第79話 先生は幼稚園児と女子高生ハイエルフ
地球
2031年11月01日土曜。
ポルガンの誕生日迄後2ヶ月と15日。
精神と時の空間。
88日目。
時の間に居られる時間、後392日。
――朝。
精神と時の空間・訓練場。
世界中から選ばれた百二十名の指導要員候補が整列していた。
医師。
看護師。
花火師。
料理人。
演出家。
歌手。
作曲家。
華道家。
職人。
芸術家。
誰もが緊張した面持ちで前を見つめている。
その前へ現れたのは――。
銀髪の女子高生ハイエルフ・真央。
そして。
幼稚園児のリア。
幼稚園児のナル。
三人だった。
「えっ……。」
「先生が……子供?」
会場がざわつく。
真央は微笑みながら一歩前へ出た。
「皆さん、おはようございます。」
「私は真央です。」
「今日から皆さんの魔道具と魔法の基礎を担当します。」
真央は大きなテーブルを指差した。
そこには、様々な日用品が並んでいる。
DASASOのプラスチックの剣。
百円ショップの扇子。
包丁。
フライパン。
箒。
筆。
ギター。
バイオリン。
カメラ。
ハサミ。
「好きな物を選んでください。」
「欲しい魔道具が無ければ言ってください。」
「私が作ります。」
さらに真央は続けた。
「皆さんは特に魔力の潜在能力が高い方々です。」
「私が魔力を流し込んだ魔道具に触れるだけで、魔法を扱えるようになるはずです。」
驚きの声が上がる。
「触るだけで……?」
「そんな事が。」
真央はリアとナルへ視線を向けた。
「二人とも、お手本をお願い。」
「はーい!」
ナルが元気よく返事をする。
テーブルからプラスチックの剣を一本取る。
そっと握ると――。
剣全体が黄金色の光に包まれた。
ゴォォォォッ――。
眩い魔力が刃を駆け巡る。
ナルは軽く剣を振った。
ヒュンッ。
金色の光が一直線に飛び、訓練場の標的だけを綺麗に切り裂いた。
「おおっ!」
大きなどよめきが起こる。
続いてリアが前へ出る。
百円の扇子を静かに広げた。
「いくよー。」
ふわり。
扇子を一振りする。
無数の紙吹雪が風に乗って舞い上がり、会場中を虹色に染めた。
紙吹雪は一人ひとりの周囲を優しく回ると、光となって静かに消えていく。
会場は拍手に包まれた。
「すごい……。」
「本当に魔法だ。」
真央は微笑む。
「これが魔道具です。」
「特別高価な物である必要はありません。」
「ただし――」
真央は少しだけ間を置いた。
「まず安い品を使い慣れたら、高価な品を使いましょうね。」
一瞬、会場が静まる。
「えっ……?」
「順番が逆じゃないのか?」
「いきなり高級品じゃないのか……?」
真央は淡々と続けた。
「いきなり高い物を持つと、魔力の流れが“道具に振り回されます”。」
「でも安い物で慣れれば、“自分の魔力を道具に乗せる感覚”が身につきます。」
「その後なら、高級品は“増幅器”として正しく働きます。」
料理人が小さく手を挙げた。
「先生、それ……包丁も同じですか?」
真央はにっこり笑った。
「はい。」
「高い包丁より、使い慣れた包丁の方が強くなります。」
「魔法は“値段”ではなく“相性”です。」
そして両手を広げた。
「それでは。」
「皆さんも好きな魔道具を選んでください。」
百二十名が一斉にテーブルへ歩き始める。
料理人は包丁を。
花火師はロケット花火を。
音楽家はギターやバイオリンを。
画家は筆を。
それぞれ、自分の夢を叶えるための魔道具を手に取っていった。
◇
一方――。
地球。
東京駅。
新大阪駅。
ロンドン。
上海。
ドバイ。
世界各地の集合拠点には、第二次選抜を突破した一般訓練生達が続々と集まっていた。
「本当に異世界へ行くんだ……。」
「まだ信じられない。」
期待と緊張が入り混じる中、一人の青年が空を見上げる。
その瞬間――。
目の前に、金色のドコデモゲートが静かに開いた。
「ようこそにゃー!」
元気な声と共に、天才パンダが顔を出す。
「十人ずつ案内するにゃ!」
「荷物を持って、順番に来るにゃー!」
各地の集合拠点でも次々とドコデモゲートが開き、世界中の訓練生達が、いよいよ精神と時の空間へ足を踏み入れていく。
世界初の魔術訓練は、こうして静かに幕を開けた。
真央です。
ポルガン君は魔石を作ってます。
次回は深雪が出るし、なんか嫌な予感。




