好きなもの苦手なもの
++悲しき皇甫嵩の、女の宿命++
山には緑が広がり、
広大な大地は果てなく続く。
昇竜に跨り時折見せる草原を駆ける。
風が生きている・・・そう感じた。
緑の山々が風に揺れて、大地の香りを届けてくれる。
世界が・・・広いな・・・
広がる光景は同じ地球だと思えないほどに簡素だ。
それでいて目に映る世界は綺麗だ。
「あぁ、これが俺のいる世界なのか・・・」
俺は一人で世界を感じている。
「ブルルゥ・・・」
「悪いお前も一緒だったな」
機嫌を損ねた昇竜の首を優しく撫でる。
なぁ、お前はこの世界どう思う
普通の馬ならば七日は掛かる道程だったが、急いだ訳でもないのに昇竜は四日で踏破する。
まぁ、それは途中昇竜が駆けたがったのをその意思のままに進んだせい。
だがそれでも昇竜の体力には感服していた。
西平から安定までの道中、そこでは見るもの全てが有意義だった。
もしかしたら言い方が良くはないだろうから、それには”俺にとっては”と付け加えておく。
西平からは金城、広魏を抜けてから安定へという道のり、その中では色々な光景を目にして耳にした。
これは見たうちのその一つ。
・・・・・・
・・・・・・
それは途中で立ち寄った町の様子。
西平から金城へ抜け、広魏に入った頃にあった出来事だ。
金城では紅姉さんの知り合いの韓遂と言う方が話を通してくれたようで立ち寄った町では歓迎を受け気づけなかった。
始めは小さな違和感。
町の近くに田畑を見てそれは大きくなっていった。
「これは・・・・・・」
驚きに声が出てしまった。
昔取った杵柄で多少の知識はある。
駆ける昇竜の脚を緩めて田んぼに近づく。
遠めで見たから勘違いかもしれない、勘違いであってくれたらと思っていたが違う。
駄目だ。これじゃ、全部台無しになってしまう
昇竜から降りて田んぼを観察する。
多くの稲が立ち並び、穂先には実りがつこうとしているが・・・。
「一時凌ぎにしかならない」
田んぼの面積に対して稲が多すぎる。
これじゃ見た目だけは多くの実りを見せるかもしれない、だが実りが細くなり結果としての量はほとんど変わらない。
少しは増えるかもしれない、だが今年の稲と同じ量を次も続ければ確実にこの地は死んでいく。
更に周りを見れば休作をしているような土地はないのが問題だ。
数年後には連作被害が起きてしまうだろう。
少し遠めに農夫が数人集まっているのを確認すると再び昇竜に飛び乗りそちらに向かっていく。
昇竜に乗り近づいていくと農夫達から警戒するような目を向けられた。
警戒されるのは・・・まぁ、しょうがない。
軍馬の中でも大きい昇竜、その背には大剣を左右に下げているし、俺も腰には同じように剣を下げている。
そんな人間が近づいていけば普通は警戒されてしまうだろう。
昇竜から降りて腰に下げた剣外して荷物と一緒に背に乗せてから農夫たちに声をかけることにした。
「すまないがここの田んぼはやけに稲が多いがどうしたんだ」
少し曖昧に状況を聞いてみる。
農夫でもない俺が下手に口出し出来る事ではないかもしれないと多少の保険をかけて。
「あんた誰ね」
「俺は西平の馬騰の使いの馬龍。安定へ向かう最中だ。それでこれは・・・」
「なんがおかしいことでもあんか」
農学が発展していないからか、実学でしか学ぶ機会がないせいか、まだまだこれが危険な事に気づけていないと言う事だろう。
「今回は例年より植えた稲が多いんじゃないか?」
「んぁ?そ~な。ここ最近はこんな感じさね。これでも内地よりゃ少なかよ」
俺でさえ知っている事をまだこの時代では知らないらしい。
「最近?何かの政策でも出されたのか?」
「あぁ、お上が税を上げるもんでこうでもしとかな、おいたちの食べる分がなくなるんよ。五胡とか蛮族討伐なんてお題目で近くの太守様たちがお上の税を軽くしてくれてんだがねぇ、それでも戦がありゃ糧にもってかれちまう」
聞けば取り立てられる割合が税が大きい、田畑の面積にあわせて懸けられていてはこうなるのは当たり前だ。
明日食う飯よりも今日の食いぶちに四苦八苦しているのでは、俺の危惧する事態に気づけないのは当然。
実害が出る前にやめさせなくてはと思ったがこれは実害が出なければ理解してもらえない。
それに税の根幹を変えねば新地開拓が出来ても休作地を作る事も稲の数を減らす事も出来ない。
西平ではここまでではなかった。
だが、確かに違和感はあったんだ、あの時に興味を示していれば少しは違ったかもしれない・・・今年は諦めるしかない。
もう穂がたれ始める頃合だ。
それに俺は次の田植えの時期までいれるわけじゃない。
俺が出来るのはせめてもの地の延命行為を教えるくらい。
それでも他に出来る事はないかと考えている俺は俺の思考に違和感を感じ始めている。
何故と考えればみんなの笑顔がちらつく。
「なんよ急に黙りこくって」
「あぁ少し考え事だ」
守りたいんだな。俺でもあの笑顔を・・・
「なぁ少し聞いて欲しい事があるんだが・・・」
大地が枯れてしまう前に出来る事を伝える。
飢饉が起きてしまう前に。
地位も権力もない俺が出来るのはそれくらいのもの。
税を軽くしてやる事も、政策としてこれを止める事も出来ない、だからそれしか出来ない。
この世界でも俺は無力に近い、だからと諦めたらきっと怒られてしまう。
俺自身微力でも出来る事を、実行してくれるかは分からないが農夫達に伝える。
これ以上稲を増やさない方が良いと言い、大地の肥料になる物をいくつか教える。
きっと下手に伝えれば飢饉が起きた後は戦争。
国に対して一揆のようなものが起きる。
だから緩やかに変えていこうと考えた。
太守や役人、それに近しいものを農夫たちに激しい恨みを買うことになってしまうだろう。
ましてや太守の使いと名乗ってしまった俺から教えられれば尚の事、友好な関係だったとしてもそれは破綻する。
それがこの世界で見たまだ表面化していない裏の部分、しかし早急に手を打ち始めなければきっと表に出てくる。
裏が表に変わる。
その前に何かしなくてはと思う反面、俺に何が出来るのかと安定につくまでの道中考えていた。
そんな日があったりしたせいで道中あまり町まで見て回る時間はなかった、田畑にいる人間を見かけては可能な限り声を掛けて教えられる範囲で方策を伝える。
こちらでの法や規則に触れないよう、最小の範囲で持てる知識をこちらの世界に合わせて工夫して。
これは知らねばならない事の一つだったんだろう、それでもこれはほんの一握りの出来事だった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
そんなこんなでこの世界の一部を知ることが出来た。
何が俺にこれを見せているのか知らないがきっとこれが天意ってやつなんだと安定に着いて一息入れながら考える。
まずは皇甫嵩さんの所へ行くべきだろうが、着いたのは夕刻に近かったので翌日に改めてと宿をとる事にした。
昇竜ほどの馬になると小さな小屋では窮屈そうだった、なので比較的大きい小屋の宿を探してそこで昇竜の身体を久々に藁で擦ってやる。
「お疲れさん。おかげで思ってたよりも早く着けた」
昇竜はあの位どうって事ないっていうふうに軽く首を動かしながら鳴く。
「くふっあははは。まったく俺は相棒に恵まれているな」
他の馬ではこれほどまでに意思を汲み取る事は出来ないがこいつが言いたい事はすぐに分かる。
なんでだろう・・・まぁ、分からないよりは助かるが・・・
久々に長い距離を駆けたというのに昇竜はずっと上機嫌だった。
駆けているのが楽しいと言う風で途中休憩を入れてもすぐに俺の背中を噛み付いて急かすように引っ張っていた。
「すまないが飯を食べてくるからおとなしく待っててくれ」
昇竜の頬を撫でると俺の胸を頭で小突く。
「わかってるってすぐ戻るしお前の分も持ってくるから」
くっついた頭を胸から離すように軽く額を撫でてから昇竜から離れる。
「じゃあ行ってくる、前みたいに柵壊してくれるなよ」
以前立ち寄った町での事、あの時は宿の主人に頭を下げたり弁償したり大変だった。
あんな事を何度もしていたらせっかく工面してくれた旅費がなくなってしまう。
飯店でゆっくりしてたらまた昇竜が飛び出してくるかもと開いている露店を回った、手早くすませるのが目的だが味は普通だったのに少し残念な気持ちが大きくなる。
まずくもなければ美味くもない。
悪いとは言わないがなんとも無難な味だった。
物悲しい気分のまま宿に戻り、昇竜に買ってきた夕飯を食べさせてから借りた部屋についてこれまでの事を整理する。
とりあえずここまで来たがどうしたもんか
コートも脱がずにどかっと布団に横になる。
ここに来るまででも色々なものは見れた。
もう確定だった。
ここは俺の知っている世界じゃない、馬と言えど4日以上走っても俺の知る文明めいたものは存在しなかった。
電気、水道、ガス。車や飛行機、大地の先を見渡しても空を眺めてもそんなものは存在しなかった。
俺の知る北半球で町から町への街道でこれほどまでに見ることが出来ないなど本当のど田舎、それを通り越している。
道は人が整備するのではなく、ただ人が行き来して出来ただけ。
この世界で俺は何を知ればいいんだ
少しずつ思考を巡らせて始める。
まずはこの天意を知る事が早道だと言われはしたが、天意とはなんなんだか全貌の一部すら見えやしない。
俺の歯抜けな記憶はきっとここに来た事で抜けたと考えるべきだろう。
だが俺が死ななかった理由、ここにきた詳しい手順、この身体の理由、それらがその空いてしまった記憶で事足りるとは思えなかった。
それに関してはあの時に聴こえた俺を殺意に染め上げた声、あれが手がかりになるかもしれないがあれ以降聴こえる事はない。
腕を伸ばして手の甲まで入っているヒビを眺める。
一瞬で4、5歳分は成長した身体。
この身体になって鍛錬をした時に自分の身体だと言うのに得体の知れないものを扱う感覚に襲われた。
ここに来た時にした鍛錬の感覚とは別物。
力を持て余しているような感覚。
だが、実際にはそれほどまでではない。
この世界に来た時にはどれだけ身体を動かしても勁力が足りないと感じた、見た目どおりの頃合いの力しかないと理解していた。
今の身体では単純な力だけでも元の身体の八割は出せる、勁力乗せればそれ以上になるかもしれない。
ただ俺の身体の記憶ではこの位の背格好の時これまでの力を使えなかったはずだ、多分それが持て余すと感じる理由。
夜になれば毎回のようにこの身体を扱うために鍛錬をして、その力の調整をし続けた。
感じる限りで言えば紅姉さんを本気にさせる・・・位の事は出来ると思う。
それと鍛錬中に大双剣を利用していたこともあって引き取る事になった。
当初は自爆武器と認識したが、あの時の力をまた使う事になれば腰に下げた剣では耐えられないだろう。
それに役に立つ事もある、最悪あれだけでかければ盾位にはなるはずだ。
そして、この身体になって二つの欠点を確認した。
だが今の身体になったのと何が関係があるのか分からない。
そこまで考えるとふと溜め息が漏れる。
・・・考えれば考えるほど泥沼だ
まずは明日何を話せばいいのか何を見れれば天意とやらに近づける。
紫庵の書店でも確認したとおりの年号なら、これは三国志の時代だというのはほぼ確定。
性別は違えど過去の英傑がいたというか、そここそ疑問なのだ。
まぁそれでもいて何でか知らないが流れのまにまにその人の弟という立ち位置になったり、兄になったり、まだその辺りに関しては理解は出来ないんだが・・・。
整理して一言でいうならここは俺の知る世界とは平行軸の過去の世界、世界ぐるみで俺を騙していない限り解はそこで突き当たる。
明日会う予定になっている皇甫嵩というのも俺の頭の隅で覚えている人物だ。
とりあえずはこの国の現状を確認できれば今後の身の振り方を決められる。
そして、学者がいると言う琢へ向かう。
その最中に何か収穫があれば御の字だがそれまでは他の事は置いておくしかなさそうなのは事実。
目蓋を閉じると思考が遅くなっていく。
なんと切り出したものか・・・
助力を得られたとしても、その力の使い道はどうしたものか・・・
・・・下手な切り出し方をすれば逆の対応をされてしまうし・・・
・・・はぁぁ、ヴリトラお前はどこにいるんだよ
・・・・・・
・・・・・・
いつの間にかに眠りについていたようだ。
目を開ければ窓から朝日が指している。
もそりと身体を起こして寝ぼけた顔を揉み解す。
「ったく、しょうがない。やってみるしかない、か」
気が引けてしょうがないが考えられる状況から出来る範囲でしかやりようがない。
一先ず寝ぼけた顔を洗い、支度を済ませて太守の屋敷へ向かう。
「は~~随分違うもんだな」
屋敷の目の前までやってきたが西平の屋敷に比べて倍はあるだろう建物があった。
町並みからして感じてはいたが、あっち側は都から遠いせいだったかこちらに比べると田舎と言わざるを得ない。
それとも紅姉さんが敢えてそうしていたのか、こちらの方がこの一帯のまとめ役の住む屋敷らしい。
ふと見れば門の辺りも兵が立っている。
あちらはなんと言うか町全体がアットホームな雰囲気があるせいかそういったところではあまり気に止める事はなかった。
だが、まぁ、太守と言った役職ならこれくらいの警護が普通だ。
あまり呆けてもいられない、門の前にいる兵に紅姉さんから受け取っていた紹介状を渡して、しばらく・・・もしないうちに屋敷に通される。
・・・若干の違和感だ
これだけ普通に警備されているなら通されるより先に昇竜がぐずるのが先だと思っていたが、予想よりすんなり通される。
「まぁ、悪いことじゃないよな」
昇竜には大人しくなと、念を押してから兵に預けると屋敷の中を案内される。
外観からして違うが中もまた違うもんだと、ついつい周りを見渡してしまう。
完全におのぼりさん状態だ。
「馬龍様こちらでお待ちください」
周りを見渡してばかりいたうちにどうやら目的地に到着してしまった。
兵が部屋の外に出て行くと独り言が漏れる。
「ほんと、場所が変われば色々と違うもんだ。ん~姉さん自体飾ることを好まないみたいだからあっちが異色って事なのか?」
部屋の中に入ってみれば壁にある装飾は派手すぎず、質素すぎず、といった雰囲気だ。
あちらの屋敷ではこのような部屋はなかった気がするが、恐らくは大人数の来訪者を受け入れる部屋と言う事か比較的に大きな部屋。
簡単な演舞くらいは出来てしまいそうでそういったことでも使っているのか、今は壁にある装飾以外には椅子が奥にに一つあるだけだ。
さすがにあれに座るなんて事をしない、そこまで常識なしと言うわけでもないのでとりあえず部屋の中央付近で無人の椅子の相手をして待つ事になった。
すると程なくして後ろから人の気配がする。
振り返れば扉が開き鎧を纏った数人の兵士と後ろには女性が一人。
気配からして女性が皇甫嵩その人だ。
本当に女性がこの世界に影響を与えているのだと感じた。
気配がまるで周りの兵と違う、異質と言うわけでなく、ただ純粋に濃い気配がする。
女性達は一礼すると俺の脇を抜けて椅子の前まで来て俺に向き直る。
「お待たせしました。私が安定郡太守、皇甫義真と申します。お話は先に書状でお聞きしております」
「俺は馬龍、字は雲成。予定よりも遅くなり申し訳ありませんでした」
そう言って頭を下げる。
まずは誠意、あちらの助力の内容次第では無用の長物になるのだが、それでもこの世界で使える力が多いことに越したことはない。
信用が得られるのなら動きやすくなるはず。
「そのことも報告を受けております。五胡の侵攻があったとの事では仕方のないことです。気にしなくても大丈夫ですよ」
「そう言っていただけると助かります」
社交辞令のようなやり取り。
頭を上げて皇甫嵩さんを見据える。
だが、目の前の女性の言葉の端々から感じるその人となり、それから目を見れば充分分かるのだが・・・だが・・・だが。
だが一つ問題がある。
あ、改めてみるとこの人・・・おかしい
目の前の女性の格好がちょっと、いやかなり問題がある。
膝の下まで伸びる淡い栗色の髪、少し落ち着いた顔立ち、随分と形の綺麗な眼鏡にメロンパンを一回り小さくしたような髪飾り。
この世界の技術力でこれほどの物が作れるのだろうか。
いや、眼鏡のことはどうでもいい。
本当に髪飾りがメロンパンだったとしても、今は構わない。
着ている服、それが問題だ。
俺の脇を通る時と前に立った時のほんの少しだけ見た時は普通のチャイナ服だと思った。
黒の下地に緑色の甲羅のような模様が入っている普通の服だと思ったんだ。
だが、普通のチャイナのスリットなんて深くても太腿位までだ、この人のは最早スリットなんて呼べないそれは腰の上辺りまであるし、袖がないせいで脇にある生地などほとんど繋がっている部分がない。
太腿もヒップラインまで露になってしまっている。
白い肌と肩口まで覆う手袋と膝上まで伸びる、手袋と揃いの黒い靴下のコントラストが・・・。
い、いやいや、何考えてるんだ俺は
胸元もかなり大胆に開いていて豊満な胸が・・・。
いやいや、・・・いやいやいやいや、いかん。うぅぅなんでこんな色気というかエロ気の強い服着てるんだ
嫌でも目に入ってしまうと気になってしまう、なのではっきり宣言しよう。・・・心の中で。
俺は色気が強いのは苦手なんだから・・・勘弁してくれ・・・
だがそうも言ってられないと雑念を切り捨てて気を引き締めなおす。
あのメロンパンに集中しよう。そこから下に目線を落とすのは危険だ
しばらくそういった物と無縁だったせいだと誰にでもない言い訳もしておく。
一瞬で皇甫嵩さんの格好に対しての感想と自己嫌悪の高速思考をしていると、その隙をついて皇甫嵩さんが俺の傍に近づいてくる。
「紅ちゃんから聞いていたけれど、ふぅ~んまぁ悪くなさそうですね」
鼻を鳴らすように俺の顔を見て品定めをしているようだ。
紅姉さんと同格の人だったとしたらまずい事になる。
今、俺が考えていた事を読まれてしまったかもしれないと片手で自分の顔を覆う。
鼻の下でも伸びているのを見られていたら・・・恥死する
そんな俺の気持ちがわかっているのかわからないのか何度も角度を変えるように見られる。
俺の恥死量を超えない事を祈るばかりだ。
「ふぅ~ん。へぇ~、う~ん・・・あのぉ、手をどけてもらえません。もう少し貴方の顔を見せて欲しいのですけど・・・」
「すみません。失礼しました」
さりげなくばれないように親指で鼻の下が伸びていないのを確認してから顔を覆っていた手をどける。
どんな時でも後手に回っていると言うのは好きじゃない、けれどこれは不意打ちに近いものを感じた。
「ふむふむ、顔の傷は気にはなりますが・・・まぁ、勇敢さの現れとして、う~んまだ少し若い気がしますが中々・・・」
言葉の意味は上手くつかめないが俺が考えていたことはばれていないのだと希望を込めて判断する。
若いといっているみたいだが皇甫嵩さんもまだ二十歳くらいには見える、紅姉さんと旧知なのだとしたらもう少し上かなどと考えていると皇甫嵩さんに呼びかけられる。
「その傷は先日の五胡の時に?」
「え?えぇ、まぁそうですね」
中々説明が面倒だっためそう言うことにする。
五胡が攻めてきた時についたヒビだが五胡に付けられたものではない、質問に対して嘘はついていないから問題はないと思う。
「・・・少し触れてもかまいませんか?」
それ程気になるものかと思うも助力のためと頷く。
皇甫嵩さんの指が俺の顔に触れる。
改めてこのように顔を触られると言うのは記憶にないので少し緊張する。
女性の手なのだと実感するほど細い指先が俺の顔のヒビの周りを中心を撫でるように触れた。
「痛みますか」
「いえ。問題ありません」
緊張している様子がわかっているのかそう言われるがヒビは傷とは違うから別に痛みはない。
ただ俺の答えを聞くと遠慮なくといった風に、ぺたぺたと両手で触りだして軽く押されたり、摘まれたり、揉まれたり。
身長が伸びたと言ってもまだ皇甫嵩さんより若干低い。
この距離まで近づかれるとっ、嫌でも胸元に目線が~~・・・
目が泳ぐ、早く終わってくれと思いつつもされるがまま。
何を確認しているのか分からないが、なんというかこうされるために来たわけではない、なので脱線しているこの状況を修正しようと声を掛ける。
「あの、これは何か意味があるのでしょうか」
「え?あっ。済みませんでした。つい、興味がありまして」
俺が声を掛けると触れていた両手が離れ、そそくさと元の立ち位置に戻って行く。
「紅ちゃんから届けられた書状で随分と自慢されていましたから、どんな方なのかとお会いするまで想像を膨らませていたのです」
ようやく本題には入れそうな切り口を見せてくれたが、紅姉さんに確認しても秘密にされていて気にはなる。
「紅姉さんの書状ですか、その内容の期待を裏切っていなければよいのですが。どういった内容なのでしょうか?」
これからどのような話をするにしても紅姉さんとの口裏を合わせるのも必要だ、一先ずそちらから確認をしておきたい。
「えぇ、三度ほど書状を受け取りました。最初は学者か易者で利己にこだわらない方の場所の確認です。なんでも娘の恩人だと優しく礼節を知っている方だから力になって欲しいといったものです」
多分それは俺が西平についてすぐに送られたものだ。
その時から恐らくは琢へ行けるようにと手筈を整えてくれていたという事。
「その内容にはいくつかの心当たりがありましたのでそれを返答してたところ、続いてきたものに私は興味を持ちました」
きっとこれが皇甫嵩さんが”歓迎する”と判断したのだろう。
皇甫嵩さんの表情を怪しまれない程度に観察する。
この人の真意が何処にあるのかは、この地での振舞い方に影響する。
「えぇっと、あまり詳しく言うと後で紅ちゃんに怒られてしまいそうなので掻い摘んで。その方は幼い頃に生き別れた弟だったと書かれていました。武にも知にも見所があり、子供とも笑顔で接していてくれ、料理も上手い自慢の弟と言うもの。紅ちゃんの頼み事というのもありますがどのような方なのだろうと、私自身お会いしたくなったのです」
そう言って少し頬を赤らめた気がするが、なんだろうか気にはなるが気にしないでおく。
それは悪意を感じないのもあるが、あまり人に勘繰られたくない事はある、さっきの俺のように。
一先ずは紅姉さんの手紙の内容に思考を向ける。
自慢の弟・・・俺は他人に自慢してもらえるほどの人間ではないが、そう期待されてしまっているという事、なのか・・・
それから分かるのはここまででの皇甫嵩さんの言葉からはまだ助力をするかどうかまでは判断していないという事だ。
でも会う事はする、そこまでしてくれただけでも良かったと言える。
元々ここでの立場というものはないし、出自の知れない役人からしたら排斥すべき対象のような身分だったのだから。
「三度目のは先日届いたばかりです。五胡との戦いの結果と共に貴方の武勇などと、後は・・・秘密です」
へっ?!!
てっきり話してもらえるつもりでいた。
ここでも秘密のと言われるとその部分が気になる。
だが、詮索屋は死にやすいって言われたことがあるからここは紅姉さんを信頼してそれ以上はやめておく事にした。
それに”秘密”の部分を除けば、概ね俺の知らないような事はなさそうだった。
それでも気になるのは二通目、こことの往復時間を考えれば随分前から俺を弟にしようと考えていた事になる。
まだまだあの人の思考の流れを読み取るには経験不足だと思い知る。
「自慢の弟など、自分のやれる事をやっていただけだと言うのに紅姉さんも随分難易度を上げてくれる」
「そのような事はないとは思いますよ。紅ちゃんは身内であろうと簡単に贔屓をするような人ではないですし」
「確かに姉さんが誰かを贔屓する姿は想像できないですね。それで、お目通し願いは出来ましたが実際貴方の目から見て俺はどう映るのでしょうか」
「今、言った通りです。紅ちゃんの自慢の弟なのだと感じます・・・が」
先程の品定めのような事で俺と言う人物の大方を把握されてしまったのだろう。
それでもまだ少し言葉を交わしただけ、それでは全てを読み取れたわけではないようで言葉を続けていた。
「・・・先日の五胡との戦いの際に五百をお一人で倒したとか、それ程の武というのを目にすることはそうできるものでもありません。どうでしょう、ここにいる兵士と少し手合わせしてもらえませんか?」
書面で見ても確かに信じがたいと言うところか、だが着いて早々に相手の兵に対して剣を振るというのはどうだろうかと口を開く。
「それは相手に怪我でもされたら紅姉さんの顔を汚す事になってしまいますから」
「そのことでしたらお気にされずともいいですよ。あくまで鍛錬ですし、西涼の雄と手合わせ出来るのであればこちらとしても有意義な事になるでしょう」
そう言われてしまえば断る事は出来ないだろう、だがあまり気乗りしないのは事実。
多分ここで会う事になったのはこの事を視野に入れてということだったという事と理解してさりげなく剣に視線を落とす。
少し、甘く見ていたのかもしれないな
「了解しましたが相手はどなたが?」
そう言うと護衛についていた一人が俺の前に進み出て来る。
最初から兵にも言ってあったという事はそれなりに腕の立つ人間なのだろう。
目の前に立つ兵士を見据えると、兵士は五メートル程度の距離を取って、腰に下げていた剣に手をかけて俺を見返す。
ここで、このまま、という事か・・・
俺も兵士と同じように柄に手をかける。
「それでは、一本勝負でお願いします」
その声を合図にすらりと兵士は剣を抜き取り構えを取る。
それに対して俺は構えも取らず剣を抜かないまま、その様子に兵士は剣を抜くのを待っているのかこちらを覗っていた。
下手に声をかけるのも面倒なので先に動く。
柄から手を離し兵士に向かって普通に歩み寄る。
一歩・・・二歩・・・三歩・・・
ただ無防備なまま近づく。
その様子に困惑しているのか剣を握る直すかのように構えが警戒を高める。
だがそれも気にせず近づく。
四歩・・・五歩・・・六歩・・・
そこまで進めばもう兵士の間合い。
七歩・・・
もう振り下ろすだけで俺を斬りつける事が出来る距離。
それでも未だに困惑したまま兵士は動かない。
八歩・・・
剣先は俺の顔の数センチ手前。
そこで立ち止まる。
「・・・立会いは始まっているのだろう?俺が怪我をするのを気にしてくれているのか?立会いと言え今は敵だ。それとも剣を握ったのは今日が初めてか?」
そう多少の挑発を口にして笑みを浮かべると、兵士のこめかみがぴくりと反応を見せる。
それなりに腕には自信があったのだろう、無防備な人間に斬りかかる事はしないと言う事だったのだろうが、その挑発に構えていた剣を振りかぶる。
そして、気合と共に・・・振り下ろす。
それで決着、と・・・
「これでいいでしょうか?」
皇甫嵩さんに確認を取ってみるが、返事がないしかばねのよう・・・ではないが部屋にいた全員がその様子をぽかんと眺めていた。
剣を抜かないままに兵士を地面に叩き伏せた。
一対一では実力に差がありすぎたためハンデということもないが、抜く必要がなかった。
突きつけていた剣をどけて兵士の手を取って立ち上がらせ、そいつにだけ聴こえるよう耳打ちする。
「あんたを侮辱する気はなかったが、本気でない人間に剣を抜けない。すまないな」
多少の憤慨はあっただろうがそれでも客人としてきている俺に遠慮があった、それでは剣は抜けない。
だが兵士は立ち上がったまま先程何をされたのかと困惑したままだ。
「・・・今、何を?」
その代わりのように皇甫嵩さんからの声。
皇甫嵩さん自体もそれ程武術の心得が少ないという事か、気配自体は辺りの兵よりも強かったので思い違いをしていた。
分かりやすく剣でも砕いてしまった方がよかったのかと、反省しつつも一連の流れを簡単に説明をする。
「大した事はしていません。振り下ろされる剣の力に逆らわず相手の腕を取って少しだけ俺の力を加えながら地面に転がしただけ。この剣はその時ついでに取っただけですよ」
「それでも・・・あの・・・」
わかりやすく説明したつもりだが理解は得られていないようだ、これなら素直に剣を抜いておけばよかった。
「これは俺の使う武術の基礎みたいなもので力の流れを制御したんです。よければもう一度お見せしますが・・・次はここにいる兵全員でお願いします」
腰に下げている剣を外して床に転がす、そうすると皇甫嵩さんの答えより先に兵士がピクリと反応する。
「そう言うわけには・・・」
「皇甫嵩様っ!御客人と言えど我々親衛隊の沽券に関わります」
まずは武の度合いを知りたいなら、これくらい本気になってくれないと理解してくれないだろうと分かりきった挑発をする。
「あははははっ」
「馬龍さん?どうかされましたか」
兵士達を宥めようとしていたところに突然笑い声を上げる俺を不思議な様子で見返す。
「いえ特には問題はないのですが、しかし、あはははっ。まさか親衛隊の方だったとは新兵かと思いましたよ」
侮辱とも取れる発言だが手っ取り早く済ませてしまおう。先程の立会いで分かってもらえれば良かったが、多分素人目では差というのはわかりにくかったかもしれない。
それにこればかりは誠意だけでは進まない。
先程の立会いは裏目だった。
理解してもらえる事が必要と言うよりは、理解してされても構わないという姿勢を取る事で俺の武術が変に誤解されるのを防ぐ。
「皇甫嵩様っ!!どうか立会いの許可をっ」
憤りはあれど忠義を誓う主に許可を求める。
俺にはないそれは少し羨ましかった。
忠義を誓える主、俺は生涯そんな人間には出会えなかったし主となる器でもなかった。
「俺は構いません。皇甫嵩さんは俺の武を確認されたいのでしょう?一分にも満たない力を見ていただいたところで意味はないと思いますが」
そこで初めて気配を切り替える戦いに対して思考を切り替える。
「・・・わかりました。私が言い出した事でしたね。では、五人のお相手をお願いします」
そう言うと兵士達ははじかれたように俺に向き直り剣を構える。
「殺す気とまでは言わないが腕の一、二本は斬って捨てても構わない。だから本気で来ないと怪我をすることになるぞ」
「我ら親衛隊を前にいつまでもそのような剛毅な態度ができると思わないでいただきたい!」
意気込みも気迫も上々。
これ位ならわかりやすく力を使える。
「互いの剣が落ちるまでです。決してそれ以上はやめてくださいね」
「了解しています。貴方の親衛隊の鼻が低くなる程度です」
そう言うと兵士達から怒気が漏れるのがありありと分かる。
「では、五対一です。始めてください」
最初から臨戦態勢の兵士は合図と同時に俺を囲むように広がる。
変わらず俺は丸腰のまま兵士達の配置につくのを待ち、その様子を確認してから鞘に収まったままの剣を拾う。
多少の緊張感はあるが五胡の軍隊に突っ込んだ時に比べればなんという事もない。
兵士達は警戒しながらもゆっくりと間合いを詰めてくる。
さすがに親衛隊、先程のやり取りで迂闊には斬りかかっては来ない。
今回も俺から動かなければいけなそうだな
本気を出せと言った手前なので軽く構えを取る、軽く腰を落とし右手と右足を少し前に出して呼吸を一つ、ゆっくりと深く息を吸い込みその半分を吐き出す。
すると、業を煮やしてか背後に回りこんでいた一人が斬りかかって来る。
それを上半身を軽く捻ることで避け、続けて残りの四人が俺に次々と斬りかかって来るのを捌く。
悪くない連携だがまだ甘い。
その場から動くことなく、その全てを捌ききる。
身体の捻りで避け、剣の鞘、手の甲や肘を駆使して剣の腹を叩き軌道を変える。
回避しながら指先で兵士の肩や背中を突き、引っ張りそのバランスを崩して地面に転がす。
一度の交錯で五人全ては地面を転がって最初と変わらないような位置まで戻る。
兵士達は慌てて立ち上がり体勢を整えると再び立ち向かってくる。
だが何度やっても同じように剣の軌道を変えては兵士を転がす。
兵士達の息が上がり始め、力の差を理解はして貰えているとは思う。
だが、せめて一太刀と言う心情だろうか、転がっては立ち上がり剣を構える。
その姿は少しだけ昔の俺に似ている気がした。
相手がどれだけ強かろうとも負けたくない負けるわけにはいかないという姿勢。
「気を引き締めろ。今度はこっちから行くぞ」
そこで初めて地から足を離す。
一気に地面を蹴って兵士の一人に背後に移動する。
振り向く間を与えずに剣を持つ手を握り、足を払い、剣を奪い取って、地面に投げ捨てる。
他の兵士がその様子を確認した時には別の兵士の懐に入り込み、鳩尾に軽く掌打を加える。
息を一瞬止めさせると相手の身体の軸を回転させるようにして地面に倒す。
それから倒れても握り締めている兵士の剣を叩き落す。
これで残り三本・・・
そこで一度立ち止まり姿勢を戻してから三人を見ると、三人は互いに見つめあい頷き一斉に突撃してくる。
その姿が本当に羨ましい。
敵わないとわかっていても挑みかかる覚悟と恐らくは親衛隊としてのプライドが。
これだけやれば一太刀くらい浴びるくらいしてもいいと思った。
俺には今負けても失うプライドも覚悟もない。
だが、それだからこそ敬意を表して叩き伏せる。
一斉に振り下ろされる剣を横なぎの拳でまとめて根元から叩き折り、それでも突撃する勢いを失わない兵士達の側面に回り背中からぶつかり三人を部屋の壁に吹き飛ばす。
兵士達は剣を失っても歯を食いしばり立ち上がる。
まだ戦意を失っていないのかその瞳は俺を見据えている。
「それまでです!」
皇甫嵩さんの声に反応してようやく俺に向けているものを引っ込め、地面に膝をついて荒々しい呼吸をする。
「貴方の武、見事です。一対一で貴方の力量を測るなど失礼でした」
「俺の方こそ非礼を詫びねばなりません」
そう言って剣を腰に挿して姿勢を正してから皇甫嵩さんに向き直る。
「それは兵達に本気を出させるための芝居だったのですからその必要はありません。それに貴方はその言を発するだけの力をお持ちです、なにせ私の親衛隊五人を相手に無手で勝って見せたのですから」
「力を認めていただけたのはよかったですが、今の立会いは俺の負けです」
「負け?貴方は見事に五人の剣を落としましたが・・・」
「親衛隊の方々の気迫に押されてしまい、取り決めを破りましたから。互いの剣を落とすまで、それを俺は剣を砕いた後三人に一撃を加えました。だから俺の負けです」
「それは・・・」
「親衛隊の方々の誇りと覚悟に負けました。これは謙遜でも、お世辞でも、皮肉でもなく事実、俺の負けです。ですから俺は先に発した言を訂正せねばなりません」
呼吸を整えた兵士達は剣を拾い、皇甫嵩さんの脇に戻っていた。
その場に片膝をついて頭を下げる。
「貴方がたを新兵などと言った事を訂正させて欲しい。貴方がたほどの誇りと覚悟を持った者が新兵であるはずはありません。その在り方に感服いたしました、それを侮り、取り決めを破った事どうか許していただきたい」
・ ・ ・ ・ ・ ・。
しばらく空気が止まる。
「・・・・・・」
頭を下げたままなので相手がどういう顔をしているのか分からない、それでもそのままの姿勢で反応を待つ。
「馬龍様。どうか頭をお上げください。ご客人にそのような事をされては我々の立つ瀬がありませぬ」
聞こえてきたのは皇甫嵩さんの声ではない、恐らくは兵士のうちの一人の声。
その声の通りに顔を上げると他から一歩前に立っている兵士、最初に俺と一対一で立ち会った男だった。
「我々も相手との力量も理解できず、驕りが過ぎていたところ・・・貴方はそれに苦言を呈してくれました。貴方の申してくれたそれは的を得ていたのです、訂正される必要はございませぬ。取り決めを先に破ったのは我々です。剣を落とそうと立会いを続けようとしておりました。貴方のとった行動に何一つ間違いはありませぬ」
そう言って膝をついたままの俺と同じように膝をつき、深々と一礼すると後ろに立つ兵士達もそれにならって頭を下げる。
それから頭を上げると言葉を続ける。
「貴方の武人としての力、心意気は我々がまだ未熟であると思い知らせてくださいました。滞在中の間だけで構いません、どうか我々のご指導をして頂きたく思います」
なんだか出来すぎだった。
先に発した挑発を払拭できればいいと思っていたのだがこれ程言われてしまうとは思いもしなかった。
その様子を驚いたように眺めていた皇甫嵩さんがいつまでも膝をついたままの兵士と俺を立つようにと促すと言葉を続ける。
「真に私たちの負けのようです、たった一度の立会いで兵達が貴方を認めさせてしまうとは。本当に貴方は公正明大な西涼の長の馬寿成の弟君なのだと確認できました」
及第点、以上の成果を得てしまうのは恐ろしい。俺としてはあまり望ましい成果ではない。
だが、流れに逆らい減点され赤点になってしまうのも困る。
「兵達もこのように申しておりますし、滞在の合間で構いませんので鍛錬を見てはいただけませんか?」
「それは・・・・・・」
滞在の期間は決めていないがそれでも長くもいるつもりがないので返答に少し戸惑う。
その様子を理解してか俺が答える前にもう一度口を開く。
「貴方の目的地である琢までの通り道にいる知り合いに書状を送っています。それが返って来るまでそれ程時間は掛からないでしょうからその間で構いません。正式に私からもお願いいたします」
観念するしかないのかと思うがせめてこの場で決めてしまうのはまずい、一先ず保留にしたいと言い訳をする。
「今日着たばかりの俺は右も左もわかりません。俺のような得体の知れない人間ではここにいない者は納得できないのでは?」
そう答えると皇甫嵩さんは考え込むようにあごに手を当てて考え込む。
彼女は太守として部下である兵士達の気持ちも鑑みているのだろう。
「そうですね。確かにそうかもしれません」
これで一先ずの保留にこぎつけられただろうそう判断したのだが、皇甫嵩さんは一息つくと俺に笑顔を向ける。
既視感。
紅姉さんとのやり取りの中で感じているものに近い。
「では、もっと貴方から貴方の事を教えていただけませんか?貴方の事を知れば・・・」
何故、この世界の女性はこう押しが強い?!
「自己紹介というのは苦手ですし、俺自身はそれ程面白いものではないのですよ」
「構いません!」
即答で反応されて少し驚く。
ここではようやく名前を名乗る事が出来るようになったばかり、何を教えたらいいのか。
教えられる事ならばいいが実際包み隠さず教えられる事は少ない。
何を知りたいのだろうか・・・
普通に考えれば旅の目的や目標と言ったところか、それとも出自に関して掘り下げるのだろうか。
出自に関しては曖昧になってしまうが、これ以上拒否すれば不審の目を向けられるかもと「わかりました」と答える。
皇甫嵩さんは許可を得たと目を輝かせて俺に「では」という言葉を引き金に早口で捲くし立てるように質問が飛び出してくる。
「お歳は?趣味はなにかありでしょうか?料理をされるのですよね、好きな食べ物とか嫌いな食べ物はありますか?書物はどのような物をお読みに?あっ後、尊敬する方とかいます?」
っ・・・?!!
突然の変わりようにはっきり言って困惑を隠すのが精一杯。
皇甫嵩さんの背後に紫庵が見える。
最近は大人しくなってくれていたから久々の言葉の弾丸に面を食らってしまった。
鳩が豆鉄砲をって感じだった。
先程までは紅姉さんに似た雰囲気というか包容力を感じていたのだが、この人はこの人で一癖のある人だったようだ。
「えぇっと、見た目はこれですが歳は18(実際はもっと上)。趣味は料理で好き嫌いは特に、強いて言うなら野菜より肉の方が好きです。書は少しだけ。尊敬する人は紅姉さんと武術の師匠です」
ちょっと逃げ出したい気持ちを抑えて答えた。 歳はどう答えたものかと考えたが、変に間を置けないので無難なところを答え、それ以外は素直出てきたもの。
矢継ぎ早、後先考えない答えになっていなければと思っていると皇甫嵩さんは「へぇぇ~」少し長めに声を出して、それでとりあえずは納得・・・してくれたとは思ったのだが・・・。
その声も引き金だった。
第二射が放たれる。
「ではでは!あの年上と年下だったらどちらが好みでしょう?好みの女性像は?あぁえっと恋人とかいます?結婚とかされてないですよね?あとあと、わた、わたしとかは・・・」
ウ~カンカンカンカン。
サイレンを鳴らして俺の中の消防車が駆け抜ける。
予測とは別方向の質問ばかりが飛んでくる。
「あ、あの!少し待って欲しい」
「あっ。すみません、少し気が逸ってしまいました。」
俺の制止の声に冷静になったのか恥かしそうに掌で口元を上品に隠す。
「一先ず連絡に出した兵が返って来るまで数日はありますから、それまで友好を深める時間はありますね。その間に貴方の事を知っていく事にしましょう。貴方も私達の事を知ってほしいと思います」
そう言うと解放してくれるようだった。
なんと言うかここで解放してもらえなかったら逃げ出していたかもしれない。
・・・・・・
・・・・・・
琢まで道にいる知り合いに連絡を取っている事や、どれくらいで返信があるかなどを確認すると客間へと案内された。
「外出される際やご用がありましたらお呼びください」
兵がそう言うと戸を閉じて一人になり、ようやくと椅子に背を預けて一息をつく。
それで今後の事を思考する。
「さぁどうしたものか」
通り道にいる知り合いに連絡をしていると言う事は多少の助力の準備はしてくれていたと考えてよいだろう、だが俺の態度いかんではそれを教えるかどうか先程の謁見で判断したという事。
連絡をしていると教えてくれたのなら少なくても協力的ではある、確かに歓迎するという形になったが、先程の問答に違和感があるのは否めない。
違和感を感じつつも連絡待ちでここで足止め、いくらか町の様子や兵の鍛錬に付き合うくらいの時間はありそうだった。
まだまだ天意とやらを追いかけるが道のりは長そうだ。
一先ず落ち着く事が出来たし、皇甫嵩さんも俺を認めてくれている様子なのでその事を紅姉さんに報告するため手紙を書く事にする。
連絡の内容によってはこのまま琢へ向かう事も含めて。
部屋に備え付けの机に座る。
こちらの文字を読む分には意味合いは理解できていたのだが書くとなると一苦労だった。
悪戦苦闘しながら木簡に筆を走らせなんとか読める文章になっているだろうと、それを乾かしてから兵を呼び西平の馬騰まで送って欲しいと頼む。
結構な時間を費やしたのか兵士の後ろから見える太陽はもう天に高々と昇っていた。
それを見ると途端に腹の具合が気になりだす。
時間も腹も昼飯には丁度よさそうだが、町に出るべきだろうか。
それとも客人として持て成されるのだろうかと部屋に戻って考えていると戸の向こう側から呼びかけられた。
「馬龍さん、あのお昼をご一緒しませんか?」
NextScene
++女の意地と、男の義理++
例によって解説と言い訳になりますが
ようやく公式キャラ登場。
えぇっと、長い!!なぜここまでかかってしまったか!!
もう少し話を端しょってもいいんじゃなかっただろうか
いやいや下地を固めるのって大事なんですよ。大事なんです。
と言い訳を先にします。
もう一つ言い訳をするならえぇっと敬語っていうか丁寧語でキャラわけって難しい気がする。
今後、皇甫嵩さんと馬騰さんが絡んだ時って挫折しそう。
だというのに後に控えている人たちを考えると・・・・・・あかん。
弱気現金いや厳禁。
ええっと皇甫嵩さん登場回でした。
まぁ設定上はあんな感じです。
作者が容姿や一文一文を勝手に解釈してキャラづけしています。
個人的には頭についている髪飾り気になります。
ドラ○ンレーダー?メロンパン?
とりあえずオリ主はメロンパンと判断した様子です。
この話ではオリ主が皇甫嵩さんにどう映るのかという事を書きたかった為に兵士達との立会いを追加していたりするのでちょっと長くなった。
話が一歩前に進んで立ち止まります。
少しテンポアップを測りたいのですが地盤を固めている最中だけに中々難しい。
ここから閑話的な感じなのが挟まってから次に行くことになります。
あっ。容量大きいなと思ったら冒頭に少し近隣の田畑の様子や成長したオリ主の様子も書いていたからだ。
大事、大事と書きすぎも良くない。
もう少しまとめたいけどパートとして外せない。
はぁ~~まだまだです。
補足というか蛇足
この後キャラが増えていくばかりなのでもう少し表現を抑え気味にしないと文字数がえげつなくなりそうです。
だというのにたまに脱線しては変な話が出来ていきます。
やめてくれ俺。脱線しているぞ。
後、正史での時系列的にはまだ皇甫嵩と馬騰、韓遂は小競り合いをしているはずですがここではまだある程度友好関係です。
中央の腐敗の様子とかどうしようとか考えるとここはこうしておくのが最良かなぁ結構この関係性ってターニングポイントだったかもです。
今回のあとがきいつもより長いかな・・・・・・まぁ気にしないで続きを書こう。




