済 第71話 買い物天国 爆買い地獄
「さぁー! 三時間しかないにゃー! 欲しい物は遠慮なく買うにゃー!」
パンダが店内に響くほどの大きな声で叫ぶ。
「「おおーーっ!!」」
二百三十人が一斉に店内へ散っていく。
テレビカメラも、その様子を追いかけ始めた。
⸻
「リア! ナル! 迷子になるなよ!」
レオンが声を掛ける。
「大丈夫ー!」
「すぐ戻るー!」
二人は慣れた足取りで、お菓子コーナーへ一直線。
「うまい棒三十本入り!」
「全種類買う!」
コーンポタージュ。
チーズ。
たこ焼。
めんたい。
サラミ。
味ごとに大袋を次々とカートへ放り込んでいく。
「ナル! ポテトフライも!」
「二十袋入りだ!」
東豊製菓のポテトフライも、フライドチキン味、カルビ焼味など味ごとに箱買い。
「金平糖も!」
「キットカットも全種類!」
あっという間に子供用カートは山積みになった。
⸻
一方その頃。
「桃にゃー!」
果物コーナーで歓声を上げるパンダ。
「今年の桃、美味そうにゃー。」
箱ごとカートへ。
「梨もにゃ。」
幸水。
「シャインマスカットも安いにゃ!」
一房、二房、三房。
「巨峰も食べたいにゃ。」
果物だけでカート半分が埋まっていく。
「ママ、果物多すぎじゃない?」
リアが笑う。
「果物はいくらあっても困らないにゃ。」
⸻
次に向かったのは鮮魚コーナー。
ブリ。
ウニ。
イクラ。
サーモン。
ホタテ。
明太子。
「今日は豪華にゃー。」
⸻
調味料売場。
「九州の甘口刺身醤油!」
迷わず数本。
「これこれ。」
さらに。
「つけてみそ、かけてみそ!」
名古屋名物の甘いチューブ味噌も大量にカゴへ。
レオンが笑う。
「焼肉のタレは買わないの?」
「叙々苑の焼肉のタレはコヌトコで買うにゃ。」
即答だった。
⸻
飲み物コーナー。
「水出し紅茶!」
アールグレイ。
ピーチティー。
アップルティー。
「水出し緑茶も。」
「ほうじ茶も。」
「麦茶も。」
「夏はこれが一番にゃ。」
⸻
おつまみコーナー。
「カワハギ!」
パンダの目が輝く。
「刺身も良いけど、トースターで炙ると最高にゃ。」
「酢昆布。」
「さきいか。」
「あたりめ。」
「茎わかめ。」
「チーズ鱈。」
「柿の種。」
「お酒は滅多に飲まないけど、おつまみは別腹にゃ。」
パンダは満面の笑みだった。
⸻
踊り子の聖具からウニクロの黒いワイシャツとデニムへ着替えて来た深雪が言う。
「やっぱ買い物はこれだよなぁ。」
肩を回しながら笑う。
レオンが苦笑した。
「その服の方が落ち着くか?」
「ああ。」
「踊り子の格好で鈍器ホーテ歩いてたら、全世界生中継で一生ネタにされるだろ。」
レオンは店内を見回して頷いた。
「そういえば、精神と時の空間を出る時に翻訳グミキャンディを一人一粒配っておいて正解だったな。」
二人は笑いながら店内へ入っていく。
⸻
最初に足を止めたのは、即席みそ汁売り場だった。
「あった!」
深雪の目が輝く。
「あさげ!」
カゴへ一袋。
「ひるげ!」
もう一袋。
「ゆうげ!」
さらに追加。
「フリーズドライも買っとくか。」
なす。
豚汁。
ほうれん草。
なめこ。
揚げなす。
「朝ロケの日はこれが一番助かるんだよな。」
レオンが笑う。
「随分買うな。味噌汁は僕も買おう。」
「精神と時の空間じゃ朝が何十回も来るからな。」
その一言に、二人とも思わず笑ってしまった。
⸻
次は、お茶漬け売り場。
「永谷園!」
鮭。
梅。
海苔。
わさび。
「これ、夜食に最高なんだよ。最近は異世界にもコヌトコが出来たから、サトウのごはんも食べられるようになったしな。ふりかけは、コヌトコで買った大容量パックのおとなのふりかけがあるし。」
続いて、ふりかけコーナーは素通りする。
「旅行の朝は、これだけで十分。」
カゴは少しずつ重くなっていく。
⸻
そして、お菓子売り場。
「俺は甘い物も好きだけどさ。」
そう言いながら手に取ったのは――
「雪の宿。」
「歌舞伎揚。」
「ばかうけ。」
「ハッピーターン。」
「柿の種。」
「やっぱ煎餅だよなぁ。」
レオンが笑う。
「結局、お前もお菓子ばかりじゃないか。」
「違う。」
深雪は真面目な顔で首を振る。
「これは主食だ。」
「違うと思うぞ。」
「いや、仕事中は本当に主食。」
二人は顔を見合わせて笑った。
⸻
最後はカップ麺コーナー。
「どん兵衛。」
「カップヌードル。」
「UFO。」
「夜中の編集作業には欠かせない。」
さらにレトルトカレーも数箱。
「精神と時の空間なら賞味期限も気にしなくていいしな。」
「なるほど。」
レオンは感心したように頷く。
「お前らしい買い物だ。」
深雪は満足そうにカートを見つめた。
「よし。」
「これでしばらく生きていける。」
その姿を撮っていた、久しぶりに再会したテレビ局の報道スタッフが笑う。
「三角さん、お久しぶりです。生活感ありすぎですよ。」
「久しぶりー。俺はこれでいいんだよ。」
深雪は胸を張る。
「テレビマンは、こういう実用品を買ってる時が一番幸せなんだから。」
その言葉に、報道スタッフたちから笑い声が上がった。
続いて、同じテレビ局のリポーターがカメラの前へ出る。
「ご覧ください! リアちゃんとナル君、うまい棒を味ごとに爆買いしています!」
日本のスタジオでは司会者が思わず笑う。
「三十本入りを全種類ですか!」
異世界の広場では子ども達が歓声を上げる。
「うまい棒って何だ!?」
「僕も食べたい!」
法王庁では神官たちが真剣な顔で頷く。
「勇者様方は、お菓子選びにも妥協がないのですね。」
魔王城では兵士たちが画面を見ながら笑っていた。
「桃って、そんなに美味い果物なのか?」
「シャインマスカットも食べてみたい!」
パンダが九州の甘口刺身醤油を手に取ると、日本のSNSでも話題になる。
『分かる! 甘口刺身醤油最高!』
『つけてみそ、かけてみそ買ってる!』
『パンダさん、完全に買い物ガチ勢だ(笑)』
店内のあちこちで笑いが起こり、その様子は世界中へと生中継されていた。
その頃、レオンカンパニーCEO橘は。
「このカップ麺、異世界で売れそうだ。」
商品を片っ端からメモしていく。
「レトルト食品も人気が出そうですね。」
研究チームは冷凍食品や、保存食を次々と購入。
二人の研究員は、自前の大型冷凍庫を一台ずつ台車に乗せて運んでいた。
冷凍庫には、目立つように『中身は会計前です』と書かれた張り紙が貼られている。
二人は扉を開け、冷凍食品を片っ端から詰め込んでいた。
その頃、酒売り場では。
ユリウスが、日本酒の瓶を一本ずつ手に取り、真剣な顔でラベルを読んでいた。
「純米大吟醸……。これは米から造られた酒なのか?」
「そうだ。香りも良いぞ」
深雪の買い物を見届けたレオンは、酒売り場へ来ていた。
ユリウスは試飲できないことを残念そうにしながらも、気になる地酒を数本カートへ入れた。
「先王様への土産にも一本買っておこう」
さらに珍味売り場へ進み、燻製肉や炙りいわしを手に取る。
「日本の酒売り場は、つまみまで充実しているのだな」
⸻
一方、ミカエラは美容食品と甘味の売り場を歩いていた。
「このコラーゲンゼリーという物は、本当に肌に良いの?」
店員へ真剣に質問しながら、ゼリー飲料、ドライフルーツ、ナッツ、カカオ含有量の高いチョコレートを次々とカゴへ入れていく。
その後ろでは、従者たちが山積みになったカゴを必死に運んでいた。
「ミカエラ様、既に三万円近くになっております」
「私は魔王の妻よ! 魔王の分の予算も使うわ!」
「魔王様は本日いらしておりませんが……」
「だから余っているでしょう?」
そう言いながら、さらに二箱追加した。
⸻
ポルガンは真央と並び、異世界では見たことのない菓子を選んでいた。
「ポルガン君、これ見て! 宝石みたいなグミ!」
「真央さん、こちらの金平糖も綺麗ですよ」
二人は互いに見つけた商品をカートへ入れ合っていく。
しかしポルガンは途中で足を止め、レトルト食品の棚を真剣に眺めた。
「この保存期間なら、領地の非常食にも使えそうですね」
すぐにスマホへ商品名と価格を記録する。
「今日はお休みなのに、また仕事してる」
真央が頬を膨らませる。
「すみません。領主の癖で」
「じゃあ仕事はあと十分だけ。終わったら一緒にお菓子を選ぶの」
「分かりました。仕事は終わりです。真央さん、一緒にお菓子を選びましょう」
「うん!」
真央はポルガンと仲良く、大量のグミやキャンディを抱えながら、
「これ、みんなで食べようね!」
と嬉しそうに笑っていた。
⸻
2時間半後。
「時間にゃー!」
パンダの合図で全員がレジ前へ集合する。
店員たちは山のような商品を前に思わず苦笑した。
「本当に……2時間半でここまで買われたお客様は初めてです。」
「ありがとうございました!」
大きな拍手が店内に響く。
購入した品々は名前を書いた袋ごとに仕分けされ、次々とスペアポシェットへ収納されていく。
異世界へ持ち帰る準備は、これで万全だった。
買い物天国。
しかし、レジ係にとっては――
まさに爆買い地獄だった。
レオンです。
鈍器って割と良い地酒とか売ってて嬉しいです。
三万円超えそうになりました。
酒のツマミはパンダが買ってくれました。
パンダ大好き♡




