第81話 魔石を造るのは難しい?
精神と時の空間――訓練場。
世界中から選ばれた百二十名の指導要員候補達は、真央、リア、ナルの三人から魔道具の扱い方を教わっていた。
教卓の上には、DASASOで買ってきた扇子や玩具の剣、楽器、調理器具などがずらりと並んでいる。
自分に合いそうな道具を手に取り、恐る恐る魔力を流してみる候補生達。
その様子を、音声担当の男がウェアラブル端末で撮影していた。
その時――。
「真央!」
訓練場の入口から、鋭い声が響いた。
パンダに案内されて現れたのは、褐色の肌に黒みがかった銀色の短髪を持つ、美しい魔族の少女?少年だった。
凛々しい顔立ちに、男装にも見える紺色の衣装。
教官候補生達の視線が、一斉に少年へ集まる。
「リリー!」
真央が驚いて振り返った。
リリーは真央の姿を確認すると、一直線に近付いていく。
「あーっ、そうだったにゃ!」
二人の間へ割って入るように、パンダが突然声を上げた。
「Amazonで注文してた荷物、千葉の置き配ポストに届いてたんだったにゃ!」
パンダは四次元収納ポシェットへ両腕を突っ込む。
ゴソゴソと中を探り、かなり大きな段ボール箱を二つ取り出した。
「はい、リア! ナル! これ頼んだ物にゃ!」
「わーい!」
「届いたー!」
リアとナルが嬉しそうに箱へ駆け寄る。
「じゃあ、ママは一般訓練生の案内に戻るにゃ! 真央ちゃん、後はよろしくにゃー!」
「えっ、ちょっと待ってよ、パンダ!」
真央が呼び止めるより早く、パンダはドコデモゲートの向こうへ消えてしまった。
ゲートが閉じる。
途端に、リリーが真央の両肩を掴んだ。
「真央!」
「酷いじゃないか!」
「僕という幼馴染がいるのに、魔石オタクのポルガンなんかと婚約するなんて!」
教官候補生達がざわめく。
「婚約者?」
「幼馴染もいるの?」
「いきなり修羅場?」
コスプレ姿の女性が、目を輝かせながら身を乗り出した。
真央は困ったように微笑む。
「怒らないでよ、リリー。」
「ポルガン君は格好いいし、とても優しい人なのよ。」
「ふん!」
リリーは不満そうに鼻を鳴らした。
その横では、リアとナルが段ボール箱を開けようと苦戦している。
「開かないよー!」
「かたいー!」
リリーが二人を見下ろした。
「貸してみろ。」
箱を引き寄せると、爪でガムテープの端を剥がし、一気に引き裂く。
「ありがとう、ハンサムなお兄さん!」
リアが満面の笑顔を見せた。
リリーの眉が僅かに動く。
「リアはリアっていうの!」
「ナルはナルー! お兄さんの名前は?」
「僕はリリーだ。よろしくな、おチビちゃん達。」
「リリーお兄ちゃん!」
「よろしくー!」
リリーは否定しようと口を開いたが、二人の笑顔を見て諦めたように箱の蓋を持ち上げた。
その瞬間――。
「……なんだ、これは。」
リリーの表情が変わった。
箱の中には、光を受けて輝くネックレスが幾重にも並んでいた。
もう一方の箱には、大小様々なティアラが隙間なく詰められている。
透明な石。
青や紫に輝く石。
光の角度によって虹色に煌めく石。
リリーは一つを手に取り、驚愕した。
「これは凄いじゃないか!」
「地球の品なのか?」
「魔石が、こんなにたくさん付いている!」
教官候補生達も一斉に集まってくる。
「アクセサリーですよね?」
「これ、コスプレ用のティアラじゃない?」
「でも、異世界では魔石に見えるのか……。」
魔女の衣装を着た少女が、ネックレスを覗き込む。
「地球のアクセサリーが異世界では魔道具の材料になるってこと?」
「夢が広がる!」
音声担当の男も、ウェアラブル端末を箱へ向けた。
真央がリリーの肩越しに中を覗き込む。
「見せて、リリー。」
真央の顔がすぐ近くへ寄った瞬間、リリーの頬が僅かに赤くなった。
「べ、別に構わないけど。」
リリーは視線を逸らしながら、真央へ場所を譲る。
真央は納品書を手に取った。
「セボンムーンのネックレス、六十個……一万八千円?」
続いて、もう一枚の紙を見る。
「スワロフスキーティアラ各種詰め合わせ、三十個……四十万円?」
「四十万円!?」
教官候補生達から驚きの声が上がった。
「そっちは結構するな。」
「でも三十個なら、一個一万三千円くらい?」
「本物の宝石のティアラだと思えば安過ぎる……。」
真央は小さなティアラを一つ持ち上げた。
透明な飾り石が、七色の光を反射している。
「これ、綺麗。」
「リリー、見て。全部、魔力を流せそうよ。」
「ポルガン君に見せましょう!」
リリーの眉間に皺が寄る。
「またポルガンか。」
そう言いながらも、リリーは真央が持っていたティアラを受け取った。
「少し屈んで。」
「え?」
「いいから。」
真央が素直に頭を下げる。
リリーは長い銀紫色の髪を傷付けないよう慎重に整え、ティアラを真央の頭へ載せた。
「……やっぱり、君にはどれも似合うね。」
「ありがとう、リリー。」
真央が柔らかく微笑む。
リリーは耳まで赤くなりながら、満足そうに頷いた。
その二人を見ていた魔女姿の少女が、両手で頬を押さえた。
「萌えカップルー!」
教室内が一瞬静まり返る。
続いて、別のコスプレ姿の女性が声を上げた。
「分かる! ボーイッシュな褐色美少女と、清楚な銀髪ハイエルフ!」
「幼馴染!」
「しかも片方は婚約者がいる!」
「三角関係じゃん!」
「尊い……。」
「映像残ってますよね?」
音声担当の男は端末を確認しながら頷いた。
「最初から全部撮れています。」
「やったー!」
「何が、やったーだ!」
リリーが顔を真っ赤にして振り返る。
「僕と真央は、そういう関係じゃない!」
「でも、百歳まで結婚相手が見つからなかったら結婚しようって約束してるよね?」
真央が悪気なく付け加えた。
教官候補生達が再び沸いた。
「ほぼ婚約じゃん!」
「萌えカップル確定!」
「尊いー!」
「真央!」
リリーはさらに顔を赤くする。
真央は不思議そうに首を傾げた。
「だって本当でしょう?」
リリーは反論できず、唇を尖らせる。
真央は楽しそうに笑うと、胸元の通信ペンダントへ触れた。
「ポルガン君、聞こえる?」
少し間を置いて、ペンダントからポルガンの声が聞こえてくる。
『聞こえるよ。どうしたの、真央さん?』
「直ぐにこっちへ来られる?」
『ごめん。直ぐには無理だ。』
『今、魔石を造るための危険な物質を扱ってるんだ。作業を中断して、防護服を脱いで、身体を洗ってから向かうよ。三十分くらい待ってくれる?』
「分かったよ、ポルガン君。」
『何かあったの?』
「見せたい物があるの。」
『分かった。急いで行くよ。』
通信が切れる。
リリーは腕を組んで鼻を鳴らした。
「ふん。やっぱり魔石オタクじゃないか。」
「危険な作業をしているだけよ。」
真央は苦笑しながら、机の上を指差した。
「このネックレスとティアラは、しばらくここに並べておきましょう。」
「教官候補の皆さんには、魔力を流し込んで、どんな魔法に向いているか試してもらいます。」
「それからリリー。」
「なんだ?」
「あなたも指導を手伝ってね。」
「僕は真央と話をしに来たんだぞ。」
「終わったら、ゆっくり話しましょう。」
真央が微笑む。
リリーは一瞬で大人しくなった。
「……仕方ないな。」
教官候補生達から、小さな笑いが漏れた。
◇
三十分後――。
訓練場の扉が開いた。
「真央さん!」
現れたポルガンは、黒い髪をまだ濡らしていた。
急いで身体を洗って来たらしく、普段より軽い服装をしている。
右の金色の瞳と左の青い瞳が、真央を見つける。
「急に呼び出したりして、どうしたの?」
「魔石造りは危険な仕事だから、途中で作業場を離れられなくて……。」
話しながら近付いていたポルガンの足が、突然止まった。
視線は真央の頭へ釘付けになっている。
「……それ。」
「え?」
「真央さんの髪に付いている物!」
ポルガンは目を見開いた。
「魔石じゃないか!」
大声が訓練場に響く。
リリーが呆れたように肩をすくめた。
「ほら見ろ。魔石オタクだ。」
ポルガンはリリーの言葉など聞こえていない様子で、真央へ駆け寄った。
「見せてくれる?」
「もちろん。」
真央がティアラを外そうとすると、ポルガンは慌てて止めた。
「そのままでいい!」
「君に似合ってるから。」
「まあ……。」
真央の頬が赤くなる。
二人は見つめ合った。
その様子を見た教官候補生達が、再びざわつき始める。
「今度は正統派カップルだ。」
「幼馴染と婚約者……。」
「どっちを応援すればいいの?」
魔女姿の少女は、両手を握り締めて震えていた。
「これは……三角関係まで含めて尊い!」
「静かにしろ!」
リリーが叫ぶ。
ポルガンはようやくリリーの存在に気付いた。
「君は?」
「僕はリリー。真央の幼馴染だ。」
「ああ、真央さんから聞いてるよ。」
「百歳まで結婚相手が見つからなかったら、結婚する約束をしていた人だろ?」
教官候補生達から歓声が上がる。
「本人公認!」
「婚約者も知ってる!」
「強い!」
「おいおい! 僕のことは無視かと思ったら、そんなところまで知ってるのかよ。」
リリーは不満そうに言いながら、ポルガンを上から下まで眺めた。
濡れた黒髪。
整った顔立ち。
鍛えられた長身。
左右で色の異なる瞳。
リリーは僅かに眉を上げる。
「……まあ、確かにいい男ではあるけどね。」
「リリー!」
真央が嬉しそうに声を上げた。
「褒めてない!」
リリーは慌てて否定する。
ポルガンは教卓に並べられた大量のアクセサリーへ近付いた。
「これは……全部、魔石なのか?」
「地球ではアクセサリーよ。」
真央が答える。
ポルガンはネックレスを一つ持ち上げた。
「信じられない。」
「この透明度の石が、こんなに均一に加工されている。」
「しかも六十個も……。」
「それは全部で一万八千円だって。」
「全部で?」
ポルガンの動きが止まった。
「一個じゃなくて?」
「六十個で一万八千円。」
ポルガンは暫く無言になった。
続いてティアラを持ち上げ、光へ透かす。
「こちらは?」
「三十個で四十万円。」
「それでも安過ぎる!」
ポルガンはティアラの土台へ触れた。
「この銀色の部分は何だ?」
教官候補生の一人が答える。
「たぶん、プラスチックに金属色の塗装をした物です。」
「プラスチック?」
「地球で大量生産されている人工素材です。」
ポルガンは信じられない物を見るように、ティアラを裏返した。
「軽い……。」
「金属より軽く、形も均一だ。」
「こんな物を大量に造れるのか?」
「百円で買える物もありますよ。」
「百円!?」
ポルガンの声が裏返った。
教官候補生達が笑い出す。
「魔石を造るのに、どのくらいかかるの?」
真央が尋ねる。
ポルガンは真剣な表情で答えた。
「石の種類にもよるけど、安定した物を一つ造るだけでも数日。」
「大きくて純度の高い魔石なら、数週間から数か月かかる。」
「失敗すれば爆発するし、有毒な煙が出ることもある。」
「だから防護服を着ていたのね。」
「ああ。」
ポルガンは、ネックレスが詰まった箱を見下ろした。
「これだけの数を造ろうとすれば、何人もの魔術師が何年もかかる。」
「それが一万八千円……。」
リリーが口元を歪める。
「魔石オタク。地球で買った方が早いんじゃないか?」
ポルガンは悔しそうに黙り込んだ。
やがて、ネックレスを一つ手に取る。
「……そうかもしれない。」
教官候補生達が吹き出した。
「でも、これは本物の魔石とは少し違う。」
ポルガンは石を光へかざした。
「魔力は入っていない。」
「ただ、魔力を通す器としては非常に優秀だ。」
「つまり?」
真央が尋ねる。
ポルガンの金色と青色の瞳が、楽しそうに輝いた。
「僕が魔力を込めれば、大量の魔道具を安全に造れるかもしれない。」
「これだけ安く、同じ形の器を用意できるなら、実験も何度でもやり直せる。」
魔女姿の少女が手を挙げた。
「先生!」
「このティアラに飛行魔法を入れられますか?」
「やってみないと分からないけど、可能性はある。」
「このネックレスに変身魔法は?」
「それも試してみよう。」
「歌を魔力に変える魔石は?」
「面白い。研究する価値がある。」
教官候補生達が、一斉にポルガンを囲んだ。
「僕の筆にも付けたい!」
「包丁に埋め込めますか?」
「カメラのレンズにも?」
「花火の色を変えられる?」
ポルガンは次々と飛んでくる質問に目を輝かせた。
「一つずつ試そう!」
「まずは素材ごとに、どの魔力と相性が良いか調べる!」
真央はその姿を嬉しそうに見つめる。
リリーは呆れたようにため息をついた。
「やっぱり、完全な魔石オタクじゃないか。」
「でも、格好いいでしょう?」
真央が小声で尋ねる。
リリーはポルガンを見つめた。
大勢の教官候補生に囲まれながら、一つ一つの質問へ真剣に答えている。
「……まあね。」
「何か言った?」
真央が顔を寄せる。
リリーは頬を赤くして、そっぽを向いた。
「何でもない!」
その二人を見たコスプレ姿の女性が、再び小さく呟く。
「やっぱり萌えカップル……。」
「聞こえてるぞ!」
リリーの怒鳴り声が、訓練場いっぱいに響いた。
ヘタレです。
リクエストされてた、百合が百合が書けたー!!
まあ、某アニメの設定借りまくってるけど。
最初は模倣から始めないと出来るわけないってー。




