第八話 聞き分けの悪い領主様
異世界初のコンビニが開店してから三日が過ぎた。
三軒のコンビニの前には、今日も朝から長い列ができている。
村人。
冒険者。
商人。
魔王軍。
エルフ。
ダークエルフ。
今では誰もが順番を守り、商品を四点ずつ購入していた。
「おにぎりは一人四個までにゃー!」
「アイスは溶けるから、買ったらすぐ食べるにゃよ!」
パンダが店の前で大声を張り上げる。
その横では、レオンが村人達に説明していた。
「お弁当やおにぎりは、暑い場所に長時間置いてはいけません。」
「買ったら早めに食べてくださいね。」
村人達は真剣な顔で頷く。
「分かりました、先生。」
「腹を壊したら困りますからな。」
しかし、その列の中に不自然な一団がいた。
古びた服を着た貧しい村人達が、何度も列の後ろへ並び直している。
「おにぎりを四つ。」
「弁当を四つ。」
「アイスを四つ。」
買い物を終えると森の外へ向かい、しばらくするとまた列へ戻ってくる。
レジを担当していたダークエルフが首をかしげた。
「店長。」
「あの方、今日だけで三度目ではありませんか?」
パンダは目を細めた。
「怪しいにゃ。」
レオンも店の外を見る。
「誰かに頼まれているのかもしれないね。」
その頃。
森から遠く離れた領主の館。
広間には、コンビニの商品が山のように積まれていた。
大量のおにぎり。
弁当。
サンドイッチ。
パン。
アイスクリーム。
それを前にして、左目に黒い眼帯を着け、大きな腹を揺らす男が笑っていた。
この地方を治める領主、ボルガンである。
「これが噂のコンビニの商品か!」
ボルガンは貧しい村人達に金貨を握らせ、何度も商品を買わせていた。
「勇者め。」
「一人四点などというくだらん決まりを作りおって。」
「人を雇えば、いくらでも買えるではないか!」
執事が心配そうに言う。
「ですが領主様。」
「森からここまでは、炎天下を半日ほど歩きます。」
「食べ物が傷んでいるかもしれません。」
「黙れ!」
ボルガンはおにぎりを掴んだ。
「勇者の店の商品は、魔法で腐らぬと聞いたぞ!」
「そのような話は聞いておりませんが……。」
ボルガンがおにぎりの包みを開く。
「見ろ!」
「これが人気のおにぎりという物だ!」
海苔を巻き、一口かじった。
ねばあっ。
おにぎりから白い糸が伸びた。
「……。」
ボルガンの顔が止まる。
執事も止まる。
村人達も止まる。
「糸を引いておりますな。」
「見れば分かるわ!」
ボルガンはおにぎりを床へ投げ捨てた。
「腐っているではないか!」
今度は弁当の蓋を開ける。
むわあっ。
生暖かい匂いが広間に充満した。
「く、臭い!」
「こちらも傷んでおります。」
「全部か!?」
「恐らくは。」
ボルガンは顔を真っ赤にした。
「アイスはどうした!」
村人が恐る恐る木箱を差し出す。
ボルガンが蓋を開ける。
中には、液体になったアイスクリームが溜まっていた。
「…………。」
「溶けております。」
「見れば分かるわああぁぁ!」
ボルガンは木箱を蹴飛ばした。
「勇者め!」
「腐った食べ物をこの私に売りつけおったな!」
執事が小声で言う。
「買ってから半日、炎天下を運んだからでは……。」
「私は悪くない!」
「悪いのは店だ!」
ボルガンは立ち上がった。
「兵を集めろ!」
「コンビニへ行くぞ!」
⸻
夕方。
コンビニの前では、村人と魔王軍が泉の周りで休憩していた。
澄んだ泉に足を入れながら、まきがセブンヌレブンのスムージーを飲んでいる。
「冷たくて美味しい。」
隣では桜子とリアとナルも、並んで泉に足を入れていた。
「いちご!」
「マンゴー!」
「ナル、ぶどう!」
三人は夢中になってスムージーを吸っている。
「走ったら転ぶからね。」
まきはスムージーを飲みながら、三人を見守っていた。
泉の周りでは、魔王軍の兵士達がおにぎりや弁当を食べている。
「焼き鮭という物は美味いな。」
「私はツナマヨ派だ。」
「次は唐揚げ弁当を買う。」
村人達も木陰に座り、コンビニ飯を楽しんでいた。
すっかり平和な休憩所になっている。
その少し離れた場所では、深雪率いるテレビクルーが撮影を続けていた。
「魔王軍がおにぎりを食べてる映像、押さえたか?」
「撮れてます!」
「エルフのレジ打ちも?」
「完璧です!」
深雪はスペアの四次元収納ポシェットに手を入れた。
「次は通信アンテナだ。」
「日本と中継をつなげるぞ。」
取り出したのは、巨大な通信アンテナだった。
スタッフ達が森の中へ設置していく。
「こんな物まで出るのかよ。」
深雪は呆れながらも、楽しそうに笑った。
「異世界から生中継できたら、歴史的瞬間だぞ。」
その時だった。
ドドドドドドッ!
森の奥から、大勢の兵士が押し寄せてきた。
その先頭には、顔を真っ赤にした領主ボルガンがいる。
「責任者を出せえぇ!」
静かだった泉の周りが、一瞬でざわついた。
パンダが店から顔を出す。
「何にゃ?」
「貴様が勇者か!」
「そうにゃけど。」
ボルガンは腐ったおにぎりを突き出した。
「この店は腐った食べ物を売っている!」
「見ろ!」
「糸を引いているではないか!」
パンダはおにぎりを見る。
「いつ買ったにゃ?」
「今日の朝だ!」
「どこに置いてたにゃ?」
「私の館へ運ばせた!」
「何時間掛かったにゃ?」
「半日だ!」
「保冷剤は?」
「なんだそれは!」
パンダは腕を組んだ。
「炎天下を半日持ち歩いたら腐るに決まってるにゃ。」
「アイスも溶けたぞ!」
「当たり前にゃ。」
「アイスは冷たい所に入れないと溶けるにゃ。」
「店の者はそんな説明をしなかった!」
レオンが前へ出た。
「買ったら早めに食べるよう、全員に説明しています。」
「この村人達にも聞いてみてください。」
商品を運んだ村人達は、怯えながら顔を伏せた。
一人の老人が小さな声で言った。
「領主様。」
「確かに、買ったらすぐ食べるよう言われました。」
「黙れ!」
ボルガンが怒鳴る。
老人は肩を震わせた。
その瞬間、魔王軍の兵士達が一斉に立ち上がった。
「老人を怒鳴るな。」
「列にも自分で並ばず、村人達に何度も買わせたそうだな。」
「店の決まりを破っておいて、店のせいにするのか。」
ボルガンは魔王軍を睨みつける。
「魔族風情が私に口答えするな!」
将軍がゆっくり前へ出た。
「我々は最後尾に並んだ。」
「魔王様ですら順番を守った。」
「領主ならば、民の手本になるべきではないか。」
ボルガンはさらに顔を赤くした。
「うるさい!」
「こんな店、潰してしまえ!」
「兵士達!」
「店を取り壊せ!」
だが、領主の兵士達は動かなかった。
目の前には魔王軍。
エルフ。
ダークエルフ。
冒険者。
村人。
全員が無言でボルガンを見つめている。
「何をしている!」
「早く壊せ!」
魔王が静かに立ち上がった。
「聞き分けの悪い領主だ。」
ボルガンは鼻で笑う。
「魔王が勇者の店を守るのか?」
「守っているのではない。」
「我々は買い物の邪魔をされて怒っている。」
魔王軍全員が頷いた。
「そうだ!」
「まだデザートを買っていない!」
「夕飯のお弁当もだ!」
「からあげ棒が売り切れるだろう!」
パンダは将軍へ手紙を差し出した。
「法王に連絡してにゃ。」
ボルガンの顔色が変わる。
「なぜ法王が出てくる!」
「この辺りの領主を任命してるのは、隣国の法王なんだろ?」
将軍は頷いた。
「承知しました。」
魔王軍の宮廷魔導師が手紙を受け取る。
「転送魔法。」
手紙が光に包まれ、空中から消えた。
ボルガンは汗を流し始めた。
「ま、待て。」
「これは店と私の問題だ。」
パンダは首を振る。
「貧しい村人を金で使って、店の決まりを破ったにゃ。」
「その上、老人を怒鳴って店を壊そうとした。」
「もうお前だけの問題じゃないにゃ。」
それから三十分後。
空から大きな羽音が聞こえた。
全員が空を見上げる。
白い翼を広げたペガサスが、雲を割って降りてきた。
一頭。
二頭。
三頭。
先頭のペガサスには、白と金の法衣をまとった老人が乗っている。
「法王様だ!」
村人達が一斉にひざまずいた。
ボルガンの顔が真っ青になる。
「ほ、本当に来た……。」
深雪は空を見上げて叫んだ。
「ペガサスだ!」
「カメラ回せ!」
「全部撮れ!」
テレビクルー達が一斉に走り出す。
「法王の着地を撮れ!」
「ペガサスの羽をアップ!」
「異世界感すげえ!」
深雪は子供のように目を輝かせていた。
「これ、絶対視聴率取れるぞ!」
ペガサスがコンビニの前へ静かに降り立つ。
法王は地面へ降りると、ボルガンを見た。
「事情は手紙で読んだ。」
「ボルガンよ。」
「貧しい民を使い、店の決まりを破ったそうだな。」
「い、いえ。」
「誤解でございます!」
法王は糸を引くおにぎりを見た。
「これはいつ購入した物だ。」
「今朝です。」
「どこで保管していた。」
「馬車の荷台に……。」
「冷却魔法は?」
「使っておりません。」
「では、傷んで当然ではないか。」
ボルガンは何も言えない。
法王はため息をついた。
「聞き分けの悪い領主だ。」
魔王が腕を組む。
「我も同じことを思った。」
法王と魔王の目が合う。
「……。」
「……。」
二人は無言で頷いた。
深雪が興奮した声を上げる。
「法王と魔王が意気投合した!」
「撮ったか!?」
「撮れてます!」
法王はパンダへ頭を下げた。
「勇者殿。」
「民のために、このような店を作ってくださったこと、感謝いたします。」
パンダは頷いた。
「買い物するなら最後尾に並んでにゃ。」
法王の従者達がざわつく。
「法王様を並ばせるのですか!?」
「当たり前にゃ。」
「魔王も並んだにゃ。」
法王は一瞬驚いたあと、笑った。
「なるほど。」
「では、私も並ぼう。」
魔王が少しだけ列を詰める。
「法王。」
「最後尾はあちらだ。」
「教えてくれて感謝する、魔王。」
法王は素直に列の最後尾へ向かった。
ボルガンだけが、その場に取り残される。
パンダは床に落ちた腐ったおにぎりを指差した。
「それと。」
「ちょい待ち!」
「塵は彼方のゴミ箱じゃなくて、彼方のスライムに与えてくださいね。」
「……スライム?」
ボルガンが振り返る。
草むらでは、青いスライムが口を開けて待っていた。
「きゅるる。」
パンダは頷いた。
「生ゴミ処理係にゃ。」
「腐った物でも何でも食べるにゃよ。」
ボルガンがおにぎりを近付ける。
スライムは一瞬で飲み込んだ。
「きゅぷっ。」
満足そうに跳ねる。
ナルが拍手した。
「スライム、えらい!」
リアも頷く。
「領主様より聞き分け良いね。」
周囲から笑いが起きた。
ボルガンは顔を真っ赤にして立ち尽くす。
法王は列に並びながら呟いた。
「確かに。」
「スライムの方が、よほど聞き分けが良い。」
こうして異世界初のモンスタークレーマーは、スライム以下の評価を受けることになった。
行形長くなりましたね。
お読み頂きありがとうございます。
毎日、しばらくの間十話ずつ更新する予定なので、楽しみに読んでくださいね。
で、全然人気出ない様なら書くスピード緩める、or、停止も有り得ます。
イイネ、コメントなどよろしくお願いします。




