・・俺達昼を食い逃してしまっうおぉ!!?」

俺が改めて口にすると昇竜から抗議の体当たり。

「悪かったって。おっ、って、やめっ・・・わかっ、わかったから」

昇竜に謝罪をしながらもその最中何度も昇竜の抗議は続く。

その中で馬車からいくつかの食べ物を取り出して昇竜に食べさせる。

「・・・にしても思っていたよりも早いな」

そう疑問が浮かぶ中、何度も昇竜を宥め二人の到着を待つことにした。




「早かったな。程銀まさか・・・・・・」

最悪の最悪の結果が頭の中で思い浮かび、到着した程銀にそれをそのまま投げかける。

「大丈夫だよ。ほら、ちゃーんと買って来たよ」

程銀は馬の背に載せられた荷物を指差す。

見ただけでは中身は確認できないが載せた量だけを見ればおおよそ大丈夫だろうとは思えた。

「?」


 急いで市を回ったのか、飯の時間を割いたとは考えがたいし・・・あれ?飯・・・・・・?


疑問に何かが結びついた気がして程銀を見返すと返って来たのは笑顔。

「馬龍、あたしお腹すいたーー」


 子供かっ!?


一言で俺の疑問は解決された。

程銀は飯の時間を割いたのではなく、飯の時間をとらなかったのだと理解した。

「食べて来いって言っただろ・・・」

「だって、馬龍のご飯美味しいし。初めてのお店って当たり外れあるからさ」

脱力しながら溜め息を吐き出した。

料理が美味いと言われるのは悪い気はしないし、当たり外れというのはなんとなくだが共感は出来る。

それでも今回は町で食べてくれたほうが都合が良かった。

二人が戻り次第進路を戻して東にいくつもりでいたのだが、閻忠がいたというのに何をしていたのだろうかと閻忠に視線を向ける。

だが閻忠は外套にすっぽり身を包んだまま黙々と馬の荷を馬車に運んでいた。

「・・・閻忠」

「ひ、ひゃいっ?!!にゃ、なんでしょうか?!」

呼びかけると何故か慌てて盛大に荷物をばら撒きながら返事をされた。

嫌な予感しかない。

程銀に視線を送ってみたが予想通りに返って来たのは笑顔、そしてVサイン。

しょうがないと閻忠に問いかける事にした。

「閻忠、町で何かあったのか?」

「い、いえ。・・・何もありゃません」

「その言い方は断言するには不自然だぞ。・・・程銀何があった、正直に話さないと昼抜きだからな」

「えーーっ?!!で、でもでも普通に買い物して戻ってきただけだよ」 昼飯を担保に脅迫しても返ってきた答えでは解決にはならなかった。

もう一度閻忠を見る。

「・・・その外套は向こうで買ったのか?」

「ひゃいっ!」 

そう言うとビクっと反応を見せて閻忠が返事をする。

とりあえず見た目の違いを指摘してみたがここに何かありそうだと直感が働く。

「服も、買ったんだよな?」

「っ・・・・・・?!!!!」

もう疑う余地はない、そこで閻忠か程銀が何かやらかしたのだろう。

あまり目立つような真似をしていると少々面倒なことになるかもしれない理由を知る必要が出来てしまった。

「程銀、服屋で何か変わったことはなかったのか?・・・というよりそこで何をした」

「え?え~~っと・・・」

「簡潔に詳細を話せ。じゃないとお前の昼は”これ”だからな」

そういって手に持った人参をちらつかせ更なる脅しをかける。

よもや人参を凶器として使う事になろうとは思いもしなかったが効果は絶大。

程銀は顔を青ざめた。

そして即座にビシッと背を伸ばし敬礼のようなポーズをとる。

「服屋に入り、あたしが選んだのですが、閻忠さんが遠慮したので、鎧を取り上げ、服を着せました!!」


 ・・・こいつにとって飯とはここまでさせるものなのか


新たな発見だった。

そして、敬語で受けた報告から事態を把握できた。

問題は程銀の選んだ服なのだろう。

とりあえずの不安は解消されたが溜め息が漏れる。

「閻忠、その外套を取れ」

「えっ?!いえ、で、でですが・・・・・・」

必要ならまた町に戻って服を買わないといけないのだが、一先ずその服を見てみない事には判断できないが歯切れの悪い返事で外套を握り締める閻忠。

「とりあえず、見せてみろ。今も着てるんだろ?」

「はい。あの、そ、その。ば、馬龍にょには・・・」

そうしてごにょごにょと呟きながら外套の下で俯く。

埒が明かないので新たな武器の性能を試してみる事にした。

「程銀、閻忠に外套を取らせろ。出来たら今日の昼は腕によりをかけて作ろう」

「ホントっ?それじゃあ、閻忠さん覚悟ーー!!」

放たれた新兵器。

それは閻忠目掛けて飛び掛かる。

「程銀にょ?!何を・・・やめっ・・・だめです!」

「だって馬龍の料理だよ。それに、その服は、あたしが選んだんだからっ、それを馬龍に見せないのって、失礼だよ」

揉みくちゃになりながら程銀は閻忠の外套を剥ぎ取ろうとし閻忠はそれに必死の抵抗をみせる。

勘違いされたくはないが俺は”取らせろ”とは言ったが”剥ぎ取れ”とは言っていない。 

そして一つ兵器の威力、性能を理解した。

引き金一つで真っ直ぐに飛び出していく、一番近い距離を飛んで目的を果たす。

かつて俺の右手に収まっていたそれとは違うが同じ性質、使いどころを間違えると・・・・・・。

「や、やめてください!お願い、ですから・・・。はっ?!」

ふと抵抗している閻忠と目が合った。

「ば・りゅ・う・ど・の~~~!!」

この目はまずい。

多分後に怒りのまま耳にたこができるほどの抗議をしてくる。


 あぁ、ならば、手早く済ませてしまおう


そして、これを言葉にしても変わらないだろう。

「諦めも肝心だぞ、閻忠」

「なっ・・・?!」

その一言で拮抗は破れた。

「隙ありぃ!!」

俺の言葉に閻忠が一瞬固まった隙に程銀は一気に外套を剥ぎ取った。



そして、その中から現れたのは・・・。





「閻忠・・・お前・・・」







黒と白を基調にした・・・チャイナ服。







髪は小さく二つに分けたツインテールの・・・?







「女だったのかっ・・・?!」













NextScene


++鈍磨な翌檜と知らず、辟易するほどの黄昏++




さぁはりきって言い訳をしてみましょう。

最初に作者は今回で弱点を理解しました。

いえ、まぁ他者と比較されてしまえば弱点など上げればきりなどないのでしょうがそのうちの一つという事で。

今回見つけてしまったのは一騎討ちを書いていて。

何故か一行書くごとにどん詰まったからです。

なんでこんなに時間がかかるのかと思ってみれば

『あぁ、俺これ苦手なんだぁ』と思い至りました。


書くほどにいろいろと自己嫌悪との戦いです。

多分これが学生時代だったのなら心が折れていたかも知れませんがもう作者に折れるだけの心はありません。

そして、突き抜けていきましょう嫌悪するなら恨む、呪うくらいに嫌悪してしまおうではないか。

どれだけでも嫌って嫌って嫌い抜いて逆境精神に火をつけるのです。

これは作者の家で受け継がれた家訓の一つ。

それがどこまで作者を成長させるのか。


さぁ、追い詰めろ


自分で首を絞めてやる


さぁ、行くべき道はない


俺は最初から迷子なんだ


俺のHPは最初から0


0だからどんな攻撃だろうと俺のHPは削れんぞ


と、まぁ誰にでもなく開き直る作者です。

そして、色々と開き直って置き去りにしてしまったのでそれはとりあえずは開きすぎたものが落ち着くまでお待ちください。


次はちょっと書きたかったパート。

さぁ自己嫌悪すら楽しんでいきましょう、では次回。





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