第86話 美女と野獣とヤグルト2000
魔王城――執務室。
「待たせたな、魔王殿。お主に頼まれていた、次期法王候補のオニキスだ。」
法王が穏やかに言う。
「すまんな、法王殿。ではオニキス、後は頼むぞ。」
魔王は満足そうに頷いた。
「我は魔王国の政務がある故、長く席を外せぬ。お主が領主代理を務めてくれるなら心強い。」
「こちらこそ、大役を仰せつかり光栄です。精一杯務めさせていただきます。」
オニキスは深く頭を下げた。
「うむ。真央には次期国王として政治を教えておったのだが……今はポルガン殿に首ったけじゃからな。」
魔王は豪快に笑う。
「まあ、我も妻のミカエラに首ったけじゃ。血は争えんわ!」
「ワハハハ!」
法王とオニキスも一緒になって笑った。
やがて法王は表情を引き締める。
「私は精神と時の空間へ魔力を送り続けなければならん。すぐ法王庁へ戻る。」
スマホを取り出し、オニキスへ渡す。
「分からないことがあれば、いつでも魔王殿へ聞きなさい。一人で抱え込むでないぞ。」
「はい。ありがとうございます。」
法王の映像が消えた。
その様子を見守っていた老補佐官――爺が震えた声を上げる。
「魔王様……今、なんとおっしゃいました?」
「こちらが領主代理のオニキス殿だ。」
オニキスは柔らかく微笑む。
「よろしくお願いいたします。」
「えぇぇぇぇっ!?」
爺は両手を震わせた。
「次期法王様が魔王国の領主代理ですと!? 魔王国が乗っ取られてしまうのでは!?」
「乗っ取りませんよ。」
オニキスは苦笑した。
「安心してください。」
執務室が笑いに包まれる。
その時、魔王は一本の乳酸菌飲料を取り出した。
「ミカエラ達のところへ行く前に、これを飲めとポルガン殿から言われておる。」
ラベルには大きく書かれている。
ヤグルト2000
「ポルガン殿の魔力を込めた特製品らしい。」
魔王は蓋を開け、一気に飲み干した。
次の瞬間――
身体が金色に輝く。
眩い光が天井まで吹き上がり、魔獣の姿がゆっくりと消えていく。
現れたのは、漆黒の肌と青黒い長髪を持つ、美しいダークハイエルフ。
魔王はコヌトコで買った大きな鏡を覗き込み、満足そうに笑った。
「うむ。」
「ミカエラは美しいものが好きだからな。」
「これなら喜んでくれるじゃろう。」
その姿に爺は膝から崩れ落ちた。
「ま……魔王様ぁぁぁ!!」
「よろしく頼むぞ、爺。」
オニキスが穏やかに笑う。
⸻
精神と時の空間――第一休憩所。
スイーツパーティーは最高潮を迎えていた。
そこへ突然。
巨大な転移魔法陣が床いっぱいに浮かび上がる。
金色の光が休憩所を包み込み、訓練生たちが一斉に立ち上がった。
「な、なんだ!?」
光が消える。
そこに立っていたのは――。
「ミカエラ! 真央! パンダ殿! 婿殿!」
現れたのは、漆黒の肌と青黒い長髪を持つ、美しいダークハイエルフ。
魔獣の面影はどこにもない。
かつて魔界中の女性を魅了したという、美貌の魔王がそこに立っていた。
会場が静まり返る。
ミカエラはユリウスと並んでアイスキャンディーを食べていた。
棒をくわえたまま固まる。
「…………。」
魔王は眉をひそめた。
「どうした、ミカエラ。」
「その男は誰だ?」
ユリウスが慌ててアイスキャンディーを自分とミカエラの口から抜き取る。
「ユリウスよ。」
ミカエラは慌てて答えた。
「白魔法の第一人者。レオンの師匠。」
そして目を潤ませる。
「それより……その姿。」
「呪いが解けたの?」
「いや。」
魔王は笑う。
「ヤグルト2000と婿殿の魔力のお陰じゃ。」
「十日間だけ元の姿へ戻れる。」
「効果が切れたら、また一本飲めばよいそうだ。」
「それと。」
優しい笑みを浮かべる。
「梅子先生から聞いた。」
「我とお主の子供達二十人も順調に育っておる。」
「……あなた。」
「本当に、あなたなのね……。」
ミカエラは思わず魔王へ抱きついた。
「私達の子供が二十人も……!」
「十日だけでもいい。」
「あなたが元の姿に戻れて、本当に良かった。」
その様子を見て、真央、ポルガン、リリーが駆け寄る。
「パパ!」
「元のかっこいいパパだ!」
真央が嬉しそうに笑う。
「まだ完全ではないがな。」
魔王は頭を撫でた。
ポルガンも嬉しそうに微笑む。
「やはりヤグルト2000には複雑な呪いを解除する力がありましたね。」
「予想どおりです。」
「さすがじゃ。」
魔王は満足そうに頷いた。
そしてリリーを見る。
「リリー。」
「相変わらず美しいな。」
「我とミカエラの子らが落ち着いたら、真央やポルガン殿との子も考えるが良い。」
「えぇぇ!?」
リリーは顔を真っ赤にした。
「ぼ、僕は女ですよ!?」
「それにポルガンさんとの子供なんて……!」
真央がニヤリと笑う。
「パパ、それどういう意味?」
「リリーがポルガン君の第二夫人になるってこと?」
「ま、満更でもないよね?」
「真央ちゃん!」
リリーは耳まで真っ赤。
ポルガンは真剣な表情で考え込む。
「地球の医療技術は、同性同士でも子供を持てるのですか?」
「そうらしい。」
魔王は頷く。
「詳しくは梅子先生へ聞くといい。」
「費用は我が出そう。」
「龍の巣の魔力と地球の医療を組み合わせた、最先端技術らしい。」
「なるほど……。」
ポルガンは感心したように頷いた。
魔王は会場を見回し、大きく笑う。
「おお! パンダ殿!」
「レオン!」
「深雪!」
「久しぶりだな!」
「魔王様!」
深雪が笑う。
「元の姿、めちゃくちゃ格好いいですね!」
「お主も美しいぞ。」
「男の我でも惚れ惚れするほどにな。」
深雪は照れ笑いを浮かべる。
「えー? でもレオンには負けますけどね!」
その時、橘がショートケーキ缶のプルタブを外して魔王に差し出した。
「魔王様、ぜひこちらも。」
「ほう。」
魔王は一口食べる。
「……これは美味い。」
「地球とは、実に素晴らしい国じゃな。」
笑い声が休憩所いっぱいに響いた。
「婿殿。」
「はい?」
「ヤグルト2000も凄かったが……。」
「地球の菓子も、実に恐ろしいな。」
「一口で虜になったわ。」
スイーツパーティーは、思いがけない来客によって、さらに賑やかな夜となった。
パパとママが今夜は、ナルとリアの面倒は私達が見なさいって言うのよ。
真央。
まあ仕方ないな。
ポルガン。
ポルガンと真央の子供が生まれた時の予行練習か。
リリー。
なんか言った?
真央。
どうしたのリリー?
ポルガン。
何でもない。おチビちゃん達を迎えに行こう。
リリー。




