第84話 飛行訓練
地球
2031年11月19日 土曜日。
ポルガンの誕生日まで、あと1ヶ月と28日。
精神と時の空間
236日目。
時の間に居られる時間、あと250日。
午前――。
精神と時の空間・第一飛行訓練場。
広大な訓練場には、第一陣となる約百名の訓練生が集まっていた。
今日は百名の訓練生が順番に受ける飛行訓練、その第一日目である。
全員がそれぞれの魔道具を手に、二人一組で魔法の実戦訓練を行っていた。
ナルは二十五万円の子供用バイオリンを奏で、優しい音色に乗せて風魔法を操る。
リアは愛用の新幹線のプラレールへ魔力を流し、小さな光のレールを走らせて相手を翻弄していた。
マチコDXは、バリーポーターの魔法の杖を軽快に振る。
「ファイヤー!」
火球が飛ぶ。
「ウォーター!」
相手が水魔法で打ち消す。
「くっ……!」
「まだまだ!」
二人とも笑顔だ。
少し離れた場所には、コスプレイヤーのキーキーと蜻蛉。
二人も箒を足元に置きながら、魔法の練習に励んでいた。
その隣では、俳優・五十嵐薫が無駄のない動きで魔法を放ち、周囲の候補生が感心したように見つめている。
その時だった。
パンッ!
パンッ!
乾いた手拍子が訓練場中へ響き渡る。
「はーい! 注目してー!」
龍十二兄弟・七番。
色鮮やかなウニクロ製ローブを優雅に翻しながら、笑顔で手を振る。
その姿を見たマチコDXが思わず小声で呟いた。
「……ドラゴンのオネェだわ。」
隣の訓練生が吹き出す。
「プッ!」
「聞こえてるわよ。」
七番はニッコリ微笑んだまま言う。
「でも嫌いじゃないわ、その表現。」
訓練場中が笑いに包まれた。
「はいはい、笑うのはそこまで!」
七番が指を鳴らす。
「今日はみんな、お待ちかねの飛行訓練よ!」
「おおおーーっ!!」
歓声が上がる。
「この訓練のために、ポルガン、真央、リリーが三日間かけて100本もの竹箒を魔道具にしてくれたの。」
訓練生たちから感嘆の声が漏れる。
「百名が順番にこの飛行訓練を受けるわ。実戦で飛行部隊に配属されるのは約百人。大切に使いなさい。」
七番が人差し指を立てる。
「壊したら……リリーがブチギレるから覚悟しなさい。ポルガンと真央なんて泣くわよ?」
「ポルガンなんて六十回も、真央とリリーも、二十回も同じ作業を繰り返してたんだから。」
全員の背筋が伸びた。
「「「はい!!」」」
「よろしい。」
七番は満足そうに頷く。
「それじゃ、指導員候補生の五人!」
「はい!」
「まずはアンタたちがお手本を見せなさい。」
キーキー、蜻蛉、五十嵐薫、そして二人の若手俳優が前へ出る。
キーキーは嬉しさを隠せない。
(待ってました! これがやりたくて応募したのよ!)
五人は箒へまたがった。
「飛べ!」
ふわっ。
五人の身体がゆっくり浮き上がる。
「おおおおーー!!」
訓練生たちが歓声を上げた。
「やったーー!! 本当に飛んでる!!」
キーキーは大喜び。
「すげぇ! 僕、空飛んでる!」
蜻蛉も満面の笑みだ。
二人は笑いながら、ぎこちなく空を進む。
「あっ、キーキー! ぶつかる!」
「キャー! 待って待って!」
二人は空中で慌てながらも、楽しそうに笑い合う。
一方――。
五十嵐は最初から別格だった。
風と一体化したように美しく旋回し、そのまま大きな円を描いて飛び続ける。
誰よりも滑らかで、誰よりも安定していた。
その直後――。
「キャーーーーッ!!」
キーキーが大絶叫。
「高い! 高いってばーー!」
箒はどんどん高度を上げていく。
「キーキー! 魔力を止めろ!」
蜻蛉が慌てて叫ぶ。
「止め方わかんない!」
「だからゆっくりって言われたじゃん!」
蜻蛉は苦笑しながら追い掛ける。
その様子を見た訓練生たちが笑い出した。
「はははは!」
「キーキーさん最高!」
「頑張れー!」
七番は額に手を当てる。
「まったくもう……。」
すると、その横を五十嵐が静かに飛び抜けた。
風を切る音すら美しい。
まるで長年飛び続けてきたかのような安定した姿勢。
そのままキーキーの横へ並ぶ。
「力を抜いてください。」
「え?」
「箒を信じるんです。」
キーキーは恐る恐る肩の力を抜いた。
すると、暴れていた箒が嘘のように安定する。
「あ……。」
ゆっくり。
ゆっくり。
高度が下がっていく。
「飛べてる……。」
「飛べてるーー!」
キーキーは子供のようにはしゃいだ。
「蜻蛉ー! 見て見てー!」
「見てる見てる!」
蜻蛉も嬉しそうに笑う。
「やったな!」
二人は空中でハイタッチした。
パチンッ。
七番は腕を組み、満足そうに頷く。
「降りてきなさい、五十嵐。他の四人も。」
静かに着地した五十嵐へ七番が笑顔を向ける。
「アンタが凄いのは十分分かったわ。今日から候補生卒業。明日から飛行訓練の指導員ね。」
周囲から大きな拍手が起こった。
「希望部署は?」
「舞台関連を希望します。」
「了解。総司令のパンダには私から話しておくわ。」
「ありがとうございます。」
五十嵐はポーカーフェイスのまま一礼した。
七番は満足そうに頷く。
「それじゃあ、いよいよ本番!」
約百名の訓練生が一斉に箒へまたがる。
ナルも。
リアも。
マチコDXも。
期待に胸を膨らませながら、箒へ魔力を流し始めた。
「それじゃあ、全員、ゆっくり魔力を流して。」
七番が大きな声で言う。
「焦っちゃ駄目よ~。魔力を一気に流したら、箒が暴走するわ。」
「飛ぶことより、魔力をコントロールすることを意識して。」
「はい!」
約八十名が一斉に返事をする。
ナルは小さく深呼吸した。
「ナル、今日は競争しないからね?」
「うん!」
二人は真剣な表情で箒にまたがる。
「飛べ!」
ふわり――。
ナルとリアの身体がゆっくりと浮き上がった。
「飛んだ!」
「リア! 飛んだよー!」
二人は顔を見合わせ、満面の笑みになる。
その隣ではマチコDXも恐る恐る魔力を流す。
「飛べ!」
ふわっ。
「きゃっ!」
一瞬驚いたものの、すぐに体勢を立て直した。
「えっ……。」
そのまま数メートル前へ進む。
「飛んでる……。」
さらに右へ。
左へ。
くるりと旋回。
「私、箒の才能あるかも!」
思わずガッツポーズを決める。
七番が思わず笑った。
「いいわよ~! その調子!」
「いいわねぇ。」
「これが魔法使いの第一歩よ。」
見渡すと、訓練場の上空には何百人もの訓練生が、それぞれ不格好ながらも笑顔で空を飛んでいた。
初めて見る景色。
頬を撫でる風。
地上では味わえない浮遊感。
誰もが子供のような笑顔になっていた。
「さぁ、今日は高度十メートルまで!」
「その範囲で自由に飛び回って、箒と仲良くなりなさい!」
「「「はいっ!!」」」
次の瞬間。
精神と時の空間の青空へ、約百本の竹箒が一斉に舞い上がった。
⸻
「わぁぁぁぁぁ!」
「キャーーーッ!」
あちこちから悲鳴が上がる。
「だから言ったでしょー! 魔力を流し過ぎない!」
七番が頭を抱える。
初めて空を飛ぶ訓練生たちは、あちこちで右往左往していた。
木の枝へ突っ込む者。
空中でくるくる回転して目を回す者。
箒だけ前へ飛び、自分だけ落ちそうになって慌てる者。
「先生ー! 止まりませーん!」
「誰か助けてぇぇぇ!」
訓練場は、たちまち大騒ぎとなった。
「はいはい、落ち着きなさーい!」
七番が魔法で巨大な風のクッションを作る。
落下した訓練生たちは、ふわりと受け止められ、誰一人怪我をすることはなかった。
「いい? 今日は飛べれば合格。速く飛ぶ練習は明日からよ。」
「「「はいっ!!」」」
初めての飛行訓練は、笑い声と悲鳴が絶えない、賑やかな幕開けとなった。
後書き
キーキー役のアカネです!
初めての飛行訓練楽しかったー!
コスプレイヤーの仲間も100名近く応募したんだけど。
合格したのはアタシと蜻蛉役の子を含めて、30名でした。
蜻蛉役の神埼です。
キーキー、僕たちは衣装制作の指揮を取りながら、飛行部隊を目指そうね!
来られなかったみんなの分まで頑張ろう!
キーキー役のアカネです!
初めての飛行訓練楽しかったー!
コスプレイヤーの仲間も100名近く応募したんだけど。
合格したのはアタシと蜻蛉役の子を含めて、30名でした。
蜻蛉役の神埼です。
キーキー、僕たちは衣装制作の指揮を取りながら、飛行部隊を目指そうね!
来られなかったみんなの分まで頑張ろう!




